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首都機能移転の効果

首都機能移転は、わが国においても数百年に一度行われるかどうかの歴史的な一大事業であり、それは、まず社会全体の雰囲気を一新し、政治・行政、経済、文化等に大きな変化を生じさせ、それらが相互に作用し合い定着していくことにより、わが国のあり方そのものを大きく変貌させる効果を持っている。

ここでは、そうした首都機能移転がもたらす長期的、短期的な効果を、直接、間接を問わず、現時点で予測される限りのものを細大もらさず網羅する観点でまとめてみる。

なお、これらの効果は単に移転さえすれば自動的に現れるというものではない。移転が多くの国民に共感をもって受け止められ、それが具体化、現実化するプロセスを通じてより効果的に達成されるものである。

1.東京中心の社会構造の変革

(1) 東京を頂点とする序列意識の打破

首都機能が移転されると、国会、中央官庁、最高裁、大企業、中央銀行、有名大学、大新聞、テレビキー局、国立劇場等政治、行政、司法、経済、教育、情報、文化等それぞれの分野において最高の地位にあるものはほぼ全部が東京に所在し、またそこにあるのが当然だとして受け入れるいわゆる東京を頂点とする心理的ピラミッド構造の一端が失われ、日本社会の隅々にいきわたったすべてについて東京にあるものであるがゆえに優れているとみなしがちな東京中心の序列意識がくずれてくる。

一方、新聞やテレビが現在東京から全国に発信している首都機能を源とする情報が新首都から発信され、情報発信地が東京と二分されると、東京に住む人の目で取材され、制作されがちなニュースやドラマが新しい感覚で編成されるようになり、このことが、より一層東京中心の序列意識を崩れさせ、人々や企業の東京指向が緩和され、東京中心の社会構造の意識面からの変革が始まる。その結果、企業の将来性や土地の収益性など本来別の指標を基準にして形成されるべきはずの就職に当たっての企業ランキング、地価水準等根強い東京指向によってゆがめられていたものも、是正される方向に向かっていくものと期待される。

(2) 地域の自立の促進

首都機能を東京から移転することにより、あらゆる高次機能について傑出した集積をもってきた東京の優位性が相対的に低下すること、新首都と東京が異なったモデルとして併立することにより各都市が東京のみに追随することが少なくなること、地方が収集する情報が東京の情報に偏らないバラエティに富んだものになること、身近な地域おこしのプランづくりを東京に立地するコンサルタントに依頼するといったような意思形成の過程での安易な東京依存が見直されることなどに加え、移転が全国的な統一性や公平性を重視する集権的システムの見直しを加速する効果とあいまって、幅広い選択肢の下で創造的・個性的な地域社会の形成を目指した主体的な地域間競争が活発化し、地域の自立が促進されるものと期待される。

2.新しい視点に対応した政治・行政システムの確立

首都機能移転により直接的に最も影響を受けるのは、実際に移転する政治・行政機能そのものである。わが国の現在の政治・行政システムは、激動の20世紀を生き抜くための先人の知恵と努力により積み上げられてきたものであり、これまでの日本の発展に大きな役割を果たしてきたが、大きな変革が予想される21世紀を展望した場合、必ずしも十全なものとはいえず、むしろ積極的にその改革が求められている。21世紀にふさわしい政治・行政システムに再編・再構築するため、首都機能移転をてことして活用することが期待されており、移転は大きな促進剤になると予想される。

(1) 政治・行政改革の促進

首都機能移転は、われわれの生活にたとえれば、新居を建て、引越しをして、装いも新たに新しい生活を始めることである。新居に引越しするときは、それまでたまりにたまった家財の中から必要なものを選り分け、新しい生活を営むのにふさわしいものだけに整理しようとするのと同様、移転はそれ自体が従来のシステムの問題点を整理し、議事堂や官庁ビルの新しいコンセプトを議論するきっかけを与えるものである。国政全般の改革の中で、民主的で透明な政治の確立、縦割り行政や行政組織の固定化に伴う弊害の打破、国会答弁用資料の作成に備えた深夜にまで及ぶ待機、多数の者の責任分散ともなっている稟議制度等の非効率な慣行の排除等政治・行政のあり方や国民との関係などをすべてにわたって見直すためのまたとない機会が提供される。

