会議記録

【高西】 今の松本先生のお話しは、私も本当にそうだと思う。その世界に対して、手や体を使って働きかける。何年か前に、松本元先生という、脳研究の有名な方がいる。理化学研究所のチームリーダーの一人だが、その人たちが、莫大なお金をかけて研究して、結構いろいろなことが分かってきた。脳というのは一種の学習機能を持っている。それがどのように学習情報が伝播するかというと、出力側から入力に戻るのである。徐々に戻っていく。出力側は、行動したり、実際に頭の中でイメージしたりして出力しないと、バックプロパゲーションというが、学習情報の逆伝播が起こらない。咀嚼ロボットを研究しているが、「咀嚼」という字を、ここで今すぐ書ける方がいるだろうか。私は、研究する前は全然書けなかった。でも、皆さんは読める。ということは、読むことと書くことには雲泥の差があるのである。「咀嚼」という字を何度も書いていると、完全に書けるようになる。今、私もそうである。つまり、人は脳の構造に基づいて、世界に、自分でこう行こうと働きかけることにより、世界との関係で脳は機能しているのである。身体性というが、例えば小人症の人とか身障者の方は、我々健常者にはとても分からないような形で脳は機能していて、それに合ったかたちでうまくアダプテーションを起こして行くわけである。
 私のところには小さい子がいるが、「そうか、よく分からなかったけれど、子の背の高さが低いためにあそこが見えなかったのか」と、よく考えてみると後で分かる。行為や行動に結びつけることにより、いろいろなものを学習して、本当の応用能力を身に付けるのである。つまり、字を読めるだけでは字を書けないから、表現ができないわけである。
 他とかかわることができない。絵も多分、そうだと思う。これはすごく重要で、本当にそう思ったのだが、喋るロボットを研究していると、二足歩行を始めて人間の知能ができたという動物学者、生物学者は多いが、私は喋ることから始まったと考えている。
 人間の小脳は、霊長類で最大である。小脳は運動にかかわる脳であるから、普通は、猿の方がよほどうまく木の間を渡るので、猿のほうがよほど大きいように思えるが、実は人間の方が大きい。喋るとか、その他の運動能力、舌を巧みに動かして、口を動かして、それを調整して音声の論理的出力にしていく。これは大変な能力だと考える。同時性がある音声で発話できることにより、水平的な意味でのコミュニケーションがそれによって生じ、他の個体間とのいろいろなやりとりが生じる。
 さらに進んで、言葉を文字に置き換えることができた。そうすると、松本先生が言われたように、最初は絵だったものが文字になって、今度は時間軸方向にコミュニケーションできるようになることにより、文化が時間の流れの中で残されるようになって、今、大変な技術社会になってきたと考える。これはすべて脳の持っている出力をまず出して後ろにフィードバックさせる、バックロップさせるというメカニズムの成せる技ではないかと考えおり、ここのところがすごく重要である。
 それと、ルール性の問題であるが、先ほどここに出したが、これは私1人で考えたのではない。3年前の経済産業省のヒューマノイドロボットの開発と同時に、調査委員会を一緒に設けさせていただいたとき、私が委員長になって、好きなことをしていいということであったので、哲学者とか、病院の先生とか、法律家とか、みんな呼んでディスカッションした結果、できたのがこれである。ルール性の問題はすごく重要で、白石先生のような専門家にぜひ入っていただきたい。どのようなところで上手く一線を引けるのか。人と区別が付かない。どこまで区別が付かないようにしたらいいのか、あるいはどのようにきっちりと区別させるのか。技術的な可能性と、人の心理的な、あるいは認知的な部分とのかかわりはすごく大きく、これは乗り越えないといけない問題の一つだと考えている。

【森地座長】 もう一つだけ、極めて単純な一言だけだが、コンピューターは、専用のハードウェアをつくったのか、汎用なのか。

【高西】 汎用である。秋葉原でパソコンを買い、マザーボードだけ抜いてロボットに搭載するという使い方である。

【森地座長】 専用でやるほど容量を必要としないと思っていいのか。

【高西】 そうである。我々は、どうしても研究者であるため、アルゴリズムの検証まで行う。本当の実用化段階は、企業と連携すればいいと考える。ソニーの最新版のSDR−4Xは64ビットのものすごいものを使っている。我々はもっと入口の段階であり、複数のCPUが必要であれば、ネットワークで一般のパソコンをたくさんつないで認識させて行っている。

