建設産業・不動産業

ポール・マクナマラ氏/Dr. Paul McNamara

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Q1: 今のお立場でグリーンビルディング(以下「環境不動産」という。)に関わりを持つようになったきっかけは何でしたか。

A1: 私は研究者としての立場で、市場に対してインパクトを持ち影響を及ぼす事象全てに関心を持っています。近年、環境問題が市場に影響を与えていることを知り、この問題について掘り下げてみようと思いました。ビジネス的な観点からは、株式投資に関して既に責任あるエクイティ投資という大きな市場が形成されており、不動産市場においてもそうした責任ある投資のビジネス上のポテンシャルをを探ってみることに乗り出したわけです。社内で、建設担当のプロフェッショナル(技術者)やファンドマネージャーの間で、不動産市場における責任ある投資について多くの議論が交わされました。議論の中では、建設担当者が環境技術の重要性を主張する一方で、ファンドマネージャーは、財務的な正当性を求めました。そこで私は、不動産市場における環境問題についてリサーチすることで、このような議論に対して情報提供が出来ればと思い、それで、環境不動産に関わりを持つようになったのです。

Q2: 環境不動産の市場形成を促進していくための一番大きな課題は何だとお考えですか。また、その解決策・方向性について考えをお聞かせください。

A2: 環境不動産に関する最大の課題は、ビジネス上の利益と社会的利益との調和であると思います。不動産ポートフォリオのマネジメントにおいて環境に配慮することにより財務実績を向上させることが実証されれば、ビジネスのロジックが環境対策を推進するでしょう。そのロジックが形をなす初期の兆候が見えはじめています。政策担当者は市場に影響を及ぼす政策を立案できますし、それによってビジネス上の利益と社会的利益の調和がより早い段階で実現していくだろうと思っています。それを達成していくプロセスの中では、やはり環境不動産に対する教育や情報提供が極めて重要であると考えています。

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Q3: 第17回国際土地政策フォーラムのプレゼンテーションの中で、既存ストックの改修の重要性を指摘していらっしゃいますが、なぜ既存ストックが重要なのか、その理由をお聞かせください。

A3: 理由は非常に明確です。問題の核心は、環境配慮型のストックをわずかに追加することではなくて、むしろ、圧倒的な数の既存ストックに我々がどう対処していくべきかということなのです。投資家は責任不動産投資をしようとするとき、新規開発物件にのみ目を向けがちですが、新規開発は不動産市場のほんの小さな一部にすぎないし、こういう投資はどうしても高いリスクを伴います。それよりもむしろ、既存ストック改修していく従来型のアプローチのほうが、カーボン(二酸化炭素)の排出量削減に対してより迅速かつ大きな影響を与えることが可能であり、且つリスクは少ないということです。新規供給物件に焦点を当てることも必要ではありますが、そればかりだと、カーボン削減における「低速レーン」を走るようなものであり、全体の問題解決を先送りしてしまうこととなります。既存建物を環境と調和するものにしていくことでカーボンの排出量を抑えることに注力するべきなのです。不動産を「グリーン化する」というよりも「ブラウン(環境への高負荷)でなくする」ことにより、我々は重要な貢献ができるのだといえます。

(2010年10月28日)

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