ホーム >> 政策・仕事  >> 河川トップ  >> 記者発表  >> 過去情報

河川局

Topics
記者発表


1.海岸の保全に関する基本理念

 海岸は、国土狭隘な我が国にあって、その背後に多くの人命・財産が集中している空間であるとともに、海と陸が接し多様な生物が相互に関係しながら生息している貴重な空間である。また、様々な利用要請がある一方、人為的な諸活動によって影響を受けやすい空間である。さらに、安全で活力ある地域社会を実現し、環境意識の高まりや心の豊かさへの要求にも対応する海岸づくりが求められている。

 これらのことから、国民共有の財産として「美しく、安全で、いきいきした海岸」を次世代へ継承していくことを、今後の海岸の保全のための基本的な理念とする。

 この理念の下、災害からの海岸の防護に加え、海岸環境の整備と保全及び公衆の海岸の適正な利用の確保を図り、これらが調和するよう、総合的に海岸の保全を推進するものとする。また、海岸は地域の個性や文化を育んできていることなどから、地域の特性を生かした地域とともに歩む海岸を目指すものとする。


2.海岸の保全に関する基本的な事項

 海岸の保全にあたっては、地域の自然的条件、社会的条件、海岸環境や海岸利用の状況等を調査、把握し、それらを十分勘案して、災害に対する適切な防護水準を確保するとともに、海岸環境の整備と保全、海岸の適正な利用を図るため、施設の整備と併せソフト面の対策を含め、総合的に推進する。特に、防災上の機能と併せ、環境、利用に対する良好な空間としての機能を有する砂浜についてその保全に努める。

 また、海岸の保全は、国と地方公共団体が相互に協力して行うものとする。その際、海岸保全施設の整備については、国が最終的な責務を負いつつ進めていくものとし、これら整備以外の日常的な海岸管理については、地方が主体的かつ適切に進めていくものとする。なお、国土保全上極めて重要な海岸で地理的条件等により地方で管理することが著しく困難なものについては、国が直接適切に管理する。

(1)海岸の防護に関する基本的な事項

 我が国は、津波、高潮、波浪による災害や海岸侵食等の脅威にさらされており、海岸はこれらの災害から背後の人命や財産を防護する役割を担っている。このため、各々の海岸において、気象、海象、地形等の自然条件、過去の災害発生の状況を分析し、背後地の人口、資産の集積状況、利用状況等を勘案して、所要の安全を適切に確保する防護水準を定める。

 津波からの防護を対象とする海岸にあっては、過去に発生した浸水記録等に基づいて、地域の状況や防災効果を考慮して適切に想定した津波に対して防護することを目標とする。

 高潮からの防護を対象とする海岸にあっては、過去の台風等により発生した高潮の記録に基づく既往の最高潮位又は適切に推算した潮位に、適切に推算した波浪を加え、これらに対して防護することを目標とする。

 潮位に比して背後地の地盤高が低いゼロメートル地帯などの地域や三大湾をはじめとする背後に人口・資産が特に集積した地域にあっては、過去の高潮や津波による災害を十分勘案し、必要に応じ、より高い安全性を確保することを目標とする。

 津波、高潮対策については、施設の整備によるハード面の対策だけでなく、適切な避難のための迅速な情報伝達などソフト面の対策も合わせて講じるものとする。特に、過去に甚大な津波災害を受けたり、今後もその可能性が高いと考えられる地域、及び高潮災害に対する危険性が高いと考えられる地域については、堤防、津波防波堤等の海岸保全施設の整備だけでなく、危機管理の観点から、地域と協力した防災体制の整備や避難地の確保、さらに、土地利用の調整等のソフト面の対策も組み合わせた総合的な対策を行うよう努める。

 侵食が進行している海岸にあっては、現状の汀線を保全することを基本的な目標とし、必要な場合には、さらに汀線の回復を図ることを目標とする。その際、沿岸漂砂の連続性を勘案し、侵食が進んでいる地域だけでなく、砂の移動する範囲全体において、土砂収支の状況を踏まえた広域的な視点に立った対応を適切に行う。また、領土・領海の保全の観点から重要な岬や離島における侵食対策を推進する。


