伝えることを大切に

「ぼうさいこくたい2025」で議論

今日の夜は何を食べようかな? と、「何をどうするか決める」とき、もちろん思いつきもありますが、判断材料となる情報を仕入れて考えることが多くあります。そのような、判断のきっかけとなる情報や経験は、自分でとりにいくことももちろんありますが、焼き鳥をおいしそうに食べている人を見て自分も食べたくなったとか、このコスメがメディアで話題になっているから自分も買ってみたという感じで、“自分の事”ととらえると行動に結びつきますし、推しのブランドではなかったりして、“自分とは関係ない”と感じると、途端にその情報は“なかったこと”になります。

では、災害のことを人々が”自分の事”ととらえ、備えを進めたり、いざというときにとっさの行動がとれるようにするにはどしたら良いか!? 多くの人が集まった「ぼうさいこくたい2025」でも議論されましたが(上写真)、私たちは「災害の伝承」に注目し、地域で起きた災害のことを語り継ぐことで自分事化をはかり(下図)、備えを促していくことで、地域の防災力を高めていきたいと考えました。

何かを認識する、知ることと、実際に行動することの間には少しギャップがあります。そのギャップを埋め、実際の行動に結びついていく心の醸成、深化の過程が【自分事化】です。vol.14のインタビューでは、伝承碑の存在によって、子どものころからそこまで水があふれてくることを意識していたというお話もありました。

「NIPPON防災資産」を創設

災害伝承に注目し自分事化を推進

そこで、南海トラフ地震のような巨大災害の発生が懸念され、かつ、気候変動を背景に水害や土砂災害の頻発も心配される中、災害伝承に注目し、災害リスクの自分事を促しつつ、地域の防災力を高めることを目的に創設された制度が「NIPPON防災資産」です。これは、地域で発生した災害の状況をわかりやすく伝える施設や災害の教訓を伝承する活動を、内閣府特命担当大臣(防災)、国土交通大臣が認定するもので、令和6年9月の第1回認定では22案件が認定され、令和7年12月の第2回認定では、10案件が認定されました。

語り部やお祭りやも

現在、NIPPON防災資産は流域治水協議会等の推薦により案件が審査され、災害リスクの自分事化の観点から特に優れているものを優良認定としています。語り部が自作の紙芝居をもとに水害を語り継ぐ活動や(写真左)、82.8mの大蛇とともに人々が練り歩き過去の水害を伝承するお祭りもあり(写真右)、各資産の内容は様々ですが(下図:第1回認定)、様々に工夫を凝らした災害伝承が全国各地で行われています。

もう一つの狙い

NIPPON防災資産を通した波及効果

この制度を通じて、資産のある地域の人々の災害リスクの自分事化が進むことをはじめ、災害伝承に取り組む人々の工夫や努力が国内外に伝わり波及効果を生み出すことや、社会全体の災害に対する意識が高まることを期待しています。NIPPON防災資産への認定により、地域のメディアに取り上げられる機会が増えたり、内閣府、国土交通省のイベント等で紹介される機会があったりと、露出の機会が増え、施設運営や活動が注目されることで、地域の集客や人材育成などに良い影響が及ぶことも期待されます。防災計画の策定、自主防災、防災教育の推進、企業における災害リスクマネジメントなど、災害の対策に関わっている皆さんには、ぜひとも各認定案件の活動内容やそのノウハウを参考にしていただきたいです。また、そのような関係者ではなくとも、地域内外のNIPPON防災資産を通して、災害、防災に対する新しい気づきを得てもらいたいと考えています。

しかし実際、どんな施設や活動がNIPPON防災資産となっているのか? カワナビvol.18ではその実例を紹介するため、2つの優良認定を訪問し、「自分事化」のヒントを得るべく、キーパーソンとも言える方々にインタビューしてきました。

その1:洞爺湖有珠火山に行ってみる

NIPPON防災資産「洞爺湖有珠火山マイスター」

1つめは、美しい景色あり、温泉あり、ホタテやフルーツなど美味しい食べ物あり、実はその数々の恵みが火山に由来している洞爺湖周辺です。ここには、20年から50年間隔で噴火してきた有珠火山があり、火山のこと、災害のことを伝える「洞爺湖有珠火山マイスター」の皆さんが活動しています。2008年に火山マイスター制度がスタートし、今はなんと、70人以上の人々が審査に合格し、火山マイスターとして活躍しています。

防災のことも地域の魅力もあわせて伝える

なぜそのように多くの方々がマイスターとして活動し、それが続いているのか、火山マイスターの活動をコーディネートしている方にお話を伺ったところ、洞爺湖有珠火山のある北海道胆振(いぶり)地域にはたくさんの魅了が詰まっていて、それとあわせて火山のこと、防災のことを伝えることで、相手の関心が喚起されることや、多様な魅力を伝える多様な人材が火山マイスターとなり、楽しげな雰囲気を醸し出しているところに活動が続くポイントがありました。詳しくはぜひインタビュー記事(PDF)をご覧ください。

その2:高知県黒潮町に行ってみる

黒潮町防災ツーリズム

2つめは、将来発生が懸念されている南海トラフ地震によって、地震動と津波による被害が懸念されている高知県黒潮町の取組です。2012年に内閣府から最大震度7、最大津波高34.4mの想定が公表された後、町全体の防災対策はもちろんのこと、役場の職員総出で各地区の防災計画を策定し、大変な努力をしてきた中で、防災をある種の「ツーリズム」としてプログラム化しています。今ではそれが、防災のまち黒潮町を象徴する取組となって全国的に注目を集めています。

自然の二面性を伝える

深刻な状況からの逆転的発想とも言えるこの取組ですが、防災ツーリズムへと発展した経緯や、地域内外にもたらす効果、目指すところなどをキーパーソンとも言える方々に伺ってきました。観光の回復策を考える中で丁寧にニーズを把握し、防災ツーリズムへと発展させてきたことや、自然にはめぐみと災害の二面性があることを伝えることで、災害リスクも自分事化が促されていくことなど、貴重なお話をいただいています。また、そこでは、「かかりがま士」の方々や、事業者の皆さんによる主体的な活動があり、地域内外の人々の努力やノウハウをぜひこちらのインタビュー(PDF)から感じ取っていただきたいです。

伝えることを大切にする

社会の雰囲気をつくっていく

とにかく、命を守り、「まさか自分が被災してしまうとは」という後悔をなくすために「NIPPON防災資産」は創設されました。さらにその先には、災害について知ったことや気づいた事を伝え合う、それを大切にする社会が実現することが理想的です。洞爺湖有珠火山マイスターの皆さんも、黒潮町防災ツーリズムの皆さんも、どのように災害リスクを人々に伝え、自分事化を促すのか、そのアプローチは異なりますが、「命を守る」「自分事化しなければ助からない」という大原則は共通しています。さらには、丁寧に、工夫しながら地域のことと防災のことを伝える、それらをとても大切にしていることも共通していました。皆さんも、この記事を見たことやNIPPON防災資産のことをぜひ誰かに伝えてくださいね。

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