体験レポート 大賞: 特別な許可を得て草原体験!噴煙を上げる阿蘇中岳火口と「千年の草原」E-MTBライド

阿蘇温泉観光旅館協同組合

見事大賞に輝いた熊本県阿蘇市のマウンテンバイクツアーに参加! 「千年の草原」を舞台にしたツアーは、サステナブルな旅も意識した上質な体験でした。

阿蘇五岳のひとつ中岳の噴火口を目指すツアー

今回参加したのは電動アシスト付きマウンテンバイクで、阿蘇五岳のひとつ中岳の噴火口を目指すツアー。約4時間のコースは、1グループ限定のプライベートツアーです。出発時間や集合場所はゲストの予定に合わせてくれるのがうれしいですね。
普段は入れない草原を走破し、火砕流の跡を間近に観察したり、雄大なカルデラを眺めたり、阿蘇らしいダイナミックな景観を楽しめるのが魅力。草原の役割など文化的な背景も聞きながら、あっという間の4時間でした。


阿蘇の草原動画「千年の草原」

出典/阿蘇インターネット放送局 WebTVアソ

  • 阿蘇山の麓、阿蘇駅からスタート

    集合は「道の駅阿蘇」の駐車場。阿蘇の自然を熟知したプロガイド集団「あそBe隊」の隊長が元気に出迎えてくれました。ヘルメットやサングラス、リュックのレンタルは無料で、オリジナル軍手のプレゼント付き。念のため長袖、長ズボンを着ておくと安心、あとは飲み物だけ用意すればOKです。
    まずは阿蘇の地図を見ながら、火山や草原についての話を聞きます。阿蘇の巨大カルデラがいかに稀有なものか、そして1000年以上前から人の手で維持されてきた草原の話も興味深い。

  • 鉄道で訪れる人は、阿蘇駅に集合することもできます。出発は鉄道の時間に合わせてくれるので予約時に相談を。
    使用するE-MTB(電動アシスト付きマウンテンバイク)は、エンジンを使わないエコな乗り物です。サドルの高さを調整して軽く練習したら、ガイドさんの先導でいざ出発!

  • 阿蘇山は古くから霊場として信仰され、修行者は坊中と呼ばれた麓から山へ登ったそう。神聖な火口を目指した人々の信仰に思いを馳せながら、我々も林間の坂道を上っていきます。用意されたE-MTBはギアが7段まであり、電動アシストの強さも選べるので、上り坂でも楽々と進みます。E-MTBは初めてでしたが、10分ほど走ったら電動アシスト機能の感覚やハンドルさばきにも慣れました。


  • 許可を受けたガイドの同行必須の草原へ

    写真提供/石松昭信

    出発してから30分ほどで、あか牛が放牧された草原エリアに到着します。「千年の草原」と呼ばれる阿蘇の草原は、その名のとおり1000年以上も前から人が活用してきたもの。野焼きや牛馬の放牧、採草を繰り返すことで、森林化せず草原として維持されてきました。その広さはなんと2,200ヘクタール以上というから驚き! 以前に比べると縮小しているものの、今でも日本一の広さを誇る草原です。

  • ここから、いよいよ阿蘇が誇る草原エリアに入ります。普段は侵入禁止の草原ですが、このツアーでは特別に入ることができるのです。阿蘇の草原はいくつもの牧野組合によって維持・管理されており、ここでは牧野組合とアクティビティ会社が協力して、牧野ガイドの同行を条件に特定のルートを開放してもらっています。同行するE-MTBのガイドさんは、草原活用ガイドラインにもとづき、草原の環境を守りながらアクティビティを実施する草原の案内役でもあるのです。
    鉄の門扉を開けたら、牛の病気を持ち込まないように自転車と靴の裏を石灰で消毒するのですが、このような対策を徹底し参加人数も制限するなど、牧野組合に納得してもらえる条件を整えているのがポイント。そのために牧野組合、アクティビティ事業者、旅館組合、行政などが連携をとり、草原を農業にも観光にも活用できる持続可能な仕組みをつくっています。

  • また牧野ガイドは毎年、研修を受講するなど専門スキルのレベルアップに努めており、現場での経験を積みながら、最新のノウハウの習得にも取り組んでいます。
    ちなみにツアー料金には草原保全料が含まれ、草原の維持・管理に利用されます。保全料はアクティビティやルートによって調整しているそう。観光客でもツアーに参加するだけで草原の維持に協力できる、まさにサステナブルな旅の形。観光と地域資源の保全が両立できる仕組みです。

  • ひと口に草原といっても状態はさまざま。まずは牛馬の放牧地をゆっくり上ります。自転車でも走りやすい道が整備されていますが、ところどころ牛馬の落とし物…(笑)をよけながら進みます。
    眼前には緑豊かな阿蘇の山々が連なり、背後には外輪山に囲まれた田園が広がる雄大な景観。このときはキツネが自転車の前を横切ったり、自然死したシカの死骸があったり、この地で紡がれている生命の営みの一端を垣間見ることができました。実際、阿蘇の草原では約600種類の植物が見られ、野鳥や昆虫も多く生息しています。