なかでも、国と地方との役割分担の見直し、それに伴う地方への権限委譲、国の経済や国民生活に関する権限のあり方、その行使の方法としての各種法規制、行政指導を中心とする政・官・民のかかわり方などについては、移転を契機に大幅な見直しを余儀なくされ、制度的にも実態的にも地方分権や規制緩和を促進するきっかけになると期待される。

(2) 政策立案の視点の変化

政治家や公務員が実際に新首都に移り住めば、社会や地域の動きをみる目が変わってくる、つまり政策立案の視点が変化する。今まで東京にいることで、経済効率を重視し、大都会的感覚に埋没されがちであった視点が、経済の中心地でありかつ大都会である東京から離れることにより、経済運営、社会政策等あらゆる分野でより生活者優先的、地域住民的なものに変わっていくものと期待される。しかし、このことは反面で、世間の流れや経済界の動きに鈍感になり、機敏な政策対応に遅れをとるおそれがあることでもあり、そうならないために政治家や公務員には幅広い情報に常に耳をとぎすまし、専門分野にとらわれない総合的視野を求めて切磋琢磨することが求められる。

また、居住条件、通勤・域内交通等の交通条件の改善、官庁のインテリジェントビル化や立法機能にふさわしい議員会館の建設など効率的な施設の整備等により、緑に囲まれたゆとりある環境の中で政治・行政が展開され、その運営の効率化が図られるようになるとともに、ゆとりの生じる家庭生活を通じて目配りの行き届いた幅広い見方が養われることにより、政策立案機能の向上が期待できる。

(3) 危機管理機能の向上

新首都における耐震性等の安全性を考慮した国会議事堂や官庁ビルの建設とライフラインの強化、情報等のバックアップ体制の強化、諸外国、各圏域と結ばれた高度情報通信体系の整備などによって、災害時における司令塔としての首都機能に係る危機管理機能は格段に向上する。

また、新首都は都市の規模や密度等が比較的小さなものとなることから、被害が相乗的に拡大するおそれが小さくなり、災害時の首都機能の機能低下を最小限にとどめることが期待できる。

(4) 先導的な制度の創設とその応用

首都機能移転は、わが国が近代的な法治国家となって以来、初めて経験するプロジェクトである。このため、その実施に当たっては、当然のことながら法律その他の制度の面において様々な新しい試みや新たな工夫が必要となる。

新たな課題に直面し、それを実施するために創出された新規の制度等が、その後の行政の仕組みを変え、それをきっかけに一般化されていった例は過去にも多数ある。例えば、明治維新の混乱で荒廃した江戸改め東京の街を近代国家の首都にふさわしい都市とするために明治21年に制定された「東京市区改正条例」は、その後、全国の各都市で準用されて、大正8年の都市計画法の制定へとつながり、現在全国の都市に適用されている都市計画制度を生み出す端緒となった。また、関東大震災によって壊滅的な被害を受けた首都東京を復興するため、特別法を制定して実施された復興土地区画整理事業は、その後、土地区画整理が全国の都市へ普及し、発展する契機となったことで知られている。

このように、首都機能移転を契機に、土地・都市開発、環境保全、地方行政等様々な分野において先導的な制度が創設され、それが多くの他のプロジェクトに応用されることが期待される。

3.新たな経済発展

(1) 独創的技術創造の機会

巨大な複合的プロジェクトとなる新首都の建設には、世界の独創的な技術を持った企業や技術者集団の参加が多数見込まれ、幅広い分野にわたって科学技術の創造に挑戦するいわば「技術のオリンピック」が展開されることになるだろう。

1867年パリで開催された第2回パリ万博には、当時最先端をいっていた工業技術や世界に広く普及していなかった各地の原材料が多数展示・紹介され、その後の日常生活から軍需物資に至るまでの様々な分野における革命的な進歩に大きく貢献した。

強力ボイラー、蒸気ブレーキ等の発明は急峻地帯への鉄道の普及を可能にし、化学漂白剤の開発や羊毛の脱脂過程等の機械化は安価で品質の良い衣料市場の拡大へと結びついていった。

また、ミネラルウォーターの採掘のために開発されたボーリング技術は、アメリカで石油掘削技術に応用され、その後のエネルギー革命の原動力となったほか、バクテリア殺菌方法の開発は、あの芳醇なフランスワインを世界各地に普及させる端緒となった。

