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河川審議会について


「河川における今後の情報化に向けた施策はいかにあるべきか」


はじめに

 我が国では高度経済成長期において都市及び産業が急速な発展を遂げたことによ り、都市水害の頻発、土砂災害の急増等の問題が発生してきた。具体的には、都市化の進展等により災害が短時間に発生するようになり、また、一度災害が発生した際の被害はより深刻なものとなる傾向がある。このような都市化の進展等に伴う被害ポテンシャルの増大に対応するには、治水施設の整備だけでは十分ではなく、水災害・土砂災害に関する正確な情報の迅速・確実な提供と、平常時からも十分かつ適切な広報・情報提供により、被害を最小化することが必要である。

 また、治水施設整備の進捗に伴い河川の氾濫が減少したことに加えて、物流の中心が水路から陸路に移行したこと、上水道を通じて家庭に水が供給されるようになったこと等により、日常生活における地域と河川との関係はますます希薄なものとなってきた。一方、近年、山と海を結ぶ水と緑のネットワークとして、あるいは貴重な自然空間として河川を見直す機運が生じてきており、社会の河川への関心は再び高まりつつある。そして、地方公共団体と地域住民等が連携し、河川をめぐる課題に対応していこうとする動きも活発化してきていることから、積極的な情報の提供を行うことにより、住民の河川に関する理解を深め、住民が河川とふれあう機会を増やし、地域と河川との関わりの再構築することが求められている。

 さらに、我が国の国土保全にも大きな役割を果たしている河川に対する国民のニーズに的確に応え、河川の特性や地域の風土・文化等の実状に応じた河川整備を推進するため、国民に向けて施策の内容の十分に説明することが強く求められてきている。より積極的な情報提供と地域の意見の反映を主眼の一つとして、平成9年に河川法が改正されたところである。

 このような状況を踏まえて、河川における今後の情報化のあり方について「被害の最小化に向けた情報提供」と「地域と河川の関係を再構築するための情報提供」の観点から検討を行った。


1.被害の最小化に向けた情報提供

(1)現状

 我が国では、昭和20年代から30年代にかけて、カスリン台風、アイオン台風、伊勢湾台風等の大型台風が襲来し、戦災による国土の荒廃とあいまって、深刻な水災害・土砂災害をもたらした。

 このため、建設省や都道府県等の河川管理者は、堤防・砂防ダム等の施設整備とあわせて、災害情報を正確・確実・迅速に収集、加工・処理、伝達するための施設整備を進めることにより、災害の防止・被害の軽減を図ってきた。具体的には、専用無線回線網の整備、河川水位及び雨量の遠隔無人計測システムの整備、広範囲にわたる雨域の状況を把握するレーダー雨量計の開発・整備を進め、これら設備・機器によって得られた気象・水文現象に関する情報をもとに、ダム・堰等の管理の高度化を図ってきた。また、近年では、衛星回線、光ファイバー、GIS(Geographical Information System:地理情報システム)などの新しい技術を応用した多様な通信網、情報基盤の整備も進められている。

 一方、水災害・土砂災害を含めた防災制度においては、地域の安全は地域で守るという考えに基づき地域住民への避難勧告・避難指示は市町村長の責務として位置付けられている。このため、建設省や都道府県等の河川管理者は、市町村長を支援するために必要な情報を提供する役割を担っている。具体的には、気象庁が発表する気象警報、建設省と気象庁が共同で発表する洪水予警報や、建設省及び都道府県の河川管理者が発表する水防警報といったの人命に関わる重要な情報を、都道府県を通じて市町村に提供している。また、その他に建設省等の河川管理者の情報を市町村等にリアルタイムで提供する組織として(財)河川情報センターが設立されている。

 このように、これまでの水災害・土砂災害対策における情報化の取り組みでは、地域の防災活動に責任を有する市町村長に、正確・確実・迅速に情報を提供することを目指してきた。このため、限られた内容の情報をより効率的に伝達するために、伝達ルート・伝達方法の固定化、伝達内容の単純化・定型化が図られてきた。

