I.はじめに
- 多様性に富んだ河川が我が国の景観と風土(山紫水明)を醸成
- 先人たちは長年の川とのつき合いの中で川を管理・利用
- 第二次大戦後、近代工法による治水施設の急速な整備の中、伝統工法は衰退
- 近年にいたり川をめぐる情勢に大きな変化(住民と川との触れ合い、生物の生息環境としての川の重要性の再認識等)に応ずるため先人の智恵に学ぶことが肝要
II.現代技術と伝統技術
- 現代技術と伝統技術を整合させ、バランスよく融合し活用することが重要
- このことにより、河川を「強さ」と「美しさ」を兼ね備えた国民の財産たる社会資本とすることが可能
III.河川伝統技術の範囲
- 河川伝統技術は各時代の文化・社会・政治と併せて考えることにより本質が理解可能
- 河川伝統技術はハード的なもの(水制工、輪中堤等)だけでなく、ソフト的なもの(河川計画論、祭り、行事等)も含めて考えることが適当
IV.河川伝統技術の特徴と評価
1.河川伝統技術の特徴
(1) 川の自然の力を利用した技術
(2) 流域を含めて被害を抑える技術
- 河川の施設でのみではなく、流域での対応を含めて被害を抑制
(3) 地域の特性、川の性格に応じた技術
(4) 生活の中に維持管理を組み込んだ技術
2.今日の河川行政からみた河川伝統技術の評価
(1) 河川計画、工法面からの評価
- 「川の自然の力を利用した技術」であり、自然の力と調和し維持管理にかかるコストも軽減
(2) 環境面からの評価
- 使用する材料も木や石といった流域にある天然素材が主体であり、環境的にも景観的にも周囲と調和
(3) 氾濫原管理、危機管理面からの評価
- 「流域を含めて被害を抑える技術」であり、危機管理体制、氾濫原の土地利用のあり方等について重要なヒント
(4) 河川の維持管理面からの評価
- 「生活の中に維持管理を組み込んだ技術」であり、地域とのパートナーシップによる河川管理について重要なヒント
(5) 個性ある地域づくりからの評価
- 「地域の特性,川の性格に応じた技術」であり、地域の魅力を引き立てる要素
V.河川伝統技術の保存・活用に当たっての基本的考え方
1.人、モノ、智恵の保存
- 河川伝統技術を保存していくためには、「人」、「モノ」、「智恵」を残していくことが重要
- それぞれの特性に応じた保存の方策を考えていくことが必要
2.現代の社会状況に合わせた活用
- 河川伝統技術に込められた智恵や考え方を現代に合わせ、工夫していくことが重要
- 安全性、効率性、費用負担といった課題に留意することも必要
3.地域の主体的な参加による保存・活用
- 河川伝統技術の保存・活用に当たっては、地域や住民の主体的参加と協力を得ることが重要
VI.河川伝統技術の保存・活用に当たっての具体的提言
1.河川伝統技術の背景も含めた実態調査の充実
- 河川伝統技術について継続的かつ広範囲な実態調査の実施
- 将来における活用の可能性もあることを考慮しできるだけ多くのものを記録・保存
2.河川伝統技術の分析・評価・研究の推進
- 河川伝統技術の応用に当たっては、有効性・安全性について最新の知見や技術に基づく評価の実施
3.河川伝統技術の保存
(1) 河川伝統技術に関する文献・資料を集約した資料館の整備
- 河川伝統技術に関する調査結果及び行政、研究機関等に保存されている文献・資料の集積
(2) 河川伝統技術に関するデータベースの整備
- 集積された文献・資料等が分かりやすく分類、整理されたデータベースの整備
- インターネット等による一般への情報提供
(3) 河川伝統技術用語辞典の編纂
- 用語の意味、由来、時代背景等の理解を容易にするため、「河川伝統技術用語辞典」を編纂
(4) 「モノ」としての河川伝統技術の保存
- 本来持っている機能を有効に活用しながら保存することが望ましい
- そのままの保存が困難な場合も資料館等で保存
(5) 河川伝統技術を有する人材の確保・育成
- 実際のフィールドの継続的確保
- 河川伝統技術に関する研修、実習等により後継者育成
(6) 地域における活動への支援
- 保存、継承に熱心に取り組んでいるグループ等の様々な活動を支援
4.河川伝統技術の活用方策
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河川計画、工法や環境保全への河川伝統技術の実際の応用
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- 自然の流れを生かした河道計画の検討
- 地域の素材の活用
- 河畔林(水害防備林)の活用
- 水制工等の活用
(2) 氾濫原管理・危機管理への河川伝統技術の智恵の活用
- 二線堤等の活用
- 水屋や輪中堤の智恵を活用した浸水対策
- 河川伝統技術等の記録による地域の危険度診断等への活用
(3) 河川の維持管理への河川伝統技術の活用
- 地域とのパートナーシップによるきめの細かな河川管理
(4) 個性ある地域づくりへの河川伝統技術の活用
- 調査、記録、復元等を通じた地域活性化への活用
- 地域のシンボル・アイデンティティーとしての活用
(5) その他
- 国際協力への活用
- 他の分野との伝統技術に関する情報交換、相互学習の推進
VII.おわりに
- 河川伝統技術は決して古い技術ではなく、変化する時代とともに、常に将来的な需要を潜在させている技術
- 積極的に保全を推進し、長期的観点から将来に向けて活用を図っていくことが重要