デジタルツールの開発状況 (企業、自治体のみなさんへ)

気候変動が進んでいる今、企業のみなさんは、

TCFD

のような枠組みに基づく気候変動リスクの情報開示や、実際に、オフィスや工場を浸水から守ることなど、様々な取り組みを進めていることかと思います。しかし、本格的にはこれから、という会社も多いかもしれません。そこで、カワナビvol.15では、リスクの確認を中心に、水害への備えを加速する便利なツールの紹介や、その開発状況を「デジタル」をテーマにお届けします。話し手は、我ら水管理・国土保全局のDX担当、田宮子良係長です。それでは田宮さん、よろしくお願いいたします。

水管理・国土保全局河川計画課
河川情報企画室
田宮 子良 係長

平成31年国土交通省入省。令和5年4月より現職。水管理・国土保全分野におけるデジタルデータやデジタル技術の積極的活用の組織横断的な検討を目的とした「水局DXワーキングチーム」の事務局を務め、局内のDX関係施策・予算等を担当。デスクトップPCを購入するか悩める日々。

水害リスク情報の充実を進めています!

水害に備える上でまず重要なことは、企業の立地場所の浸水リスクを知ることです。

ハザードマップ

見ると想定される最大規模の大雨の際の浸水リスクを把握することができます。令和3年に水防法を改正し、小規模な河川の氾濫等についても作成対象に追加して、各地方自治体で

ハザードマップ

の作成を精力的に進めているところです。洪水のハザードマップについては、法改正以前は、約2000河川が作成対象でしたが、約17,000河川まで作成対象を広げて水害リスク情報の整備に取り組んでいます。

さらに、より頻繁に発生する浸水への備えのため、高頻度の洪水による浸水範囲や深さを示した多段階の浸水想定図や水害リスクマップを整備しているところです。これらの水害リスク情報については、今後利活用を推進するためデータのオープン化も検討しています。住民や企業のみなさんも、これらの情報を活用して、リスクをしっかり把握し対策をお願いします!

流域治水デジタルテストベッドで水害リスクを自分事化

そして現在開発しているものに、「流域治水デジタルテストベッド」があります。メタバースという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、そのような、河川流域をデジタル空間上に再現し、洪水のシミュレーションをしたり、いろいろなデータを入力できる実験場のようなものです。現在開発中であり、一級河川を対象に、令和7年度からの運用開始を目指しています。

この「流域治水デジタルテストベッド」では、自分の住んでる場所の水害リスクを3Dで見られるようになっています。開発中の一部機能を試行した事例として下図のようなものがありますが、これは、近年整備が進む3Dの地形データや建物モデルでメタバースを構築し、そこに発生頻度別の多段階の浸水想定図を示したものです。これを使って浸水リスクのあるエリアを3D表示すると、企業や住民の方々が自分たちのリスクを直感的に確認しやすく、どういう対策をとるべきか、話し合いを円滑に進めることができるなど、「流域治水」の効果的な推進が期待できます。

ハザードマップでも、なんとなく自社や自宅がここかな? とわかりますが、3D表示の方が、普段見慣れた周辺の建物の高さと想定される浸水のレベル(水位)を比較できますし、気象条件や、川の堤防が決壊する場所を変えて色々と結果を表示できるようにすることで、水害リスクを自分事と感じられ、具体的な対策をリアルに考えていくことができると思っています。

図:デジタルテストベッドの試験的活用例(大分県山国川)

荒川下流河川事務所では先駆的なツールを公開中

流域治水デジタルテストベッドは現在開発中ですが、それに近いツールを河川事務所が独自に公開しているところがあります。それが、

Arakawa Digital Twin Online

で、これは荒川の本川が対象ですが、下図のように、浸水予想を実際の高さに合わせて3D表示することができます(これは、

PLATEAU

の都市モデルを取り込んでいます)。どこまで浸水が及ぶのかが立体的にわかれば、まちのお店、オフィスや工場など、一つ一つの拠点のリスクがよくわかりますよね。

図:

Arakawa Digital Twin Online

の表示画面(例)

ワンコイン浸水センサ

もう一つ紹介したいものに、「ワンコイン浸水センサ」があります。小さいもので500円玉くらいの大きさの浸水センサで、河川沿川などで、 例えば電柱にくくりつけるような形で設置し、浸水によってセンサが冠水すると、浸水が起きたことを感知する仕組みです。データはサーバ上に集約されて、自分の持ってるスマホでも確認できるものを開発しています。

例えばこれを自社の敷地内に設置すれば、水害後、浸水の被害状況を調べられますし、水害保険を請求する際、浸水した事実や、浸水の程度を証明するものにもなりますので、今後ぜひ活用していただきたいと考えています。今、このセンサの普及に向けた

実証実験

(下図)を自治体や企業・研究機関が参加して行っています(現在、令和6年度の参加者も募集中です)。センサ、通信機器など様々な技術や知見を持つ人が集まって、新しい技術が生まれていくといいですね。

図:ワンコイン浸水センサの活用イメージ

平時も災害時も役にたつデジタル

以上、水害リスクの確認や備えに使える、もしくは開発中のデジタルツールを紹介しましたが、デジタルツールを効果的に活用していくために、紙の台帳に整備されている記録をデジタル化することにも取り組んでいます。また、インフラのメンテナンスにあたっては、これまで記憶と経験に頼っていたことに、データや位置情報をしっかり組み合わせて、災害時にも効率的な対応がとれるように努力しています。上水道、下水道の管路のように、地中に埋まっていて見えないものもデータ化されていれば、地図上で確認することができますし、災害時にどこが寸断されているかが推定しやすくもなります。データ化したものを即時に全部公開とまではいかなくても、実際に現場で工事にあたる方々や、災害時に被害の把握や復旧にあたる方々と共有していくことで、様々なことが素早く、効率よくできるようになることも期待しています。

国土交通省では特に、ドローンを活用した施設の点検や測量技術の開発に取り組んできました。人口が減少し、インフラが老朽化していく時代に、いかに点検や長寿命化を効率的に、効果的に行うかが重要な課題になっていますし、災害時にも地形の変化や被害を早期に把握する上でとても有用なツールになっています。

ドローンを使うと迅速に地形データが収集でき、それを瞬時に3Dモデル化できるため、令和6年能登半島地震でも活用されています。また、被災地に全国から派遣されている

TEC-FORCE

の隊員が、お互いに活動状況を共有するツールを整備したり、そのツール上で、3Dモデルを利用した被災状況調査が出来る技術開発も行っています。そういったことで、斜面の崩落や川が土砂で埋まってしまっているような状況を即時に共有し、対策を考えていくことができますし、その知見を今後の災害対応に活かしていくこともできると考えています。

DXの先にある「楽」をイメージしましょう

気候変動が進んでいる今、水害に備えていくことが重要だと意識すれば、その取り組みを強力に支えてくれるデータやツールがどんどん整備されています。これまで、紙であったものをデジタルデータにしたり、システムやツールを新しく導入など、いわゆるDXは煩わしさや壁を感じることがあるかもしれませんが、その先には「楽」とか「人の役に立つ」ことが待っています。日常業務の中で、もっと自分が楽をしたいとか、そういう気持ちでチャレンジしてほしいと思います。

そういう私たちもDXは途上にありますが、日々、取り組みを進めています。「水管理・国土保全局DX」というプロジェクトをつくって進めていますが、この度、デジタル関連の技術開発や取組状況を紹介する特設サイト(下図)ができましたのでぜひご覧ください。企業のみなさんも、自治体のみなさんも一緒にDXに取り組んでいきましょう!!

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