 しかしながら、近年の情報技術の著しい進歩や、住民の情報への意識の向上等は、河川管理者と都道府県、市町村等の間の情報伝達の改善に加え、住民の一人一人が必要とする情報を正確・確実・迅速に提供することを促している。

 例えば平成10年8月下旬の豪雨では、

  • 必要な情報の収集や関係機関への情報伝達が必ずしも迅速・正確に行えなかったり、住民のニーズに対応した情報が十分でなかった
  • また、マスメディアからは、計画高水位等の専門的な用語が用いられているため、一般の住民には情報の内容を正確に理解できない
  • さらに、居住場所の災害に対する危険性を認知していない住民が増加していることなどから、防災に対する認識が十分でないため、住民が避難勧告等の重要な情報が出されていることに気づかなかったり、情報を受けても的確な行動に移らなかった

等の問題点が指摘されたところである。

(2)被害の最小化に向けた情報化の視点と課題

 こうした現状を踏まえて、水災害・土砂災害による被害の最小化に向けて情報化を進めるに当たっては、地域住民の的確な防災行動につながる情報の提供を図ることが重要であり、以下の三つの視点に基づく情報化を進めていくことが必要と考えられる。

○第一の視点: 地域の防災活動に責任を有する市町村長、水防団等の防災活動に関する組織の判断に役立つ情報の提供

 市町村長は地域の防災活動に責任を有する立場であり、危険にさらされている住民に適時、適切な内容の避難勧告等を行うことが必要である。しかし、個々の市町村において避難勧告等が必要な災害が生じることは稀でり、避難勧告の基準値等を予め設定することは困難であるため、市町村長は洪水時の水位上昇や氾濫等の状況を正確かつ迅速に把握しなければならない。また、水防団体等防災活動に関する機関においても、的確な防災活動を行う上で正確・迅速な情報収集は欠かすことのできないものである。

 そのためには、市町村を単位とした情報が重要であり、河川管理者が異なっても河川に関する情報は一元的にとりまとめて市町村長等に提供されることが望ましい。また、市町村長等が災害の状況を把握するためには、全体を十分に網羅した情報が必要である。さらに、防災の専門家を確保することが難しい市町村や防災機関においても誤解や混乱が生じないよう、提供される情報は分かりやすいものであることが求められる。

○第二の視点: 地域住民が災害状況を把握するのに役立つ情報の提供

 個々の市町村では避難勧告等が頻繁に出されることはないため、住民が勧告文のみから災害の状況を十分に把握することは難しい。さらに、地形や土地利用等が異なる場所に住む住民の一人一人に対し、きめ細やかな避難勧告等を行うことは困難である。したがって、住民の一人々々が自らが置かれている状況を正確に把握できるように、できるだけ多くの情報(風雨等の気象情報、河川水位等の水文情報、氾濫・浸水等の被災情報など)を伝えることが重要である。そのためには、放送メディアなどの多様なルートを活用することが求められる。

○第三の視点: 災害に関する情報の理解に役立つ平常時からの情報提供

 避難勧告等が伝えられた場合でも、情報が示す危険性が認識されないために、情報提供が住民の防災行動につながらないことがある。避難勧告等を住民の災害時の確実な防災行動に活かすためには、避難勧告や災害状況に関する情報の内容が、円滑かつ正確に理解されることが不可欠であり、住民の理解に役立つ情報を平常時から提供していくことが必要である。このような情報としては、それぞれの居住場所の安全性、避難経路等をわかりやすく整理した情報、避難勧告や河川情報の仕組みに関する情報等があげられる。

 なお、市町村及びそれを支援する都道府県は、災害時の正確な情報を迅速・確実に収集するための体制の整備と、収集された情報を迅速・正確に分析・判断するための努力を、平常時から積み重ねていくことが必要である。

