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受賞団体インタビュー

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大賞部門グランプリ団体代表と鈴木選定委員長との対談

「楽しくなければボランティアではない」
平均年齢70歳のボランティア団体の
継続の秘訣

 令和元年度手づくり郷土賞 大賞部門グランプリを受賞した「松代文化財ボランティアの会」の徳嵩(とくたけ)雄次会長と、手づくり郷土賞選定委員会の鈴木伸治選定委員長の対談を行い、「松代文化財ボランティアの会」の活動のポイントや、前回受賞時(平成18年に一般部門受賞)からの進展について語っていただきました。

「松代文化財ボランティアの会」

文化財の宝庫である長野市松代町の歴史的建造物において平成12年から来訪者の接待や案内等を開始。ボランティアガイドは内外から高い評価を得て定着しており、平成30年度は延べ8,215人の活動により約24,000人のガイドを実施した。文化財の調査・研究やガイドブックの作成、ワークショップの開催など建造物等の魅力を掘り起こす活動は“社会資本を活かすソフト”として町全体に波及し、城下町を面として活用する“城下回遊型”にシフトするなど松代町の地域づくりに大きく寄与している。

継続の秘訣は、楽しく自主的な活動を促す仕組み

鈴木委員長

受賞おめでとうございます。早速ですが、文化財ボランティアの会の活動の歴史を少し振り返ってお聞きしたいと思います。まず活動を始めるに至った背景や、きっかけについてお話しいただけますでしょうか。

徳嵩会長

平成9年に真田宝物館さんが文化庁の「文化財愛護活動推進方策研究」を受託して、ボランティア養成講座を2年間にわたって開催しました。この講座を卒業した皆さんが平成11年にボランティアの会を発足させました。

鈴木委員長

会員の方はいま何人いらっしゃいますか。

徳嵩会長

現在会員は106人で、これまでの20年で累計394人が会員となっています。288人はこの20年間で入って抜けているということになります。当会の平均年齢がだいたい70歳ですので、20年は活動できないわけです。90歳になってしまいますからね(笑)。

鈴木委員長

会員数が大きく減ることなく、必ず新しく参加する人がいるところがすばらしいと思いますが、活動が継続する秘訣は何だとお考えですか。

徳嵩会長

会員の募集をかけたときには、歴史の好きな人や、「人のために役に立ちたい」、「自分のこれからの生きがいを探したい」といった目的を持っている方が応募してくださいます。 応募者に対して、宝物館の学芸員の方々がボランティア養成講座としてレクチャーをします。その講座を受けて、自主的に入会の決心をした方々ですので、まずスタートの段階でしっかりとしたモチベーションを持って入ってきていただいています。 また、「楽しくなければボランティアではない」という言葉を大事にしており、縦社会ではなく、柔軟に対応できるところが居心地がいいのかなと思います。

鈴木委員長

会員の皆さんはどういった方が多いのでしょうか。

徳嵩会長

今年の構成で言いますと、106人のうち42人が松代で、64人が松代以外の地区です。松代以外では、隣の千曲市や、善光寺の近隣、遠くは小布施から来てくださいます。また、男女比では、毎年男女ほぼ同数です。

絶えず新しい取り組みが生まれる環境

鈴木委員長

平成18年に手づくり郷土賞の一般部門を受賞されたときと今の違いはありますか。

徳嵩会長

社会資本の整備はおかげさまで大変進みました。平成18年から今日までの間に歴史の道の整備や電線の地中化など、大きな投資をしていただきました。以前は真田邸から電線が見えていましたが、今は電線がなくなって、江戸時代の景色に戻りました。
また、毎年または2年に一度、テーマを決めて、当会の会員が調査研究をして「こども松代みて歩き」という本を執筆しています。イラストなどは学芸員さんが書いてくれ、出版の費用は真田宝物館が出してくれています。
それから、小学校の子どもたちに、「松代歴史探検クラブ」というクラブ活動で松代の良さを伝える取組も行っています。去年、私の授業では、松代城址を1年間かけて子どもたちと一緒に調査しました。 こうした取組は、会員の方や真田宝物館の方からの提案から始まったものです。
提案を受けてみんなが「これはおもしろそう」と思ったことに、会員の特技や個性を活かして取り組んでいます。時が経って会員が入れ替わっても、取り組んでいる中身は、自分たちがしたいことを挙げて、それに参加したい人が一緒になって進めていく、という点はつづいています。また、実際に取り組むにあたっては、費用や必要なものは真田宝物館さんにすべて揃えていただいています。