(2)海岸環境の整備及び保全に関する基本的な事項

 海岸は、陸域と海域とが相接する空間であり、砂浜、岩礁、干潟など生物にとって多様な生息・生育環境を提供しており、そこには、特有の環境に依存した固有の生物も多く存在している。また、白砂青松等の名勝や自然公園等の優れた自然景観の一部を形成することもある。

 これら海岸の環境容量は有限であることから、海岸環境に支障を及ぼす行為をできるだけ回避すべきであり、喪失した自然の復元や景観の保全も含め、自然と共生する海岸環境の保全と整備を図る。

 特に、名勝や自然公園等の優れた景観、天然記念物等の学術上貴重な自然、生物の重要な生息・生育地等の優れた自然を有する海岸については、その保全に十分配慮する。また、海岸環境の適切な保全のため、必要に応じ車の乗り入れ等の一定の行為を規制するとともに、油流出事故等突発的に生じる環境への影響等に適切に対応する。

 海岸保全施設などの整備にあたっては、海岸環境の保全に十分配慮していくとともに、良好な海岸環境の創出を図るため、必要に応じ、砂浜、植栽等を整備する。また、親水護岸、遊歩道など人と海とのふれあいを確保するための施設も必要に応じ整備する。

 さらに、海岸環境に関する情報の収集・整理と分析を行い、その結果の提供、公開を通じて関係者間の共有を進めることにより、保全すべき海岸環境について関係者が共通の認識を有するよう努める。

(3)海岸における公衆の適正な利用に関する基本的な事項

 海岸は、古来から地域社会において祭りや行事の場として利用されており、地域文化の形成や継承に重要な役割を果たしてきた。近年は、人々のニーズも社会のあらゆる分野で高度化、多様化しており、海岸も、海水浴などの利用に加え様々なレジャーやスポーツ、体験活動・学習活動の場及び健康増進のための海洋療法や憩いの場などとしての利用がなされてきている。

 このため、海岸が有している様々な機能を十分生かし、公衆の適正な利用を確保していくため、海岸の利用の増進に資する施設の整備等を推進するとともに、景観や利便性を著しく損なう施設の汚損、放置船等に適切に対処する。

 また、海辺に近づけない海岸等においては、必要に応じ、海とのふれあいの場を確保するため、自然環境の保全に留意しつつ、パブリックアクセスの確保に努める。

 レジャーやスポーツなどの海洋性レクリエーション等による海岸利用にあたり、自然環境をはじめ海岸環境へ悪影響を及ぼさないよう、利用者のマナーの啓発活動を推進する。

(4)海岸保全施設の整備に関する基本的な事項

 1)安全な海岸の整備

 現在、防護が必要な海岸のうち、所要の機能を確保した海岸保全施設の整備は未だ十分でなく、高潮、波浪等による被害は依然として多い。また、大規模地震も発生しており、津波による災害への懸念も大きい。

 このため、今後とも防護の必要な海岸において施設の計画的な整備を一層進めることとする。整備を進めるにあたっては、堤防や消波工のみで海岸線を防護する線的防護方式から、沖合施設や砂浜なども組み合わせることにより、防護のみならず、環境や利用の面からも優れた面的防護方式への転換をより一層推進する。また、津波や高潮による甚大かつ広域的な被害を防ぐため、堤防、護岸、高潮・津波防波堤等の整備を進めるとともに、必要に応じ、それらの施設を複合的かつ効果的に組み合わせた対策を推進する。

 侵食対策としては、施設の整備と合わせ、広域的な漂砂の動きを考慮して、一連の海岸において堆積箇所から侵食箇所へ砂を補給する等構造物によらない対策も含めて土砂の適切な管理を推進する。

 さらに、軟弱地盤地域やゼロメートル地帯等での堤防や護岸については、必要に応じて耐震性の強化を推進する。

 既存の海岸保全施設については、施設機能の適切な保持を図るため、維持補修を行うことにより耐久性の向上を図るとともに、老朽化等により再整備が必要な施設については、環境や利用に配慮しながら順次更新していく。

 2)自然豊かな海岸の整備

 海岸の多様な生態系や美しい景観の保全を図るため、それぞれの海岸のもつ自然特性に応じた海岸保全施設の整備を進める。

 特に、砂浜は、防災上の機能に加え、白砂青松等の美しい海岸景観の構成要素となるとともに、人と海とのふれあいや海水の浄化の場としても重要な役割を果たしており、多様な生物の生息・生育の場ともなっている。このため、砂浜について、その保全と回復を主体とした整備をより一層推進する。

