「バスが来ない。タクシーも呼べない」そんな“交通空白”の風景が、全国の地域で当たり前になりつつあります。
こうした課題に対し、「地域施設送迎のリソースシェア推進プロジェクト」では、既存の移動資源を地域全体で活用する新たなアプローチを模索しています。バス路線の縮小、タクシー不足、高齢者の免許返納。移動の担い手が減っていく一方で、支援を必要とする人たちは増えています。
そこで着目したのが、すでに地域内に存在する送迎車両やドライバーといった既存の移動資源です。
本実証では、福祉施設や宿泊施設などが保有する送迎車両の空き時間を可視化・共有し、地域内で有効に活用する仕組みの構築を目指しています。ソーシャルアクション機構やEXA INNOVATION STUDIOをはじめとする関係者が連携し、課題解決に向けた可能性を検証していきます。
福祉・観光・教育が連携する「送迎の共助」
今回の実証では、地域のさまざまな施設で使われている送迎車両を、福祉・観光・教育などの分野を越えて共用することを目指します。共通の配車管理システムを開発し、専門知識がなくても直感的に使える画面にすることで、現場での運用を簡単にしています。
この取り組みの核となるのは、全国に約25万台あるといわれる福祉系送迎車両。その多くが1日平均4時間程度しか稼働しておらず、残りの時間は“眠っている”のが現状です。
写真提供: 一般社団法人ソーシャルアクション機構
「この空き時間を、地域全体の移動課題を支える資源に変えたい。いまあるものを見える化し、つなげるだけでも大きな効果が見込めます」と語るのは、一般社団法人ソーシャルアクション機構の大江一徳さん。
送迎は、誰かの“ライフライン”になる
例えば、観光地の宿泊施設が人手不足のため限られた時間しか客を送迎できないケース。あるいは、共働き家庭で習い事への子どもの送迎に困る親たち。これらの課題は、一つひとつは小さく見えても、地域全体では大きな移動の壁になっています。
「観光や教育の現場でドライバーが足りない。そういうときに、福祉で培った仕組みが役に立てば、移動の選択肢が一気に広がるはずです」と、大江さんは話します。
「送迎があるかどうかで、外出できるかが決まる人も多い。だからこそ、効率化だけでなく、人の生活を支える視点を忘れずにいたいと思っています」
写真提供: 一般社団法人ソーシャルアクション機構
“小さな移動”を地域で支える新しい仕組み
写真提供: 一般社団法人ソーシャルアクション機構
この実証では、送迎システムのOSS(オープンソースソフトウェア)化や、軽量インフラへの対応も視野に入れています。コストを抑えながらも拡張性の高い仕組みにすることで、都市の辺縁部から中山間地域まで、さまざまな地域での実装を可能にします。
「移動の仕組みは、もう公共交通だけでまかなえる時代ではありません。過疎地域でも残っている移動リソースを、地域全体でどう活かせるか。その問いに向き合うための第一歩です」と話すのは、EXA INNOVATION STUDIO IT Directorの松田直樹さん。
共同配車管理システムの画面イメージ
「本システムは、民間主導で持続可能な運用を目指し、行政の財政負担を大幅に抑えられるモデルとして設計しています。補助金への依存を最小限に抑えながらも、地域にとって実効性のある新たな交通手段として機能することが、この取り組みの大きな特徴です。ぜひ地域モデルのひとつとして導入をご検討いただき、移動の新たな可能性を一緒に切り拓ければ幸いです」(松田さん)
実証止まりにしない。社会に根づかせるために
今回の取り組みでは、福祉領域で培ってきた送迎サービスの効率的な配車管理システムをさらに使いやすくし、観光や教育といった新たな分野にも展開しようとしています。このシステムを活用することで、送迎車両の分野を越えた共用を促進し、各地域の移動課題解決に貢献します。実証が終わったあとも、実証地域での社会実装化や他地域への横展開を通じて、持続可能な事業モデルとして確立することを目指します。さらに、この取り組みを通じて得られた知見を基に、より柔軟な地域交通を実現するための制度提言も積極的に行っていきます。
「これまで何度も『いい実証だけど続かなかった』という事例を見てきました。でも今回は、現場の課題に真正面から向き合い、継続できるモデルとして社会に根づかせたい。私たちはその一歩を、今、踏み出します」(大江さん)
送迎という日常的で小さな移動を、地域が持つ資源(施設・車両・人材)と、企業(福祉・観光・教育)、そして自治体(市町村)や関連団体(観光協会、社会福祉協議会、教育委員会など)といった多分野にわたる連携を組み合わせた革新的な仕組みへと進化させます。この取り組みが、各施設の車両を地域の新たな交通インフラへと昇華させる日も、決して遠い未来ではありません。