「21世紀の国土のグランドデザイン」戦略推進指針

 

T 指針の性格

新しい全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン−地域の自立の促進と美しい国土の創造−」は、21世紀に我が国が目指すべき国土のあり方として、「庭園の島」ともいうべき美しい国土の形成を構想している。それは、地球規模での環境、資源の有限性が強く意識されるなか、豊かな生活の源泉である経済社会の活力を維持しながら、自然を保全、回復するとともに、人間活動に充実感と生きがいを与える文化を創造し、人々に多様な暮らしの選択可能性を提供する国土、歴史と風土の特性に根ざした新しい文化と生活様式を持つ人々が住む国土である。

 「21世紀の国土のグランドデザイン」は、こうした国土の構想を4つの国土軸からなる多軸型国土構造として描き、東京と太平洋ベルト地帯に人口や諸活動が集中した一極一軸構造を、多軸型国土構造へと転換していくことを目指している。「多自然居住地域の創造」「大都市のリノベーション」「地域連携軸の展開」「広域国際交流圏の形成」の4つの戦略は、多軸型国土構造への転換の端緒を開き、21世紀のあるべき国土の姿の実現へ向けて重点的に取り組むべき施策であり、「21世紀の国土のグランドデザイン」は、これら戦略が着実に推進されるよう「戦略を推進するための指針となるものを速やかに策定し、4つの戦略の具体的な推進方策を明らかにする」ことを求めている。

 本指針は、「地域の選択と責任に基づく主体的な地域づくりを重視して、多様な主体の参加と相互の連携によって国土づくりを進める」とした「21世紀の国土のグランドデザイン」の基本的な考え方に立って、地域づくりに主体的に取り組む地方公共団体や様々な民間主体が4戦略に沿った地域づくりを進める上での施策の方向を示すとともに、国と地域との連携により戦略を効果的に推進する観点からの国の施策の方向を併せて示している。今後、これをガイドラインとして、各地域において創造的な施策が推進されることを期待する。国は、本指針に示された考え方に沿って、参加と連携による地域づくりを適切に支援していく。地方公共団体等においても、ここに示された考え方に沿って各般の施策を講じられることを期待する。

 国は、本指針に基づく4戦略の推進と併せ、「21世紀の国土のグランドデザイン」に示された各般の施策を総合的に推進することにより、多軸型国土構造への基礎づくりを目指す新しい全総計画の効果的な実現に取り組む。

 

 

U 戦略推進のねらい

1 4戦略の基本方針

(1) 多軸型国土構造への転換の基礎づくり

 一極一軸型国土構造から多軸型国土構造への転換の基礎づくりを進めるために、以下の目標に向かって、4つの戦略を推進する。

 @21世紀の新しい生活様式の創造

 新しい全総計画は、一極一軸集中の国土構造が「経済面を中心とする欧米への最短コースでのキャッチアップという20世紀の歴史的発展」によって形成されてきたものであり、その結果、「近代的ではあるが無機質で画一的な地域形成が進んで、各地の文化と生活様式の多様性が失われた」との反省に立ち、「20世紀型の都市、産業文明の波に洗われることの少なかった地域を、21世紀の文明の創造を目指すフロンティアと位置付け」、「我が国の近代国家的地域像となった太平洋ベルト地帯のそれとは質的に異なる」、新しい生活様式が展開される地域の創造を目指している。また、これまで20世紀型の都市化が進んできた大都市等においても、人口増加圧力の緩和がもたらす機会を活かして、過密の弊害を解決することに止まらず、安全でうるおいのある新しい生活空間を創り出すことを目指している。「多自然居住地域の創造」「大都市のリノベーション」等の戦略の推進により、21世紀の新しい生活様式が展開される地域を創造し、一極一軸型国土構造からの転換を進めていく。

 A都市間の階層構造を、より水平的なネットワーク構造へ転換

一極一軸型の国土構造は、また、東京を頂点に「中枢」とそれへの「依存」という関係の都市間の階層構造を作り出してきた。新しい全総計画は、国土構造の転換に向けて、そうした都市間の階層構造を、より水平的なネットワーク型に転換していくことを目指している。そのためには、東京圏、関西圏、名古屋圏の三大都市圏と併せて、地方中枢都市圏及びこれらに準ずる規模と機能を有する地方中核都市圏を中枢拠点都市圏として整備し、全国土に及ぶ中枢拠点都市圏のネットワークを形成していくことが必要である。また、人口が減少局面に入り新しい大きな人口集積を創り出すことが困難になることから、都市圏間の地域連携によって集積に替わる効果を発揮し、諸機能のレベルアップを図っていくことが、都市間の階層構造をより水平的なネットワーク型に転換していくことに寄与するものと考えられる。「地域連携軸の展開」を始めとした4戦略の推進により、こうした水平ネットワーク型の都市間構造への転換を進め、一極一軸集中型の国土構造を是正していくことが必要である。

なお、首都機能移転の具体化に向けても積極的に検討を進め、開かれた公正な手続きの下で国民の合意を図る必要がある。

 B地域の国際交流機能の自立

 様々な国際交流機能が東京等大都市に集中し、そこを経由して地域が世界に接する現状は、一極一軸集中型の国土構造を強めるものとなっている。地球全体が一つの圏域となる「地球時代」にあっては、各地域が、世界の中でのアイデンティティを確立し、世界に誇り得る国土の一翼を担い、それぞれの特性を生かした国際的役割を担っていくことが重要である。「広域国際交流圏の形成」等の戦略を推進し、全国各地域が相互の連携によって、東京等大都市に依存せずに、十全な国際交流機能を発揮し得る「国際面での自立」を進める。

(2) 参加と連携による戦略の推進

 「21世紀の国土のグランドデザイン」は、「参加と連携」による国土づくり、地域づくりによって計画を推進することとしている。4戦略の推進も、以下のような効果に着目して「参加と連携」によって進めることを基本的方針とする。

 @多様な主体の参加と連携による誇りの持てる地域づくり

 国と地方の適切な役割分担の下、各地域では、地方公共団体のみならず、地域住民、ボランティア団体、民間企業等、地域づくりにおける多様な主体が参加、連携して、4戦略による地域づくりを推進していくことが必要である。「庭園の島」とも言うべき多様性に富んだ美しい国土を創るという「21世紀の国土のグランドデザイン」の目指す国土の姿を達成するためには、地域住民が自らの選択によって、自身にとっての新しい価値を発見し、「誇りの持てる」地域を創っていくことが必要である。国や地域の発展のあり方、生産や生活のあり方について、「近代化」のような普遍的モデルがない時代を迎えており、各々の地域が自らの手で、新しい「地域像」を創造していくことが必要である。こうした新しい「地域像」が、住民、企業等、地域の様々な主体の地域づくりへの参加の中から創造され、共有されてはじめて「誇りの持てる」地域ということができる。

 A連携効果の発揮

 人口が減少局面に入り、将来の人口増加に期待した地域活力の増大が困難になる、高齢化による貯蓄率低下等から投資余力が制約され、既存ストックの活用を含め効率的な国土基盤の活用が必要になるなど、経済社会的な制約条件が強まることが見通される。

そうした制約の中で地域づくりに求められるのは、「「集中」と「巨大化」により集積効果を上げるのではなく、広い圏域において、それぞれに個性的な地域間の「連携」と「交流」により集積に替わる効果を発揮させる」ことである。また、投資余力の低下が見通されるため、これまでの経済発展の過程で蓄積してきた社会資本の既存ストックを、地域の連携によって一層活用していくことが求められている。

 さらに、複数の独立した意思決定の主体が、地域の個性と主体性を重視し、共通の目的に向かって互いに意見を交わし合う中から、新しいものが創造される等の効果を発揮することも期待される。

 こうした地域連携の経験から、さらに、既存の地方公共団体の範囲を超えた意思決定主体を創り出していくこともありうべき選択肢として期待される。その際、地域の課題を包括的に解決する観点からは、広域連合や一部事務組合等既存の行政制度の活用のみならず、市町村の自主的な合併を推進することが効果的である。

 

2 各戦略推進のねらい

A 「多自然居住地域の創造」

(1) 都市と農山漁村等の多様な連携による魅力ある地域の創造

 中小都市と農山漁村等の連携を通じた機能分担と相互補完により、豊かな自然に恵まれた環境の下での安全でゆとりある生活、独自の地域文化とふれあう生活を求める国民のニーズにこたえるとともに、活力ある生産空間を確保する自立的な地域づくりを進め、多自然居住地域を創造する。さらに、中枢・中核都市等との交流、連携により高次都市機能の享受や新しい産業の創出を図るなど、多様な連携により地域の活性化を促進する。

(2) 新しいライフスタイルの実現と地域の誇りの醸成

 豊かな自然環境と都市の利便性を併せて享受できる居住環境を作り出すことにより、生活のゆとりと充実感が確保され、美しさとアメニティに満ちた魅力ある生活空間を形成する。同時に、住民自ら地域のアイデンティティの基礎となる個性豊かな地域文化の見直し(再発見)を行い、これを活用し次世代に継承すること等により、地域の特性を生かした新しい文化と生活様式を創出する。これらを通じて、都市住民、農山漁村の住民それぞれにとって新しいライフスタイルを実現し、地域に自信の回復と誇りの醸成を促す。

(3) 人と自然の新しい関係の構築

 自然と人間との豊かなふれあいを保ちつつ、森林、農用地、河川、海岸等の地域資源を良好に保全・管理するとともに、自然環境を美しく健全な状態で将来世代に引き継ぐことを目指して、多自然居住地域において、21世紀にふさわしい人と自然の新しい関係を構築する。

