
国土交通白書 2024
第1節 地球温暖化対策の推進
(1)まちづくりのグリーン化の推進
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、脱炭素に資する都市・地域づくりを推進していくため、「まちづくりのグリーン化」に取り組んでいる。具体的には、都市のコンパクト・プラス・ネットワークや居心地が良く歩きたくなる空間づくりを進め公共交通の利用の促進等を図ることでCO2排出量の削減につなげる「都市構造の変革」、エネルギーの面的利用や環境に配慮した民間都市開発等を推進することでエネルギー利用の効率化につなげる「街区単位での取組」、グリーンインフラの社会実装の推進等により都市部のCO2吸収源拡大につなげる「都市における緑とオープンスペースの展開」の3つの柱で取組みを進めている。
さらに、まちづくりGXとして、都市緑地の多様な機能の発揮及び都市開発における再生可能エネルギーの導入促進やエネルギーの面的利用の推進を図る取組み等を進める。
(2) 環境にやさしい自動車の開発・普及、最適な利活用の推進
環境性能に優れた自動車の普及を促進するため、エコカー減税等による税制優遇措置を実施している。また、地球温暖化対策等を推進する観点から、関係省庁とも連携し、トラック・バス・タクシー事業者等に、燃料電池自動車、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車等の導入に対する補助を行っている。
(3) 道路におけるカーボンニュートラルの取組み
道路分野においては、道路ネットワークの整備や渋滞ボトルネックの解消等により旅行速度を向上させ、CO2排出量を抑制する「道路交通の適正化」、安全で快適な自転車利用環境の向上に関する取組みや荷物そのものが自動で輸送される新たな物流形態として、道路空間を活用したクリーンエネルギーによる自動物流道路の構築に向けた検討等による「低炭素な人流・物流への転換」、EV充電施設や水素ステーションの設置協力等による次世代自動車の普及と走行環境の向上に向けた「道路交通のグリーン化」、道路照明のLED化・高度化の推進等による「道路のライフサイクル全体の低炭素化」の4つの柱に基づき、カーボンニュートラル社会の実現のための脱炭素化の取組みを推進している。
(4)公共交通機関の利用促進
自家用乗用車からCO2排出の少ない公共交通機関へのシフトは、地球温暖化対策の面から推進が求められている。このため、LRT・BRTシステムの導入支援や、まちづくりと連携した公共交通ネットワークの再編、MaaS等の交通DXの推進等、公共交通サービスの更なる利便性向上を図るとともに、エコ通勤優良事業所認証制度を活用した自治体・事業者によるエコ通勤の普及促進に取り組んだ。
(5) 高度化・総合化・効率化した物流サービス実現に向けた更なる取組み
国内物流の輸送機関分担率(輸送トンキロベース)はトラックが最大であり、5割を超えている。トラックのCO2排出原単位注1は、大量輸送機関の鉄道、内航海運より大きく、物流部門におけるCO2排出割合は、トラックが太宗を占めている。国内物流を支えつつ、CO2の排出を抑制するために、トラック単体の低燃費化や輸送効率の向上と併せ、鉄道、内航海運等のエネルギー消費効率の良い輸送機関の活用を図ることが必要である。更なる環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築に向け、大型CNGトラック等の環境対応車両の普及促進、港湾の低炭素化の取組みへの支援や冷凍冷蔵倉庫において使用する省エネ型自然冷媒機器の普及促進等を行っている。また、共同輸配送やモーダルシフトの促進、省エネ船の建造促進等内航海運・フェリーの活性化に取り組んでいる。加えて、「エコレールマーク」(令和5年11月現在、商品163件(187品目)、取組企業100社を認定)や「エコシップマーク」(6年3月末現在、荷主213者、物流事業者239者を認定)の普及に取り組んでいる。貨物鉄道においては、4年7月の「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」における提言を踏まえ、貨物鉄道が物流における諸課題の解決を図る重要な輸送モードとして、その特性を十分に活かした役割を発揮できるよう、指摘された課題の解決に向けて関係者と連携して取り組んでいる。
また、港湾においては、我が国の港湾や産業の競争力強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しており、横浜港・神戸港において水素を燃料とする荷役機械の現地実証の準備に着手したほか、低炭素型荷役機械の導入支援等を行った。さらに、国際海上コンテナターミナルの整備、国際物流ターミナルの整備、複合一貫輸送に対応した国内物流拠点の整備等を推進することにより、貨物の陸上輸送距離削減を図っている。
