は じ め に
明治以降、100年以上にわたり続けられてきた近代治水によって国土基盤の形成に貢献してきた河川行政は、環境問題や価値観の多様化など新しい課題に直面し、新たな展開が求められている。こうした状況を踏まえ、本審議会においては、平成8年6月に「21世紀の社会を展望した今後の河川整備の基本的方向について」答申した。この中で、今後の河川整備に当たっては、社会的な変化、国民のニーズやライフスタイルの変化等を的確にとらえ、地域と河川との役割分担を明確にしつつ、地域社会の意向を反映し、地域の個性を十分に発揮できる新たな施策の展開が必要であると提言した。そして、「個性あふれる活力のある地域社会の形成」を21世紀に向けた河川整備の基本施策の一つとして位置付けたところである。 また、平成9年に河川法が改正され、法律の目的として、治水・利水に加え、「河川環境の整備と保全」が位置付けられるとともに、河川整備基本方針と河川整備計画という新しい計画制度が導入され、河川整備計画の策定に当たり地方公共団体の長、地域住民等の意見を反映する手続が整備された。これにより、地域と連携し、地域の意見を生かした河川整備を推進する制度が始動したところである。 本審議会は、「経済・社会の変化に対応した河川管理体系のあり方について」平成10年9月より審議を重ねてきた。このうち「河川管理に関する国と地方の役割分担について」平成11年8月に答申し、この中で、河川管理についての役割分担の基本方針として、個性豊かな自立型地域社会の形成を進めるため、流域における多様な主体の河川管理への幅広い参画が不可欠であると指摘した。平成12年1月の「河川管理への市町村参画の拡充方策について」の答申では、市町村工事制度の拡充や政令指定都市への権限委譲が必要であると提言し、これを受けての河川法改正が平成12年4月になされた。市民、NPO等の参画の推進のための具体的な方策については、引き続き、検討すべき課題としていたところである。 近年、市民活動への参加意欲の高まり、個性豊かな自立型地域社会の形成の機運の高まり等、市民団体等の活動に対する社会的期待が高まっている。川は「地域共有の公共財産」であり、地域が一体となった効果的な災害対応や、各地域の状況を踏まえたきめ細かな河川環境の保全など、市民団体等と一緒になった地域ぐるみでの取組みにより、よりよい川が実現できると考えられる。このため、河川に関するどのような場面で、どのような役割分担の下、どのような内容で市民団体等と一緒になった取組みを進めていけばよいかということに関して検討し、具体的に実現することが必要となっている。 今回の答申においては、これらを受け、「河川における市民団体等との連携方策のあり方について」提言するものである。 なお、市民団体等は形態や活動範囲が千差万別であり、市民団体等との連携の内容も多岐にわたるものである。また、市民団体等に関して使用される語句は、一つ一つがさまざまなニュアンスを含んでおり、使用される状況により解釈が異なることが多い。したがって、ここでは、誤解を招いたり、正確な判断を妨げたりすることがないよう、市民団体等及びこれに関する語句についての本答申における使い方を明確にしておく。 |
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【市民団体等】 | ||
社会的な使命を軸としてボランタリーな活動を行っている団体をいうこととする。なお、川に関わりのある団体のうち、団体の構成や運営等について既に法律により定められているものについては対象としないこととする。また、財団法人、社団法人、NPO法人等については、活動内容に応じて含むこととする。 したがって、自然環境の保全やよりよいまちづくり等をめざした調査活動、交流活動や河川愛護活動等を行っている団体は対象としているが、私的な趣味のみのための釣りクラブ等同好会的な団体や特定の業界の集まり等は対象としていない。 また、水防団、土地改良区、漁業協同組合等の川に関わりのある諸団体については、川に関する重要な社会的役割を果たしてはいるものの、ここでは対象とはしていない。 |
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【連携】 | ||
河川に関わる活動を共同で行うことだけではなく、市民団体等による河川管理者への提言、市民団体等の活動に対する河川管理者からのサポートや河川管理者からの市民団体への委託などを含めた、河川管理者と市民団体等との関わり全般をさす。 |
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【住民と市民】 | ||
「住民」という場合、地縁的な意味でそこに住んでいる人、あるいは地域に直接的な利害を有する人という限定的な意味で使われる場合が多い。「市民」という場合、地縁や特定の利害関係に関わらず、幅広い意味で用いられる場合が多い。本審議会でも、同様の意味で両方の語句を用いることとする。 |
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【河川管理】 | ||
単なる施設の維持管理にとどまらず、調査、計画の企画・立案から河川工事などの河川の整備、管理までを含めた、河川そのものを適切な状態に保持するための行為全般をいうこととする。 |