 施設の整備にあたっては、すぐれた海岸景観が損なわれることのないよう、また、海岸を生息・生育や産卵の場とする生物が、その生息環境等を脅かされることのないよう、干潟や藻場を含む自然環境の保全に配慮する。離岸堤や潜堤、人工リーフなどは、多様な生物の生息・生育の場となりうることから、自然環境に配慮した整備を進める。

 3)親しまれる海岸の整備

 海岸保全施設の整備にあたっては、利用者の利便性や地域社会の生活環境向上に寄与するため、これに配慮した施設の工夫に努める。

 特に、堤防等によって、海辺へのアクセスが分断されることのないよう、必要に応じ階段の設置等海岸保全施設の構造への配慮を行うとともに、さらに、階段護岸や緩傾斜堤防等の整備を推進する。その際、高齢者や障害者等が日常生活の中で海辺に近づき、身近に自然とふれあえるようにするため、施設のバリアフリー化に努める。

 また、海岸の生物の生息・生育や、人々の適正な利用の確保の観点から、既存の施設を環境や利用に配慮した施設に作り変えていくことにも十分配慮する。


(5)海岸の保全に関するその他の重要事項

 1)広域的・総合的な視点からの取り組みの推進

 一体的に社会経済活動を展開する地域全体の安全の確保、快適性や利便性の向上に資するため、海岸背後地の人口、資産、社会資本等の集積状況や土地の利用状況、海岸の利用や環境、海上交通、漁業活動等を勘案し、関係する行政機関とより緊密な連携を図り、広域的、総合的な視点からの取り組みを推進する。

 災害に対する安全の確保については、連担する背後地を一体的に防護する必要がある。このため、海岸だけでなく沿岸部における関連する施設との防護水準の整合の確保等、関係機関との連携の下に、一体的、計画的な施設整備を推進する。

 海岸侵食は、土砂の供給と流出の収支バランスが崩れることによって発生する。この問題に抜本的に対応していくため、海岸地形のモニタリングを行いつつ、海岸部において、沿岸漂砂による土砂の収支が適切となるよう構造物の工夫等を含む取り組みを進めるとともに、海岸部への適切な土砂供給が図られるよう河川流域における総合的な土砂管理対策とも連携するなど、関係機関との連携の下に広域的、総合的な対策を推進する。

 また、海岸は、海と陸が接する独特な空間であることから、様々な利用の可能性を秘めている。海岸の有する特性をさらに広く適切に活用していくため、広域的な利用の観点も念頭に置きつつ、レジャーやスポーツの振興、自然体験・学習活動の推進、健康の増進及び自然との共生の促進等のため、海岸及びその周辺で行われる様々な施策との一層の連携を推進する。

 さらに、近年、洪水や高潮等により広範囲に大規模な流木等が海岸に漂着し、海岸の保全に支障が生じていることから、こうした問題に対しても適切に対応する。

 2)地域との連携の促進と海岸愛護の啓発

 海岸の保全を適切かつ効果的に進めていくためには、地域の意向に十分配慮し、地域との連携を図っていくことが不可欠である。

 災害に強い地域づくりを進めるため、海岸保全施設の整備と合わせて、関係機関と連携して防災情報の提供や災害時の対応方法の周知等、地域住民の防災意識の向上、防災知識の普及を図る。

 海岸におけるゴミ対策や清掃等海岸の美化については、地域住民やボランティア等の協力を得ながら進めるとともに、それらが参加しやすい仕組みづくりに努める。また、無秩序な利用やゴミの投棄等により海岸環境の悪化が進まないよう、モラルの向上を図るための啓発活動の充実に努める。

 適正な利用を促進していくためには、海岸は海への入口であり、時には人命を損なう危険な場所でもあるという認識に立ち、地域特性に応じた海岸利用のルールづくりを推進するとともに、安全で適正な利用に必要な情報を適宜提供していく。海岸の保全のために実施する行為の制限等については、利用者にわかりやすく表示するよう努める。

 さらに、こうした地域住民との連携を緊密にしていくため、海岸の愛護思想の啓発を図るとともに、環境教育の充実にも努め、地域における愛護活動が推進されるような人材を育成する。