B 「大都市のリノベーション」

(1) ゆとりとうるおいのある大都市空間の創造

 大都市圏は、近代化の過程で生じた極端な人口、諸機能の集中により、いわゆる過密問題が発生し、ゆとりとうるおいに乏しい空間となった。人口減少が確実視され、大都市圏への人口、諸機能の集中の状況にも変化の兆しがみられる今、大都市のリノベーション(修復・更新)を進め、新しいライフスタイルや芸術・文化への希求、環境保全への認識の深化等の国民生活の変化に対応し得るゆとりとうるおいのある大都市空間を創造する。

(2) 暮らしの安全と安心の確保

 平成7年1月に神戸を襲った大規模地震は、稠密な利用がなされる大都市圏の脆弱性を全世界に知らしめ、大都市住民は身の回りの暮らしの不安を強く認識することとなっている。一方、戦後のベビーブーマーが集中し、若者文化を積み重ねてきた大都市圏は、今後急速に高齢化が進むとみられ、単身生活の人々、コミュニティから離れた人々等が安心できる大都市生活を求めている。大都市生活における安全と安心の確保を目指して、大都市のリノベーションを進める。

(3) 国境を越えた都市間競争に対応した大都市機能の発揮

 我が国の活力を維持・発展させ、国際社会の中で我が国が果たすべき役割を発揮するために、大都市圏は引き続き経済活力を維持・向上していくことが期待される。大都市のリノベーションにより、既存の集積の維持・更新と選択的分散を図りつつ、過密の弊害から機能不全に陥っている諸機能を活性化し、あわせて、新たなニーズに対応した高次都市機能の整備を図り、国境を越えた都市間競争に対応した大都市機能の発揮を目指す。

C 「地域連携軸の展開」

(1) 都市圏間連携による地域における高次機能の充実と相互活用

 将来的に人口減少、投資余力の制約が見込まれる中、交通、情報通信基盤等の整備がもたらす経済社会活動の拡大の効果を最大限に発揮するため、様々な規模の都市圏等の多様な広域的連携による地域連携軸を形成して、機能分担と相互補完に基づく地域連携軸内の高次機能の充実とその相互活用を図る。このことを通じて、地域における経済活力の維持・向上と人々の暮らしの高質化を実現する。

(2) 全国土における高次機能享受の機会均等と我が国の活力の維持・拡大

 地域間の「連携」と「交流」により地域の持つポテンシャルを広域的に発揮し、広域レベルで高次機能を充実していくことを通じて、全国各地域の高次機能享受の機会均等を実現する。

 さらに、技術、人材、文化等の諸資源・機能の集積の拠点としての中枢拠点都市圏と地方中核都市圏等の連携により、都市空間整備を進めるとともに、各都市圏が特色ある高次機能を一層充実させ、広域的に活用することを通じて、国土全体のポテンシャルを最大限に発揮させ、我が国の活力を維持・発展させる。

(3) 選択可能性の高い暮らしの実現と新しい価値の創出

 地域連携軸の展開を通じた施設利用圏域、サービス提供圏域の広域化により、いわゆる「規模の経済」や、提供可能な財・サービスのメニューの多様化、選択可能性の拡大をもたらす「範囲の経済」を実現する。また、地方公共団体等が共同、分担して基盤投資を行うことにより、「投資の効率化」を図る。さらに、主体的な連携、交流による「地域の個性の自覚と向上」を図るとともに、異なる資質を有するもの同士の連携、交流により、「新しい文化や価値の創出」を目指す。

 

D 「広域国際交流圏の形成」

(1) 参加と連携による地域の国際交流機能の広域的な強化

 地域における国際交流活動の多くは、住民、企業、地方公共団体等個々別々に行われ、かつ、地方公共団体の行政界を境にさらに分化して行われているのが実状である。このことが、地域における国際交流に係る機能向上を阻害し、交流活動にも制約を与えていると考えられる。地域において、東京等大都市に依存しない自立的な国際交流を展開できるよう、各地域に現われ始めている参加と連携の動きを加速させ、地域が関係主体の合意の下で、広域的な地域連携により、国際交流機能を強化する「広域国際交流圏」の形成を推進する。

(2) 世界に誇り得る開かれた国土の形成

地域での国際交流の活発化により、我が国における国際交流のインバランスの緩和、東京中心という国際交流に関する地域的不均衡の是正が進むと期待される。これにより、国土全体を舞台に、ニーズの高まるアジア地域を始めとする世界各地と経済、学術、研究、文化、スポーツ、観光等多様な分野における交流が展開でき、住民、地域が主体となって、各地域の持つ資源、魅力を生かして、国際的な役割を担うことができる、世界に誇り得る開かれた国土の形成が進展する。

(3) 主体的な国際交流による地域の自立

 広域国際交流圏の形成への取組が、地域レベルでの国際交流を拡大させ、これにより、地域の主体性の向上、地域の誇りの醸成、国際的資質の向上、創造力の涵養等の効果が生ずると期待される。これらを通じ、地域の自立を促進し、国際的な地域間競争にも資する。

 

 

 

V 地域における施策推進の方向

 

1 参加と連携を進める基本的施策

 「参加と連携」を基軸とした各戦略の推進に当たっては、この理念の普及が十分でないこと、必要となる合意形成が容易ではないこと、関連する情報が蓄積されていないこと、参加や連携を求める地域の範囲が地域づくりのテーマによって様々であること等から、次の施策を基本的施策として推進することが必要である。

(1) 意識の変革と参加・連携の気運醸成

 4戦略の推進には、国や個々の地方公共団体のみが担うのではなく、地域の多様な主体の参加と連携によって進めるものであるとの意識の変革が求められている。とくに、地方公共団体には、施設整備や運営において、単独で全てを自足しようとするいわゆる「フルセット主義」の発想にとらわれることなく、地域連携によって他の地方公共団体との役割、機能の分担を図っていくとの姿勢が求められている。

 参加と連携による地域づくりを推進するためには、地方公共団体や推進組織等が中心となって広報活動やイベントの開催に取り組むことにより、多様な主体の参加意識、地域間・主体間の連携意識の醸成を図ることが必要となる。

(2) 連携のための合意形成と連携組織づくり

 4戦略の推進のためには、複数の地方公共団体の連携、さらには企業、経済団体、ボランティア団体、地域住民等多様な主体の参加と協力により地域づくりを進めるための組織づくりが必要である。

 現在地域で進められている「地域連携軸構想」の場合にみられるように、地域における戦略推進のための組織は一様、単一ではなく、主体や分野・目的別に設けられているもの等、多様なものが並存している。連携組織の形態は地域の自主的判断により選択すべきであるが、複数の連携組織が並存する場合には、それらの間の十分な連絡調整が必要となり、都道府県、市町村には、調整役を果たすことが期待される。

 連携組織の運営等においては、民間企業の経営手法等を積極的に活用することも必要である。

(3) 身近な地域の取組を基礎に広域的連携を推進

 4戦略の推進による地域づくりには、地域づくりの主体にとって身近な地域での多様な主体の参加と連携による取組が基礎となる。多自然居住地域では、集落、旧村等の住民に身近な小規模共同体の活動を促進して、地域の社会的機能の向上が求められている。大都市においても、商店街の活性化、美しく安全なまちづくり等、身近な地域での住民参加によるまちづくりが、地域住民にとって住みやすい大都市圏をつくる基礎となる。国際交流も、地域住民、NGO、NPO、地域企業等の活動が、広域的な交流活動を基礎づけるものである。4戦略の推進に当たっては、こうした住民に身近なコミュニティでの多様な主体の参加と連携の取組を促進していくことが必要である。

 一方、コミュニティ、市町村レベルの取組を基礎として、戦略の特性、連携の目的に応じて、効果的な連携のひろがりを指向し、広域的な連携による戦略の推進が必要となる。

 多自然居住地域においては、市町村の範囲内で集落、旧村等の小規模共同体単位等で供給することが必要な住民生活に身近なサービスがある一方で、効率性等を重視するサービス等は、圏域全体における適切な連携、役割分担が必要である。市街地が連たんし、行政界を越えて経済社会活動が一体化している大都市圏にあっては、リノベーションを推進するためには広域的な連携の取組が極めて重要である。大都市圏を構成する地方公共団体間で広域連絡協議会等を設立し情報交換等も進められているが、広域的な連携により大都市問題を解決するための取組の一層の推進が期待される。さらに、広域的な連携効果の発揮が強く求められる地域連携軸の展開、広域国際交流圏の形成の戦略においては、後述するように、戦略のねらいに対応したスケールでの地域連携に取り組んでいくことが必要である。

(4) 地域資源の発掘、地域資源に関する情報の共有

 地域づくりの各種主体が個性ある地域づくりをめざして地域の価値を再発見するために、地域の魅力や長所を地域資源として発掘、保全及び活用し、地域の誇りとして域外にも積極的に発信していくことが必要である。また、地域資源を広域的に活用するために、関係市町村等が中心となって、地域に存在する基盤施設、人材・技術・文化等の資源についての一覧情報を整理し、利用に供することが必要である。

(5) 連携のための計画づくり

 4つの戦略を、地域が様々な主体の連携によって推進するためには、連携に参加する主体間での合意形成が不可欠である。参加する全ての主体の間で、連携のメリットについての認識を共有するためには、関係者によって戦略推進の計画を共同で作成することが極めて有効である。

