流水の占用(水利権)の許可は、流水を占用しようとする者の申請に基づいて行われます。そのために、流水を占用(具体的には取水など)しようとする者は、あらかじめ河川管理者に対して流水占用の許可の申請を行わなければなりません。(河川法第23条)
通常流水を占用するには、河川区域内に、ダム、堰等の施設を設けて行われます。また、河床を掘削し、ダム等の基礎地盤の掘削によって生じた土石を河川区域内に捨てる場合もあります。このような場合、河川法上、流水の占用の許可(河川法第23条)の外、土地の占用の許可(河川法第24条)、工作物の新築等の許可(河川法第26条)、河川保全区域における行為の許可(河川法第55条第1項)などを受ける必要があります。
これらの一連の許可は、流水の占用を行うために必要な手続であり、流水の占用及びこれらの行為の全体は一つの事業であること、更に河川管理上からも同時に進める必要があることから、河川法施行規則第39条により、全て同時に申請を行わなければならないとする同時申請の原則を明らかにしています。
水利権は、河川法上の河川の流水を占用する権利に限定されています。従って、河川法上の河川でない普通河川(※)や溜池からの取水、地下水(取水による河川への影響が明らかに認められるものは除く)や海水の取水は水利権の対象となりません。ただし、河川の流水は表流水に限られるものでなく、伏流水であっても河川の流水が一時的に伏流しているものは、河川区域の内外を問わず水利権の対象となります。また、河口に近い感潮区域の取水についても、河川の流水も取水するものであるから、水利権の対象となります。なお、水力発電に使用した流水を河川に還元される以前に再度使用する場合、河川区域外の取水であっても水利権の対象としています。これは水力発電の水利用が、農業用水や都市用水の水利用と違って、水を消費するものではなく、単に水の位置エネルギーを利用するに過ぎないものであり、発電に使用した後の水利用も河川の流水の利用として取り扱う必要があるためです。
一級水系、二級水系若しくは準用水系以外の水系に係る河川又は一級水系、二級系若しくは準用水系に係る河川のうち河川法の適用若しくは準用される河川として指定されなかったものです。
普通河川の管理は、地方公共団体の条例により行われますが、条例の制定されていないものについては、国有財産法の規定に基づく財産管理が行われます。
水利使用は、
に分類されます。
i)、ii)以外の水利使用
水利権の許可権者は、水利使用分類ごとに次のとおりとなります。
一級河川(国土交通大臣が指定)における特定水利使用に関しては、指定区間の内外を問わず、許可権者は国土交通大臣です。(河川法第98条、河川法施行令第53条及び河川法施行規則第37条の2に基づき一定の許可権限は地方整備局長又は北海道開発局長に委任されています。)
なお、国土交通大臣は、特定水利使用に係る処分をしようとするときは、関係行政機関の長(上水については、厚生労働大臣、工業用水及び発電については、経済産業大臣、農業用水については、農林水産大臣)に協議(河川法第35条第1項)し、関係都道府県知事の意見を聴取(河川法第36条第1項)することとされています。
ただし、指定区間の都道府県知事又は指定都市の長が行う処分に際し、国土交通大臣の認可が必要です。(認可権限は地方整備局長及び北海道開発局長に委任されています。)
なお、指定都市の長が行う当該処分にあっては、あらかじめ関係都道府県知事の意見を聴かなければなりません。(法第36条第3項)
二級河川(都道府県知事が指定)における流水の占用の許可権者は都道府県知事又は指定都市の長ですが、特定水利使用に係る水利使用については、その処分に当たって、国土交通大臣に協議しその同意を得る必要がある(河川法第79条第2項)とともに、都道府県知事にあっては関係市町村長(河川法第36条第2項)に、指定都市の長にあっては関係都道府県知事及び関係市町村長(河川法第36条第4項)に、あらかじめ意見を聴かなければなりません。なお、国土交通大臣は、都道府県知事又は指定都市の長からの当該協議に対する同意を行う場合には、関係行政機関の長に協議(河川法第35条第1項)しなければなりません。
準用河川(市町村長が指定)における流水の占用の許可権者は、市町村長です。(河川法第100条、河川法施行令第55条、第56条)
準用河川については、河川法では二級河川の規定が準用されますが、流水の占用許可の手続(河川法第35条第1項、第36条第2項及び第4項、第79条第2項第4号)については、準用されません。(河川法第100条、河川法施行令第56条)
普通河川における流水占用は、河川法の適用を受けません。しかし、ダム、調節池等によって多量の貯留を行い、又は取水が行われると、法河川の管理上著しく影響を受けることがあります。このような場合は、できる限り水利権の申請の時点までに河川指定の手続を行うよう指導しています。
なお、河川指定の際、既に普通河川管理条例による許可等による権原に基づいて普通河川の流水を占用している者は、許可を受けたものとみなされます。(河川法第87条)
河川管理者は、水利使用許可申請があった場合においては、当該水利使用により損失を受けないことが明らかである関係河川使用者及び当該水利使用について同意をした関係河川使用者を除き、関係河川使用者(既得水利権者及び漁業権者)にその旨を通知しなければなりません(河川法第38条)。通知を受けた者は、その者が受ける損失を明らかにして、河川管理者に意見を申し出ることができます(河川法第39条)。河川管理者は、損失を受ける者がある場合には、関係河川使用者のすべての同意があるとき、新規の水利使用の公益性が相対的に著しく大きいとき又は損失防止施設を設置すれば支障がないときでなければ、許可することはできません(河川法第40条)。これらの河川の水利使用に関する調整手続は、複数の新旧水利使用による紛争を未然に防止する見地から設けられているものですが、実際の運用においては、申請者は、損失が発生すると認められる場合には、殆どの場合、許可申請に先立って関係河川使用者の同意を得ることとしているので、河川管理者自ら水利調整に乗り出すケースは少ないといえます。
なお、前述のとおり、申請者は必要に応じあらかじめ関係河川使用者の同意を得ることとしておりますが、当該水利使用を許可しても取水量や水質等に影響が出ないなど損失を受けないことが明らかである者からは同意を得る必要はありません。事前同意は新旧水利使用による紛争を未然に防止する見地から非常に重要な手続きですが、該当する関係河川使用者は広範囲に及ぶこともあるため、申請者から同意を必要とする者の範囲についての相談があった際には、河川管理者は申請者に過度な負担を強いることがないよう、その範囲について慎重に検討し、必要最低限のものとしなければなりません。