 3)調査・研究の推進

 質の高い安全な海岸の実現に向け、効率的な海岸管理を推進するため、海岸に関する基礎的な情報に関する収集整理を行いつつ、効果的な防災対策に関する調査研究、広域的な海岸の侵食に関する調査研究、生態系などの自然環境に配慮した整備に関する調査研究、新工法等新たな技術に関する研究開発などを推進していく。

 また、民間を含めた幅広い分野と情報の共有を図りつつ、互いの技術の連携を推進するとともに、国際的な技術交流等を図り、広くそれらの成果の活用と普及に努める。

 さらに、地球温暖化に伴う気象・海象の変化や長期的な海水面の上昇が懸念されており、海岸にとっても海岸侵食の進行やゼロメートル地帯の増加、高潮被害の激化など深刻な影響が生ずる恐れがあることから、潮位、波浪等について監視を行うとともに、それらの変化に対応すべく所要の検討を進める。


3.海岸保全基本計画を作成すべき一体の海岸の区分

 一の海岸保全基本計画を作成すべき一体の海岸の区分(沿岸)は、地形・海象面の類似性及び沿岸漂砂の連続性に着目して、できるだけ大括りにするとともに、都府県界も考慮して、別表のとおり定める。


4.海岸保全基本計画の作成に関する基本的な事項

 都道府県においては、本基本方針に基づき、地域の意見等を反映して沿岸ごとに整合のとれた海岸保全基本計画を作成し、総合的な海岸の保全を実施するものとする。

 また、沿岸が複数の都府県にわたる場合には、原則として、関係都府県が共同して計画策定体制を整え、一の海岸保全基本計画を作成するものとする。

 海岸保全基本計画において定めるべき基本的な事項と留意すべき重要事項は次の通りである。

(1)定めるべき基本的な事項

 1)海岸の保全に関する基本的な事項

 海岸の保全を図っていくにあたっての基本的な事項として定めるものは次の事項とする。

 イ 海岸の現況及び保全の方向に関する事項
 自然的特性や社会的特性等を踏まえ、沿岸の長期的なあり方を定める。
 ロ 海岸の防護に関する事項
 防護すべき地域、防護水準等の海岸の防護の目標及びこれを達成するために実施しようとする施策の内容を定める。
 ハ 海岸環境の整備及び保全に関する事項
 海岸環境を整備及び保全するために実施しようとする施策の内容を定める。
 ニ 海岸における公衆の適正な利用に関する事項
 海岸における公衆の適正な利用を促進するために実施しようとする施策の内容を定める。

 2)海岸保全施設の整備に関する基本的な事項

 沿岸の各地域ごとの海岸において海岸保全施設を整備していくにあたっての基本的な事項として定めるものは次の事項とする。

 イ 海岸保全施設を整備しようとする区域
 原則として、一連の海岸保全施設を整備しようとする区域を定める。
 ロ 海岸保全施設の種類、規模及び配置等
 上記の区域ごとに海岸保全施設の種類、規模及び配置等について定める。
 ハ 海岸保全施設による受益の地域及びその状況
 海岸保全施設の整備によって津波、高潮等による災害や海岸侵食から防護される地域及びその地域の土地利用の状況等を示す。

(2)留意すべき重要事項

 海岸保全基本計画を作成するにあたって留意すべき重要事項は次の通りである。

 1)関連計画との整合性の確保

 国土の利用や開発に関する計画、環境保全に関する計画、地域計画等関係する計画との整合性を確保する。

 2)関係行政機関との連携調整

 海岸に関係する行政機関と十分な連携と緊密な調整を図る。

 3)地域住民の参画と情報公開

 計画の策定段階で必要に応じ開催される公聴会等だけでなく、計画が実効的かつ効率的に執行できるよう、実施段階においても適宜地域住民の参画を得る。また、計画の策定段階において必要に応じ計画によりもたらされる防護、環境、利用に関する状況について示す等、事業の透明性の向上を図るために海岸に関する情報を広く公開する。

 4)計画の適宜見直し

 地域の状況変化や社会経済状況の変化等に応じ、計画の基本的事項及び海岸保全施設の整備内容等を点検し、適宜見直しを行う。


Copyright© 2007 MLIT Japan. All Rights Reserved.

国土交通省 〒100-8918 東京都千代田区霞が関2-1-3

アクセス・地図(代表電話)03-5253-8111