このほか、関係省庁、関係団体等と協力して、グリーン物流パートナーシップ会議を開催し、荷主と物流事業者の連携による優良事業者への表彰や普及啓発を行っている。総合物流施策大綱(2021~2025年度)策定後は、「物流DXや標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」、「労働力不足対策の推進と物流構造改革の推進」、「強靭で持続可能な物流ネットワークの構築」の3つの柱に即した取組みも表彰対象とし、物流分野全般の課題解決に資する取組みを幅広く周知している。
(6) 鉄道・船舶・航空・港湾における脱炭素化の促進
①鉄道分野における脱炭素化の取組み
鉄道分野については、令和5年5月に出された「鉄道分野におけるカーボンニュートラル加速化検討会」の最終とりまとめにおいて、鉄道分野のカーボンニュートラルが目指すべき姿と、それに向けて取り組むべき施策の方向性を整理したところであり、同とりまとめを踏まえ、関係省庁とも連携しながら、エネルギー効率の高い鉄道車両の導入、水素燃料電池鉄道車両の開発やバイオディーゼル燃料の導入等を推進するほか、鉄道アセットを活用した再生可能エネルギーの導入拡大、環境優位性のある鉄道の利用促進等の取組みを進める。
具体的には、鉄道事業の低炭素化に係る補助制度や、令和6年度の税制改正で対象設備に鉄道車両が追加されることになったカーボンニュートラル投資促進税制により、鉄道事業者の積極的な取組みを後押しするとともに、鉄道の脱炭素に関心を持つ幅広い主体が参加する「鉄道脱炭素官民連携プラットフォーム」における情報共有、協力体制の構築を通じて、鉄道分野における脱炭素化の取組みを推進していく。
②海運における省エネ・低脱炭素化の取組み
国際海運分野においては、令和5年7月に国際海事機関(IMO)において我が国の提案をベースとした「2050年頃までにGHG排出ゼロ」を目標とする新たなGHG削減戦略が全会一致で合意された。この目標達成のため、IMOにおいて、技術的手法と経済的手法を組み合わせたゼロエミッション船の建造を促す制度の検討が始まっており、欧州連合からは技術的手法として、燃料のGHG強度による規制制度を提案し、我が国からは経済的手法として、化石燃料船に対する課金と、ゼロエミッション船に対してインセンティブを与えることを組み合わせた制度等を提案しているところであり、引き続き、具体的な対策を主導していく。欧州連合からは燃料のGHG強度による規制制度が技術的手法として提案されており、引き続き、具体的な対策の策定を主導していく。加えて、3年度より、グリーンイノベーション基金を活用して水素・アンモニア等を燃料とするゼロエミッション船の実用化に向けた技術開発・実証プロジェクトを行っており、アンモニア燃料船については8年、水素燃料船については9年の実証運航開始を目指している。また、5年11月には、アンモニア燃料船の社会実装に向けた取組みを加速するため、温室効果の高い亜酸化窒素(N2O)の排出低減やアンモニアの燃料補給時の安全対策等に資する開発をプロジェクトに追加した。内航海運分野においても、船舶の省エネ・低脱炭素化を促進しており、荷主等と連携して離着桟・荷役等も含めた運航全体で省エネに取り組む連携型省エネ船の開発・導入、バイオ燃料の活用に向けた取組み、省エネルギー性能の見える化(内航船省エネルギー格付制度(6年3月末時点で172隻認定))を推進している。また、平成25年に策定した「LNGバンカリングガイドライン」については、LNG燃料船への燃料供給実績の蓄積を踏まえ令和5年6月に改訂版を公表した。引き続き夜間及び錨泊中の安全な燃料供給について検討し、ガイドラインに反映する。さらに、LNG燃料船、水素FC船、バッテリー船等の開発・導入・実証に対する支援等、関係省庁と連携し、船舶の低・脱炭素化に向けた取組みを一層加速させている。
③航空分野のCO2排出削減の取組み
航空の脱炭素化に向けて、航空会社や空港会社による主体的・計画的な脱炭素化の取組みを後押しすることが重要であり、航空法等に基づく「航空運送事業脱炭素化推進計画」及び「空港脱炭素化推進計画」の認定等を進めている。「航空運送事業脱炭素化推進計画」については、令和6年1月にはANAグループ、JALグループの2計画を初認定した。「空港脱炭素化推進計画」については、5年12月には成田国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港の4空港の計画を、さらに6年3月には地方公共団体が管理する県営名古屋空港の計画を初認定した。
航空機運航分野においては、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、官民協議会の場等を活用して関係省庁や民間事業者と連携しながら、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の導入促進、管制の高度化等による運航の改善、機材・装備品等への環境新技術の導入等に取り組んでいる。特にCO2削減効果の高いSAFについては、2030年時点の本邦航空会社による燃料使用量の10%をSAFに置き換えるという目標を設定しており、経済産業省等と連携し、国際競争力のある価格で安定的に国産SAFを供給できる体制の構築や、国産SAFの国際認証取得に向けた支援等に取り組んでいる。
