揚げ浜式の塩作り
(Audio script: Japanese text for reference only)
揚げ浜塩田の1日は、海の水を汲み上げることから始まります。
「すず塩田村」の塩田の1日は、早くから始まります。近くの沿岸から、木の桶で海水を集める必要があるからです。
砂を踏み締め何度も何度も海の水を運びます。
働き手たちは、海水を入れた桶を、砂で覆われた塩田の「引桶」(しこけ) と呼ばれる大きな桶に運びます。
そして、引桶(しこけ)と呼ばれる桶に海水を貯めていくのです。
それぞれの桶には、約36リットルの水が入ります。「引桶」には800リットルの水を入れることができるので、「引桶」を満たすには、10回以上海水を汲んでくる必要があります。
集めた海水を砂の上に撒きます。
働き手たちは、「引桶」から、より小さな「打桶」(おちょけ) で水を汲みます。「打桶」は円錐形で、砂の上に水を均等に撒きやすくなっています。
太陽の熱で水分が蒸発し、砂の上には塩分が残ります。
水をすべて撒き終わった後、砂を熊手のようなものでならし、蒸発によって塩の結晶ができるまで放置します。砂をならすことでその表面積を増やし、自然に蒸発する過程を速めます。「揚げ浜」での塩作りには、太陽が欠かせません。
その塩分をたっぷりと含んだ砂を一箇所に集めます。
水分が完全に蒸発し、塩の結晶ができるまでには、約8時間かかります。その後、塩を含んだ砂を、塩田の中央に集めて積み上げます。
集めた砂は、沼井(ぬい)と呼ばれる容器に入れ、再び海水を汲みに海へ向かいます。
それから、塩と砂が混ざったものを、「沼井」(ぬい) と呼ばれる木の箱にすくい入れて濾過します。この工程にはさらに海水が必要なため、働き手たちは海に戻ります。
沼井(ぬい)の砂に海水を注ぎ塩を溶かします。
働き手たちは、新しく集めた海水を、箱の中の塩を含んだ砂の上に注ぎ、塩を溶かします。溶けた塩は砂の間からしみ出し、箱の底にあるため池に濃い塩水が集まります。
こうして海水よりも何倍も濃い塩水、かん水ができるのです。
この濃い塩水を集めた後、砂を塩田に戻します。
そしてかん水を火にかけ、何時間もかけて煮詰めます。
働き手たちは、この塩水を鋳鉄製の大きな釜に移します。釜の容量は約600リットルです。それから、この塩水を、塩分濃度24パーセント近くに達するまで約6時間煮詰めます。
夕暮れ、塩田では明日に向けて塩作りの準備が始まります。
日没時、働き手たちは塩田を手入れし、翌日の仕事に備えて砂をならします。
かん水は何度か濾過して不純物を取り除き、また火にかけます。
夜間は、沸かしている塩水を注意深く見守り、不純物を取り除くために何度か濾過します。
こうした作業が夜を徹して続けられます。
「釜屋」という茅葺の小屋の中で塩水を沸かす作業は、暑く、煙も出る工程であり、一晩中常に見ている必要があります。
夜明け、ようやく塩が出来上がりました。
この塩水を冷まして濾過します。その後、塩分濃度をさらに高めるために、2回目かつ最後の塩水の沸騰を行います。この塩水の表面中に塩の結晶が花開きます。それをすくい出し、残った水分をすべて切ります。乾燥させた塩の結晶を、販売するために仕分けて包装します。
揚げ浜式塩田による塩作りは奈良時代から1,200年以上の歴史を経て、今も変わりなくこの珠洲市に残されているのです。
日本では、1,200年以上にわたって、この方法で塩が作られてきました。珠洲市では、揚げ浜式の塩作りの古くからの技法が、ほぼ変わらずに今も続いています。