このようにパリ万博という多数の独創的技術が広く世界に紹介される機会が提供されたことで、それらの技術がさらに大幅な改良を加えられて世界中に普及していき、19世紀後半から20世紀にかけての近代物質文明社会を現出していったのと同様、新首都づくりというまたとない舞台を与えられ、世に認められた独創的技術は広く他の分野へ伝播、応用され、21世紀における未来文明社会の創出に貢献していくものと期待される。

(2) 関連社会資本の整備による経済効果

昭和39年に開催された東京オリンピックに向けて建設された東海道新幹線は、列島の各地域を大量高速輸送機関で結ぶ幕明けとしてその後のわが国の発展を支える基礎となり、また同時に整備された首都高速道路は、モータリゼーションの時代に入りつつあった東京のその後の発展の支えとなった。また、札幌オリンピックに向けて、当時人口が百万人を超えたばかりの札幌市に地下鉄が整備され、今日170万人近くに人口が増加した同市の都市交通を支えているほか、各地で順次開催され全国を一順した国民体育大会に向けて種々の本格的な競技場が作られ、道路が整備されたことなどは、全国各地域のスポーツ振興や都市発展の基盤となっている。

このように、新首都に係る関連社会資本の整備は、地域の活性化と将来便益を生み出し、当該地域にとどまらず、広く内外に、かつ、後世代にまで及ぶ広範な社会的、経済的効果をもたらすものと期待される。

(3) 内需拡大と経済活性化

新首都への投資は、短期的に日本のGDPを直接押し上げるとともに、新首都建設に伴う新たなビジネスチャンスとそこから生じる新たな雇用の創出などを呼び水として民間投資が誘発されることにより、新たな経済発展の起爆剤となることが期待される。

また、新首都建設というプロジェクトが現在世界の先進国で進行ないし計画されているのは、ドイツのベルリン移転以外に見当たらず、このプロジェクトが内外にアピールする力は大変大きい。こうした象徴的なアナウンス効果と実際の事業の経済効果によってもたらされる内需拡大を通じて、貿易収支の不均衡の是正にも役に立ち、深刻化している諸外国との経済的軋轢(あつれき)をも緩和するものと期待される。

4.世界へ向けた日本の新しい姿

(1) 新しい日本を世界にアピールする場の創設

今まで見てきたところから考えると、21世紀の日本は、平和を愛し、個人を尊重し、世界の人々と友好親善を深め、ゆとりある生活を楽しみ、環境を大切にし、国際社会に貢献し、独自の文化を創出していく、そんな国になっていくものと期待され、またそうならなければならない。こうした新しい日本の姿は、折にふれ世界に向けて伝えられなければ、世界の理解は得られない。

新首都づくりとは、それを媒介にして、わが国が今後どのような国になろうとしているのかをアピールすることができる場が創出されることに他ならない。

新首都というキャンバスに自由に描かれた日本の新しい姿が、あたかも「21世紀の日本とは何か」を語りかけるようにシンボリックに世界中に伝えられていく。

また、新首都づくりという話題を通じて、わが国は世界中で頻繁に明るい話題にされる。

これらも首都機能移転のもつ重要な効果である。

(2) 国際政治・文化交流等の促進

新首都では、東京に比べて相対的に安い土地が大量に活用できることで、東京では大使館の設置さえままならない開発途上国の大使館施設や大使公邸の確保が容易になり、また外交団やわが国外交関係者も居住環境が向上することで、自宅を活用した外交活動が行えることになるなど、わが国を舞台とした外交活動が活発化することが期待される。

また、新首都には、一連の国際政治・文化・学術交流施設の整備が必要となろうが、それらの施設の整備も容易になり、こうした分野での国際交流も活発化される。

5.国土構造の改編

(1) 東京の過密の軽減への直接的寄与

首都機能移転は、それに従事する就業者等の東京からの移転を通じ、通勤の混雑及び道路の渋滞の緩和、水・エネルギー需要の軽減、ゴミの排出量の減量等東京の過密の弊害の軽減に直接的に寄与する。

このうち主なものについてその効果を試算すると、首都機能就業者が通勤する霞が関・永田町付近のピーク時における地下鉄の混雑率は10%程度緩和されると見込まれる。また、自動車交通についてみれば、例えば現在首都高速道路の都心環状線を利用している交通量のうち3%程度が減少すると見込まれる。