 第一の視点及び第二の視点は、災害発生時の情報の円滑な提供を目指すものである。特に、必ずしも災害情報の取り扱いにを習熟していない市町村長や住民等にも正しく理解されるよう留意する必要がある。したがって、

 1) 河川に関するデータの一元的管理及び提供体制の確立
 2)情報の網羅性の確保
 3)情報のわかりやすさの向上

を図ることが必要である。

 また、第二の視点からは、より多くの地域住民に迅速かつ確実に伝えることが必要であり、普及している放送メディアとの連携等による

 4)情報提供ルートの多様化

を図ることも重要である。

 第三の視点は、災害情報の重要性が認識されことによる災害時に提供される情報の有効活用を目指すものであり、

 5)平常時からの災害情報の提供

 6) 防災計画における河川情報の収集・提供に関する内容の充実

を行うことが必要である。

 以下に、三つの視点に基づく災害被害の最小化を図るための情報化の具体的な対応策の内容をとりまとめる。

(3)具体的な対応策

1) 河川に関するデータの一元的管理及び提供体制の確立

 現在、河川に関するデータは河川管理者毎に収集、加工処理等が行われている。しかし、災害時において防災活動に責任を有する市町村長が円滑に情報を入手し、的確な判断を下すためには、河川に関するデータが一元的に管理・提供される体制を確立することが必要である。

 また、災害に際して提供される情報を、より効果的な市町村の防災活動や住民の避難行動等に結びつけるためには、情報の内容が関係者全員に正確かつ確実に理解される必要がある。このため、国、都道府県、市町村、マスメディア及び住民が、明確で分かりやすい統一された表現の情報を共有することが重要である。そのためにも、河川に関するデータは統一された方法で加工・処理・提供されることが求められる。

 データの一元的管理及び提供体制を確立するに当たっては、

  • 異なる管理者の河川情報を一元化し、公正かつ適正に統一的な情報として 加工・処理できること
  • 正確かつ平易で、誤解の生じないような加工・処理ができること
  • 当該地域に対して重要な情報を確実かつ過不足なく提供できること
  • メディアや市町村の多様なニーズに対応したデータの加工・処理、提供ができること

等が必要である。そのためには、河川情報に精通し、技術的にも運用面においても高い信頼性を持つ体制を確立する必要である。
また、情報の錯綜が生じた場合にも、正確な情報を迅速に提供すること等混乱を防止・抑止するため迅速な対応がとれるよう留意することが必要であり、さらに、災害時の施設操作等に支障を生じないように河川情報システムの整備、運用に当たって十分なセキュリティーを確保することも必要である。

 なお、情報の加工・処理に必要な費用については、道路情報、気象情報等の負担の考え方と同様、国、都道府県、市町村等の情報の利用者が負担することを原則とすべきであるが、人命に関わるような事態においては、例外的な措置も検討すべきである。


2)情報の網羅性の確保

 市町村長の勧告発令等の判断材料としては、より具体的な地点に関する情報が必要である。そのためには、空間的な空白、時間的な遅れの少ない包括的で連続的な情報を収集することが重要であり、また、マスメディアを通じて国民に広く情報を提供する際にも、当該メディアによる情報提供の範囲を、包括的に網羅したデータの確保が必要である。

 このような情報の網羅性を確保するために、国や都道府県等の河川管理者は、データが少ない地域の解消に努めることが必要である。特に、都道府県の管理する小規模な河川や上流域の支川では、観測網の強化を継続的に図っていく必要がある。

 さらに、観測施設の重点的な整備が難しい地域についても、精度等に十分配慮した上で、雨量レーダーデータから直接水位を推定する手法等を開発・普及する等の対応に努めていくことが求められる。


3)情報のわかりやすさの向上

 住民にとってだけでなく、市町村及び防災機関の防災担当者にとっても水災害・土砂災害に遭遇することは稀になってきている。そのため、災害に際して提供される情報を分かりやすくすることは、情報提供により災害被害を最小化する上で極めて重要である。