鈴木委員長

組織を維持し、活動内容を一定のレベルに保つという意味では、とても良い方法かもしれませんね。さらに、真田宝物館さんの立場からするとアウトリーチ活動のような取組でもあり、ボランティアの会にとっては真田宝物館さんがパートナーとなることで、プロフェッショナルな方のサポートを受けられる点も良いかと思います。

徳嵩会長

入会の際の養成講座の講師は真田宝物館の学芸員さんですから、当会の会員は全員、学芸員さんの顔と名前を知っています。

「無理のない活動」がポイント

鈴木委員長

おそらく、一般部門の受賞時よりも来訪者が増えて、おもてなしの活動も増えているのではないかと思いますが、いかがですか。

徳嵩会長

増えているかと感じています。おもてなしの活動は、社会資本である文化財そのものを活用している点は新しい手法かとも思います。
おもてなしの活動として、お茶と併せて梅漬けを出しますが、その梅は、真田邸の梅をみんなで収穫して毎年40~50キロ漬けたものです。
真田宝物館や真田邸でガイドをするグループと、旧白井家でおもてなしの活動をするグループでは活動は大きく異なりますが、松代の良さを発信、あるいは共有するという根幹の目的がファジーな器となっています。
そうした目的のため、予算としては当会が継続できるだけがあればよく、例えば収益を上げるために無理な活動をしたりするようなことはありません。行政や教育委員会や、宝物館の支援と協力を得ながら、当会は人とアイディアと調査研究を提供する、というかたちでうまく回っているかと思います。

鈴木委員長

観光客の方は増えましたか。

徳嵩会長

平成28年のドラマ「真田丸」の際には大きく増えましたが、そのほかの時期はほとんど安定しています。1年間でお客さんは24,000~25,000人ほどで、当会でボランティアとして活動している延べ8,000人ほどで対応しています。

鈴木委員長

外国の方も増えましたか。

徳嵩会長

増えました。インバウンドへの対応のための研修旅行として奈良や京都へ訪問したり、松本城のインバウンド対応について、松本市のボランティアの方と情報交換をしたりしています。 当会の会員は高齢でこれから英語を学んで対応するのも難しいため、英語を話せる人を募集することを考えています。また、ガイドは、無理に英語で話しかけず、「こんにちは」と日本語で話しかけ、英語がほとんど話せないということを納得していただいたうえで、「よろしければ、ご案内します」と言って笑顔と片言の英語で対応するようにしています。

鈴木委員長

甲冑を着たり、琴の体験をしたり、言葉を超えたコミュニケーションができる場を持っていらっしゃることも強みかと思います。

活動の「伝統」を受け継ぐためにも、大事なことは人間関係の風通しの良さ

鈴木委員長

新しい変化にも対応されているように思いますが、将来を見据えて、これからどのように活動を展開していきたいか、あるいは課題は何か、というところをお聞かせ願えないでしょうか。

徳嵩会長

まず基本となるのは、20年間活動を続けてきた先輩たちの思いを伝統として大事に受け継ぐことです。当会が伝えようとしている松代の「良さ」は、ひとつには、伝統を大事にしてきたという良さでもあると思いますから、当会の伝統を受け継ぐことがまず一つです。 その次に、伝統を尊重しつつも、新しく入った会員のお考えをどうやって取り入れるか、ということがあります。まずは当会のまとめ役がしっかりと次の世代にバトンタッチすることで、新しく入った方がこれまでの伝統を尊重してくれるような雰囲気をつくることが必要かと思います。大事なことは風通しの良さ、人間関係の良さだと思います。

