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転換期を迎えた日本とその21世紀における新しい方向

1.価値観の多様化と「個」の確立

(1) 「個」を軽視してきたわが国社会

1) 組織中心の価値観の形成

われわれの祖先は、長い間、「イエ(家)」や「ムラ(村)」に代表される伝統的な共同体の構成員として自己を位置づけ、所属する集団の利益を尊び、個々人の自我を集団の意志の中に埋没させることを美徳とする倫理観の中で生活してきた。

明治維新以来の欧米化、近代化の過程においては、個人主義的考え方が移入され、こうした集団中心の価値観が優勢な社会的風土に風穴を開けようとしたが、それは人々の間から澎湃(ほうはい)としてわき起こったものでなく、基本的には外国から学んだものの応用による、上からの改革色が強いものであり、個人よりも村落や国家などの共同体を中心に考える伝統的な価値観を根本から変革させるまでには至らず、先の大戦時まで基調として引き継がれてきたといえよう。

戦後、基本的人権を尊重し、個人の尊厳を高らかに謳いあげた日本国憲法が施行された以後においても、こうしたイエやムラを優先させる考え方は、農村社会を中心に根強く生き残っており、都会においてもその対象となる中心的存在を地域や国家から会社、学校に移行させただけで存続し続けており、それがいわゆる「会社人間」に代表されるような組織への忠誠を第一義とする人間集団を作り出してきた。

戦後のわが国の急速な経済発展は、こうした個々人の集団としての企業の拡大・発展を通じた豊かさの追求が原動力として機能してきた結果もたらされたものであるが、このことは、個人にとっても「会社人間」として課された役割を果たすことが結果として自己の地位や所得の向上、ひいては自己実現につながったという意味で価値ある意義を持ったものであったといえよう。

2) 横並びの重視

わが国の近代化は、義務教育の普及の早さにみられるように、一部のエリート集団のみを養成しその力に頼るという方式ではなく、国民的規模での向上心や横並び意識を巧みに活用することによって成し遂げられてきた。人々は、身近な人との比較で生活が向上したことや社会的地位で遅れをとっていないことを確認しつつ、より豊かな生活を求め、仕事や学業にはげんできた。集団の中での突出を避け、落伍を恐れるこうした意識は、やがて企業経営者の意識や行政運営など社会のいたるところでみられるようになってきた。

企業においては、シェア至上主義を志向する企業集団の形成にみられるように、他社との横並び意識を原動力として、経営の拡大が図られてきた。最近においても、利益よりもマーケットシェアを重視する考え方は、影をひそめていない。

また、政治や行政においても、社会全体のバランスに配慮した政策決定を重視する気運が強い。こうした政策決定方式は、社会の総体的なレベルの底上げに大きな力を発揮してきたが、一面で国民や企業の横並び意識を助長し、活力を削いできた面も否めない。

このような横並び意識は、大多数の国民が一定水準以上の生活を享受し得る状況を短期的に創り出す上では極めて有効であり、その結果、貧富の差が世界的にみても小さな社会が創り出されてきたが、その反面、「一億総中流化」といわれる画一的な国民意識を生み出し、創造的個性を摘みとり、一方向に傾きやすい世論、学歴信仰、ブランド商品指向にみられるような主体性の欠如をもたらし、青少年層の社会意識に関しても積極的な社会参加への流れを遅れさせ、国民の創造力や活力の発揮を妨げてきた面があると指摘されている。

3) 未成熟な国際感覚

諸外国における国民の国際感覚は、互いに活動領域が隣接・重複していることによる活発な往来や交易、ときには相互の侵略、植民地支配などを通じてもたらされた民族間・異文化間の接触・融合が進む過程で形成されてきた。

一方、わが国は、古くは中国・朝鮮半島の、近年においては欧米先進諸国の優れた政治・行政制度、宗教、文化、技術等を積極的に採り入れ、それらをわが国の生活・文化の中に巧みに融合・定着させて発展を遂げてきたが、こうした国際交流は、一種の先進文化の吸収・消化を目的とした一方的な「学び」の交流であって、必ずしも国民レベルでの主体的な国際交流の増進、個々の日本人の国際感覚の涵養にはつながってこなかった。

近年、日本人の国際性はかなり高まってきたといわれているが、島国という特性に加え、外国の支配をほとんど経験してこなかったわが国においては、外国や共同体の外との調和より内での協調を重視する傾向が、交通・通信手段が飛躍的に発達し、世界との往来が格段に自由になった今日においても意識の底に根強く住みついており、異質文化との緊密な関係を構築しようとする意欲を妨げ、海外旅行に出かけても日本人集団のみで行動しようとする姿が盛んにみられるように、異文化との本格的な接触をためらう傾向が今なお続いている。