 情報のわかりやすさを向上させるためには、情報を受け取る側の使いやすさ、理解度や関心度を考慮した適切な情報の収集・加工が必要である。

 具体的には、予備知識がなくても情報内容を誤解なく理解できるような、平易な表現や用語を用いることが重要である。例えば、河川管理用の指標である「計画高水位」等の用語は市町村、防災機関及び住民にとって理解しづらいものである点に留意し、状況を伝える指標や用語の選択、設定に十分な配慮を払うとともに、情報を適切に解析できる専門家の育成も必要である。

 また現状では、避難勧告等を発するための数値指標を設けることが困難であることから、的確な判断に役立つ情報を市町村にわかりやすく提供することが極めて重要である。具体的には、地図上に位置づけた情報、図化された情報、及び映像情報等の積極的な活用が有効であり、河川等管理用の光ファイバー網及びCCTV(Closed Circuit Television)画像等による状況把握体制の整備、河川情報の電子化、及び各種データを地図情報として処理できるGISの導入の一層の促進が必要である。

 また、過去のデータの蓄積・分析してリアルタイムの情報と比較することで市町村が適切に理解できるようにするとともに、これらの観測データに基づく予測を含めた情報提供ができるようにすることにより、住民が実感をもって現況を認識できるようにすることが重要である。くわえて、既往の災害時の状況等の情報を分析、蓄積しておき、災害時に活用出来るようにしておくことも重要である。

 さらに、今後、マスメディアを通じて住民等への情報提供を円滑に行うためには、情報内容のわかりやすさの向上に加えて、適切なアナウンスメントを付加するためのスタジオ等の施設整備や人材の育成等に努めることが重要である。


4)情報提供ルートの多様化

 市町村及び防災機関に向けた情報と住民向けの情報では、必ずしも内容が同じものになるとは限らないことから、情報の提供相手に応じて災害の状況をできるだけ頻繁に、かつ、確実に提供するためには、情報提供のルートを多様化することが重要である。
河川情報の提供ルートの多様化を図っていくためには、提供目的、提供する情報の内容、対象とするエリアの規模等を考慮した上で、適切なメディアの活用を図ることが重要である。

 特に、テレビ、ラジオ等のマスメディアは普及率が高く、多くの国民が災害情報の入手手段として認知・活用していることから、積極的に河川に関する情報が放送されるように幅広い協力を求めていく必要がある。
また、マスメディアでは、地域のニーズに密着した情報を提供する上で限界があることから、CCTVからの画像情報や予測情報等、限定された地域に関する情報を詳細かつ頻繁に提供するためには、CATVやコミュニティFM、有線放送等のローカルメディアとの連携が有効であり、さらに、電話による自動応答サービス等で、住民が直接情報を入手できるようにすることも効果的であると考えられる。

 最近では、こうした従来のテレビ、ラジオ、電話等の他に、文字多重放送やインターネットなどの多様なメディアが登場しており、さらに、テレビでもデジタル化による一層の多チャンネル化が予定されている。従来のマスメディア、ローカルメディアに加えて、新しいメディアをも活用して情報提供ルートの多様化を図るため、災害時の情報提供のあり方や、役割分担等を含めた情報提供の具体的な方法について、メディアとの間で今後検討していくことが必要である。
河川情報の提供ルートの多様化により、特定のルートが被災した場合でも他のメディアから情報の入手が可能な環境が整備されるため、住民に対する災害時の情報提供のリダンダンシーも向上すると考えられる。

 なお、情報提供ルートの多様化を図るに当たっては、同一のデータを用いても加工・処理の過程で異なった情報になることから、様々なルートから異なった内容及び表現の情報が提供され、かえって混乱を招くことのないように、情報内容の整合性が確保されるよう十分留意する必要がある。


5)平常時からの災害情報提供の充実

 市町村や地域住民が災害時に提供される情報を確実に入手し、提供された情報を活用して被害最小化のための行動をとるためには、災害情報への関心と提供された情報についての理解度を向上させ、これを維持することが重要であり、そのためには、平常時から災害時の情報活用を助ける情報提供を積極的に行うことが必要である。

