第1章まとめ 

第1章まとめ

 第1章では、「地域に住まう」、「社会で活動する」、「場所を移動する」の3つの局面から、意識調査等を基に、人が普段の暮らしやそれを取り巻く生活環境についてどのように感じているかを考えた。

【住まう、活動する、移動する:暮らしにおける人のニーズのまとめ】
 「住まう」については、都市・地方とも、日常生活関連や安全・安心など基礎的な生活環境が特に重要と考えられている一方で、満足度は利便性の面などで地方が低い。住居本体に対しては、バリアフリー化など住宅性能の向上が求められるとともに、住む場所の確保自体が課題となる場面もある。取り巻く環境については、緑や水辺空間を確保したり、安全・安心を確保したりする必要がある。
 「活動する」については、日常の用事を済ませる上で、利便性とともに付加的な“楽しみ”が求められている。働くことについては、厳しい雇用状況やワーク・ライフ・バランスの確保が難しい状況が改めて明らかになった。余暇については、気分転換が求められているが、経済的な事情等が阻害要因となっている。総じて、利便性、雇用、余暇を愉しむ場所といった事項で地方が相対的に不利となっている。
 「移動する」については、地方では、公共交通の衰退の中で移動手段の持続的な確保が課題である。他方で、都市では、公共交通の混雑緩和や速達性向上が依然として必要である。道路の渋滞緩和等も引き続き必要である。また、安全・安心やバリアフリー化に対する意識も高い。

【人のニーズにおける横断的な側面】
 このように、人のニーズは、生活の危機に関するものからゆとり・愉しみを求めるものまで幅広く広がる。また、住む場所やおかれた立場、生活観の違いなどによって、感じることは異なる。さらに、気持ちの上でいざという時のため、セーフティネットを求めるニーズもみられる。

【ニーズへの対応のありかたと行政】
 本章で明らかになったように、考えるべき課題とニーズは多いが、全ての人が満足する解決策は現実的ではないし、施策実施にはコストがかかる。また、例えば自然環境の豊かさと余暇活動のための施設の多様さに関する満足度など、個別のニーズのうち二律背反の関係にあるものもある。
 一方で、ICTなど近年発達した新しい技術を使うことで、例えばモビリティの低下を代替するなど、ニーズへの対応における広がりがある。また、ニーズへの対応の取組みにおいて、地域住民自らが主体的に地域の公的な活動の担い手になるということも始まっている。
 こうした点を踏まえて、行政としては、ニーズに応えていくための環境を整え、それだけでは解決できないようなときに下支えしていくことが重要である。

【国土交通行政としての取組みの例:地方における人のニーズへの対応】
 以下では、幅広い課題やニーズの中から、人々の感じる重要度は高いものの満足度が低い事項の代表として、人々の日常の生活の利便に関する事項を特に取り上げ、これまでの取組みから新しい施策への展開について述べ、本章を締めくくることとする。
 本章を踏まえ、第2章では、多様なニーズに対応する国土交通行政の一端を5つの視点から紹介する。


日々の生活に求められているものは何か
〜意識調査からわかった「重要度は高いが満足度が低い」こと〜

 生活の3つの局面を通じて、人々の感じる重要度は高いが特に地方で満足度が低いものは、日々の生活の利便に関する事項であった。ここでは、その課題の背景を、生活する人々のニーズとの関連で分析し、これに対応した近時の施策の展開に簡潔に触れたい。

(地方部における、日々の利便性低下についての不満)
 第1節でみたように、生活する上で最も基礎となる「住まう」において、「日常の買い物の利便性」や「病院や診療所などの施設や医療サービス」といった、日々の生活の営みに関するサービス・利便の重要度は高い。この傾向は、都市と地方で変わらないが、一方で満足度は、特に地方で低くなっており、地域により差異が生じている(図表I-1-1-4参照)。
 第2節の「活動する」の観点からみると、日々の用事を「できる限り身近なところで」「一度に用事を済ませたい」という、利便性に関するニーズが、都市と地方とも高いのに対して、「一度に済ませられない」「公共交通機関で行きづらい(=アクセスが悪い)」という不満が、やはり地方ほど大きくなっている(図表I-1-2-3参照)。また、実際に買い物など用事を済ませる場所も、家から離れた店を選ぶことが多くなっている(図表I-1-2-17参照)。
 この背景として、第2節でみたように、まちの中心部の衰退がある。地方を中心に、諸機能や人口がまちの中心部から郊外部へ移転している様子がうかがわれた(図表I-1-2-121314参照)。
 一方で、第3節でみた、地域の足となる「移動する」では、地方では、公共交通機関に対する不満が強い。そもそもの「公共交通が整備されていること」、「路線」や「駅等までの距離や立地」、また、公共交通機関を利用する際の基本条件となる「本数」や「運賃」に対する重要度が高い一方で、それらは不満度の上位を占めている(図表I-1-3-13参照)。
 このことからは、特に地方で、モータリゼーションの進展、低密度な市街地の形成、公共交通の採算性が確保できなくなった地域で公共交通のサービスレベル低下、という悪循環が発生している状況がうかがわれる。これは、まちの中心部の衰退とも密接に結びつき、あわせて日々の生活の利便性の低下に結びついている。

