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河川審議会答申

「総合的な土砂災害対策のための法制度の在り方について」




3.総合的な土砂災害対策の在り方についての提言

 以上の課題を踏まえ、土砂災害防止に関し、国民一人一人が自分の生命及び身体は自ら守るという考え方に立って判断し、行動することを念頭に以下のような施策を講じる必要があると考える。


(1)講じるべき施策の方向

 1)
 土砂災害警戒区域の指定及び警戒避難措置の充実

土砂災害が生じるおそれのある区域(土砂災害警戒区域)を指定し、住民等に対する土砂災害の危険性の周知徹底を図るとともに、区域内において重点的に土砂災害防止のための警戒避難措置を講じる。

 2)
 土砂災害特別警戒区域における立地抑制策等の実施

土砂災害警戒区域のうち、土砂災害により住民等の生命・身体に著しい被害が生じるおそれがある区域(土砂災害特別警戒区域)を指定し、宅地造成段階や建築段階において、新規立地抑制や建築物の安全の確保のための措置を講じる。また、被害の対象をできるだけ減少させる観点から既存住宅の移転等の促進を図る措置を講じる。

 3)
 土砂災害に関する基礎的な調査の実施

災害防止のための警戒避難措置を講じるべき区域や住宅等の立地抑制を行うべき区域の設定を科学的な知見に裏付けられた客観的な基準により行うとともに、将来の対策工事の実施にも寄与するため土砂災害に関する基礎的な調査を全国的に実施する。

 4)
 土砂災害防止のための指針の作成

災害防止のための警戒避難措置の整備や住宅等の立地抑制策を効果的に進めていくため、従来の施策との関連を踏まえつつ、基礎的な調査や区域の指定に関する事項を中心に行政指針としてまとめ、国民に提示する。

 5)
 法制度の枠組み

従来、土砂災害の発生源対策(助長誘発行為の制限、防止工事等)については、砂防三法に基づき土石流、地すべり、がけ崩れ等の土砂移動現象ごとの法制度により実施されてきた。これは、発生源対策については土砂移動現象ごとに手段・方法・保全の対象の考え方が異なることによるものである。
 これら3つの土砂移動現象に対する警戒避難措置や立地抑制策等のソフト対策については、防災、建築等の諸対策を実施する関係部局間の緊密な連携が重要となるため、法制度としてはひとつにまとめた枠組みの下で対応していくことが効果的であると考える。


(2)土砂災害に関する基礎的な調査の実施

 都道府県は、土砂災害の発生源となる土地及び災害の発生するおそれがある土地について、予想される土砂移動の発生・流下・堆積等の状況、土砂災害防止のための区域指定に必要な事項及び当該区域内の人家立地等の状況等に関する調査を実施すべきである。この調査結果を基礎に土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域の設定、当該区域内における必要な警戒避難措置の検討を行うべきである。
 この調査は、財政的にも技術的にも都道府県の負担が大きくなることが予想されることから、国の支援措置を検討する必要がある。


(3)土砂災害警戒区域の指定及び警戒避難措置

 1)
 土砂災害警戒区域の指定

 土砂災害の危険性に関する情報を地方公共団体が把握し、災害発生時の警戒避難措置を重点的に講じる区域として、また、住民が日頃から土砂災害の危険性について認識できるよう、土砂災害警戒区域を指定する制度を設けるべきである。
 指定の主体としては、基礎調査の主体でもあり、土砂災害の危険がある箇所に関する情報の蓄積がある都道府県知事が適当と考えられる。土砂災害警戒区域の指定に当たっては、災害対策基本法に基づく警戒避難措置発動の責務を有している市町村との十分な情報交換を行うことが望ましい。
 また、区域指定の範囲としては、警戒避難措置を講じるべき区域であることから土砂の想定氾濫区域が適当と考えられるが、区域指定の基準を設定するに当たっては、(社)砂防学会による検討結果を十分に踏まえ、

・がけ崩れについては、がけからの距離等
・土石流については地盤勾配等
・地すべりについては地すべり地形であること等

により、客観的で明確な基準を設定すべきである。

 2)
 警戒避難措置の充実

 警戒避難措置については、都道府県知事が指定する土砂災害警戒区域ごとに、きめ細かい雨量データの把握、避難地・避難路の設定等土砂災害特有の事項を市町村地域防災計画に記載し、的確な警戒避難措置をとることができるようにすべきである。
 また、防災担当者として土砂災害に関する情報を的確に分析・判断して迅速な対応がとれるような人材の活用及び養成、情報を行政と住民が相互に把握できるような情報相互通報システムの整備、雨量観測体制の整備等の推進に努めるべきである。