  • 放牧地を過ぎると急に背の高い草が増えます。整地されたように整った放牧地と比べると一目瞭然。牛や馬が歩き回り草を食べることで草原が荒れないというのを実感しました。一説では草原の保水力は森林よりも高いと言われており、阿蘇の草原に染み込んだ地下水は周辺の河川の源流になっています。人々の暮らしを支える生活水を生み出す草原が、いかに大切な存在なのかが分かります。
    しかし放牧する牛馬は年々減っており、野焼きの手も回らない場所が増えているそう。つまり草原の面積は年々、減っているのです。

  • 草原の中には、草木がまったく生えていないこんな場所も。巨大な岩盤は噴火による溶岩流の跡です。爽やかな緑に挟まれて突如現れる雄々しい景観は、あまりに異質で神秘的でさえあります。
    こんな風にところどころ立ち止まって、阿蘇の自然や文化について解説してもらえるのもガイドツアーの魅力。参加者の興味のありそうな話をしたり、ペース配分を変えたり、百戦錬磨のガイドさんがツアーを何倍にも楽しくしてくれています。


  • 噴煙をあげる噴火口に到着

    草原を抜けたら阿蘇山上エリアに突入。クネクネと曲がりくねった車道を上ります。周辺にはかすかに硫黄臭が漂い、切り立った山々は草木がほとんど生えない溶岩の岩山。月や火星を思わせる無機質な風景が広がり、SF映画の世界に入ってしまったような不思議な気分。ここまで出発から1時間30分ほどです。

  • 山上に自転車を停め、歩いて中岳の噴火口へ向かいます。見どころの多いツアーのなかでも、やっぱり噴煙があがる火口はインパクトがあります。中岳には7つの火口が並び、現在も噴煙を上げているのは第一火口。ぽっかりと開いた穴からは、ふた筋の白い煙が立ち上っています。実はひとつは湯だまり(火口湖)から立つ湯気。風にたなびく煙と湯気が迫力のある景観を見せています。

  • 溶岩の大地に整備された遊歩道をぐるっと回ると、火山灰で覆われた黒い砂地や、噴火で飛んできた岩、岩によって空いた穴の修復跡などが見られ、噴火の威力を身近に感じられます。


  • 下りは爽快に! 草原ライドも楽しみ

    ダイナミックな噴火口を堪能したら、あとは麓まで下るだけ。途中、草原の中に入るのもアウトドア仕様のマウンテンバイクならではの楽しみです。ギアを下げ、サスペンションをきかせて、草が密集したガタガタの悪路を走る初めての体験! お尻を浮かせて、衝撃を吸収するのがポイントです。

  • この草原は、鎌倉時代から室町時代にかけて36坊52庵の寺院が立ち並んでいた阿蘇山信仰の中心地。朝、出発した阿蘇駅周辺は麓坊中、山上は古坊中と呼ばれています。草原の中には当時、使われていた灯籠が埋もれており、土の中から露出した一部が見られるものも。かつての聖地を自転車で走らせていただく貴重な体験です。

  • 下りはスピードが出るので、ブレーキとハンドルを上手に使って。車道は路面が滑らかなので、車にだけ注意していれば安心して走れます。濃緑の木々の間を走ったり、阿蘇らしいカルデラの風景を横目に走ったり。風が心地よく爽快なダウンヒルでした。

  • 左手に見えるお椀を逆さにしたような山は、約3300年前の噴火でできた米塚と呼ばれる小山。高さは約80mあり、平地にこんもり盛り上がった形状がユニークです。3000年以上も前にできていますが、阿蘇火山では最も新しく形成された山なんだとか。
    ほかにも展望台から阿蘇を代表する景勝地「草千里ヶ浜」など、阿蘇の風景を楽しみながら下山します。

  • 再び、あか牛がのんびり草を食む草原を走ります。牛馬がきれいに草を食べてくれた草原は走りやすい! 山々に囲まれた草原は美しく、この景観を次の世代にも残したい…自然とそんな気持ちになりました。草原を抜けてさらに下ると、ぽつぽつと民家が増え、阿蘇山の麓に戻ってきたことを実感。「道の駅阿蘇」が見えたらゴールです。出発前は4時間は長いと思ったのですが、草原から山道や車道まで環境が次々と変化し、見どころも多いので、終わってみるとあっという間。阿蘇が誇る「千年の草原」の意味や、人との暮らしとのつながり、維持の必要性なども実感できる知的好奇心も満たされる上質な時間でした。ツアーに参加することで草原の維持にも協力できるのも嬉しく、阿蘇の草原が少し身近に感じられました。