(利便性向上のための、国土交通省の従来の取組みと課題)
 これらの背景一つひとつは、つとに指摘されたことであり、国土交通省においても、i)中心市街地活性化の観点から、また、ii)地域の公共交通の再生の観点から、諸々の施策を行ってきた。しかし、地域で生活する人々の観点からは、結果としての生活の質が維持・向上されることが重要であり、上記の結果から、依然として問題がある状況がわかった。地域の実情に応じ、「まち」の構造・諸機能と、それらをつなぐ「交通」の機能を一体的にとらえて対策を模索することが必要な中で、従来の施策で十分でない点を補強する必要があった。

 i)まちのあり方については、中心市街地の衰退に歯止めがかからない状況に対応するため、平成10年に、大規模店舗の出店に際して周辺の生活環境の保持の観点から配慮を求める「大規模小売店舗立地法」(大店立地法)、空洞化の進行している中心市街地の活性化を図る「中心市街地における市街地の整備改善と商業等の活性化の一体的推進に関する法律」(中心市街地活性化法)、まちづくりの観点から大規模店舗の立地規制を可能にする「改正都市計画法」の3つの法律、いわゆる「まちづくり三法」を制定し、中心市街地活性化に向けての取組みが進められてきた。
 しかし、従来の中心市街地活性化法は、商業振興策が中心であり、街なか居住の推進や、公共公益施設も含む都市機能の集積促進など、中心市街地を「生活空間」として再生する措置が少なく、居住人口の減少、公共公益施設の移転や郊外大型店の立地といった原因により衰退が進んできた(図表I-1-2-15参照)。
 ii)地域の交通機関についても、オムニバスタウン制度、LRT総合整備事業等予算制度に基づく様々な支援策を用意し、地域の取組みを促進してきたところであり、平成18年には、コミュニティバスや乗合タクシー等の普及促進、市町村バスやNPOによるボランティア有償運送の制度化・法制化を行うなど、様々な施策を実施してきた。しかしながら、これらは個別の課題に対応した施策であり、地域における関係者が地域公共交通のあり方について、総合的、一体的に取り組む制度的基盤が欠けていた。

(国土交通行政の新たな取組み)
 こうした状況を踏まえ、平成18年に「まちづくり三法」を改正した。従来の市街地の整備改善、商業等の活性化に加え、都市利便の増進を図るための施設整備、共同住宅の整備など中心市街地における都市機能の増進、経済社会の活力の向上に関する各種施策を総合的かつ効率的に推進することが必要との認識に基づき、内閣府に中心市街地活性化本部を設置するとともに、市町村が作成する基本計画の内閣総理大臣による認定制度を創設し、様々な支援策を重点的に講じていくこととし、また、地域が一体的にまちづくりを推進するための中心市街地活性化協議会の法制化等の措置を講じている。さらに、都市構造へ広域的な影響を与える大規模集客施設や公共公益施設等の都市機能をまちづくりの観点から適正に配置するため、立地可能な用途地域を見直す等の措置を講じた。地方公共団体において、これらの制度を通じて暮らしやすいまちづくりが進められることを目指している。
 なお、人口減少社会の到来など社会経済情勢に大きな変化が生じており、今後は、こうした新たな変化に適応した制度へと再構築するため、都市計画制度の抜本的な見直しも行っていくこととしたい(参照:第2章第3節)。
 また、地域公共交通についても、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」を平成19年10月に施行している。これは、地域の多くの関係者の利害が複雑に絡み合う中、その多様な関係者が共通の問題認識のもとに結集し、公共交通の活性化及び再生の取組みを実効性あるものとするとともに、地域の実情に応じた柔軟な発想で新たな輸送サービスが適した地域でその導入が促進されることを期して施行されたものである。また、同法律を活用し、予算的措置として平成20年度予算にて、多様な事業に創意工夫をもって取り組む協議会に対し、パッケージで一括支援する「地域公共交通活性化・再生総合事業」を創設したところである。今後、まちづくりや観光施策とも連携しながら、各地域に適した手法で移動手段が確保されるよう、関係者とともに対応していきたい(参照:第2章第2節)。

(総合的・一体的な取組みによる利便性の向上と安心感の醸成)
 地域で生活する人々にとって、生活上不可欠な商業・公共公益サービスが住まいの身近でできるだけまとまって提供され、また郊外に居住する場合には、公共交通等を活用して気軽に行き来できることが重要である。
 このため前述した、居住・商業・公共公益機能がコンパクトに配置される取組みと、地域の各種公共交通機関が利用者に使いやすい形で持続的に確保される取組みを、連携して総合的かつ戦略的に進め、サービスの供給者とユーザーの双方を含む地域の利害関係者の合意形成が行われることを促進していく。これにより、多様な関係者が対応のあり様を横断的に検討・追求していく中で、暮らす地域と利用する交通の再生・活性化を通じて、歩いて暮らせるまちづくりや魅力的な公共交通を実現し、生活の利便性を向上させ、暮らしの安心感を醸成していきたい。
 
中心市街地活性化に向けた取組みの例

中心市街地活性化に向けた取組みの例
 
公共交通活性化に向けた取組みの例

公共交通活性化に向けた取組みの例

 

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