空港分野においては、各空港において空港脱炭素化推進協議会を設置し、空港脱炭素化推進計画の検討を進めるとともに、空港施設・空港車両等からのCO2排出削減、空港への再エネの導入等に取り組んでいる。また、「空港の脱炭素化に向けた官民連携プラットフォーム」を活用し空港関係者等と情報共有や協力体制を構築するとともに、空港関係者の意識醸成や空港利用者への理解促進を図る。
④港湾におけるカーボンニュートラルポート(CNP)形成の推進
港湾においては、我が国の港湾や産業の競争力の強化と脱炭素社会の実現に貢献するため、脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化や水素・アンモニア等の受入環境の整備等を図るカーボンニュートラルポート(CNP)の形成を推進しており、港湾法に基づき港湾管理者が作成する港湾脱炭素化推進計画について、計画の作成に対する補助、助言等による支援を行った。また、横浜港・神戸港において水素を燃料とする荷役機械の現地実証の準備に着手したほか、低炭素型荷役機械の導入、停泊中船舶に陸上電力を供給する設備の導入、LNGバンカリング拠点の整備、洋上風力発電の導入等を推進した。
加えて、コンテナターミナルの脱炭素化の取組み状況を客観的に評価するCNP認証(コンテナターミナル)の運用に向けて試行を実施した。
(7)住宅・建築物の省エネ性能の向上
2022年6月の建築物省エネ法の改正により、2025年までに原則すべての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務化されることとなった。当該改正法の円滑な施行のため、2023年11月から2024年の2月にかけて住宅・建築物の設計・施工等に携わる方を対象に、講習会等を開催した。また、省エネ性能が市場において適切に評価されるよう、建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度を強化し、告示に規定する省エネラベルを用いて表示するよう見直された(2024年4月施行)ところ、2023年9月には本制度のガイドラインを策定・公表し、同制度の周知を図っている。加えて、再エネ設備導入促進のための措置として、市町村が地域の実情に応じて再エネ設備の設置を促進する区域を設定できることとなった(2024年4月施行)ところ、2023年9月には本制度のガイドラインを策定・公表し同制度の周知を図っている。
このほか、省エネ・省CO2等に係る先導的なプロジェクトやZEH・ZEB等の省エネ性能の高い住宅・建築物に対する支援を行うとともに、独立行政法人住宅金融支援機構の【フラット35】SにおけるZEH等への融資金利引下げ等を実施している。さらに、住宅の省エネ化を推進するため、国土交通省、環境省及び経済産業省は住宅の省エネリフォーム等に関する補助制度について予算規模を拡大した上で引き続き実施するとともに、ワンストップで利用可能とするなど、連携して支援を行う。
(8)下水道における脱炭素化の推進
高効率機器の導入等による省エネ対策、下水汚泥のバイオガス化等の創エネ対策、下水汚泥の高温焼却等による一酸化二窒素の削減を推進している。
(9)建設機械の環境対策の推進
燃費基準値を達成した油圧ショベル、ブルドーザ等の主要建設機械を燃費基準達成建設機械として認定する制度を運営しており、令和6年1月現在で183型式を認定している。一方、これらの建設機械の購入に対し低利融資制度等の支援を行っている。
また、2050年目標である建設施工におけるカーボンニュートラルの実現に向けて、動力源の抜本的な見直しが必要であり、GX建設機械(電動等)の導入拡大を図るため、令和5年10月に電動建機を対象としたGX建設機械認定制度を創設した。
(10) 都市緑化等によるCO2の吸収源対策の推進
都市緑化等は、パリ協定に基づく我が国の温室効果ガス削減目標の吸収源対策に位置付けられており、市町村が策定する緑の基本計画等に基づき、都市公園の整備や、道路、港湾等の公共施設や民有地における緑化を推進している。また、地表面被覆の改善等、熱環境改善を通じたヒートアイランド現象の緩和による都市の低炭素化や緑化によるCO2吸収源対策の意義や効果に関する普及啓発にも取り組んでいる。
(11) ブルーカーボンを活用した吸収源対策の推進
CO2吸収源の新しい選択肢として、沿岸域や海洋生態系により吸収・固定される炭素(ブルーカーボン)が注目されている。国土交通省では藻場・干潟等及び多様な海洋生物の定着を促す港湾構造物を「ブルーインフラ」と位置付け、ブルーカーボンを活用したCO2吸収源の拡大によるカーボンニュートラルの実現への貢献や生物多様性による豊かな海の実現を目指し、「命を育むみなとのブルーインフラ拡大プロジェクト」の取組みを推進するとともに、ブルーカーボンクレジット制度の活用促進等に取り組んでいる。
- 注1 貨物トンを1km輸送するときに排出されるCO2の量。