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河川局

美しく、安全で、いきいきした海岸を目指して




3.海岸のあるべき姿の実現に向けて


 海岸の現状を踏まえあるべき姿を実現していくためには、今後、海岸管理として以下のような施策について積極的に取り組む必要がある。


3−1 防災を主体とした保全行政から
    防災・利用及び環境が調和した海岸管理政策への転換

 海岸は、波の侵入から国土を守る重要な空間であると同時に、海水浴、マリンスポーツや散策などの多様な利用に供されており、かつ、陸域から海域への遷移帯として多くの動植物が生息する独特の生態系が形成される場である。陸域からも海域からも様々な影響を受けやすい空間であることに留意し、従来の防災を主体とした取り組みから、海岸の多様な利用及び環境とも調和した取り組みに転換していくことが不可欠である。

(1)海岸災害の防止に向けて

     我が国の海岸は、津波、高潮、波浪等による災害をしばしば受け、防災上必要とされる海岸保全施設の整備はまだ必ずしも十分な水準まで達していないので、より一層の推進が必要である。

     特に、地震津波は、北海道南西沖地震津波のように海岸保全施設の計画をはるかに越え、甚大な人的・物的被害をもたらす場合もある。したがって、災害の防止・軽減に向けては、海岸保全施設の整備に加えて、災害時の情報・連絡・避難体制(避難情報・経路・誘導)の充実、土地利用の誘導などのソフト面の対策と相まって、地域との連携を図りつつ、進めていくことが大切である。

     海岸地形とそこに成り立つ生態系は、河川・水路、海食崖(波の侵食により、海岸にできた崖)等から供給される土砂の量や質、前面海域の波浪や流れ等の影響を受けつつ動的な安定性を保っている。また、河川や海域における構造物の設置等は、この動的な安定性を変化させ、海岸の地形に変化をもたらすこともある。

     このような海岸地形変化の問題のうち、河川からの供給土砂については、流域全体における総合的な取り組みが必要である。また、海岸部における土砂の移動に関しては、その影響が及ぶ範囲について、土砂収支の定量的な把握を目的とした波浪・流況・砂移動等の継続的なモニタリングを行うとともに、港湾・漁港における浚渫土砂の有効活用等、海岸部全体として総合的な取り組みが必要である。

     なお、海岸保全施設の整備にあたっては、効果的・効率的な実施に努めるため、費用対効果分析手法の活用や事業の途中での再評価も重要である。また、将来必要となる維持管理をできる限り少なくするような施設にすることも必要である。

(2)美しく親しめる海岸づくり

     海岸は、国民共有の財産として自由な使用が原則であり、さまざまなマリンスポーツやレクリエーションの場や、祭りや行事の場として、地域社会や文化を形成する場となってきた。この海岸について美しい景観等の利用環境を十分に確保し、次世代に継承していかなくてはならない。

     海岸防災のための施設として設置された直立護岸や消波ブロック等は、背後地と海岸とのアクセスを分断し、海岸の利用環境を悪化させてきた。このような海岸においては、護岸の緩傾斜化やブロックの移設等の改良を積極的に行い、安全にアクセスできる環境を創出すべきである。また、海岸の利用環境として美しい景観は重要な要素となるため、新たに海岸保全施設を整備する際には、砂浜の保全・回復を主体として、潜堤、人工リーフなど人工物が見えない整備を進めるとともに、自然石の活用等によって、周辺景観を損なわない施設の選択・配置等にも配慮することが必要である。

     洪水時等に河川から流出したり、台風時等に海域から海岸部に漂着する大量のゴミ等は、海岸の利用環境を大きく損なう。これらに適切に対処していくための仕組みづくりの検討も必要である。

     最近頻発している油流出や放置船等への対応については、原因者にその除去を求めることを原則とすべきであるが、緊急的に対応するなんらかの仕組みが緊要であり、関係機関との連携を図りつつ適切に対処することができるようにすべきである。

     各地の海岸では、施設等の汚損や自動車の乗り入れによる施設や砂浜の損傷、利用者等によるゴミの投棄など、無秩序な利用による環境の悪化が生じている。このような問題に対処するため、海岸の適正な利用を図るための一定の規制措置や、モラルの向上を図るための社会教育の充実等の検討も必要である。

(3)自然豊かな海岸づくり

     海岸は、陸域と海域の遷移帯に位置し、生物にとって多様で複雑な生息環境を提供している。さらには、海岸に特有の環境に依存した固有の生物も多く存在している。また、砂浜は生息する微生物の作用や、潮の干満・波浪と相まった曝気効果によって海水の浄化を促すといったことをはじめとするさまざまな機能を有している。このように海岸は多種多様な動植物の生息・生育空間であり、機能豊かな空間であるが、陸域からも海域からもさまざまな影響を受けやすい空間であることを認識して、場所によっては人の手を加えず、自然のままに保全することも選択肢に加え、人的な影響を極力押さえる努力が必要である。さらには、積極的な自然環境の復元のための努力も必要である。