【森地座長】 それで問題はないのか。

【高西】 問題ない。今のこのCPUでも、専用のユニットを使う命令をどう発行したらいいか理解しているソフトをかける人であれば、2ギガフロップスぐらいで出る。このため、相当なことができると考えている。

【田崎国総研所長】高西先生にもう一つだけお伺いしたい。私は研究所の人間だが、研究所で研究するときに、私個人がしつこく言っていることは、サプライサイドの研究ではなくニーズサイドからの研究をしろと。例えばこんな強い材料ができたから、今までかけられなかった橋がかかるというような研究を今までやってきた。もちろんそれも大事だが、特に国土ということにかかわるとすれば、どんなニーズがあるのかというサイドから研究することが大事だということを日ごろ言っている。先生の話のロボットとは、想像するに、サプライサイドの研究を進めていくと、今までできなかったことができるようになったということで、ますます研究を進めていく結果、ニーズが後からついてくるというようなことが、もしかするとあるのかなという気がしている。もしそうだとすると、先ほどからいろいろ議論になっているように、人間は、もしかしたら求めていなかったグロテスクなようなものができてしまうとか、そんなことになりはしないのかという危惧もあって、そこはコントロールをするということになるのだが、やはりサプライ側の研究という流れなのか。そうではなく、このようなことを人間がするのではなく、機械に置き換えるというニーズの方がデマンドサイドのベクトルなのかというところを、少しお聞きしたい。

【高西】 すこし優等生的な言い方だが、やはりどちらも必要な気がしている。私は大学にいる研究者だが、多分2つの立場を持っていると思う。それは、非常に個人的に人に興味があるので、このような研究をやることにより人が解明できる。これはサイエンティストとしての大学教員の立場で、人というものを心も含めて理解していきたいといつも思っている。そのような中で学生とディスカッションしながら、いろいろな発想を出したりしている。
 それからもう一つは、私はエンジニア、そして機械科の教員なので、やはりエンジニアリングというのは、最終的にきちんとした物づくり、人の役に立つものをつくることである。科学とは、未知なるものの解明のためにあると学生に教えている。工学は人類の幸せのためにある。全く違うものだと。君たちはエンジニアだから、後者の方をまずは考えなさいと言っている。
 今聞かれたことで言うと、私は個人的には、先ほどの咀嚼ロボット、これはどちらかというと、シーズというか自分の趣味で、もちろん、相手に歯科医学者がたくさんいたわけであるが、そのような中でやってきた。しかし、これだけで終わらせたくない。病気の人がたくさんいるわけだから、それを治すためのロボットをぜひ開発したいと考えていたら、山梨医大から話があり、我々の咀嚼ロボットを使って、持っているノウハウの全精力をつぎ込んでこのロボットの開発をしている。この2つがすごく重要ではないかと考える。
 いつもそのとき思うのは、我々もそうだが、アプリケーションの側にいる方にも、現在のロボット技術をぜひ理解してほしいし、そのチャンネルがいつも必要なのではないか。まだまだこれはできないだろうと思ったところが、実はできていたとか、そのようなことは数多くあり得ると思う。このかけ橋になるような人たちは、今、ほとんど日本にはいなく、お互い個人ベースで知り合ってやっていっているというのが現状ではないかと考える。その辺のつなぎ、これはいろいろな意味で国土交通省とか、経済産業省とか、ニュートレの立場におられるところなのか、それともコンサルティング会社なのか、よく分からないが、そのような仕組みが日本の中にあると非常にいいと考える。お答えになったかどうかわからないが。

【森地座長】 まだお話を伺いたいが、時間が来たので、これで締めさせていただく。

5.今後の日程
【森北調整官】 次回については、日時、ゲストスピーカーについては現在調整中であり、決まり次第ご連絡をさせていただく。

6.閉会


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