(4) アメリカの政策
a. 普及推進方策の特徴
アメリカの屋上緑化は、「実験とデモンストレーションを兼ねた緑化」、「教育とボランティア活用」、「雨水流出量減少のための緑化」などの特徴がある。
アメリカでは、環境に対する効果や、屋上環境に適した植物や培地などの緑化技術について、長期間に渡る実験調査区を、
優れたデザインで行うことで実験とデモンストレーションを同時に行う事例が多くみられる。
また、屋上緑化普及のためのデータ提示や看板などを用いた情報提供、教育にも力を入れ、
ボランティアグループによる屋上緑化導入が行われているのもアメリカの特徴である。
一方、「雨水流出量の減少」は、アメリカにおける屋上緑化導入の主要目的となっており、その手段のひとつとして屋上緑化に助成金が下りる市もある。
イリノイ州シカゴ、オレゴン州ポートランドが屋上緑化を推進している都市として知られている。
ア）イリノイ州シカゴ
1998年、当時のリチャード・Ｍ・デイリー市長による市庁舎屋上への屋上庭園整備の意向と、シカゴ市を含む5都市における、
ヒートアイランド現象の緩和による利益の提示（米国環境保護庁（USEPA）のヒートアイランド・パイロット・プロジェクト）により、
デモンストレーションを兼ねて、外気温を低下させる方法としてシカゴ市役所に屋上緑化が導入された。
2001年、100種類以上の植物を含む約2,000m2の屋上緑化が400,000ドルの施工費で完成した。
アメリカでは屋上緑化で自生種の使用がさかんであるが、ここでも粗放的（培地の厚さ7.5〜10cm）、
半粗放的（培地の厚さ20〜30cm）な手法でどの自生種が生育できるかというデモンストレーションを行っている。
1999年、ペギー・ノートバート自然博物館が設立された。
この博物館では、屋上緑化に関する情報や知識を啓発するため、ホームページ、データセンター、看板、ビデオ、
屋上緑化のデモンストレーションを通じた教育が行われている。
イ）オレゴン州ポートランド
ポートランドにおける屋上緑化の最大の目的は、汚染排水を減らし、経済、歴史、景観、文化の源であるウィラメッタ川を汚染から守ることである。
ポートランドでは、通常、屋上緑化を表現するときに「グリーンルーフ」ではなく、「エコルーフ」という言葉が使用される。
これは、暑く乾燥した夏が続くため年間を通じて緑を維持できないことと、屋上緑化による生態系の改善が望まれていることによる。
ポートランドにおけるエコルーフプログラムは、研究、教育、助成金、政策の４つの分野から構成される。
研究分野は、屋上緑化による雨水流出量の減少と水質の改善が調査されている。
教育分野は、技術的なアドバイス、ツアー、プレゼンテーション、インターネット等による普及活動が行われている。
「ポートランドエコルーフツアー」には、市内におけるすべての屋上緑化例の詳しい情報（緑化面積、コスト、植物、培地の厚さなど）が
地図と共に掲載されており、身近な屋上緑化の現場をみてまわることができる。
助成金では、2004年までに市内で14件の助成金を支給している。
政策では、新しい開発地において排水はすべてその場所で処理される必要があるが、屋上緑化はその処理設備として奨励され、
屋上緑化の導入面積に応じて、床面積増加の認可が下りるという政策がとられている。
また、将来的には、排水処理費用の割引も計画されている。
2001年、ホーソンユースホステル屋上緑化完成をきっかけに、非営利組織 Ecoroof Everywhereが発足した。
Ecoroof Everywhereは、技術的な助言、屋上緑化の導入に当たっての支援、情報提供の３つの事業を実施している。
このうち、屋上緑化の導入に当たっての支援ではデザイン、完成見取図、サイト・ドローイング、シート、排水、培地、植物などの提供を行っている。
2004年までに7件の屋上緑化が導入された。
b. 整備事例
● ペギー・ノートバート自然博物館（シカゴ市）
1999年設立
普及啓発活動の拠点
シカゴの気候に適した自生種や耐乾性の強い植物のローメンテナンス実験プロット
湿地帯、粗放的、半粗放的、集約的の４種類の植栽区を設置
■ 図-11 ペギー・ノートバート自然博物館（シカゴ市）
● ハミルトン･アパートメント（ポートランド市）
75種類の植物の比較実験
植栽方法の違いによる生育の検証（植栽マット・挿し木苗、プラグ苗、撒苗、吹きつけ）
雨水流出量の減少量の調査
夏季の潅水使用量の調査
■ 図-12 ハミルトン･アパートメント（ポートランド市）