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河川審議会について


2.水循環の変化とそれがもたらす影響

 我が国は、高度成長期を通して、都市への人口の集中と産業活動の集積、農業形態の近代化等が進み、国民の生活も高度化が進んできた。この過程で降雨の流出及び水利用の形態の変化、水質の悪化等、水循環に関する様々な看過できない弊害が露呈してきた。

 それに加え、近年の地球規模での気候変動により、わが国においても集中豪雨の多発化や少雨化の傾向がみられる。

 このような人為的な活動及び地球規模の気候変動による水循環の変化は、現代社会の持続可能な発展を根底から揺るがす恐れもあり、重大な認識をもって健全な水循環系の再生に取り組まなければならない。

(1)流域における社会構造の変化

     我が国は、近年急速な経済成長を遂げ、市街地の急速な拡大により、流域によっては、森林、農地が減少するといった都市化社会が進んだ。また、都市化の進展や経済活動の効率化にあわせ、個々の施設の機能本位の整備が優先され、環境等の他の機能に与える影響について十分な注意が払われてこなかった。さらに、現在では、高密度な経済活動及び快適性や利便性を追求する生活様式を前提とした水・エネルギー多消費型の都会的社会となってきた。

     こうした状況の中、流域の急激かつ大規模な変化や水循環系へ過度な負担を強いている状況が生まれた。

(2)水循環の変化とそれがもたらした影響と弊害

     流域の社会構造の急激かつ大規模な変化は、地域ごとに水循環系に様々な影響を与え、地域によっては看過できない以下のような新たな弊害を引き起こしてきた。

    ア.
    森林・農地の変化に伴う水循環の変化

     我が国においては、近代以降、荒地を開発し、都市的利用を拡大するとともに、森林や農業的利用に供してきた。
     森林面積については、近代に入ってから全体としては横這い傾向にあるが、本州では増加している。しかしながら、流域によっては、十分に管理されていない人工林の増加による土砂流出の問題や、樹木の成長に伴う蒸発散の活発化による低水の減少を引き起こしている。
     農業的利用面積については全体として微増傾向であるが、流域によっては、農地の基盤整備により従来の保水・遊水機能が低下している。また、農業用水の使用形態も変化し、水循環系に影響を与えている。

    イ.
    都市域の拡大に伴う洪水形態の変化と洪水被害ポテンシャルの増大

     都市域を抱える流域では、市街化の進展による不浸透域の拡大、保水・遊水機能の減少に伴い、降雨後短時間に洪水が発生し、そのピーク流量が増大するというように洪水の形態が変化してきた。これにより、河川への負担が増加し、治水計画の見直しが必要となったり、水防活動や洪水に対する警戒・避難体制の確保が困難になる等の問題が生じてきた。
     また、都市の氾濫域に人口・資産が集中し、加えて、様々な形で地下空間の利用が進むとともに、水に弱いハイテク機器が普及することによって、水害に対し脆弱な経済社会となり、洪水による被害ポテンシャルが激増している。

    ウ.
    渇水被害ポテンシャルの増大

     都市への人口の集中や経済活動の高度化に加え、水洗トイレ等水の多量使用を前提とした生活様式の普及、水冷式クーラーによる温度管理が不可欠なオフィスビルの増加等により、渇水による被害ポテンシャルが増大している。
     平成6年度においては、全国的に渇水被害が発生し、水疎開、水休み等の現象が生じたとともに、身障者等では自ら生活用水を確保できないといった渇水弱者問題が騒がれた。地域によっては、外国から水を緊急輸入する企業が出現した。

    エ.
    通常時の河川流量の減少

     都市化による不浸透域の拡大は、雨の地下への浸透を減少させた。
     また、下水道の整備により、それまでは、河川に流れ出ていた水が地下の管路を流れるようになった。
     農業用水の取水形態の合理化・集約化により、きめ細かく循環利用されてきた水の流れが変化した。水路式発電は、河川に流れる水量をバイパスすることとなった。
     これらにより、通常時の河川流量の減少を招くとともに、バイパスによる減水区間が生じ、川らしさの喪失や河川環境の悪化を招いている。

