会議記録

【森地座長】  お二方から大変感動的なお話をいただいた。いつものとおり、後ろに座っている方も含めて、自由にご質問、ご意見を出していただきたい。よろしくお願いしたい。


【高木政務官】 今のロボットの話で少しお伺いしたいのは、素朴な質問として、人間に極限に近いロボットは、いつつくれるのか、またはつくれないのか。例えば昔、映画『2001年宇宙の旅』で、コンピューターのハルが感情を持ち、最後は人間と戦うかたちになったが、ロボットが、情動方程式も含めて、人間の感情を持つところまでいくのはおおよそどれぐらいで、その目途はついているのか。

【高西】 私も『2001年宇宙の旅』の大ファンである。アメリカのAI屋さんに、なぜAIの研究を始めたのか尋ねると、ほとんどが『2001年』と答える。『2001年』のハルは、感情というものをプログラムしていなく、自己防衛の中で感情的なものが発生して人を殺すというようなことになったと考える。機械の中に心のようなものが自然に発生するまでには相当時間かかり、当面は考えない方がいいと考える。
 私どもの考え方は、あくまでも外から見たときに、そのように振る舞えばいいわけで、中は一見ブラックボックス的であるが、実際はホワイトボックスで、すべて定式化されて分かっているのである。ここが重要だと考える。欧米人に言わせると、ヒューマノイドという言葉は使ってはいけないのである。なぜなら、バイオケミ、フランケンシュタインもヒューマノイドだからである。したがって、我々のロボットでいうところのヒューマノイドには、必ずヒューマノイドロボットを付けろと言われる。アンドロイドは、その言葉ひと言でロボットを意味する。
 アンドロイドは、話が少しそれるが、アンドロゲンとか男性を意味する。性差別の対象になるということで、早稲田大学ではヒューマノイドロボットという言葉を使っている。我々が、その中身を定式化することから、現在におけるエンジニアリングの最大の特徴は「予測可能性」となる。ニュートンの第二法則の運動方程式を使うことにより、すべての軌道計画が計算できるわけで、火星や月に人を送り込めるという予測性、予見性が最大の武器となるわけである。これに則り、エンジニアリングを我々機械科の学生にも教えているわけである。そして、その概念をそのまま心の問題に関しても踏襲することにより、人に危害を与えるようなことは計算上、あり得ないようにする。あとは、実際に実験を伴わないと、最終的にはもちろん分からないこともあるが、我々はそのような視点で研究を行っている。
 ただ、見かけ上かもしれないが、人と変わらないようなロボットがいつできるのかと聞かれると、私の一生の中ではできないだろう。なぜなら、このようなロボットを研究していると、研究すればするほどロボットから目標とする人が遠くなるのが現実なのである。いつ近づいてくれるのかと考えるぐらいであり、正直なところ、それほど簡単ではない。
 それから、ロボットを人に近づける、あまりにも外見を人に近づけると、下手なお化け屋敷よりも、動かないろう人形の方がよほど怖い。人はパーセプション能力がすばらしく、荻原兄弟でも、多分、直接会って15分話をしたらどちらが兄で弟か、すべての人がわかると思う。逆に、人に近ければ近いほど、そうではない場合の違和感が大きい。つまり、気持ちが悪い。これが先に立つと考えて、我々の顔ロボットは、絶対にろう人形のように人に近づけたいとは考えない。むしろシンボリックに、3点逆三角形であればいい。これは、心理学者が知っている実験的な事実なのである。
 例の草葉の影で写真を撮ると、ここに1人、2人、3人いるという、あれは全部、影がたまたま3点逆三角形で人の顔に見えるためだと考える。したがって、シンボリックなヒューマノイド、しかもホワイトボックス的な形で、心のモデルが中に適応されているということがすごく重要かと考える。

【森地座長】 松本先生のお話の中で、子供のころのすり込みの重要性についてのお話があった。そのお話を伺いながら思ったことだが、例えば我々の子供のころは、そろばんで計算能力を高め、そろばんの上手な人は、頭の中でそろばんの玉をはじいて判断することができた。
 一方で、今の子供は、そろばんはやらない。ほとんど電卓で、どんな計算もできる世の中になっている。
 それからもう一つ、我々の子供のころはテレビがなかった。現代に住む人たちは、はるかに多くの、さまざまな映像を見ている。活字を見ながら映像をイメージして何か想像する世の中と、既に何でも映像でわかってしまっている世の中。そのような社会の変化が、これからの子供たちのすり込み現象にどのような影響があると考えているのか、あるいは、変化がないいと考えているのか、その辺を少しお伺いしたい。