 平常時からの情報提供の充実としては、洪水ハザードマップの作成・配布やダイレクトメールにより居住場所に関する危険性等の身近な災害情報を提供すること、及び、これらの情報の入手方法に関する情報を提供することが効果的と考えられる。洪水ハザードマップについては平成10年8月の豪雨災害においても阿賀野川流域の住民の避難行動に有効であったことが報告されている。さらに、過去の水災害・土砂災害の被害記録をパンフレット等にまとめて日常から入手できるような形で地域に提供することや、デジタル化技術の活用等により災害時の想定被害をバーチャルリアリティとして体験できるVTR等として提供することも、災害情報への関心を高めることに効果的である。

 また、放送メディア等、日常の身近な媒体を通じて、例えばCCTVの画像を日常から提供することは、災害時の河川の状況変化を把握しやすくするための状況情報としても利用されることが期待され、住民のいざという時の避難行動に有効と考えられる。このように、日常から河川に関する様々なデータの公開に努めることは国民の日頃からの河川についての関心を高め、後述する地域と河川の関係の再構築を図るためにも有効となる。

 さらに、出水期前には、報道機関とも連携を図りながら、重点的なPRに努め、るべきである。具体的には、一人一人の安全を守るのは最終的には個人の心構えであることへの理解を訴えることや、情報入手方法等災害時の身近な防災行動に役立つ情報提供を行うことが重要である。


6) 防災計画における河川情報の収集・提供に関する内容の充実

 市町村は国や都道府県等の河川管理者等の有する情報を活用し、確実かつ迅速な防災対策や住民への情報提供に対し大きな役割を担っている。したがって、関係機関からの災害情報の確実な入手、適切な判断の実施、住民への確実な提供を着実に実施していくとともに住民からの情報の入手に努めることが求められる。さらに、地域住民が市町村からの情報を活用して適切な防災行動を行うことができるように、前述の平常時からの住民への災害情報の提供を行うことが求められる。

 そこで、今後、都道府県、市町村はそれぞれの防災計画において、より積極的な河川情報の収集方法や、情報提供ルートを多様化するための報道機関との協定等、具体的な内容を充実していくことが重要である。また、平常時からの情報提供として効果の高い洪水ハザードマップ等の作成についても、市町村の防災計画に明記し、着実な整備を図っていくべきである。


2.地域と河川の関係を再構築するための情報提供

(1)現状

 水運が物流の中心的な役割を担っていた頃、河川は地域経済の軸であり、政治や文化等の幅広い情報ルートであった。また、度重なる氾濫や渇水といった災害が農耕を中心とした当時の地域社会に大きな影響を及ぼしていたため、身近な川は住民の畏敬の対象であった。このような日常からの川への高い関心を背景として、かつての河川は地域の祭事等の重要な文化活動の場ともなっており、日常生活における人や地域間の情報交換の場や、世代を超えた地域の文化の伝承・交流の場としても重要な役割を担っていた。

 しかし、戦後、物流の中心が水運から陸運に変わったことや、高度成長期以降、農業中心の産業構造が転換したことにより、かつてのような川を介した人々の豊かな営みや交流は多くの河川で途絶えて来ている。また、治水事業が着実に進展し、氾濫等の頻度が減少してきたことから、河川に対する恐怖心は薄れて来ている。このように、住民と川との接点が希薄になるにつれて、河川へのゴミの不法投棄や水質の悪化等が深刻な状態となり、これがより一層住民の関心を身近な川から遠ざける要因となっている。

 その一方で、近年、河川空間がスポーツ等のレクレーションの場として利用されるにつれて、河川の自然環境や河川を含む身近な地域の歴史や文化にも関心が持たれてきている。最近では、河川の自然や親水空間が持っている精神的な安らぎを与える機能(ヒーリング効果)が注目されている他、地域の活性化や地域間の交流・コミュニティ再生の重要な資源としても注目されてきており、日常の河川に関する情報のニーズは高まってきている。