 多自然居住地域の創造の推進に当たっては、集落や旧村等小規模共同体の活動を推進し、参加と連携による主体的な地域づくりの計画の策定等を進めるとともに、圏域全体としての合意形成を図っていく。大都市のリノベーションの推進に当たっても、大都市圏全体についての公的計画にとどまらず、地域住民による美しいまちづくりのための地区計画の策定等、合意形成のための計画づくりの活用が望まれる。地域連携軸の展開、広域国際交流圏の形成の戦略を推進するためには、地域の基盤、資源を相互に活用・共有し、連携によるメリットを発現させるための構想や計画を、関係地方公共団体の連携の下で策定し、これにしたがい、地域が主体となって具体的な地域連携事業を実施していくことが必要である。

 

(6) 地域づくりの人材育成

 多様な主体の参加と連携の下で、4戦略を地域が主体的に推進するためには、多様な主体の意見をコーディネイトし、地域づくりの計画に具体化させ、合意形成を進める等、地域づくりを主導する人材の育成を図っていくことが必要である。

 これまでの地域づくりにおいて、国や都道府県等が大きな役割を担ってきたことの一つの背景は、市町村、さらには地域住民等のなかに、計画づくり等、地域づくりのノウハウを持った人材が十分に育成されてこなかったためと考えられる。今後、各地域が真に個性のある地域づくりを進めていくためには、こうした地域づくりの人材を広く育成していくことが必要である。

 

 

2 戦略別の施策推進の方向

A 「多自然居住地域の創造」

(1) 圏域形成の考え方

 多自然居住地域の圏域形成は、基本的には市町村の自由意思で決定されるものであり、地域の生活圏域としての基盤の確立や地域の個性を生かして、独創的な地域づくりを実現することを基本として形成されることが重要である。したがって、画一的な基準で連携の範囲を定めるのではなく、流域等の地理的・社会的条件、歴史的背景等の地域の特性や各市町村相互の機能分担、連携の必要性に加え、交通基盤の整備状況や情報のネットワーク化の状況等も考慮しながら、効果的かつ効率的な圏域形成に努める必要がある。

(2) 多自然居住地域における連携の考え方

 多自然居住地域において、魅力的な生活空間を目指した地域づくりを進めていくためには、個々の住民や集落、旧村等の小規模共同体が相互に連携し、主導的なコミュニティ活動を推進していくことにより、地域の社会的機能の維持・向上を図ることが必要である。特に、中小都市との連携のパートナーとして期待される農山漁村等で、人口減少等により地域の社会的機能の維持が困難になっている地域については、活力の維持・向上を積極的に図りながら連携を進めていく必要がある。

 公共施設の整備やサービスの提供に当たっては、基礎的なサービスで住民生活に身近で頻度が高くアクセス性が重視されるものについては、各市町村の中で集落、旧村等の小規模共同体の単位で供給する必要があるが、需要集約効果が期待できるサービスや質的に充実した拠点性の高いサービスについては、広域利用を進める必要があり、地域の連携により圏域全体のニーズに対応した高質のサービス提供を目指す。さらに、大都市や中枢・中核都市等と交流、連携し、圏域外のこれらの都市地域から高次都市機能を享受することで、多自然居住地域を一層魅力あるものとすることを目指す。

 また、連携の効果を最大限に発揮させるために、異分野間の連携を適切に進め、小・中学校と高齢者福祉施設の併設や行政、福祉等の分野における郵便局等の活用など、施設の複合化や多目的利用による便益の相乗効果を生み出す。

 多自然居住地域における生活の基礎となるサービスや、情報通信基盤等地域の活性化にとって戦略性の高いものに関しては、圏域全体の地域経営の観点に立って、官民が連携して、質の高いサービスの実現に向けた整備や活用を進める。

(3) 地域の取り組む施策のポイント

 各地域が、多様な主体の責任ある参加と相互の連携により、多自然居住地域の創造に向けた地域づくりを進めていくためには、地域の実情に応じた個性ある施策を展開していくことが重要である。こうした観点から、以下のとおり、地域の取組を進めていくための基本方向と、参加と連携の観点から特に施策のポイントとなる事項を示す。また、集落、旧村等の小規模共同体の住民に身近な地域単位で自立的に地域づくりを進める一方で、圏域全体で多様な主体が連携して取り組むという重層的な施策の展開が必要であることから、施策の対象範囲に応じ、集落・旧村等の小規模共同体単位、市町村単位、圏域単位に区分した具体的な施策例を表1に示す。

 1)多自然居住地域の創造に向けた体制づくり

 多自然居住地域の創造に当たっては、市町村、農協、商工会、ボランティア団体等多様な主体が起業家的な積極性と能力を持って地域づくりを進めるための組織体制の整備やこれを支えるための人材開発・育成を推進するとともに、集落、市町村等やこれらの連携を単位とした地域づくり計画の策定等を行うなど住民の地域づくりの参加を促進する。

 @圏域全体の地域づくりを進めるための組織体制の整備や人材開発・育成

 多様な主体の参加により、圏域全体の地域づくりを推進するための組織体制を整備するとともに、地域づくりアドバイザーやコーディネーター等の人材開発・育成、民間企業の経営手法、資金、人材の積極的活用等を推進する。

 A住民の地域づくりへの参加の促進

 集落、旧村等の小規模共同体の活動を推進し、集落、市町村等やこれらの連携を単位として、主体的に地域づくり計画を策定し、これを実現するための組織を整備するなど、住民の地域づくりへの参加を促進する。さらに、地域の自然環境、歴史、文化等を理解する機会を提供することにより、住民の参加意識を醸成する。

 2)ゆとりある居住環境と圏域ニーズに応じた都市的サービスの確保

 自然環境と調和したゆとりある居住空間を創出し、暮らしの選択可能性の向上を図るため、圏域の中心都市として都市的サービスや身近な就業機会を提供する機能を担う中小都市等と、自然環境の保全と回復も含めた独創的な地域づくりを行う農山漁村が、相互の適切な連携と役割分担を行いながら、地域の特性を生かして交通基盤、情報通信基盤、生活環境基盤等の整備を推進し、地域全体の活力の向上を図る。

 @圏域内外の交流・連携を促進するための交通、情報通信基盤の整備、活用

 多自然居住地域の活力の向上を図る上で必要不可欠な交通基盤や情報通信基盤の整備に当たっては、道路整備と道路空間を活用した光ファイバーケーブルの敷設等各種公共事業の一体的実施等による、投資の効率化を進める。さらに、これらの基盤の活用に当たっては、住民生活の利便性の向上の観点から、公的機関保有のバス等の多目的な活用、ローカルメディアの育成等を図る。

 A中心市街地の活性化の推進

 中心市街地において、地域における創意工夫を生かしつつ、都市基盤施設等の整備による市街地の整備改善及び公共施設と民間施設の集約化や新規事業の立地促進等による商業等の活性化を一体的に推進するための措置を講じ、地域の振興及び秩序ある整備を図る。

 B地域の特性を生かした暮らしの条件整備

 地域の実情に応じて、学校と福祉施設の併設等異分野施設間の連携や既存施設の有効活用を図りつつ、医療・福祉、教育、文化、消費等住民の日常生活に関するサービスの充実を図る。

 3)美しくアメニティに満ちた地域の管理と保全

 多自然居住地域において、魅力ある生活空間の形成や「美しさ」「アメニティ」の確保を図るため、地域住民の合意形成を図りつつ、個性ある地域づくりや自然景観・文化景観の保全・向上を図るとともに、森林、農用地等公益的機能の発揮が期待される地域資源の適正な管理・保全を図る。

 @特色ある美しい景観の形成

 集落、旧村等の小規模共同体から圏域全体に至るそれぞれの地域において、多様な主体の参加を得つつ、土地利用に関する調整や景観、街並みに関する条例の制定等により、特色ある美しい景観を形成する。

 A住民参加による地域資源の発掘と管理・保全

 住民主体の調査、点検活動の実施により、伝統文化等の文化資源や自然資源など地域の魅力や長所を発掘し、それを地域の誇りとして保全、活用し、圏域外にも積極的に発信する。また、上下流域の連携により、森林、農用地等公益的機能の発揮が期待される地域資源の適正な管理・保全を図る。さらに、価値が見直されつつある里山林、棚田、白砂青松の海岸等の保全活動を広域展開する。

 B圏域内の資源・エネルギーの循環的、効率的利用

 地域循環型の資源・エネルギー利用を進めるため、圏域内の連携による有機物等の資源リサイクルの促進や、風力、地熱、水力等地域エネルギーの有効活用を図る。

 C自然とのふれあいの場の計画的、体系的整備

 多自然居住地域全体を、自然とふれあい、自然への理解を深めることができる空間として活用するため、生態系のネットワーク化や自然体験活動の推進体制の充実を図りつつ、自然体験のための遊歩道・施設等を計画的、体系的に整備する。

 4)自然に恵まれた地域特性を生かした産業及び就業機会の創出

 多自然居住地域の産業展開に当たっては、地域の中心となる都市と周辺地域を一体としてとらえ両者が都市的機能と自然的機能を相互補完するという広域的視点に立つとともに圏域外の中枢・中核都市等との機能分担等も考慮した産業展開の可能性を追求することが重要である。こうした観点から、農林水産業の振興を図ることはもとより、地域資源の活用や新技術の導入等により第一次産業等の既存部門を高付加価値産業へ再編し、また圏域内外との連携による新規産業の創出を行う。さらに、地域の福祉や環境問題に関連した新たな雇用需要に対応した就業機会を創出する。