    オ.
    防災対策上の水の不足

     阪神・淡路大震災では、過密都市の新たな脆弱性を露呈した。具体的には、同時多発火災の発生と延焼拡大、インフラの破壊による復旧復興のむずかしさ等である。延焼拡大防止に関しては、現行の消防システムと耐火建築システムだけでは限界があることが明らかになった。600名以上が焼死したこと、莫大な財産が焼失したこと、水道の復旧に時間を要し、水洗トイレ、洗濯用水、風呂水の確保にも非常に苦労したことを忘れてはいけない。
     この教訓でもわかるように、過密都市において、身近にある河川、水路、池沼等に水が存在することが、初期消火、延焼拡大防止、生活用水等の確保にとって非常に重要な意味を持つ。
     しかしながら、過密都市では、河川・水路等は、水質の悪化や土地の有効利用の観点から埋め立てられたり暗渠化されるとともに、そこに流れている水量が貧弱であり、地震時等の危機管理上、危惧せざるを得ない状況にある。

    カ.
    水質の汚濁と新たな水質問題の発生

     流域からの排水の受け皿である河川や湖沼には、様々な汚濁物質が流入し、深刻な水質汚濁を引き起こしてきた。各種の水質保全対策により、一定の水質改善はなされてきたが、下水道未整備地域からの生活排水、小規模の未規制事業場からの排水、森林、農地、道路等からの面的汚濁負荷源等が残されており、都市内の河川や湖沼等の閉鎖性水域を中心に、水質改善が依然として進まない状況にある。
     また、発ガン性の指摘される有機塩素系化合物の問題、病原性大腸菌O-157、クリプトスポリジウム等の病原性微生物の問題、さらには、生物の生殖機能等への重大な影響が懸念される環境ホルモンの問題等、人の健康や生態系に対して、有害な影響が指摘される新たな水質問題が次々と顕在化しており、水道をはじめとする利水や河川環境への深刻な影響が懸念されている。
     一方、従来、水質が良好であると考えられてきた地下水についても、トリクロロエチレン等の化学物質による汚染が広範に確認されており、いったん汚染されると水質改善が困難であることから、現在も問題となっている地域が多く見られる。また、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素による地下水汚染も広く見られており、今後留意が必要である。

    キ.
    地下水位の低下と地盤沈下

     従来から地下水に頼って生活していた地域では、人口の集中にともない、大量の地下水汲み上げが行われ、地下水位の低下とそれにともなう地盤沈下が社会問題化してきた。特に深刻化してきた東京都等では地下水取水を規制し、表流水に転換する施策を進めたため、沈静化してきたが、規制地域外周部の栃木県、埼玉県等では、水資源開発施設の整備の遅れにより安定的に表流水取水ができず、渇水が発生するたびに過剰な地下水取水が行われ、地盤沈下が発生し、新たな社会問題となっている。

    ク.
    都市のヒートアイランド現象

     都市域において、埋立地の増加、下水道暗渠の整備等により水面が減少するとともに、通常時の河川流量が減少してきている。さらにエネルギー多消費型の都市活動が活発化すること等により、都市の気温が高くなるヒートアイランド現象が生じてきている。この現象は、夏期における冷房機器の使用等による電力需要を増加させ、二酸化炭素の排出増加にもつながっている。

    ケ.
    生態系の変化

     水辺・緑地空間の減少、河川の直線化や排水路化、ダム等の洪水調節による流量の平滑化、基底流量の減少、発電取水等による減水区間の発生等水循環系に係わる環境の変化により、生態系に変化が生じている。なお、最近河川事業においては、多自然型川づくり等、自然の多様性を保全する施工法が各地で採用されてきているところであるが、河川改修が実施される箇所だけに限られるという課題を抱えている。
     また、流域から河川を通じて運ばれてくる汚濁物質は、生物の生息・生育にとって重要な河口部から沿岸域の生態系に影響を与えており、水産資源等への影響も懸念されている。
     さらに、洪水氾濫の減少や土地利用の変化によって豊かな生態系を育んできた湿地等が減少してきた。

    コ.
    水文化の喪失

     古来、わが国は、山紫水明の国といわれ、水とは切っても切れない文化が形成されてきた。ところが、水循環系の変化によって、自然の水循環系を認知できない生活領域を拡大してきたことから水文化の伝承育成が危ぶまれ、ひいては、わが国のアイデンティティを喪失することも懸念されている。






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