オール松代での一丸となった活動

鈴木委員長

一方で、NPO法人夢空間や、その他の団体やいろいろな方たちが活動をしていらっしゃいますが、そういったところとの連携という面ではいかがでしょうか。

徳嵩会長

昨年、夢空間さんと、エコール・ド・まつしろさんと当会の3つの観光に関わる、文化財等を大事にしている団体が1つの連携する枠の中に改めて組織されました。 また、松代住民自治協議会の中の歴史文化部会には、当会のほか、夢空間さんとエコール・ド・まつしろさんからも参加する方がいらっしゃり、とにかく仲良く協力し合ってやっております。

鈴木委員長

そういった他の団体と連携することで町全体に広がっていける部分というのもありますよね。

徳嵩会長

今回のこのグランプリをいただいたというのは、そういう意味で言うと、夢空間さんとエコール・ド・まつしろさん、それから住民自治協議会の歴史文化部会、オール松代での活動をあらためて評価していただいたのかなと思って、本当にありがたく思います。

鈴木委員長

平成18年の一般部門受賞のときとの違いで言うと、いろいろな団体との協力体制もできて、活動が広がってきているというところもやはり評価された点だと私も理解しています。それが松代の町全体に広がっていくということが、すごく大事なことではないかとも思います。

徳嵩会長

平成30年に全国町並みゼミが松代で開催されましたが、リーダーシップをとって、がんばってくださったのは夢空間さんです。それで、夢空間さんのほうからの話が当会にあり、参加させていただいたというようなこともありました。

鈴木委員長

全国から来られた方たちが歩きながら、いろいろな体験をしたりしながら、松代の町をすごく楽しんでいらっしゃる光景を私も見させていただいて、取組みとして、いろいろな団体が一緒になって運営している、町を動かしているという感じがすごくよかったのではないかなと思っています。

徳嵩会長

これからもその関係は大事にしていきたいと思います。

鈴木委員長

そのほか、お聞きしたいこともあるのですが、たとえば台風19号のときに水害を受けられて、復旧作業にも文化財レスキューとして参加したというようなお話もお聞きしたのですが、どういうような活動をされたのですか。

徳嵩会長

松代の東寺尾にお寺さまがございます。そのお寺さまの、大般若経600巻が水浸しになってしまった。私どもが直接関わったのはその文化財のレスキューです。 大般若経を持ち込んだ先の市立博物館さんのほうから、文化財災害レスキューとして手伝いに来ていただける方はいませんかということで声がかかった。当会からは24人が応援に行きました。他にも、水害に遭われた会員の農家さんの応援にも行きました。

鈴木委員長

今年度、会ができてちょうど20年となりますが、お祝いの会などをされましたか。

徳嵩会長

令和2年4月7日の総会が第20回の総会になります。その20回記念のときに記念講演会とか、記念の祝賀会をやり、そして今年12月までに20周年の記念誌を発行しようということで、先日、第1回編集会議を開きました。12月までにはいい20周年記念誌を作ろうと取り組んでございます。

鈴木委員長

最後に、これから先に取り組んでみたいとか、夢があればお願いします。

徳嵩会長

全国に向けて、全世界に向けて発信していく力を強化して、松代の良さを外国の方に発信しわかっていただく工夫をしたいと思います。それからほかのボランティアの会で、外国の方々が大変喜んでくださったことがあれば見習いたいと思います。

鈴木委員長

町歩きのガイドもされていますか。

徳嵩会長

場所を案内しながら簡単な解説をするかたちで取り組んでいます。横田家住宅や文武学校のリニューアルが済んだあと、またしっかり対応できるようにしたいと思います。

鈴木委員長

いま世の中が、歩いて楽しい町づくりを進めましょうとか、道路の使い方を変えようとか、そういうふうに動いてきています。松代の町というのは本当にコンパクトで、歩いて楽しい町になれる可能性をすごく秘めていると思いますので、文化財ボランティアが既に町歩きのガイドもされているということですが、町の良さを伝えていくガイドとして、いろいろな活躍の場が広がっているのではないかと思います。ぜひ、がんばっていただければと思います。

徳嵩会長

ありがとうございます。

鈴木委員長

どうもありがとうございました。

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