 @地域特性を生かした付加価値の高い産業の創出

 地域固有の自然環境や文化等の地域資源を生かし、基幹産業である農林水産業の振興に加え、第二次産業、第三次産業との複合化による、付加価値の高い産業の創出や、自由時間の拡大に対応した観光レクリエーション産業等の展開を進めるとともに、地域経営を担う起業家的人材を育成する。

 A高度情報通信の活用による産業及び就業機会の創出

 高度な情報通信基盤の活用により立地自由度の高い産業の展開を図るため、テレワークセンターやリゾート型サテライトオフィス等の設置により、多様な知的生産活動の場を提供する。

 B介護サービス等新たな地域産業の展開

 地域教育、地域情報、高齢者の介護・福祉、環境保全等に関連した新たな地域産業の展開により、雇用機会を創出する。

 C都市住民等の受け入れの推進

 新たな就業の場を多自然居住地域に求める都市住民等に対して、研修、就業機会の確保等の支援を行うとともに、地域の就業に関する情報提供体制を整備する。

 

表1 「多自然居住地域の創造」に関する個別施策例

 

 

B 「大都市のリノベーション」

(1) 施策推進の視点

 1)身近な地域でのまちづくりの推進

 大都市圏を再生するためには、それを構成する各々の地域を、活力に富み、その住民にとって魅力のあるものとすることが必要であり、身近な地域での住民、NPO等の参加と連携により、ゆとりとうるおいのあるまちづくりを推進する。

 全国から若者が集まり、人口流動の激しい大都市圏においては、地域での人々のつながりが薄く、これまでのまちづくり等は地方公共団体の担う役割が大きかったが、萌芽がみられるまちづくりへの住民参加の動きを加速させて、下町の良さの回復、商店街の活性化、水と緑とのふれあいの拡大、美しい景観の創出、バリアフリーのまちづくり等、様々なテーマでの住民、NPO等によるまちづくりを推進する。

 2)広域的な取組の推進

 大都市圏は、市街地が連たんし経済社会の諸活動も一体化しているため、そこでの問題の解決を、行政界をこえた広域的な取組によって推進する。

 長距離通勤、交通混雑等をもたらし、大都市生活をゆとりのないものとしている商業、業務等諸活動の都心への集中を是正するためには大都市構造の転換が必要であり、これまで国、地方公共団体等が定めた総合的施策を官民、地域間の広域的な連携によって推進する。さらに、ネットワーク効果が顕著な交通需要の調整、ごみ処理や環境問題、防災における地域間協力等、広域的な連携、協力の効果が大きい分野を見定めて、行政界を越えた広域的な取組を進める。

 3)社会資本ストックの円滑な更新と活用

 大都市圏を安全でうるおいのある空間とし、かつその活力を維持・向上していくために、社会資本ストックの維持・更新を円滑に進め、また、既存ストックを有効活用する。

 これまでの経済発展の成果として、大都市圏には維持・更新の必要な社会資本ストックが、他の地域に比較して多量に存在し、これら社会資本ストックの適切な維持・更新がなければ大都市機能の維持にも支障を生ずるおそれがある。日々の稠密な利用の中でこれら社会資本ストックの維持・更新、新たな基盤の整備を円滑に進めるために、基盤利用者、施設整備主体、土地所有者等関係者の連携、協力に基づいて、適切に施策を推進する。さらに、社会資本ストックの維持・更新に当たり関連既存ストックの可能な限りの有効活用を図る観点から、機能のリニューアル、管理主体の変更、小規模施設のネットワーク化等ソフトを重視した様々な取組を推進する。

(2) 地域の取り組む施策のポイント

各地域が取り組む施策について、@(1)に示した施策推進の視点に対応したものであること、A地域の主体性が高いこと、B多様な主体の「参加と連携」によって進められることの3点に留意しつつ、施策分野別に例示すると以下の通りである。より具体的な施策例については表2に示す。

 1)うるおいのある都市空間への転換

 @ゆとりある都市空間の形成

大都市圏に生活する人々が心にゆとりとうるおいを感じることができるよう、都心部の空洞化、職住の遠隔化等に対処しつつ、高度利用すべき地区等の地域特性、高齢単身世帯の急増等の世帯構造変化等に応じた生活空間の整備に努める。

このため、高層住宅の建設を誘導するような規制緩和制度や低未利用地の利活用により様々なニーズに応じた都心居住の積極的推進を図る。また、レクリエーション活動の場や憩いの場を確保することによるうるおいのある生活空間の創造、歴史的・文化的建造物等の保全・活用、地域住民の「参加と連携」によるまちづくり等地域に密着した居住環境の形成等を推進する。さらに、住民グループ等がゆとりあるまちづくりの進捗状況等をモニタリングする仕組み(大都市圏ウォッチャーズ)を編成する。

 A安心できる地域社会の創造

高齢化・少子化の急速な進行に対処するため、大都市圏においても豊かで安全な長寿福祉社会の実現を図るとともに、高齢者や障害者、女性の社会参加を支援する観点から、それらの人々が安心できる地域社会の創造に努める。

このため、高齢者や障害者に対応した居住空間や公共空間等のバリアフリー化、共働き夫婦も安心できる子育て環境の整備、さらに、ゆとりある就労機会の拡大に資するテレワークの推進等を実施する。

 2)環境と共生した社会システムの構築

 @自然との調和の促進

人口が増加から減少に転じ、市街化圧力が低下することを踏まえ、大都市圏においても環境と共生した社会システムの創出に努め、残された自然を保全・活用し、自然と調和のとれた都市の形成を図る。

具体的には、身近な水辺空間と緑地帯の整備や、都市内の生産緑地の活用等自然とのふれあいの場の創出、生物の生息の場の整備等自然再生の推進を官民が一体となって身近な地域レベルで推進する。また、下水処理水を再利用するなど健全な水循環の形成等を広域的観点から実施する。

 A環境への負荷の低減

 地球温暖化等の地球環境問題やエネルギー資源の枯渇が懸念される中、大都市圏の豊かな生活は膨大なエネルギー消費により支えられており、他地域と比べ特に大量消費、大量廃棄社会になっていると認められるため、環境への負荷の低減が不可避な状況となっている。

 従って、地域住民の「参加と連携」によりリサイクル、未利用エネルギーの活用等を進めるとともに、公共交通機関や自転車の利用の促進等環境への負荷の少ない交通体系の形成を推進する。さらに、臨海部に存在する低未利用地等を活用し、リサイクル拠点施設等の導入により最終処分場の逼迫に適切に対応する。

 3)高次都市機能の高質化

 @既存機能の活性化

大都市圏においては、人口・諸機能の過度の集積により、一部の業務・物流機能等機能不全を生じている都市機能があることから、機能集積の再編や民間主体の再開発等を行い、既存機能の活性化を図る。また、環状道路やバイパスの整備等広域的な対応を進めるとともに、物流システムの効率化等による交通負荷の軽減に努める。

 A新たなニーズに対応した中枢機能の整備

新たなニーズに対応した国際的・全国的レベルの中枢機能(主に国際競争力に関連する機能) については、大都市圏間及び地方の中枢拠点都市圏との役割分担を考慮しつつ、新しい時代の要請に対応するため大都市圏において積極的に整備し、リサーチコンプレックスの構築やグローバル企業の支援に資する。あわせて、国際的に魅力ある事業環境整備のために高度情報化に対応した都市基盤の整備を推進する。

 B知的資源ストックの活用

大都市圏においては、芸術・文化を含む様々な知的資源ストックを活用して、各種の新規産業を創出するとともに、高度な技術・技能集積の維持と発展を図ることにより、国際競争力を高め、経済活力を維持する必要がある。特に、交通ネットワーク等と連携した研究開発拠点等の整備や、開発、試作等様々な可能性がある製造業等に対する企業化支援等を通じて新規創造産業の育成を図る。

 4)大都市構造の再編成

 @広域的な都市・交通基盤の整備

大都市圏においては、都心部の空洞化と混雑問題等を緩和・解消するため、大都市構造の再編成・再構築をめざし、適切な機能配置及び相互のネットワーク化等を推進する。

このため、交通負荷の分散と交通容量の拡大等により広域的観点から圏域の混雑問題に対応しつつ、総合的な整備プログラムの策定等により大都市構造の再編成を進める。その際、時差出勤等のピーク・カット施策等の導入について、住民の「参加と連携」による議論や社会実験の実施など、総合的な取組を図る。また、重点的かつ総合的な交通安全施策を図る。さらに、広域的観点からのオフィスの分散化やテレワークの推進等を通じて職住の近接化を推進する一方、市街地の整備改善、商業等の活性化等の推進による中心市街地の再生や大都市の役割・機能に見合った制度の導入等により都心部の空洞化に対応する。併せて、大都市の地下等の積極的な活用を図るため、大深度地下利用に関する制度化に対応した取組を進める。

 A安全な都市空間への転換

大都市構造の災害に対する脆弱性から生じる不安を解消するため、避難地、避難路、緊急輸送道路、防災拠点等の体系的な整備、老朽木造密集市街地の解消等を促進するための市街地の面的な整備、建築物や公共施設の耐震、不燃化等により、災害に強い都市構造の形成を図る。たとえ被災した場合においても的確かつ迅速な対応がとれるよう、地方公共団体間の連携による広域的・一体的な救援対応体制の確保、住民の「参加と連携」に基づいた自主防災組織や防災ボランティアの育成を図り、経済社会的機能障害による混乱が最小限となるよう努める。