また、国家公務員宿舎の跡地等(東京都区部だけで約130ha)を活用した良質な住宅供給(東京都区部の全マンション供給戸数の概ね2〜3年分)が可能になること、庁舎跡地(東京都区部で約80ha)を活用した公園等公共的な土地利用が可能になることなどにより、東京の総合的な都市・居住環境の改善に役立つものと期待される。

(2) 集中が集中を呼ぶメカニズムの打破

首都機能移転は、企業本社等が東京への立地を重視する要因の一つである国会や官庁の関係者との情報交換の便利さについての東京の有利性を失わせることになり、企業の東京に集中しようとする立地選択に変化を生じさせる。

このことは、あらゆる高次都市機能が東京に集中立地することによって形成されてきた企業と人とマーケットとの間の相互の集中が集中を呼ぶメカニズムを弱体化させるとともに、東京に集中する多数の高等教育機関の輩出する有能な人材と大企業や政府関係機関等が本社を中心に採用活動を行うことが多いという実態を背景に、東京を本拠とする企業や機関に優秀な人材が集中しがちな現象を緩和させる。このほか、全国向け情報の大きな部分を占める東京発情報のうち、中でも大きなシェアを占める首都機能関連情報の発信源が新首都に移るため、東京の情報発信源としての優位性が相当程度低下することになる。これらの相乗的な効果により、東京の吸引力は大幅に減殺されるものと期待される。

(3) 新たな極となる都市圏の創出と国土の再編

新首都には、立法、行政及び司法の中枢機能が立地するとともに、周辺を含めて博物館、大学、国際機関等、首都機能と共生する機能や首都機能の発信する情報を求めて報道機関、研究機関等の新首都にふさわしい機能の集積が進むなど、圏域が自立的に成長していき、東京とは質的に異なる新たな核都市の形成が図られ、それにより国土構造の改編、再構築が促進されるものと期待される。

諸外国をみると、英国、フランス等、首都が人口第一位の都市に所在する国では一極集中傾向がみられ、アメリカ、カナダ、中国等第二位以下の都市に所在する国では分散型国土になる傾向がみられるが、首都機能が東京から移転することは、長期的にみて、分散型国土形成の促進に資するものと考えられる。

(4) 複合的な情報通信、交通ネットワークの形成

東京を中心とする情報通信、交通ネットワークの整備が、東京中心の国土構造を形成してきた一つの大きな要因であったことに明らかなように、これらのネットワークの整備は、国土構造と密接な関連性を有している。

新首都の建設を契機として、諸外国及び各圏域からの多様な情報・通信、交通需要に対応して、東京と他圏域を結ぶネットワークの他に、新首都と他の圏域を結ぶネットワーク及び新首都と東京を結ぶネットワークが整備、構築されることにより、重層的、複合的な情報通信、交通ネットワークの形成が促進され、現在の東京を中心とした体系に大きな変革をもたらし、分散型国土形成に資するものと期待される。

(5) 災害への対応力の強化

東京に大地震が発生した場合でも、首都機能を富、人、情報の中枢が集中している東京圏と同時に被災しない地域に移転することにより、政治・行政と経済のヘッドクォーターの同時被災を免れ、リスク分散を図ることができ、同時被災による世界的規模での悪影響を大幅に軽減できる。

また、東京圏が被災した場合には、速やかに新首都が復旧のための司令塔として機能し、災害復旧を迅速に行うことが可能となる。

もちろん、東京が地震災害の危険に常にさらされている以上、東京の震災対策は移転の有無にかかわらず進められるべきことは言うまでもない。むしろ、移転を契機に東京の防災性の向上につなげていくことが肝要である。例えば、東京では老朽木造家屋密集地域において相当規模の火災が発生するものと予想されているが、多くの場合、再開発のための種地がないことから、これら地域の防災上の観点からの地域整備はあまり進んでいない。一方、現在、東京都区部において国家公務員宿舎が建っている地域は、不燃化率の低い地域が多く、宿舎の跡地を再開発の種地として活用すれば、それらの地域の不燃化が促進され、東京の防災性は向上するものと期待される。このように、首都機能移転は、わが国全体の災害対応力を強化するのみならず、特に東京圏の災害への対応力を強化するものである。

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