会議記録

【森地座長】 極めて単純な質問だが、私は交通屋で測量の研究室に在籍している。写真情報を処理するのに1枚、2枚ならできるが、大量の写真を短期で処理する技術がない。例えると、今、宇宙開発事業団で、わりあい低いところにとどまって同じ場所の写真を連続して撮る。その写真の解像度が例えば10センチだと、人間がその写真を見ると、高速道路の自動車を1台1台特定できる。しかし、それが何万台も流れていると、自動車を1台1台特定することになり非常に大変で、例えばRGBとか、あるいは光学的なパラメータで転換しても、先ほど述べられたように、人間は感覚的にすぐ自動車だとわかるのに、たくさんの誤差が出てしまう。
 また、例えば首都高とか阪高で、トンネルの中の事故で車の流れが止まったことを即座に認知する技術開発をしている。ところが、渋滞して止まっているのか事故で止まっているのか認知ができない。人間ならなんでもないことが、写真のいわゆる論理回路にすると上手くいかない。先ほど人間の感性の話をしておられたが、視覚情報を今までのような工学的なパラメータ以外で何か処理するような、そのような技術開発はあるのか。

【高西】 それはロボットの世界に、という意味か。

【森地座長】 はい。

【高西】 視覚はあまり専門的ではないが、この前のロボットの国際会議もそうだが、ペーパーを分野別に見ると、ビジョンが一番多い。よく分からないが、あるかもしれない。人工ニューラルネットを使ったパターン認識や、三菱のニューラルチップを載せたCCDとうまく関連づけられるかもしれない。
 あと思うことは、事故のときに客観的に事故を調べることも大切だが、事故に遭わせた運転者が事故だと思った顔が認識できればと。直接事故を認識するのではなく人を認識する、あるいは何か客観的に血圧や心拍をとるなどの方法を上手く利用して、人から取り出すとことができれば、そのようなものを車に装備し、ITSか何かを使ってトランスファすることも可能ではないかと考える。地震も同様に、人が計測できることにより、大きく広がることがあると考える。

【松本】 ロボットの問題で、一番恐怖を感じていること。例えばこの部屋、これだけのサイズがある。これに組み込めば容量は十分ある。ビルならビル、家なら家、それ自体がロボットならば、プライバシーは守れるのかという問題がある。建て売りを買ったが、そこから全部筒抜けだと。何を食べた、どのように歩いたというような問題までロボット技術に応用されないとも限らない。
 このマイクのスタンド、これがロボットならば、何をメモしたかまで分かってしまう。そのような恐怖感がある。人は自分のプライバシーや、あるいは見られたくないものがある。おならをしたのまで分かると、これはまた具合が悪い。プライバシーの問題なのだ。床が、全部ロボット化で認識できるようになれば、道路もそうなる。そのため、将来はそこの応用の仕方、活用の仕方の定義というか、法的なきちんとした決まりをつくっておかなければならない。
 それから、人間は限りない欲望があるので、自分がもう1人、2人いたら5倍ぐらい働けるなと思う。ノウハウを読み取り、自分にそっくりなものを複製して、「おまえ働け、おれは寝る」と言って、例えば今日ここへ来ているのは実はロボットで、自分は家で酒を飲んでいる。同じことを応答するのだから、後でデータをもらえばいいというようなことになりかねないと考える。究極は、まだ大分先かもしれない。
 構造物や車や、例えば酔っぱらって車に乗って寝込んでいても、「家」と言うと、その車は家に帰る。このような車は比較的早くできると思う。そのときに、プライバシーの保護という部分に留意、注意をするような技術開発の方法をしないと大変なことになるなと考え、心配をする。
 物体を見て、あそこにあるのは演壇だと思っていたら、実はあれはロボットで、全部情報を……。先ほど見せていただいたロボットに近いロボットと話をした。「おまえ、おれが誰だか分かるか」と聞くと、「知らねえなあ」と答える。「松本だよ」と言うと、「そうか、松ちゃんか」と。「おまえ、きょう何見た?」と尋ねると、「つないで、つないで」と答える。モニターにつなぐと、その部屋の様子が全部再現される。自分の映像も出ている。これは恐ろしいことで、簡単に会議もできない。
 それが、ロボットの形をしていればいいが、違う形をとられた場合に識別ができなくなる。この恐ろしい問題が、今でも既に盗聴器や隠しカメラの形であらわれている。逆に、そのようなものを探知するものを自分が身につけておかないと危ないという気がする。その辺りについては、どのようにお考えなのか。