【松本】 前提として、今あるそのような技術的なもの、映像的なもの、身の回りに生ずるもの、それはやはりすり込みとしてみんな作用してしまうと考える。そのときに、情報の出し方、出す方の問題が出てくるわけである。偏った情報ばかり大量に与えたり、誤解を招くような要するに感情的なものや、情緒的なもので偏りを起こすと、おかしなすり込みになると考える。したがって、送り出すときの一つの倫理観とか、自己制御が送り出す側に必要になってくると考える。
 子供に一度入った情報は、小学校四、五年頃から、最初のすり込みに、あこがれ、夢、像まで含めて、それらを自分の個性で制御するようになる。今度は四、五年ぐらいで自己を確立していく。その2段階あると考える。最初にある情報はいくら膨大であっても、我々の世代が逆の意味で、ふんだんに自然のヘビの殺し方から、ウナギの取り方、ハチの巣の襲い方まで全部会得していたので、それが情報とか映像に変わっただけで、身の回りの総量はそれほど違いはないと考える。それが人工的なものになったか、自然環境の中にあったかの差だけで、そこはあまり心配していない。
 それをどのように自分の中に触媒として取り込んで応用していくのかは、個性が目覚めた後の問題になってくるのである。小学校四、五年から中学生、大体中学生の半ばで一つの確固たる個性的なものが確立されていく。個性的な部分に影響していくので、やはり、最初に目に触れるものというのはとても大事なものであり、それは与える側のある程度の責任と考える。恐ろしいのはマインドコントロールで、意図的に情報の操作をすると、今度は思いどおりの人間をつくれる可能性も多くなることである。しかし、人間は思考形態が支離滅裂で、コンピューターのとおりにならない。教えられたからといって、そうはならない。千差万別の受け取り方をするので、一つのことで、最大公約数的にはなるかもしれないが、必ず反乱を起こす人間は出てくる。人の支離滅裂的思考形態が、何よりも勝る防御力だと考える。
 よく世の中で火の気者とか、いろいろ言われるが、彼らがいてくれないと困るのである。みんなが言っても、おれは違うという、頑固というか断固たる思いを告げる人が、必ず将来にわたって存在すると思う。みんなが同じ情報を受け取っても、同じ人間になる心配はないと考える。

【青山技監】 これからのロボット開発のメーンストリームというか、このようなロボットが次々と技術開発されていくという予測というか、その辺はどのようなイメージを持っているのか。

【高西】 非常に難しいと考える。ロボットの定義は、JISとかアメリカのISOとか、いくつかのところできれいな定義があるが、よく読んでみると大したことはなく、プログラマブルで移動する、操作する、そのような機械装置だと書いてあり、生産機械も全てロボットになるのである。ロボットの研究をしている人は皆、それぞれロボットの定義が違うというぐらい、ロボットはバラエティに富んでいる。
 社会を見ると、ロボット的なものは、いわゆるロボットロボットしたものではなく、例えば自動車も今、ロボット的になっている。CPUが20何台入っているとか、カーナビが音声で対話ができたり、ITSで外と通信できたり。
 それから、結局だめになったが、岐阜で歩くビルを建てたかった。ビルをロボットにしたいと思ったのである。不動産であるビルは動かないものではない。最近は耐震構造のために下にアクチュエーターをつけて、下が振動すると上を逆振動させて止める技術があり、実際にその計算までした。しかし、取り入れてくれる企業がなかった。歩く技術を使えば、例えば日曜日になると、道路を広くあけて、歩行者天国やより広いところにすることが可能である。建築屋さんとも一緒に行なおうとしている。建築屋が建物を建てるときは、風の向きを1年間継続したデータを手に入れる。できるだけ風が通る、エアコンを使わなくていいように設計するためである。しかしロボットを使うと、風の向く方向に勝手に動くとか、あるいは日照権の問題も、少しずれながらも、今の群制御ロボットの研究を使うと、たくさんのビルを群としてコントロールできるので、1台だけなら難しいけれども、日照権の問題とか多くの問題を解決することができるのである。この中のパーティションもそうで、別にロボットでなくても、いろいろなところへロボット技術が応用できると考えている。
 ロボット研究者の非常に大きな弱点は、そのような応用分野の人たちとのコラボレーションがほとんどないことである。これが日本最大の、ある意味で不幸なことである。産業用ロボットは、ロボットのメーカーとユーザーが同じで、日立、東芝はロボットをつくるけれども、それを使う工場を持っていたので自己完結型で非常に能率がよかった。
 ところが、ロボットにその他のアプリケーションを応用しようとすると、ロボット研究者とアプリの応用の間のコラボレーションが必要で、これは大変なことである。咀嚼ロボットも、側頭筋、内側翼突筋とか、そのような言葉を覚えるまで10年かかった。しかし、向こうも理解してくれた。そのような応用の分野の人たちと一生懸命やるということが大変重要で、そうするとこのロボットで培われたいろいろな概念や技術が、広く利用されていくと考える。

ページ 1 2 3 4 5 6 7