1.犯罪収益移転防止法とは |
*正式名称は「犯罪による収益の移転防止に関する法律」ですが、以下では「犯罪収益移転防止法」と称します。
*以下では、制定当初の法及び下位法令(政令及び省令)の内容及び条項番号をもとに記載しています。
テロ資金対策の国際基準であるFATF勧告の再改訂や、近年の暴力団等によるマネー・ローンダリングの手口の巧妙化など、犯罪による収益の移転を巡る国内外の情勢・動向に対応するため、従前の「金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律」(金融機関等本人確認法)の全部と「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(組織的犯罪処罰法)の一部を母体に、犯罪による収益の移転防止を図ることを目的に制定された新しい法律です。
平成19年3月、第166回通常国会で成立し、平成20年3月1日より全面施行されました。
※FATF
正式名称 Financial Action Task Force(金融活動作業部会)
マネー・ローンダリング(資金洗浄)及びテロ資金供与対策に関する国際基準の策定等を行う政府間会合。1989年のアルシュ・サミット経済宣言を受けて設立(平成24年6月現在、34の国・地域と2地域機関で構成)。
※FATF勧告
1990年(H2年)4月、各国がとるべきマネー・ローンダリング対策の基準として「40の勧告」を提言。その後、1996年(H8年)6月に前提犯罪を薬物犯罪から重大犯罪に拡大する一部改訂を行い、さらに、2003年(H15年)6月、マネー・ローンダリングの傾向の変化(金融機関以外の業態を利用した隠匿行為等)などを踏まえ、本人確認等の措置をとるべき事業者の範囲拡大を内容とする再改訂を実施。
○犯罪による収益の移転防止に関する法律 (平成19年法律第22号)
○犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令 (平成20年政令第20号)
○犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(平成20年内閣府・総務省・法務省・財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省令第1号)
2.犯罪収益移転防止法と宅地建物取引業者の関係 |
■宅地建物取引業者は「特定事業者」に位置付けられています。
犯罪収益移転防止法では、法制定当初において全部で43の業種・事業者が「特定事業者」と位置付けられました(法2条2項)。同法では、この「特定事業者」に対し、一定の取引を行う際に本人確認等を実施すべきこと等を義務付けています。
宅地建物取引業者も、この「特定事業者」の一つに位置付けられています(法2条2項36号)ので、一定の取引を行う際には、同法で求められる本人確認等を実施しなければなりません。
3.犯罪収益移転防止法上の義務とその対象となる取引 |
■売買の取引に際しての4つの義務
犯罪収益移転防止法の対象となる一定の取引は、特定事業者ごとに「特定取引」として指定されています。
宅地建物取引業者については、不動産取引のうち「宅地又は建物の売買契約の締結又はその代理若しくは媒介」に係る取引が「特定取引」とされています(法4条1項、令8条1項4号)。
*対象は「売買」の取引です。宅地又は建物の「交換」や「貸借の媒介」等については、宅建業法の適用対象ではありますが、犯罪収益移転防止法の適用はありません。
犯罪収益移転防止法では、「特定事業者」に対して、「特定取引」を行う際に次の4つの措置の実施を義務付けています。
[1] 本人確認の実施 (法4条)
[2] 本人確認記録の作成・保存(法6条)
[3] 取引記録の作成・保存 (法7条)
[4] 疑わしい取引の届出 (法9条)
これらの措置の的確な実施により、不正な資金が移転された場合の追跡の可能性を確保し、訴追や剥奪を免れようとする行為を困難にさせ、マネー・ローンダリングを防止します。
上記[1]から[4]の各措置についての概要は、以下を参照してください。
■犯罪収益移転防止法上の義務の概要
[1]-1 本人確認の実施(顧客の確認)
特定事業者は、特定取引を行うに際し、顧客から運転免許証等の本人確認書類を提示してもらう等の方法によって、その顧客の本人特定事項を確認しなければなりません。
本人特定事項というのは、顧客が個人であるときは、その個人の氏名・住居・生年月日をいい、顧客が法人であるときは、その法人の名称(商号)と本店所在地をいいます。
この本人特定事項を確認することを「本人確認」と称しています。