 B有効な土地利用の推進

都心部や臨海部に散在する低未利用地については、必要な基盤整備等によって土地利用転換を進め、物流機能の導入、防災広場の整備等地域毎の様々なニーズに合わせた整備を行う。特に、臨海部の工場跡地等については、居住機能、業務機能等の土地利用と工業生産機能等の土地利用の調整を図り、広域的な観点から計画的な土地利用転換を推進する。また、官民連携による空間・土地利用の検討を行う。

 

 

表2 「大都市のリノベーション」に関する個別施策例

 

 

 

C 「地域連携軸の展開」

(1) 地域連携軸の目指すべき姿

 地域連携軸を形成するに際して、国土構造における地域の位置、状況や地域連携軸を構成する地域の空間的ひろがり等に応じて、以下のような「目指すべき姿」が想定される。

 @地方都市圏間の連携

 地方圏において中枢拠点都市圏レベルの高次機能を享受し難い地域では、遠隔地にある大都市圏や地方中枢都市圏へのアクセスの改善のみにとどまらず、近接する都市圏間の連携、交流を深めていく視点がより重要である。このため、こうした地域において近接する比較的小規模の地方中核都市圏や地方中心都市圏等が連携して地域連携軸を形成し、地域連携軸全体としての諸機能の集積を地方の中枢拠点都市圏レベルに引き上げることを目指す。こうした地域連携軸の形成により、中枢拠点都市圏からの遠隔地にある多自然居住地域においても高次機能享受の機会均等が図られ、地域の自立的発展が実現される。

 A大都市周辺地域の連携

 大都市周辺地域では、諸機能の大都市都心部への依存を脱して、周辺都市相互間の連携、交流を深めていく視点が重要である。このため大都市周辺地域の諸都市等が環状ないし放射状方向等に連携する地域連携軸を形成し、大都市都心部とは異なる新たな生活様式と自立的な諸活動の創造を目指す。こうした地域連携軸の形成により、大都市圏都心部への諸機能の過度の集中が緩和され、大都市圏における豊かな生活空間の再生と高次機能の円滑かつ効率的な発揮に資する。

 B地方の中枢拠点都市圏形成に向けての連携

 地方中枢都市圏または比較的規模の大きい地方中核都市圏では、既に相当程度に達している機能集積を広域的に活用する視点が重要である。このため、これらの都市圏とそれに近接する地域とで地域連携軸を形成し、過密に伴う弊害を惹起することのないよう、都市空間整備等を進めるとともに、構成各地域における特色ある高次機能の一層の充実と相互活用を目指す。こうした地域連携軸の形成により、重層的、複合的な都市間ネットワークの形成を促し、国際交流機能を含めた高次機能の全国土への広域的な波及に資する。

 このような比較的近接した都市圏等からなる地域連携軸が複数連なって、以下のような「骨幹的連携軸」とも呼ぶべき大規模な地域連携軸の形成がもう一つの姿として想定される。

 C骨幹的な連携

 中枢拠点都市圏や地方中核都市圏を始め多数の都市圏等を連携して国土を一部縦貫あるいは横断する地域連携軸を形成し、グローバルな視点も含めて質的、量的に大都市圏に比肩し得る高次機能の充実と地理、地勢上の制約を越えた高次機能の広域的相互活用を通じて我が国の発展を牽引することを目指す。こうした地域連携軸については、長期的には国土軸の形成に寄与し、あるいは複数の国土軸を相互に補完、連携する状況をもたらすことが期待される。

(2) 地域連携軸の構成のあり方と今後の展開方向

 1)地域連携軸の構成のあり方

 各地域においては、前述の姿を念頭において、各々が個性的な地域連携軸の形成を目指していくことを期待する。この場合、地域連携軸の構成地域の画定は、行政主体として地域の実情を最もよく把握しており、地域住民に身近なレベルにある市町村による住民の意向を反映した主体的な選択によるべきである。

 その際に考慮すべき点としては、高規格幹線道路、地域高規格道路等の道路、鉄道、空港、港湾等の交通基盤、情報通信基盤の整備状況、日常の生活圏域を越えて営まれる地域住民や企業の経済社会活動の実態、広域レベルでの機能集積の状況とその中での自地域の位置付け、既存集積へのアクセスの利便性、他地域との機能の相互補完状況等が挙げられる。

 なお、地域の状況に応じていくつかの地域連携軸が複数重なることがあり、また、新たな交通基盤の整備を通じた地形的制約の克服により地域連携軸形成の可能性もあるため、個々の地域連携軸の地理的空間を排他的、固定的に考えるのではなく、取組の進展等に応じて柔軟に変更され得るものとして取り組むことが必要である。

 2)「地域連携軸構想」の新たな展開

 これまで各地域において提唱され、取組が進められている「地域連携軸構想」については、空間的には「骨幹的連携軸」に該当する大規模なものが多い。それらの取組をみると、企業、住民、NPO等の民間主体の取組が比較的活発で広範な広がりを持つものや、特色ある取組を進めているものもみられるが、多くはイベント等を通じた連携気運の醸成を超えたさらなる取組を模索している段階にある。また、日常的な生活関連サービス機能の充実を図るような取組はみられるものの、より高次の機能の充実や、地域間の明確な機能分担により高次機能の広域的な活用を図る取組は必ずしも進んでいない。

 これらについては、既に相当程度に達している人口、諸機能の集積を一層活用し、国際的な地域間競争に伍して我が国の発展を牽引するための斬新な発想による取組をさらに充実していくことが期待される。加えて、大規模な地域連携軸は、それが近接都市圏同士の間の地域連携軸の連なりとしても形成され得ることに鑑みれば、その一部を構成する都市圏等の間での着実な連携の取組を併せて進めていくことが重要である。

 3)地域間の連携が希薄な地域における新たな可能性の追求

 これまで地域連携軸としての取組が行われてこなかった地域では、地域の実情に応じた判断により、今後、前述(1)の視点を踏まえ、先述の「目指すべき姿」に対応した地域連携軸の形成が進められることが期待される。

 国土を構成する各地域は、既存集積からの遠隔地も含めて、これまでに先人達が築き上げ、培ってきた技術、人材、歴史・文化等の諸資源、機能や、国土基盤等の既存ストックを数多く継承している。これらを再認識し、地域連携軸の形成を通じた広域的視点に立って、先に「ねらい」で述べたような「規模の経済」、「範囲の経済」等の実現を期し、さらに新しい価値を付加していくことにより、これまでのような東京を中心とする既存集積への過度の依存を通じた発展の姿とは異なる形での地域の発展が促進され、特色ある役割の発揮を通じて我が国の発展に貢献することが可能となる。

 

(3) 地域の取り組む施策のポイント

 既に「地域連携軸構想」の取組を進めている地域、今後新たに取組を始める地域のいずれも、以下の視点、内容の取組を充実していくことが望まれる。

 1)施策立案の視点

 地域連携軸のねらいを効果的に実現していくために、以下の視点を重視して施策立案を検討し、特色ある多彩な取組が進められることが期待される。

 @機能分担の明確化と地域の資源や基盤の有効活用のためのプランづくり

 地域連携軸を構成する各地域の機能分担の方向を明確にするとともに、需要の広域的集約等を通じた地域の資源、機能や交通、情報通信等の基盤の効率的な整備と有効活用を進めるためのプランを関係地方公共団体が連携して策定し、地域間、主体間の認識の共有と合意形成を行う。

 A民間主体の参加と連携

 具体の取組を進める際には、初期段階では連携意識の醸成や先導的な事業の実施等において行政の役割が大きい場合はあるものの、住民や企業等の民間主体は高次機能の利用者であるのみならず、多くの場合においてその供給者となることから、民間主体の参加と連携を促すことが極めて重要である。

 B「フルセット主義」からの脱却

 行政が高次機能供給の担い手となる場合には、ハード、ソフト両面での単一の地方公共団体での「フルセット主義」の発想にとらわれることなく、広域レベルでより高次、高質の基盤整備、行政サービスの効率的提供を行うとともに、行政区域の違いが地域間の連携の阻害要因とならないように配意する。

 C段階的な取組

 個々の取組において、地域連携軸を構成する全ての地域の参加に必ずしもとらわれず、まず参加の意思を有する地域、主体による取組から始め、漸次、構成地域全体として相乗効果を発揮できる複合的、総合的な取組へと歩を進めていく。

 2)地域の取り組む施策例

 地域連携軸の形成により、都市及び農山漁村地域の有する産業、研究開発、観光・レクリェーション、交通、情報通信、環境、教育・文化、医療等の分野の高次機能の充実とその相互活用に向けて取り組むことが期待される施策の例を、官民の役割分担に着目して整理し、表3に示すとともに、概要を以下に記す。

 @民間主体が中心となった連携が望まれる分野

 (ア) 広域的な知的資本活用による新製品・サービス開発、新規産業の創出等

 地域の企業等の広域的連携を通じた、施設・設備、人材、技術等の知的資本の充実と相互活用等により、研究開発の高度化、新製品・サービスの開発等を進める。また、広域的な産学官の連携により、技術開発、技術移転とそれに基づく新規産業の創出、既存産業の新規分野への展開、さらには人材育成等を進める体制を整備する。

 (イ) 生産、流通、販売活動の広域的連携による市場規模の拡大効果の発揮

 地域連携軸によって拡大が見込まれる市場全体を見通して、地域の中小企業等の異業種、同業種の連携による共同受発注体制の整備、共同物流システムの構築、消費財等の販売促進イベントの共同開催等、生産、流通、販売活動における連携で規模の経済の発揮を図る。