【高西】 大変に重要な指摘をいただいた。私も、プライバシーの問題は大変に大きな問題だと考えている。ロボットに限らず、あらゆる技術というのはもろ刃の剣で、両面を持っており、いかにしてセキュリティーの問題、プライバシーを守るのか、大変重要で、何とか社会的な形で組み込んでいかなければならないと考えている。パワーポイントで先ほど簡単に述べたが、ヒューマノイドロボットとして生き物を感じる、それはよいのだが、2番目、これも今の松本先生に直接は関係ないが、日本はロボットを大変利用しやすい社会である。
 私のところに、年間20ぐらいの欧米を含めたメディアの取材があるが、ほとんどが「日本で人型ロボットを研究しているが、こんなことをやっていいのか」と。キリスト教的には、神が人をつくった。人が人をつくるということは禁止されているわけである。それを日本は、国として行おうとしている。そんなことをして大丈夫かというのが大半の意見である。多神教的な文化と一神教と、かなり大きな隔たりがある。
 アジアは、人型ロボット、動物型ロボットを非常に受け入れやすく、逆に、この部分で切り込めば、欧米とは大きく水をあけるようなことができると考える。
 それから、松本先生も述べられたが、日本人は非常に独特の文化というか細かいことによく気がつく。家電製品を見たら分かるが、日本が世界一である。アメリカなどへ行くと値段は安いが、機能的に見ると、はるかに日本が上である。
 それから、臓器移植も、ドイツは1人の心臓外科医が1,500人ぐらい心臓移植をやっている。日本は約3年でまだ20人に達していない。ほとんど有機と無機を区別しない社会であり、逆にいうと多神教的であり、それは臓器移植でいうと非常に否定的なわけである。そうすると、人工臓器の方がかえっていい。日立、東芝がつくった人工心臓は高いかもしれないが、入れたほうが楽だということになる。
 3番目は、ヒューマノイドロボット需要社会のためには、やはり制度が要ると思う。それはライセンス制であり、先ほどのセキュリティーともかかわる。全くの野放しで完璧なロボットは、そう簡単にはできないと考える。保険制度とペアにすることが必要だ。事故は絶対起きないとは言えない。
 あと、問題を起こしたときに、航空機と同じように、ブラックボックス的なブラックチップを入れないと販売できないようにしたらどうか。自動車で今行われているらしいが、問題を起こしたときに、第三者機関だけがその中で暗号化された、例えばロボットの行動を過去1カ月分であるとか、全部内部データを記録しておいて、それを取り出して解析する。そうすると、例えば人が走ってくると、足を出せと言っているのではないかと。それで怪我をしたと。ロボットの使用者、つまりユーザーの問題である。自立ロボットにするとユーザーの言うことを聞くようになり、ユーザーが悪意を持ってロボットを使えば、どんなことでも悪意に使える。
 ところが、そうではなく、例えば東芝がつくったプログラムにバグがあり、たまたま条件が合致すると、足をぱっと出して人をけがさせたと。もちろんPL法にひっかかるだろう。この辺りの問題をきちんと入れないといけないのではないか。
 これは、もっと先の問題かというとそうではない。テムザックの社長から言われたが、2年前に、マリアと言われているT4という少し女性みたいなロボットを、北九州から遠隔操縦して、福岡で買い物実験をしていたらしい。店の人も驚くが、買いにきているお客も驚く。だれも人がいないのに、突然外から来て、あれ何、これ何と言う。そのうち人だかりができ、道路にまではみ出して車を止めたらしい。福岡県警がかんかんに怒り、後で社長を呼び出して、道交法違反の容疑があるということで対応しているうちに、警察官の顔が変わった。遠隔操縦されたロボットは、歩行者でもなく自動車でもないので関係法令がなく、無罪放免で出てきたそうである。
 社長は非常に怪訝な顔をして、自分たちはこれを商売にしたいのだから、しっかりした法律がないと、今後このようなものを販売できなくなる可能性があると大変に気にしていた。近い将来、ロボットを操作する人を皆集めて、ロボットでデモでも始めようかと冗談をいうぐらいで、これはやはりある意味で急がれる問題だと考えている。


ページ 1 2 3 4 5 6 7