近代以降の効率的な治水を優先せざるを得なかった川づくりを経て、今、川が本来持っていた治水・利水、水質浄化、癒し、生態系保全等のいろいろな機能を充足するような本当の意味での川づくり、川の個性を生かした川づくりが求められている。
そのような川づくりに当たっては、現時点でのものの見方だけではなく、川から見た長い歴史の流れの中の「今」をとらえることが重要である。清冽な水や山紫水明の景観などに代表される我が国の川の姿−その川の姿をとらえる際、我々のよすがの一つとなるのは、古くからの和歌、俳句、歌枕、今様、民俗や伝承、祭りや信仰、絵画、映画、近代文学等の文学・芸術に見られる、その時代時代の切り口から捉えられた川の姿である。本懇談会では、これらの作品に表されてきた川の姿、川と人との関わりをたどり直した。
今後の河川の整備においては、川づくりに求められる治水・利水や環境保全の機能の確保はもちろん、伝統工法、舟運、祭りなどの保存、継承や多自然型の川づくり、水辺の景観整備などによって地域の特性にあった川の魅力を引き出し、地域の活性化に寄与するような取り組みが求められる。このためには、河川管理者は川から見た流域全体の長い歴史・風土をひも解き、十分に理解する中で、川の魅力や川の本来持っていた様々な機能を再認識し、個性ある河川整備に息長く取り組んでいく必要がある。地域住民と接する機会を積極的にもうけていくことはもちろんのこと、調査成果を地域住民と共有するとともに、協働を強化・推進していくことが不可欠である。その際、川づくりにあたっての基本となる考え方、調査段階、計画段階における拠り所として示した「よすが」を手がかりに、流域単位で川の歴史、風土や文学、文化などについて共同研究も含めて十分な調査研究を行い、空間的、時系列的に整理することが必要である。
本報告を端緒の一つとして、河川行政が地域とともに歩み、各地域の歴史・風土に一層根ざしたものとなり、また、21世紀の川が人との関わりを回復し、ふるさとのシンボルとしてながく住民の心に残る原風景となることを期待する。 |
< 目 次 >
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はじめに
1.背景 −社会的な変化−
2.日本の文学等に見る河川の姿
(1)日本の文学等における河川の特性
(2)代表的な文学等に見る河川の姿
3.歴史・風土に根ざした川を目指して |
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