 (ウ) 多様な魅力を持つ広域観光ルートの形成と交流人口の増加

 交通、情報通信基盤を活用した地域の観光資源、施設のネットワーク化等により、広域観光ルートを設定するとともに、イベントの同時期開催、イベントや施設等の情報の共同提供等を進めて、地域の観光資源を多様で選択性の高い魅力あるものとする。

 A民間主体中心の連携と行政による環境整備が望まれる分野

 (ア) 役割分担と連携による交通、情報通信基盤の効率的整備と有効活用

 地域の合意に基づく空港、港湾等の交通拠点の役割分担や、それらを連絡する道路の整備により、需要を広域的に集約し、交通基盤の効率的整備と有効活用を図る。また、移動手段としての利用のみならず、広域的な視点からの情報や文化の発信に資する道の駅、鉄道駅や港湾空間の整備等による交通施設の有効活用を進める。さらに、地方公共団体、民間事業者、国の出先機関の連携により、両者の持つ施設・設備の有効活用を進め、広域的な情報通信体系の整備を進めるとともに、交通分野の情報化を推進する。

 (イ) 広域的な連携による資源循環型社会の形成

 広域的連携による廃棄物の収集・運搬・処分等の処理体制の整備、リサイクル施設、実証研究施設等の整備、環境産業見本市や技術展の共同開催等により、資源循環型社会を形成する。また、地域間、主体間の合意の下で、地域の貴重な歴史遺産の保全を図っていくとともに、生態系ネットワーク等の自然のメカニズムを尊重した形での自然環境の広域的保全等を図る。

 B行政が地域連携の主体としての役割を担うとともに民間主体の活動を誘導すべき分野

 (ア) 教育、研究機関等の連携による生涯学習、高等教育等の充実

 情報通信技術を積極的に活用して社会教育施設、文化施設等のネットワーク化を進めることにより、これらの有する学習資源や芸術・文化資源を広域的に利用できる環境をつくり、学習活動や芸術・文化活動を推進する。また、大学・専門学校、研究機関、企業等の広域的な連携により、施設、人材等の相互活用、単位互換、情報通信ネットワークの活用等を通じて、高質な高等教育サービスの提供やベンチャー企業への支援をすすめるとともに、広域でのインターンシップの導入等を通じて地域の人材育成を進める。

 (イ) 広域的連携による高度医療サービスの提供

 遠隔医療システムの活用も含め、病院等医療機関の機能分担と広域的連携により、地域全体への高度な医療サービスの提供を進める。

 C行政による機能分担と相互補完に基づく公共施設等のハイグレード化と有効活用

 複数の地方公共団体間で、公共施設や行政サービスの共同ないし分担による整備、提供と交通、情報通信基盤を介したその相互利用を行うことによって、企業インキュベーター施設、コンベンション施設、教育・文化・スポーツ施設等の個々の施設やサービスのハイグレード化と財政支出の効率化を図る。また、既存の施設等についても、利用状況等の情報共有等により、利用率の向上を図る。

 

 

表3 「地域連携軸の展開」に関する個別施策例

 

 

 

 

D 「広域国際交流圏の形成」

(1) 5つの国際交流機能の強化を総合的に推進

 地域における国際交流を促進するため、広域国際交流圏において、@国際交流を担う住民、地方公共団体、大学・研究機関、民間企業等の「交流主体」を広域的に確保するとともに、A交流活動が展開される各地域を「交流の舞台」として整備し、B国際空港、国際港湾とこれへのアクセスのための国内交通網からなる「交流のゲート機能」を強化する。さらに、Cネットワークインフラを始め各種メディアを活用した「情報の受発信機能」、D交流機会の形成や交流活動の実施にあたってのノウハウの提供等「交流の支援機能」について、機能強化を推進する。

(2) 重層的な圏域形成を推進

 広域国際交流圏の形成にあたっては、都道府県(以下県という)境を越える国民の諸活動の実態、人口や経済の集積の程度、地域における連携の取組への意向等を勘案し、地域ブロックを基本に、次の圏域、地域により構成される重層的な構造の圏域形成を目指す。なお、ブロックを構成する県の範囲は、伝統的な姿を維持しながらもより広域化し、重層化するなど変容しており、圏域の構成地域については、既存ブロックの構成県のみにとらわれることなく、地域間の合意を基本に柔軟にとらえることが必要である。

 @広域国際交流圏

 広域国際交流圏は、次の交流県際圏域が相互に機能分担を図りながら複数連携することにより構成され、国際交流に必要となる機能をいわばフルセットで備え、自立的で統合的な交流活動が可能となる圏域である。拠点的な都市機能やゲート機能は、交流県際圏域間での連携により機能を高め、中枢的な高次都市機能や地域グローバルゲート等、高次の機能が備わる。

 この圏域の規模は、一概には規定できないが、既存ブロックを越える場合も少なくないと考えられる。海外からの認識、地方中枢都市の背後圏域の実態、地域グローバルゲート成立に求められる集客人口等の見積もりからは、人口規模では1,000万人程度が目安となり、少なくとも600万人程度の圏域規模が必要と考えられる。

 A交流県際圏域

 交流県際圏域は、県境を越えた濃密な連携活動が行われる空間であり、交流の主体を始め国際交流機能も相当程度集積し、多分野で自立的な交流活動が可能となる。圏域には、中心となる拠点的都市機能を備えた交流基礎地域を包含し、対アジアゲート等圏域のゲート機能が備わる。

 この圏域の規模としては、1県1ブロックの北海道、沖縄を別にすれば、歴史的つながり、風土的同質性等から濃密な連携の可能性が高い2〜4県程度の隣接県間で構成される範囲がひとつの目安になると考えられる。

 なお、この圏域は、環日本海交流等の独自の交流圏形成の核となることも想定され、長期的な国土軸形成の契機ともなり得るものと考えられる。

 B交流基礎地域

 交流基礎地域とは、市町村が単独あるいは複数連携する地域のまとまりであり、これらの集合により交流県際圏域が構成される。この地域において地域の特性が生かされた多様な交流活動が展開され、隅々まで世界に開かれる国土の基礎的な単位となる。このうち中枢的な高次都市機能を備えた地域が中枢拠点都市圏として広域国際交流圏の拠点機能を発揮する。

 交流基礎地域の規模は、この地域で展開される交流活動、連携活動に応じ、市町村の範囲から最大県レベルまで様々である。

(3) 地域主導により、段階的に施策を推進

 地域の国際交流の企画、支援、調整等国際交流活動を促進する役割を地方公共団体が担い、地域主導で圏域形成を進めることが期待される。また、産業分野を始め民間諸団体が、広域国際交流圏の意義を踏まえ、地域の圏域形成の取組に積極的に参加することを期待する。

 交流県際圏域、広域国際交流圏については、複数の県が相互の連携により取組、交流基礎地域については、その広がりに応じ、一部県レベルを含め市町村が単独または複数連携して取り組むことが期待される。

 また、主体間、地域間の合意を前提に、拙速を避け、長期的視点に立って合意が整うところから段階的に施策を推進していくことが期待される。

(4) 地域の取り組む施策のポイント

 1)施策立案の視点

 広域国際交流圏形成に向けて、地域が施策を立案していくにあたっては、国際交流の特質から、次の視点を重視して検討することが重要と考えられる。

 @ 参加と連携による国際交流、地域レベルの国際交流は、一部に着実な成果がみられるものの、いまだ緒についたばかりの分野、地域もあり、まず多様な交流主体の参加と相互の連携の気運醸成を目指すこと。

 A 国際交流に関する物的、人的資源が地域にも賦存していることを認識し、広域的地域連携によるニーズ、シーズの実質的な集積の発揮を目指すこと。

 B 広範にわたり展開していく国際交流ニーズに応えられるよう、異主体・異分野間連携による多様性の発揮を目指すこと。

 C 国際交流の「同質性」と「異質性」を認識し、相手の立場に立った交流、深い理解に立った交流を目指すこと。

 D 交流機会の形成の成否を大きく左右する、地域の国際的知名度の向上を目指すこと。

 E 実りある交流の成果を生み出すため、一過性で終わることない長期、継続的な国際交流を目指すこと。

 F 地域のアイデンティティを認識し、特色ある交流、主体的交流を目指すこと。その際、歴史、気候、環境、地域が抱える課題等共通する地域特性を有する海外諸地域との交流にも配慮すること。

 2)国際交流機能強化のための地域での取組の方向

 前述の視点を踏まえ、次のような取組により、各機能の強化を図る。

 @交流の主体

 地域における国際交流を活発化させるためには、国際交流の意志(ニーズ)と資源(シーズ)を持った多様な交流主体が地域に多数存在することが前提となる。

 このため、国際交流、語学の修得等への住民の参加・学習機会の形成、地域に存在している国際的人材の発掘と活用、若年層交流の拡大・促進、観光事業者や製造業者等地域企業の国際交流への参加やネットワーク形成の促進、多様な主体の参加による協議・調整の場の整備等の施策の推進が重要である。

 A交流の舞台

 国際交流活動が行われる地域、空間等が単なる施設の集合体に止まらず、地域を訪れる外国人、地域に居住する外国人にとって、コストや使い易さ等で容易に利用できる環境、自然や文化を含めた魅力的な環境となっており、コンベンション、学術研究等拠点的な都市機能、幅広い産業機能が集積している必要がある。