本人確認をするに当たっては、顧客の区分(個人・法人の別)ごとに、それぞれ対面取引による場合と非対面取引による場合とに分けて、その方法(規則3条)と、用いることのできる本人確認書類(規則4条)が決められています。
本人確認関係の条文(法4条、規則3・4条)を抜粋した資料を作成しました。参考としてご活用ください。
○関係条文抜粋資料(本人確認関係)
下表は、本人確認に際しての主な確認方法と、その方法で用いることのできる本人確認書類(H24.8現在)をまとめたものです。参考にしてください。
○この表をプリントアウトする。
区分 |
取引形態 |
確認方法 |
主な本人確認書類 |
|
個人 |
対面取引 |
提示のみ法 |
A |
印鑑登録証明書(特定取引に係る申込み等の書類に顧客が押印した印鑑に係るもの)、健康保険証、国民年金手帳、母子健康手帳、運転免許証、運転経歴証明書、在留カード、特別永住者証明書、パスポート、 |
提示+送付法 |
B |
印鑑登録証明書(A欄記載以外のもの)、戸籍謄本・抄本、 官公庁発行書類(顔写真の貼付のないもの又は顔写真の貼付のあるものの代理人等からの提示によるもの) |
||
非対面取引 |
受理+送付法 |
上記A・B欄記載の書類(写しでも可) |
||
法人 |
対面取引 |
提示のみ法 |
C |
登記事項証明書、印鑑登録証明書、 |
非対面取引 |
受理+送付法 |
C欄記載の書類(写しでも可) |
<確認方法に関する補足説明>
『提示のみ法』
顧客又はその代表者等(個人顧客の場合の代理人や、法人顧客の場合の代表者・役員・取引担当者など。以下同じ。)から、「主な本人確認書類」欄にある書類のいずれかの原本の提示を受けて、本人特定事項を確認する方法です。
『提示+送付法』
顧客又はその代表者等から、「主な本人確認書類」欄にある書類のいずれかの原本の提示を受けるとともに、その書類に記載されている顧客の住居(会社の場合は本店所在地)宛てに、取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物として送付することによって、本人特定事項を確認する方法です。
『受理+送付法』
顧客又はその代表者等から、「主な本人確認書類」欄にある書類又はその写しの送付を受けて、その書類を本人確認記録に添付するとともに、その書類に記載されている顧客の住居(会社の場合は本店所在地)宛てに、取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物として送付することによって、本人特定事項を確認する方法です。
※1)『受理+送付法』による場合は、受理した確認書類を確認記録に添付することが義務付けられています。
※2)『提示+送付法』又は『受理+送付法』による場合は、取引関係文書を書留郵便等により転送不要郵便物として顧客に送付することが必要です。
※3)上表に掲げる方法のほか、電子証明を活用する方法や、個人顧客の場合には、本人限定受取郵便を活用する方法もあります。
※4)確認方法の各呼称(『提示のみ法』など)は、宅地建物取引業者向けに分かりやすい表現として用いている呼称で、法令上の用語ではありません。
[1]-2 本人確認の実施(代表者等の確認)
実際の取引では、顧客が法人の場合、その取引でやり取りするのは法人の代表者や取引事務の担当者となります。同様に、顧客が個人の場合でも、その個人顧客本人と取引する場合に限らず、個人の代理人と取引が進められることもあります。
このような代表者等や代理人のように、顧客のために取引に当たる者を犯罪収益移転防止法では「現に特定取引の任に当たっている自然人」と定義し、「代表者等」と称しています。
犯罪収益移転防止法では、顧客の本人確認とあわせ、この代表者等についても本人確認を行うこととされています(法4条2項)。
確認方法は、個人顧客への本人確認の方法と同じ取扱いになります(規則3条1項1号、同4条1号・4号)。
[1]-3 本人確認の実施(顧客が「国等」の場合)
本人確認をすべき顧客の中には一部例外があり、その顧客のために現に特定取引の任に当たっている自然人を顧客とみなして、その自然人への本人確認のみを行えばよいとされるものがあります。(つまり、顧客自体の本人確認の実施は必要ないというものです。この場合の自然人を、法では「みなし顧客」と称しています。)
国や地方公共団体のように、その実在性が明確なものや、逆に、その実在性を公的書類等で証明することが困難な「人格のない社団・財団」、また、上場企業のように、厳しい上場審査を経ていることで、通常の企業に比べてマネー・ローンダリングを行うおそれが少ないと言えるものがこの例外対象の顧客として指定されています。