     我が国の国土条件に起因して、背後地の防災のために海岸に人工の手を加え、あるいは開発空間を海域に求めざるを得ない場合には、できるだけ良好な海岸の自然環境が喪失してしまわないように、工法、配置、構造または工期等に工夫し、海岸に生育する生物環境を考慮した海岸整備を行うとともに、事業実施に際してのミティゲーション(回避・最小化・代償措置)の考え方の導入についての検討が必要である。このような自然環境への影響をできるだけ低減することは、災害復旧においてもできるだけ取り入れてゆくべきである。

     海岸は、人の利用にも供される場所であるが、不適切な利用や過度の利用は自然環境へ修復不可能な影響を与えることがある。そのため自動車の乗り入れ等自然環境へ重大な影響を及ぼすような利用行為に対しては一定の規制も必要である。

     また、陸域からの排水や汚濁物質の投棄のみならず、海域におけるさまざまな事業活動等による水質の悪化などの海域環境への影響も重要な問題であり、下水道整備、油濁事故防止等関係機関との連携を図るなど総合的な取り組みや、地域と連携した海岸の清掃事業等も必要である。


3−2 広域的・総合的な視点に立った施策の展開

(1) 総合的な視点に立った施策の展開

     これまでの海岸行政は、防災を中心とした海岸保全を行ってきたため、防災の必要のある海岸保全区域のみを保全の対象としてきた。しかしながら、海岸に求められる良好な海岸環境や海岸利用の多様化に的確に対応していくには、海岸保全区域について防災・利用及び環境が調和した海岸管理の推進を図るとともに、これまで必ずしも海岸管理としての視点が十分でなかった海岸保全区域以外の国有海浜地も対象に含めた総合的な海岸管理を行う必要がある。

     また、地球の温暖化に伴う海水面の上昇が懸念されているが、海岸にとっても海岸侵食の進行やゼロメーター地帯の増加、高潮被害の激化など深刻な影響が生ずる恐れがある。このため、長期的な展望に立った対策と不断のモニタリングの実施が重要である。

(2)広域的な視点に立った海岸管理制度の導入

     国土管理のために海岸保全を進めていくためには、海岸及びその周辺の特性を十分把握した上で、土砂の動きや海象等の特性が連続する一連の海岸を対象として、海岸を保全するための計画を策定する必要がある。国はそのための指針となるような全国的な防護の水準や海岸の総合的な保全の基本的な考え方を示した基本方針を策定すべきである。

     そして、この方針を踏まえた上で、都道府県は学識経験者、市町村や地域住民等の意見を参考にして、その特性に応じた保全計画を策定するなどの措置が必要である。その計画の策定にあたっては、手続きの透明性の確保のほか、関係する計画との総合的な調整に十分配慮する必要がある。

     また、領土・領海の保全の観点から特に重要であり、都道府県が管理することが困難な特別な海岸については、国が直接適切な管理をする制度の導入が必要である。


3−3 地域と共生し、親しまれる海岸管理のあり方

(1)地域の個性を生かした親しまれる海岸づくり

     海岸はそれぞれの自然環境や社会環境等の特性を反映して地域ごとに個性的な側面をもっている。海岸の整備や管理においてこのような地域の個性を尊重して進めていくことがより豊かな海岸づくりにつながっていく。そのため、海岸の自然条件、歴史的経緯、住民の意向等を踏まえて、画一的ではなく地域の個性を生かした海岸づくりを進めるべきである。

     海岸管理の中には、海岸保全施設の工事のように、ばく大な費用を必要とし、また高度な技術を必要とするものもあるが、占用許可や行為の規制のような日常的なものも相当程度存在する。地域住民の海岸利用に密着した日常的・地先的な海岸の管理については、市町村参画をより一層拡大する必要がある。市町村が主体的に行うべき日常的な管理については、財政的支援をはじめ、これを支援する仕組みづくりを検討していくことが必要である。

     また、占用の許可にあたっては、社会経済情勢に柔軟に対応して、地域の個性にあった利用が可能となるように適切に対応していくべきである。

     さらに、地域特性を生かし、技術の進歩にも柔軟に対応できるような技術基準への見直しや新たな技術開発の推進も重要である。

(2)海岸づくりへの地域住民の参画と情報公開の推進

     地域の特性にあった海岸づくりを進めるためには、海岸保全のためのプランニングの段階で、海岸に日常的に親しみ、最も身近にある地域住民や海岸にかかわりのある人たち等が参画し、意見を反映することができるようにすべきである。

     さらに、海岸の日常的な管理を適切にきめ細かく行うには、地域住民やボランティアの積極的な参画と協力を欠くことができない。また、不断の生産活動の一環において海岸の日常的管理に係わりの深い農業者、漁業者やその地域の人々が安心して暮らせるような生産・生活基盤の整備も必要である。

     その上で、国、都道府県、市町村は、海岸に関するさまざまな情報を公開するための仕組みづくりに努め、海岸に関する情報や認識を地域住民等と共有できるようにすることが重要である。

     また、海辺を生かした様々なイベントや社会活動の推進と支援の仕組みづくり、海岸における交流の場の整備など、人々が海岸にふれあう機会を増やし、海岸に対する関心を高めるよう常に努めるべきである。



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