こうした未成熟な国際感覚は、ときには、外圧に対し過剰ともいわれる反応を引き起こしたり、逆に外国に対し相手から指摘されるまで理解しようとはしないような過度の無関心さをもたらしている。

(2) 多様化する国民意識と「個」の確立

最近、わが国経済社会が成熟するにつれ、以上みてきたようなわれわれが信奉してきた価値体系に大きな揺らぎが生じている。

私的な財に関する物質的な豊かさの実現や私生活のために割ける時間の増大が、個人が自己を振り返る余裕を生じさせ、個人にとって組織の目標達成に努めることが必ずしも自己の生活の向上につながらないのではないかという疑念を生じさせたり、現実にそういう事態に遭遇するケースも生じさせつつあり、多くの国民は、仕事最優先の生き方から、今まで犠牲にしていた別の新たな対象にも価値を見出し、個性豊かな生活を求めるように変わりつつある。また、物質的豊かさに満ち足りた国民の中には、さらに高次の欲求として空間的、時間的なゆとりや精神的豊かさを求める人が増えつつある。

こうした個性化の流れは、他との乖離(かいり)が少ないことをもって良しとした横並び意識に対しても大きな変化を生じさせている。大学入試における個性を重視した選抜方法の定着や独創的商品・アイデアを生み出した企業の隆盛など、その萌芽は社会の随所に散見される。

国際的な交流意欲についても、企業の積極的な海外進出等国際的な活動の活発化等を通じて、国民の海外体験が増加し、青少年層をはじめとして外国人とのわだかまりのない、ものおじしない接触風景が各所でみられるようになってきている。

このように、わが国民の価値観は組織中心の価値観や横並びを重視する考え方から多様な個性を重視するそれへと移行しつつあり、国際的な交流意欲も積極性を増しつつある。

しかし、こうした変化への過程は、今まで以上に価値観の違いによる摩擦を発生させる危険性を併せ持つものでもある。それを克服するには、個々人が共同体の一員として社会的責任を自覚し、自立した「個」として自己を確立することとあわせて、他の者の人間性や異なる価値観をも尊重し合うことのできる社会に改変していくことが重要である。このため、今後は、国民に対し、幅広い自由な選択肢の下で自己実現を試みていく機会やそれを支援する制度をさらに整備するとともに、共同体の構成員としても、大きくは地球社会を、身近なところでは近隣地域社会を構成するかけがえのないメンバーであることの自覚を促し、それぞれの義務と責任を果たしていくよう求めていくことが必要となる。

2.改革・転換期にある政治・行政システム

戦後の復興から繁栄へとわが国の経済社会を永く支えてきた政治・行政システムについては、数次にわたる行政改革の実施等の見直しがなされてきたが、その間の経済社会を取り巻く情勢の激変により政策課題が著しく変化しているにもかかわらず、基本的には縦割りに固定化された行政組織や立法府の制度などが、総合的な視野の不足や既存制度の維持への過度のこだわりを助長しがちであり、変革への機敏な対応を遅らせている。このため、現在のシステムは制度疲労をきたしているともいわれている。

しかし、昨今、政治の仕組みについては、長い間わが国政治の枠組みとして認識されてきた55年体制に終止符が打たれ、選挙制度についても約70年間続いた中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への改革が行われるなど変化の兆しがあらわれている。

行政についても、官・民の関係を見直し、ともすれば規制に伴う既存の秩序による利益が既得権益化し、国民や企業の自由な行動を制約するなど、そのもたらす効果よりもむしろそのマイナス面が懸念されるに至っている経済的規制などの各種規制を洗い直し、国民や企業が自己責任の原則のもとに、その創意と活力を十分に発揮でき自律的かつ主体的に活動し得る余地を拡げる規制緩和や、明治以来の中央集権的行財政システムのもとに形成されてきた中央と地方との役割分担を見直し、地域の自発性によりその可能性を最大限に伸ばす方向に転換する地方分権化の議論が進展するなど改革の芽生えもみられるようになった。

改革の動きは緒についたばかりではあるが、国民の変革への志向や、わが国政治・行政システムの変革に対する国際的な要請には根強いものがあり、今後それらが大きなうねりとなることはほぼ確実とみられる。

こうした改革を進めるに当たっては、旧来培われてきた政治・行政と経済・社会との関係を21世紀にふさわしい新たな関係に変える視点が重要であり、政治・行政が国民からみても、また国際社会からみてもわかりやすい姿で遂行されること、政・官・民の関係に一定の距離を置き、いやしくも癒着と非難されるようなことがない新たな関係を築くことなどが求められている。