法では、「国、地方公共団体、人格のない社団又は財団その他の政令で定めるもの」(4条3項)と規定されています。独立行政法人や地方住宅供給公社もこの対象に含まれます。
○関係条文抜粋資料(国等)
[2]本人確認記録の作成・保存
本人確認を行った場合は、直ちに、本人確認記録を作成しなければなりません。
本人確認記録は、文書又は電磁的記録等(CD-ROM、USBメモリ等)によって作成(規則9条1号)し、取引が行われた日から7年間保存することとされています(法6条2項)。
本人確認記録への記録事項は、以下のとおりです(規則10条)。
1 |
本人確認を行った者の氏名 |
2 |
本人確認記録の作成者の氏名 |
3 |
本人確認を行った取引の種類と本人確認の方法 |
4 |
顧客の本人特定事項 |
5 |
代表者等による取引のときは、代表者等の本人特定事項とその代表者等と顧客との関係 |
6 |
国等との取引のときは、代表者等(みなし顧客)の本人特定事項とその代表者等と国等との関係及び当該国等を特定するに足りる事項 |
7 |
本人確認書類の提示を受けたときは、その書類の名称・記号番号と提示を受けた日付・時刻 ※1)『提示のみ法』又は『提示+送付法』によって本人確認を行った場合 ※2)提示を受けた本人確認書類の写しを本人確認記録に添付する場合は、時刻の記載は不要です。 |
8 |
本人確認書類又はその写しの送付を受けたときは、送付を受けた日付 ※)『受理+送付法』によって本人確認を行った場合 |
9 |
取引関係文書を顧客に送付したときは、送付した日付(交付したときは交付した日付) ※)『提示+送付法』、『受理+送付法』又は『本人限定受取郵便』によって本人確認を行った場合 |
10 |
本人確認書類とは別の書類で現住居又は現本店所在地を確認したときは、その書類の名称・記号番号 |
11 |
法人顧客について、本店に代えて営業所等に取引関係文書を送付することで本人確認を行ったときは、その営業所等の名称・所在地及びその営業所等の確認の際に提示を受けた書類の名称・記号番号 |
12 |
顧客が自己の氏名・名称と異なる名義を用いるときは、その名義と理由 |
13 |
取引記録を検索するための事項 |
本人確認記録の様式については法令上での指定はありません。
上記各事項を網羅した形で、各宅地建物取引業者において任意に作成していただく必要があります。
なお、不動産関係6団体で構成する「不動産業における犯罪収益移転防止及び反社会的勢力による被害防止のための連絡協議会」において、本人確認記録の様式例が作成されていますので、こちらも参考にしてください。
○本人確認記録(例) ※H20.2 マネロン・反社連絡協議会作成版
[3]取引記録の作成・保存
特定業務に係る取引を行った場合は、直ちに、取引記録を作成しなければなりません。
特定業務とは、宅地建物取引業者による不動産取引の場合、「宅地又は建物の売買又はその代理若しくは媒介に係るもの」とされていますので、特定取引に該当しないものでも、取引記録の作成が必要となる場合があり得ますので、注意して下さい。
取引記録についても、本人確認記録と同様に、文書又は電磁的記録等(CD-ROM、USBメモリ等)によって作成(規則13条)し、取引が行われた日から7年間保存することとされています(法7条3項)。
宅地建物取引業者が不動産取引に係る特定取引を行った場合の取引記録への記録事項は、以下のとおりです(規則14条)。
1 本人確認記録を検索するための事項
2 取引の日付
3 取引の種類
4 取引に係る財産の価額
5 財産の移転元・移転先の名義
[4]疑わしい取引の届出
取引に係る業務遂行の過程で、収受した財産が犯罪収益ではないかという疑いが生じたり、顧客が犯罪収益を隠匿しようとしている疑いが生じた場合等には、「疑わしい取引」として、速やかに行政庁(免許行政庁)に届け出なければなりません。
この際、どういった場合が届出の対象になるのかは、宅地建物取引業者において、不動産業界における一般的な知識と経験をもとに、顧客の属性や取引時の状況その他の情報を総合的に勘案して判断していただくこととなります。
なお、国土交通省では、この判断にあたり、特に注意を払うべき取引を類型化し、「不動産の売買における疑わしい取引の参考事例」として取りまとめておりますので、こちらも参考にしてください。
○「不動産の売買における疑わしい取引の参考事例(宅地建物取引業者)」H20.2.4版
実際の届出に関しては、こちらをご参照ください。
○疑わしい取引の届出の入力要領 (警察庁作成:平成23年10月)