国土交通省では、動物の生体内に取りこまれた場合に本来その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性物質(以下「内分泌撹乱物質」という。)として疑いのある物質について、今後の対策検討のための基礎資料とすることを目的として平成10年度及び11年度に全国の一級河川及び下水道における実態調査、河川への流入実態調査等を実施している。
これまでの調査で、内分泌撹乱作用が疑われる物質のなかに河川水中に広く存在するものがあること、一部の雄コイの血液中から雌性化の目安となる物質(ビテロゲニン)が検出されたものがあること、調査対象とした物質の河川内での減少が示唆されたこと等を確認している。
平成12年度は、平成11年度に引き続き、全国の河川における実態調査、河川への流入実態調査等を実施したところであり、今般、その結果及び平成13年度の調査計画を取りまとめた。
本調査の結果及び平成13年度調査計画は、以下のとおりである。
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1 水質調査 |
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全国の一級河川109水系131地点において基本調査対象物質(4-t-オクチルフェノール、ノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチル、ビスフェノールA、17β-エストラジオール(ELISA法))について水質調査を行った結果、ビスフェノールAが約3割、4-t-オクチルフェノール及びノニルフェノールが約1割、人畜由来ホルモンである17β-エストラジオール(ELISA法)が約5割の水系で検出された。フタル酸ジ-n-ブチルは2水系(2地点)で検出されたのみであった。 |
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ノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチル及びビスフェノールAの検出割合は、12年度と同じ調査地点で傾向をみると、平成10年、11年、12年と概ね経年的に減少している。(別表参照)検出割合の減少の原因としては、初期における分析技術上の問題も要因の一つとして考えられるが、物質の使用量の減少や事業場内対策による排出抑制の実施等も可能性として考えられる。 |
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主要9河川(阿武隈川、江戸川、綾瀬川、多摩川、信濃川、北陸荒川、庄内川、淀川、筑後川)14地点においては、基本調査対象物質の他に追加調査対象物質6物質(4-t-ブチルフェノール、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾフェノン、17β-エストラジオール(LC/MS法)、エチニルエストラジオール、エストロン)について調査を実施した。その結果、ベンゾフェノン(医療品合成原料、保香剤等)が14地点中2地点で、エストロン(人畜由来ホルモン)が14地点中5地点で検出された。 |
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○ |
17β-エストラジオールについては、ELISA法及びLC/MS法により測定を行った。その結果、ELISA法での測定値はLC/MS法による17β-エストラジオールの値よりも大きく、他の物質も検出している可能性があることが分かった。また、エストロンの形態で存在するエストロゲンがかなりあることが明らかになった。 |
2 底質調査 |
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主要9河川14地点において、水質調査と同じ基本調査対象物質及び追加調査対象物質について底質調査を行った。その結果、ノニルフェノール、ビスフェノールA及びベンゾ(a)ピレン(燃料の燃焼により非意図的に生成する物質)が高い割合で検出された。また、エストロン
(人畜由来ホルモン)が14地点中8地点と比較的多くの地点から検出された。 |
3 流入実態調査 |
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○ |
平成12年度は、平成11年度に引き続き、多摩川水系(多摩川/拝島橋〜関戸橋)、淀川水系(桂川/久我井堰〜三川合流前)において、内分泌撹乱物質の流入実態及び河川内での流下に伴う変動をより詳細に解明するため支川及び樋管を含めた調査を行った。また、同変動の解明を補足するため室内実験を行った。○ ノニルフェノールについては桂川においては河川内での流下にともない増加する傾向がみられたが、多摩川においては検出下限値未満の測定値を含んでいること等の問題から、当該河川内流下方向での変化傾向の把握が困難であった。 |
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ビスフェノールAについては多摩川、桂川ともに河川内での流下にともない減少する傾向がみられ、室内における濃度変化実験の結果からも分解等が示唆されたことから、河川内で流下中に分解等により減少している可能性があると考えられた。(別図参照) |
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○ |
17β-エストラジオール(LC/MS法)については多摩川では河川内での流下にともない増加傾向を示した。一方、桂川では検出下限値未満の測定値が多く、当該河川内流下方向での変化については不明であった。 |
4 魚類調査 |
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○ |
平成12年度は、主要5河川10地点において調査を実施した。その結果、一部の雄コイの血清中からビテロゲニンが検出された。ビテロゲニンの濃度範囲は、平成10、11年度とほぼ同様であった。ビテロゲニンの検出された雄コイの割合は、平成10、11年度に比べてやや低かったが全体的にはほぼ類似した傾向にあった。 |
5 平成13年度の調査計画 |
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平成12年度に引き続き、内分泌攪乱物質の実態を把握するため、一級河川における水質・底質の全国的な調査を継続実施する。 |
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魚類調査の河川中内分泌撹乱物質の指標として有効性評価のため、従前の調査を継続するとともに酵母を活用し女性ホルモン活性量を測定し、魚類血清中のビテロゲニン濃度との関係を検討する調査を行う。 |
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また、河川における内分泌攪乱物質の挙動を把握するため、発生源の検討を含めた流域から河川への流入実態調査を実施するとともに、河川直接浄化施設等の除去効果の調査把握を行うこととしている。 |