旅客輸送について、近年の輸送機関別輸送人キロあたりのCO2排出量をみると、最も少ない鉄道を100とした場合、乗合バス413、航空機643、自家用乗用車949となっている〔1−2−29図〕。
鉄道の整備により、地球環境への負荷の小さい交通体系の構築を図り、利便性を高めることにより鉄道の利用を促進する必要がある。このことも踏まえて幹線鉄道の整備や高速化、都市鉄道の整備等がすすめられている。
新幹線鉄道の整備については、9年10月に北陸新幹線(高崎・長野間)が開業したほか、10年3月にはすでに工事がすすめられていた3線4区間に加えて、九州新幹線船小屋・新八代間、東北新幹線八戸・新青森間及び北陸新幹線長野・上越間が着工された。また、新幹線と在来線の直通を図ったいわゆる山形新幹線について、山形・新庄間の工事がすすめられている。その他の在来幹線鉄道についても列車の速度向上、到達時間の短縮等の高速化事業が推進されてきており、10年3月には高徳線(高松・徳島間)が高速化開業したほか、宗谷線(旭川・名寄間)、豊肥線(熊本・肥後大津間)でも高速化が推進されている。
都市鉄道については、東京圏の大手民鉄線について、特定都市鉄道整備積立金制度を活用した複々線化や車両の大型化等の大規模な輸送力増強工事が行われており〔1−2−30図〕、また、地下鉄やニュータウン鉄道の整備、貨物線の旅客線化等もすすんでいる。
また、鉄道の利用促進のため、鉄道と鉄道の結節点の円滑化、バス・自転車・自動車等との結節の強化による乗り継ぎ抵抗の軽減を図るとともに、共通プリペイドカード、運行情報提供システム等による駅の情報化を図っている。また、相互乗り入れの推進、駅施設改善、車両の冷房化等による利便性の向上を図っている(第1部第3章参照)。
(イ) バスの利用促進
自家用自動車利用からの需要の転換の受け皿として最も現実的な公共交通機関がバスである。しかしながら、バス交通については、慢性化する道路混雑等による走行環境の悪化に伴い、定時運行が困難となり、輸送人員は減少傾向にあり、その活性化が強くのぞまれる状況となっている。
このため、運輸省においては、警察庁及び建設省と連携して4年よりバス活性化連絡会を設置するととともに、都道府県単位でバス活性化委員会を設置し、各種の活性化施策を推進している。この連絡会等における成果も踏まえ、バス専用・優先レーンの設置等〔1−2−31図〕による定時性の確保、バスロケーションシステムの導入、バス停留所の改良等による利便性の向上等の施策を一体的に行う都市新バスシステム等を推進している。
また、9年度よりバス交通システムの活用を中心としたまちづくりを支援する「オムニバスタウン構想」を警察庁及び建設省と連携して推進している(第1部第3章及び第2部第6章参照)。10年度に創設されたバス利用促進等総合対策事業補助制度においても、オムニバスタウンの整備事業に対して補助を行うこととしている。
長距離輸送については、定時性が高く利便性も高い高速バスネットワークの整備が進められており、低料金の魅力もあり利用者の好評を得て、運行便数も年々増加している〔1−2−32図〕。今後とも、需要に応じた路線の再編成、車内の快適性の向上、利用しやすいターミナルの整備等により、一層の利用促進をすすめることとしている。
さらに、バス交通に係るCO2排出抑制策として、低公害バスやアイドリングストップバス等の導入及びこれらに対する支援を行っている。
(ウ) その他地球温暖化防止に資する各種施策の推進
9年4月の「運輸部門における地球温暖化問題への対応方策について」の中で、短中期的にとるべき施策として「エコ定期券」の導入が提言されている。
「エコ定期券」とは、休日において家族の運賃を割り引きする等の優遇措置を付加した定期券であり、自家用自動車から公共交通機関への転換の促進が期待されている。9年9月に我が国で初めての「エコ定期券」の制度が導入されたのを機に、事業者による創意工夫の動きが相次いでいる。今後のさらなる展開が期待されるとともに、利用者に対してもより一層の制度浸透に向けてのPRの充実等が望まれる。
また、自転車を折りたたまずに、鉄道車両へ持ち込むことを認めるという試みも行われている。これは、旅行、通勤、買物等に際し、自家用自動車の利用を控え、鉄道を利用するインセンティヴとするとともに、化石エネルギーを消費しない自転車利用を促進しようとするものである。
10年度には交通エコロジー・モビリティ財団による「車両スペースの余裕を活用した鉄道車両内への自転車持ち込みモデル事業」〔1−2−33表〕として、その普及のため、各鉄道路線ごとの周辺地域の現状等を踏まえた、実施上の問題点とその解決方策及び実施効果等の検討を行うこととしている。
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