 このため、海外の人々のニーズを反映した都市空間の整備、安全で安心な外国人居住環境の整備、都市間連携による高次機能の集積、さらには潜在化している地域の交流資源の発掘と活用等の施策の推進が重要である。

 B交流のゲート機能

国際空港、国際港湾とこれへのアクセスのための国内交通網が整備され、各地域から適切なコスト、時間で利用可能であり、さらにCIQ(税関、出入国管理、検疫)機能、定期的に運行される航空路・海上航路が整っていることが必要となる。

 このため、ゲート利用のタイムテーブルの調整等利便性向上のための施策、行政界を越えた広域的な連携や、異主体・異分野間の連携に基づく需要集約による航空路、海上航路定着のための施策、こうしたソフト施策とも連動した効率的な空港・港湾の整備、アクセス強化や交通結節点の改善等が重要である。

 C情報の受発信機能

 ネットワークインフラのみならず、国内外への情報の発信、関連情報の受信・集積、整理等に関する能力、機能が整っている必要がある。

 このため、官民連携、地域の人材活用による多言語での地域情報の発信、デジタル放送、インターネットの活用、海外事務所の相互利用等による情報収集・発信機能の強化、投資環境、留学環境等広域的な地域の交流情報の集約と地域共同での情報発信等の施策の推進が重要である。

 D交流の支援機能

 情報の提供、交流の機会形成等交流のきっかけづくり、通訳等交流活動の直接的な支援等交流主体に対する各種の支援機能が整っている必要がある。

 このため、国際交流に関する情報の公開・周知、国際化時代に対応した地域企業と海外企業との交流機会の形成、観光のコスト負担の軽減を支援する広域的な海外観光客割引制度の導入、交流支援機能を担うNGO、NPOや国の交流支援機関と地域との連携強化等の施策の推進が重要である。

 3)施策例と先導的施策への取組

 前述を踏まえ、考えられる施策例を表4に示す。地域における施策の推進にあたっては、ハードな基盤整備に加え、ソフトな施策が重要と考えられることから、同表はこれに重点を置いている。これらを参考に、地域において創造的な取組が進むことを期待する。また、前述の施策のうち、施策実施の容易性、参加と連携の気運の醸成への寄与等から見て、先導性を有すると考えられる施策は、表5のとおりである。これらの施策は、段階的施策推進の観点から、計画期間中のなるべく早期に各地域で取り組まれることが期待される。

 

 

表4 「広域国際交流圏の形成」に関する個別施策例

表5 「広域国際交流圏の形成」に関する先導的施策例

 

 

 

3 4戦略の総合的推進

 4つの戦略は、一極一軸型の国土構造を多軸型の国土構造に転換していく基礎づくりを円滑に進めるための地域づくりの方向を示したものである。もとより、これからの地域づくりは、地域の選択と責任に基づき、地域の独自性ある取組により、個性的な地域をつくりあげていかなければならない。したがって、ここに示した各戦略毎の施策も、各地域が地域づくりに取り組む際の施策例であり、これらを参考に、各地域の独自性を発揮した多様な取組が進められることを期待する。

4つの戦略は、各々独自のねらいをもち、前述では戦略ごとの施策を示したが、「21世紀の国土のグランドデザイン」が示した国土構造を築いていくためには、4つの戦略が全国土で相互補完的、かつ総合的に推進されていくことが必要である。

すなわち、「多自然居住地域の創造」と「大都市のリノベーション」の戦略は、いわば表裏の関係にあり、両戦略が平行して円滑に推進されることにより、均衡ある国土の形成が実現する。また、地方圏において「多自然居住地域の創造」と「地域連携軸の展開」への取組が複合的に推進されることにより、広域的な地域の自立と活性化が実現し、「大都市のリノベーション」と大都市周辺での「地域連携軸の展開」が相まって、大都市集中の是正が進展する。また、「広域交際交流圏の形成」が「地域連携軸の展開」と一体となって推進されることにより、地方圏における国際競争力の向上、活性化が促進される。

 各地域が、これら戦略の施策を相互に関連させ、補完的に活用し、効率的、効果的な地域づくりを進めることを期待するとともに、多軸型国土構造の実現に向け、国は後述する方針に基づき、これら4戦略の総合的な推進を図る。

 

 

 

W 国の施策の方向

 

1 「参加と連携」による戦略推進への国の支援

これまでの地域づくりに対する国の支援策は、単一の主体(都道府県、市町村等)に対して、各省庁毎の枠組みの中で行われることが一般的であったが、4戦略の推進に当たっては地方公共団体、民間団体等の多様な主体が地域づくりに「参加と連携」により取り組むことに対して国の支援を強化することが必要であり、特に、広域的な連携による地域づくりへの支援策を一層充実することが必要である。政府が現在進めている「生活空間倍増戦略プラン」の一環としての「地域戦略プラン」の推進に際しては、複数の市町村等が自らテーマを選び、連携して主体的に策定した活力とゆとり・うるおい空間の創造のためのプランに対し、関係省庁が一体となった推進体制の下、最大限の支援を行っている。4戦略による地域づくりは、こうした地域連携をさらに発展させるものであり、4戦略の推進においても、各省庁が連携して、地域の取組の進展状況を見守りつつ、順次支援を強化していくことが重要である。

また、4戦略の推進を支援するに当たっては、地域の「参加の促進」「連携効果の発揮」を促すよう、参加と連携へのインセンティブを高める支援方策の導入を検討する必要がある。

(1) 「参加と連携」の気運の醸成と情報提供

「21世紀の国土のグランドデザイン」とともに本指針に示された4戦略の趣旨、内容等を国民に広報し、その普及を図ることにより、「参加と連携」による4戦略推進の気運を醸成する。連携は、そのメリットへの認識を参加者が共有してはじめて進展するものであり、連携の取組にどのような効果があるかを把握し、地域に情報提供することにより、連携への合意形成を促進する。また、本指針に示された諸提案を始め各地域での取組事例、各省庁の関連支援策等、4戦略の推進を支援する情報を整備し、インターネット・ホームページ等により、広く情報を提供する。

(2) 4戦略推進の計画づくりへの支援

 4戦略を、地域が様々な主体の参加と連携によって推進するためには、連携に参加する主体間での合意形成が不可欠であり、そのためには、関係者によって戦略推進の計画を作成することが極めて有効である。

 このため国は、各地域が主体的に取り組む計画づくりに対して、関係省庁が一体となった体制の下、助言を行う総合的な相談窓口の設置、計画づくりへの助言を行う専門家の派遣制度の充実のほか、必要に応じ計画づくりに対してモデル的に支援するなど、4戦略の推進に関する地域の計画づくりを支援する。

(3) 人材育成と交流機会の提供

 「参加と連携」により4戦略を進めていく上で、地域の創意・工夫を最大限に発揮させていくことが重要であり、地域づくりを担う人材や組織の育成、充実が求められる。このため国は、新たな役割が期待されるNPOを始めとする地域づくりを支える人材を発掘、育成する制度を充実する。また、4戦略を推進するための地域の協議会やNPO等の組織間を相互に連携する交流の場を提供し、情報交流、連携活動の活発化を促す。

(4) 国と地域の協議の場の整備

 4戦略の推進に向けた地域の連携の取組を、国も各省庁等が連携して支援することが効率的であるが、その際、地域の取組、計画等のねらいや効果について、地域と国が認識を共有することが不可欠である。このため国は地方支分部局の活用も含め、必要に応じ、4戦略推進のため地域の幅広い連携主体の参加する協議の場をつくり、戦略推進に関する相互理解を進める。こうした相互理解を通じて、地域の施策と国の支援策との連携を強化し、また、地域の取組状況、地域の計画との整合性に配意しつつ、国は重点的整備を基本に基盤整備を推進する。

 さらに、国は、複数の市町村や複数の都道府県の連携した取組に対し、国がどのような支援を進めることが有効であるかを、地域の意向を把握しつつ検討する。

(5) 連携の取組への支援の強化

 地域が、いわゆる「フルセット主義」の発想にとらわれないためには、連携へのインセンティブを高めていくような国の支援策の充実が必要である。これまで複数の地方公共団体等による公共施設等の共同整備、共同利用を促すための財政的支援や関連する交通、情報通信基盤の整備を進めてきているが、さらに地域間の連携を促す施策のあり方について検討を進める。

(6) 国の機関相互の連携強化

 地域の連携の取組に対して、国の諸機関も連携して支援することが重要であり、4戦略推進の連携施策を一層充実することが必要である。このため、国は必要に応じ、戦略毎にも省庁間の連携体制を整え、戦略毎に関連する施策の相互連携を進めるとともに、関連する事業の一括採択等の調整を行うことなどを検討する。

(7) 民間活動の活発化と地方分権の推進

国においては、地域間の広域的な連携の阻害要因を除去する必要があり、「規制緩和推進3か年計画」の下、行政区域等に基づく営業区域規制や需給調整規制等の撤廃、緩和、さらにはPFI手法の導入を進め、民間主体の活動の活発化を通じ自立的な地域づくりを促す。

また、地域が自らの選択と責任で地域連携を行うためには、その基礎として、必要な事業を行うに足るだけの権限や財源を有していることが不可欠であり、国は「地方分権推進計画」の下、地方分権を積極的に進め、地域づくりや住民サービスに属する諸権限の地方への委譲、必要な地方一般財源の確保、補助金等の整理合理化、国の関与の整理縮小等を行う。