3.変革を求められる経済・社会

(1) 変革を求められる経済・社会

今日、わが国は、新たな経済発展の方向についてのコンセンサスを見失いかけているといわれている。

わが国は、天然資源に恵まれない資源小国で、原材料を輸入し、それを加工し、輸出する以外に生きていく途はないよう運命づけられており、そのことは将来にわたって変わらない宿命である。

世界経済の中でわが国のウエイトが小さかった時代には、外国の新しい技術を採り入れ、ひたすらその応用、改良を図ることによって大幅にコストダウンした製品を大量に生産し、消費することが、国内の所得水準の継続的上昇と高度大衆消費社会の実現を同時に達成する方途であり、また並行して、世界市場に向けて安くて良い製品を大量に供給することが、即世界経済の発展に貢献することともなっていた。

しかし、わが国の世界貿易に占めるシェアが大幅に拡大し、わが国の経常収支が長期にわたり膨大な黒字を継続している今日、それは非協調的な経済行動であるとされ、最近では日本経済そのものの構造・体質に起因するのではないかと指摘されるほど深刻な対外経済摩擦を引き起こしている。

明治以降の近代化の達成及び戦後復興から高度経済成長を経て今日に至る経済社会の発展過程において、政・官・民が協調し、それぞれの時代の要請に応じて、各種立法や財政、金融措置、国策会社や特殊法人などの事業推進主体の設置等を通じて、国内産業の保護・育成、供給や価格の安定、安全の確保等を積極的に図ってきたことは、日本経済の発展と国民生活の安定に大きく寄与してきた。

しかしながら、制度が成熟するにつれて、政・官・民のそれぞれがその本来の目的を超えたところで、既得権益を温存し合う傾向もみられるようになり、このことが、今日求められている自律・自助の社会への変革を遅らせ、国民の多様な価値観の実現を妨げ、国民の豊かさの実感を阻んでいる要因の一つといわれている。

わが国においては、国内産業育成重視の経済政策、個人の仕事優先の生き方に支えられた欧米諸国に比べ高い貯蓄率を背景に、高水準の民間設備投資が継続的に行われ、国際的にみても稀にみる効率的な生産重視の社会が確立されてきた。しかし、ゆとりや精神的豊かさへの欲求、国際協調への要請が高まりつつある今日、これがややもすれば国民生活や国際関係をないがしろにすることにつながりがちであるといわれている。

(2) 経済・社会の新たな発展の構築

わが国経済のみが世界経済の中で永遠に拡大し、繁栄していくことはありえない。今後は、国際社会との共存と世界経済の持続的発展への寄与を図る観点から、輸出を先導役とする経済構造から内需中心の国際協調型の経済構造へ転換を図るとともに、地球規模の環境・資源の制約を踏まえた独創的な新技術を創出することなどにより、国際社会に貢献することが求められている。

また、会社や生産者としての立場を重視しがちなわれわれの生き方や経済運営の姿を、家庭人や地域社会の一員としての立場をも大切にする生き方やそれを支援する経済社会の仕組みに変革することが求められている。

一方、わが国は今や、世界有数の長寿国となっているが、人口構成の高齢化が諸外国に類をみない急な速度で進行しており、21世紀初頭には国民の4人に1人が高齢者という世界で最も高齢化の進んだ国となることは確実となっている。今のままの社会制度や経済システムで推移すれば、多数の高齢者の生活を現状どおりに維持するためには働く者の肩に重い負担がのしかかり、社会全体が活力を失い、所得の配分においても前向きな投資のための余力が減退し、それにより一層の社会的沈滞がもたらされるおそれがあるといわれている。こういう事態を防止するため、雇用、福祉、医療、住宅、交通等社会のあらゆる分野における仕組みや経済構造を抜本的に改革し、高齢者が安心していきいきと働き、のびのびと生活できるような環境を形成することが求められている。

このように、わが国が新たな経済発展についての戦略を描こうとすれば、およそ一世紀にわたって形成され、慣れ親しんできた価値観や経済・社会システムを根底から見直していかねばならない。大きな混乱や痛みが生じることも予想される改革に苦しみや抵抗を感じるのは当然のことではあるが、時代が大きく変貌しつつある現在、このことはわれわれに課された今日的課題としてどうしても踏み越えなければならない試練である。