(4)土砂災害特別警戒区域における住宅、社会福祉施設等の立地抑制策

 1)
 土砂災害特別警戒区域の指定  土砂災害警戒区域のうち、土砂災害により住民等の生命身体に著しい被害が生じるおそれがある区域に限定して土砂災害特別警戒区域に指定し、立地抑制策を講じるべきである。このような観点から、土砂災害特別警戒区域の指定の範囲としては、災害類型による土砂災害発生の実態を踏まえ、災害発生時には土砂の直撃により木造家屋に全壊等の著しい被害が生じるような区域とすることが適当である。土砂災害特別警戒区域の指定の主体としては都道府県知事が適当と考えられるが、過去の災害事例や即地的な情報に関し地域の実情に通じている市町村を関与させることが望ましい。
 また、区域指定に関しては、上記(3)の土砂災害警戒区域の指定も含め、指定業務が的確かつ円滑に行われるようにするため、指定業務に対する国の支援措置を検討すべきである。

 土砂災害特別警戒区域指定の技術的基準については、(社)砂防学会による検討結果を踏まえ、土砂災害警戒区域同様できるだけ土砂災害発生の実態を踏まえた客観的なものとすべきである。
 しかしながら、土砂災害の形態、規模が地域の地形・地質に依存する面が大きい場合もあることから都道府県知事が行う個別具体の指定に当たっては客観的な基準を原則としつつ、必要に応じ、学識経験者の意見も聴く等の手法を講じることも必要である。また、指定に当たっては、過去の災害歴も十分考慮できるようにすることも検討すべきである。

 また、土砂災害特別警戒区域の指定の進め方については、アクセス条件が非常に悪い等により今後とも開発の見込まれないような地域については当面区域指定をしない、あるいは、新規立地の可能性の高い地域から順次区域指定する等の明確な方針に基づき進めていくことが適当である。
 土砂災害特別警戒区域と都市計画との関係については、安全性が確保されないまま土砂災害特別警戒区域を市街化区域とすることは避けるべきである。

 なお、土砂災害特別警戒区域については、対策工事実施による安全性確保の状況、周辺の土地利用状況の変化、災害発生による状況の変化等をとらえ、必要に応じ区域を見直すべきである。

 2)
 土砂災害特別警戒区域における立地抑制策

 立地抑制策は、土地利用の計画が具体化する宅地造成行為や建築行為をとらえて行うことが適当であるが、土地利用に対する制限がかかることについての注意喚起を行うために、土地取引段階における宅地建物取引業法による重要事項説明の対象とすることも検討すべきである。

 建築に関する安全基準の設定については、通常想定される土砂災害に対して一般的・汎用性のある基準を適用することが望ましいことから、建築基準法に関する法令において定めることとし、土砂災害特別警戒区域内で通常想定される災害を前提として建築物内部の人命を保護するに足る安全基準を設ける必要がある。

 規制の対象とする建築物としては、人が夜間も含め滞在することとなる住宅、宿泊施設や避難行動に関し制約が大きい災害弱者が利用・滞在する災害弱者施設等とすることが適当である。
 土砂災害が都市計画区域外でも発生していることから、土砂災害特別警戒区域については、建築確認の対象外とされている都市計画区域外の小規模戸建て住宅などの建築行為についてもすべて建築確認の対象とするよう措置すべきであると考える。

 また、宅地造成については、あえて地形を変え、建築可能な土地をうみ出すものであることから、土砂災害特別警戒区域においては立地抑制的な観点から一定の用途のための宅地造成については制限をかけるべきであると考える。この場合、分譲用の宅地造成や、避難行動に関し制約が大きい災害弱者が利用・滞在する災害弱者施設のための宅地造成については、宅地としての安全性が確保されない限り認めないとすることが適当である。
 宅地造成段階での規制措置としては、現行法上都市計画法に基づく開発許可制度があるので、規制内容や手続面に関し開発許可制度との調整を十分図る必要がある。

 なお、以上のような安全水準への適合や警戒避難措置による対応を図っても、通常想定されるレベルを超える土砂移動現象が発生した場合には被災する可能性があり、危険な地域に居住することにはリスクが伴うものであることについて国民の理解を得る必要がある。


(5)土砂災害特別警戒区域における住宅の移転又は建替えの促進等

 1)
 移転・建替えに関する促進措置

 土砂災害特別警戒区域内の既存建築物に対して、被害の対象の減少を図るため、自主的な移転や建替えを促す勧告制の導入を図るべきである。  また、その自主的な移転等の支援措置として、補助、融資、税制の特別措置を検討すべきである。

 1)
 グリーンベルト等の整備

 土砂災害特別警戒区域等の指定の促進とあわせ、土砂災害の危険性のある土地について、土砂災害防止のための緩衝帯となるグリーンベルト等の整備を進めていくべきである。


(6)施策の展開に当たり考慮すべき重要事項

 防災対策を進めるに当たっては、行政と住民が常に情報を共有し、役割を的確に分担する社会システムの構築が必要であり、行政側の「知らせる努力」と住民側の「知る努力」とが相乗的にはたらかなくてはならない。行政は、土砂災害に関する広報活動の強化を図ることとし、住民は行政の限界を認識して、対策工事によるハード施設を過信することなく、気象や自然の異変への備えを自主的に行い、行政側の施策とあいまって地域における防災力の向上を目指していくべきである。
 また、土砂災害の研究については、関係機関相互の連携を今後とも深め、多面的な研究を推進し、総合的な土砂災害対策の充実に反映されるよう努めるべきである。





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