2 4戦略関連施策の推進

 国は、本指針に示された考え方に沿って地域が行う各種取組について、重点的な支援策を講ずるとともに、4戦略推進の観点から関連施策を積極的に推進する。なお、4戦略に関連して現在国において取り組まれている施策の例を参考に示す。

A 「多自然居住地域の創造」

(1) 多自然居住地域の特性を踏まえた効率的な基盤の整備

 多自然居住地域における国土基盤投資の推進に当たっては、豊かな自然環境や国土の保全、地域の自立の基礎となる生活の高質化、地域資源を活用した産業の高度化等に資する観点から、省庁間の適切な連携の下に、効率的投資を進める。特に、生活環境基盤の整備に当たっては、地域間不均衡の是正を図りつつ、人口密度が低い地域での効率的な整備のあり方について、技術開発も含めて検討を行う。さらに、地域の実情に応じ、創意工夫を活かした取組が可能となるようきめ細かな国の支援のあり方を併せて検討する。

 また、高度な都市サービスの享受と雇用機会等へのアクセスを広域的に確保し、多自然居住地域にとって不可欠な地域内外の活発な交流と連携の基盤とするため、交通、情報通信体系の整備を進める。

(2) 豊かな自然環境と国土の保全

 多自然居住地域の創造が、国土規模での生態系ネットワークや自然界の物質循環への負荷の少ない国土の形成の一端を担い、安全で自然豊かな国土づくりに重要な役割を果たすという観点に立ち、国立公園等におけるすぐれた自然環境の保全施策や、国有林、一級河川等の公物管理における国土保全施策を積極的かつ計画的に展開する。また、直轄事業の実施に当たっては、地域の意見を十分に踏まえつつ、率先して地域の環境や文化に対する最大限の配慮を行う。

 さらに、多自然居住地域の基幹産業である農林水産業については、国土・環境保全等の公益的な機能を適正に評価し、適切に確保する観点から、地域の特性や条件を生かしながら持続可能な経営を推進するための支援のあり方について検討する。

(3) 土地利用関係計画の活用のための体制整備

 多自然居住地域において、農林水産業等を展開する生産地域と併せ居住地域等を一体的に扱う観点から、国土利用計画を始めとする土地利用関係計画の一層の活用、運用改善が図られる必要がある。このため、土地に関する各種計画間の調整の円滑な推進及び情報の収集・提供や技術的支援の提供の体制を整えるなどの措置を講じる。

(4) 多自然居住地域創造に向けた広範な活動の展開

 21世紀の新しいライフスタイルを多自然居住地域において実現する機会を拡大するため、多様な主体の参画を得つつ、国と地域とが一体となって広範な活動を展開する。このため、国は、21世紀初頭の一定期間を、多自然居住地域の創造に重点的に取り組む期間(「多自然居住の10年」)と位置づけ、広く各界各層に多自然居住地域の意義及び魅力を訴えるシンポジウムの活用等広報活動、多自然居住地域の創造を担う人材の育成、地域づくりの優良事例等の情報の発信、大都市住民の訪問機会の拡大等諸活動を広範にわたり展開する。

B 「大都市のリノベーション」

(1) 広域的都市・交通基盤の整備による大都市構造再編の推進

 大都市構造再編の根幹となる広域的都市・交通基盤の整備は、国の十分な下支えが必要である。特に、国の直轄事業に係るものについては、国が積極的かつ着実に推進することが肝要であり、他の先進国と比較して整備が遅延している環状方向の幹線交通網の整備等は今後迅速に対処する。また、国際交通の重要な結節機能を果たす基幹的な国際空港、国際競争力を有する物流ネットワークの形成に資する中枢・中核国際港湾、これら国際拠点と直結する幹線道路等の整備を推進する。

(2) 防災対策の充実による住民の安全の確保

 大都市圏の災害に対する脆弱性は、阪神・淡路大震災以降、大都市住民が強い懸念を示しており、ハード・ソフト両面の防災性の向上が喫緊の課題となっている。特に、大都市の都心部周辺に広がる老朽木造密集市街地については、国の積極的な関与により防災構造化を図るとともに、地域特性に応じた土地利用関連制度等を導入する。併せて、既存施設の耐震強化、緊急輸送道路等の整備や防災拠点の整備を図ることにより、住民の安全性の確保を図る。

(3) 低未利用地の活用による活力とゆとりある大都市空間の実現

 三大都市圏の既成市街地及び臨海部には、かなりの工場跡地等の低未利用地が存在しており、その再編整備が必要となっている。このような低未利用地の活用については、国が地方公共団体及び民間事業者等と連携を図りつつ、既成市街地などを中心として、公的機関を活用した合意形成や事業調整、土地の有効利用のための低未利用地の取得、整形・集約化等都市基盤施設等の整備を推進する。また、臨海部は、水際線を有する貴重な空間であり、港湾物流、臨海型産業、親水等の機能や広い空間を要する機能への転換を念頭に置いて、国が地方公共団体等の関係者と連携を図ることにより秩序を持って再編を推進する。

(4) 最適消費・最少廃棄の循環型社会への転換

地球環境保全への認識が深まるなか、大量消費・大量廃棄の社会システムが特に定着している大都市圏において、先導的に最適生産・最適消費・最少廃棄に基づく循環型社会システムに転換していくことは、国全体のシステム転換にも大きく寄与することとなる。大都市圏において、この様な社会的理解の定着を期待しつつ、国は積極的に広報、普及、啓発等の施策に取り組み、国民的な支援運動の気運を醸成する。

 

C 「地域連携軸の展開」

(1) 地域間の連携、交流を支える交通、情報通信基盤の重点的、効率的整備

 交通、情報通信基盤は、人、物、情報の活発な交流により地域相互を結びつけ、高次機能の充実と広域的な利用を促す重要な基盤であり、国は、民間部門や地方との適切な役割分担の下、「21世紀の国土のグランドデザイン」に掲げた長期構想に基づき、高規格幹線道路、地域高規格道路等の道路、鉄道、空港、港湾等の交通基盤や高度情報通信社会に対応した情報通信基盤等の基幹的な基盤の整備を進める。

 特に、地域連携軸の全国土における展開により、高次機能享受の機会均等と我が国の活力の維持・拡大を図る観点から、各地域における地域連携軸の「目指すべき姿」の形成に資する基幹的な基盤整備に重点を置く。

 また、個別の基盤投資の着手に当たり、費用対効果分析を含む総合的な事業評価を行う際には、地域連携の取組によって期待される効果をはじめ幅広い効果を勘案することが重要であり、それに向けて検討を進める。

(2) 高次機能の充実に向けての地域間の広域的連携を促す施策の充実

 国は、我が国の経済活力の維持・向上と人々の暮らしの高質化を実現するため、産業、研究開発、観光・レクリェーション、交通、情報通信、環境、教育・文化、医療等の分野での地域における機能充実に向けた施策を積極的に実施するとともに、国土における高次機能享受の機会均等を進める。

 また、地域が広域的に連携して高次機能の充実のための施策を進める際に、国は、それを積極的に支援する。現状では、複数の地方公共団体等が日常の生活圏域を越えて広域的に連携して行う地域づくりへの取組を主な支援対象とする国の施策は多くない。このため、今後、国は地域の広域的な連携による取組への支援策を一層充実する。

 この場合、単一の地方公共団体等を主な支援対象とする施策であっても、複数の地方公共団体等が連携して行う地域づくりへの取組にも適用され得るものがあり、それらの一層の活用を促していく。

 さらに、地域が複合的、総合的な取組により地域連携の相乗効果を発揮していくために、国の施策においても関係各省庁が連携した取組を進める。

D 「広域国際交流圏の形成」

(1) 世界に誇り得る開かれた国土形成への取組

 世界に誇り得る開かれた国土の形成の実現に向けて、@外客の誘致や対内投資の拡大等国際交流の舞台となる国土形成に資する施策、A地方圏での国際イベント開催の拡大等国際交流に関する地域的不均衡の是正に資する施策、B「東アジア一日圏の形成」を目指した交通体系の整備等アジアとの交流の高まりに応じた国土形成に資する施策、CNGO、NPOや地方公共団体への支援、連携等住民や地域が主体となった国際交流を支える国土形成に資する施策を充実させる。

(2) 国と地域との連携による国際交流機能強化と重点的な基盤整備

 語学教育の充実、留学生等の受入れ拡大、国際協力の充実、観光や産業面での広範な情報の提供・発信や交流機会の形成等にかかわる施策は、豊富な海外へのチャンネルの活用等国レベルでの推進が有効な施策であるとともに、地域の交流主体の強化、情報の受発信機能、交流支援機能の強化にも資するものであり、国と地域との連携が相互に利益を及ぼすと考えられることから、国の施策と地域の施策の一層の連携強化を図る。交流の舞台に相応しい都市の整備、並びに国際空港、国際港湾とそれにアクセスする幹線道路を始めとするゲート機能の強化等基盤整備に係る施策については、広域国際交流圏形成に向けての地域の取組の状況、地域のプランとの整合性の確保等に配意して、重点的整備を基本に推進する。

(3) 国の機関相互の連携による一体的な国際交流施策の展開

 多分野にわたり相互に関連するという国際交流の特質から、国の施策の推進に当たっては、各機関個別の対応だけでなく、地方支分部局を含めた各機関相互が連携した取組が重要である。

 このため、海外からの留学生等の受入れ、国際交通インフラの整備等の領域で進んでいる国の機関相互の連携の動きを、外国人観光客の受入れと都市空間整備、産業と学術研究等の分野で一層拡大するなど関連する施策を充実させる。