4.冷戦構造の崩壊と新たな国際秩序の模索

(1) 冷戦構造の崩壊と新たな国際関係

世界は長らく続いた米ソ二超大国が対峙する冷戦時代の終焉を迎え、旧来のシステムに代わる新たな国際秩序を模索する時代に入った。冷戦の終結により、世界的規模での戦争へのおそれは払拭されたが、民族主義の高まりや宗教的な対立などを背景として地域紛争が頻発するなど国際情勢は不透明・不確実な状況を呈している。

また、経済面では、資本主義対社会主義というイデオロギー的対立から生じた人為的な壁を取り除かせ、この結果世界的規模での市場経済化をもたらし、世界経済のボ−ダレス化をさらに進展させる原動力となっている。

他方、冷戦の終結は、EU域内における市場統合の本格化、北米における自由貿易協定の合意等新たな地域統合の動きを加速させている。アジアにおいても、各国間の分業関係が深化し貿易が活発化する一方、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、AFTA(ASEAN自由貿易地域)等新たな経済協力や市場統合の動きが進行している。

また、冷戦の終結は、地球社会の一員として世界の国々が相互に協力し合い一体として行動する機運を醸成しており、地球温暖化や酸性雨などの環境問題、開発途上国を中心とした人口の増加や経済の拡大に伴う資源エネルギー問題、地域紛争等による難民問題等国際社会の相互協力なくしては解決できない地球的規模での様々な課題に対処するための活動が活発化している。

(2) 新しい国際関係樹立へのわが国の役割

わが国は、WTOを中心とする自由貿易体制の擁護、世界で最大規模のODAの提供、国連平和維持活動への参加等を通じて、国際社会の繁栄と安定に貢献しようとしているが、膨大な額にのぼる長期にわたる貿易黒字の存在と、欧米特にアメリカのそれとは異なるものとして論じられることが少なくない終身雇用や年功序列を基本とする日本的雇用慣行、元請下請制度や系列取引が重視される取引慣行、株主への利益還元よりも内部留保の拡充に傾きがちな経営者の姿勢などが、わが国に対する世界からの理解を難しくしていることもあって、国際社会においてわが国がその地位にふさわしい役割を十分に果たしているとは必ずしも評価されていない。

これらわが国に対する国際的理解を損ねている諸問題は、基本的には、過去の歴史や風土によって形成されてきたものであるが、これらの中には、国民の価値観の多様化や国際意識の高まりなどを背景とする社会変革の中で今後大いに変わっていく可能性のあるものと、文化的背景に基づき今後とも固定的に推移するものとが混在していると考えられる。今後は、諸外国のそれと同化し得るものについては、社会変革によってそれを促進することが必要であるが、今後とも保持すべきものについては、諸外国にその違いを違いとして理解を求めたり、むしろ積極的に世界に紹介することによって、相互の相違点を尊重し合うような共通のルールを構築することに努める必要がある。

具体的には、今日の国際社会においてかつてないその役割の高まりをみせている国際連合の活動に積極的に協力し、その平和活動はもちろんのこと、地球環境問題等についての国際間の協調、協力体制への積極的参加、経済力を活用したODA等の国際協力、公害防止技術や先端科学技術の面での技術協力の充実強化を図るとともに、戦後50年間培ってきた平和主義の立場をいかして、国際社会に起こる新たな紛争の未然の発生防止と解決に積極的に取り組んでいくことが求められている。

5.東京一極集中と国土利用のアンバランス

(1) 東京中心の国土構造

第二次世界大戦時における疎開等によって一旦分散した人口は、戦後の重化学工業化へ向けた過程を通じて、三大都市圏の既成の臨海工業地帯を中心に再び集中しだした。その後、新産業都市・工業整備特別地域制度の導入等による工場の地方立地が推進されたが、明治以来の政治・行政の権限の集中を背景として、わが国の司令塔としての役割を果たしている東京の魅力は衰えることなく、単に政治・行政機能のみならず、経済、学術、文化、情報、ファッション等あらゆる種類の高次都市機能が、東京で生まれ、育っていき、東京は、日本の中心として拡大・成長し続けて、世界都市といわれるまでになった。

東京が成長する過程での東京への政治・行政の権限の集中、わが国を代表する企業の本社の集中、東京を扇の要とする情報発信機能の発展、東京を中心とする交通ネットワークの整備等は、東京のより一層の成長に寄与するだけでなく、このことに起因する人口及び諸機能の東京への過度の集中をもたらし、東京中心の国土構造の形成を加速し、地方の活力を損なわせる大きな要因となった。

近年、国際化、情報化、経済のソフト化・サービス化等経済・社会構造の変化が加速しているが、これらの社会変化は、さらに国際金融都市・世界都市・高度消費都市としての東京の魅力を高め、商業、金融、情報、文化等フェイス・ツー・フェイスの情報へのアクセスを重視する高次都市機能の再度の集中をもたらしたほか、東京に発生する新たなビジネスチャンスを求めて企業が集中し、そこに生じる就業機会を求めて人が集まり、さらにその労働力・消費市場を求めて新たな企業が集中するという、いわゆる「集中が集中を呼ぶメカニズム」が強く作用する方向に機能し、他の地域の追随を許さない突出した東京一極集中の状況が形成されるに至った。

東京一極集中については、心理的な側面を軽視することができない。多くの国民の間では、「東京の会社だから立派で信用できる」「東京の流行だからカッコいい」「東京のことばだからきれい」といわれているように、東京に由来するものだから優れているという意識が、東京に住む人、地方に住む人を問わず抜き難く存在しており、首都東京を頂点とする心理的なピラミッド構造が形成されている。このことが、国民や企業経営者の東京志向をもたらし、古くから日本人の心の中に形成されていたミヤコへの憧れともあいまって、就職、進学時に東京にある企業や大学に強い魅力を覚える現象や企業・官庁における人事異動の際によく交わされる「東京へご栄転」「東京から都落ち」などの言葉にみられるように中央が地方より上位にあることを当然のこととして受け入れる国民性を生じさせ、それが東京中心に組み立てられた歴史的な行財政制度ともあいまって、先進地域としての東京の存在感を増幅させる要因となったと考えられる。

このように、明治以来、東京から、新しいビジネス、新しい思潮、新しいライフスタイル、新しい風俗が次々と興り、東京の政治・行政・情報機能等がこれらを全国に伝播させ、浸透させ、定着させてきた。このことが、東京を頂点とする序列意識を拡大、再生産し、心理面でも抜きがたい東京一極集中志向をもたらしている。

(2) 東京一極集中の問題点

このように国民の内に定着した東京の優位性への信奉が一つのきっかけとなって、土地取引における投機等社会経済の様々な場面において深刻な問題が発生し、東京都心部を出発点として大幅かつ長期にわたって地価が高騰するなど、いわゆる「バブル」の状況が出現した。

この地価高騰は、住宅取得を困難にし、東京と地方との間の、また、持てる者と持たざる者との間の資産格差を拡大し、労働による所得の価値を相対的に低下せしめた。また、偏った国土利用を拡大し、東京においては、都心コミュニティの崩壊等都民生活を直撃した。

また、バブル経済の崩壊は、不良資産問題等多くの問題を生じ、不況の長期化をもたらした。

一方、東京圏においては、依然として解決されない多数の大都市問題が山積している。他の地域に比べ高・遠・狭といわれている住宅事情、長距離化し、激しい混雑が続く通勤・通学問題、深刻な交通渋滞、行きづまりの迫っている廃棄物処理の問題等大都市の過密に伴う諸問題が、豊かで快適な都市生活の実現の前に立ちはだかっている。

また、地方圏においては、地方中枢・中核都市の諸機能を享受しにくい地域を中心に、人口減少・高齢化が顕著に進行し、地域の活力の低下をきたすなどの問題が発生しており、東京一極集中は国土の均衡ある発展を阻害している。

(3) 東京一極集中メカニズムの打破

戦後一貫して国土の均衡ある発展を目指してきた諸施策にもかかわらず、日本列島における人口、産業、文化等の諸機能の配置には不均衡がみられ、国土利用のアンバランスが国民生活の一層の向上を阻害している。

東京一極集中メカニズムを打破し、豊かな交流空間の実現による分散を基調とした国土を形成しようとする四全総のねらいが、多極分散型国土形成促進法やいわゆる地方拠点法の制定による地方振興策、高規格幹線道路や地方空港の整備の進捗による地方における交流空間の拡大、イベントによる地域おこしの活発化等を通じて効果をあげつつあり、地方の自立的成長、地方の創意・工夫の発揮等への取り組みが各所でみられるようになったことにより、Uターン、Jターン現象もかなり増大しており、東京圏への転入超過数は近年減少し、平成6年には1万7千人の転出超過に転じた。しかし、東京における人口、高次都市機能の集積は依然として高い水準にあり、これらの施策によっても、今なお東京一極集中に伴う過密等の諸問題は緩和されたとはいえない状況にある。

国土利用のアンバランスを根源に立ち返って解決するためには、より先端的、より高度の機能でも東京でなく地方で生まれ育つような環境を創造し、それら高次都市機能が東京に集中立地しようとする構造を断ち切り、集中が集中を呼ぶメカニズムが再生産されないようにすることが必要である。

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