 これに対し、河川管理者が日常の河川に関して提供している情報の内容は、河川の維持管理や施設整備を目的として得られた調査結果が中心であり、必ずしも住民のニーズに応えるものになっていない。また、情報提供はパンフレット等の配布や、イベント等を通じて河川の紹介、小学生等の社会見学に対する説明といった形で行われており、住民が情報を入手する機会も限られている。このため、河川についての様々な情報は十分に認知されておらず、また、情報を必要とする人に行き渡らない場合もある。最近では、インターネットを使った情報提供が始められているが、河川に対する様々な関心に応えるだけの十分な情報が必ずしも収集・整理されていないことから、住民が欲しいときに必要な情報を入手できるような状況になっていない。

(2) 地域と河川の関係を再構築するための情報提供の視点と課題

 今後、地域の独自性を活かした個性ある川づくりを目指し、地域と河川の関係の再構築に向けて情報化を進めるためには、地域住民の河川についての幅広い関心を喚起し、高めるとともに、地域住民の主体的な参加を促進することが重要である。そのためには、以下の二つの視点に基づく情報化が必要である。

○第一の視点: 地域の住民の河川に対する関心を強めていくための情報の提供

 日常の河川に関する情報のなかでも自然環境や歴史・文化等の分野の情報は、国民からのニーズが高い。したがって、地域の住民の河川に対する関心を強めていくためには、河川に関するこれらの分野の情報を積極的に提供することが重要である。また、このような情報の提供が、関心を持つ住民を増やし、さらに、住民の関心を深めることにつながるよう、デジタル技術等を活用してインパクトがあり感性に訴える情報を充実させることや、CATV等のメディアを活用して情報に触れる機会を拡大することに努めるべきである。

○第二の視点: 住民が主体的に河川に関わって行くための情報の提供

 地域と河川の関係の再構築を図るためには、単なる興味の対象や知的欲求に応える情報の提供にとどまらず、身近な河川の環境や流域の文化といった河川との関わりを生活のなかで捉えられるような情報を提供することが重要である。また、このような情報の提供が、河川を介した地域の交流や連携にもつながるよう、河川管理者は住民の日常的な河川愛護や自然環境の保全等の活動に対する支援に努めるべきである。

 第一の視点は、身近な河川及び流域に関する関心の高い分野の情報を、より効果的に提供することを目指すものである。したがって、

 1) 環境、歴史・文化に関する情報の充実
 2) 画像情報や体験型の情報提供による河川に対する住民の関心の喚起

を図ることが必要である。

 第二の視点は、地域住民のより積極的な河川との関わりを目指すものであり、1)2)に加えて、

 3) 地域の住民が主体的に河川に関わるための支援

の検討が必要である。これによって、地域の人々が河川管理者とともに主体的に活動を展開し、河川に関わる人々や地域の情報ネットワークの形成につながるものと考えられる。

 以下に、二つの視点に基づく地域と河川の関係の再構築を図るための情報化の具体的な対応策の内容をとりまとめる。

(3)具体的な対応策

1)環境、歴史・文化に関する情報の充実

 水質や生態系等の環境に関する情報については、河川管理者が情報の収集及び提供体制の整備して情報の充実を進めるとともに、自然科学分野の研究機関や学校あるいは自然保護団体等が保有している情報も幅広く収集し、測定方法や精度等に留意しながら活用を図ること必要である。そのためには、こうした機関と協力して調査を行ったり、その活動を支援することが大切である。このように、学校教育等の中において簡易な測定方式や器材を用いた継続的な調査が実施されるようにするに支援することは、情報の充実が図られるとともに、地域と河川管理者とが連携した参加型の情報提供にもつながることが期待される。

 また、こうして収集されたされた情報についてはデータベース化を促進し、関係機関相互での活用を進めることが重要である。また、インターネット等での積極的な公開や、こうした観測を行っている現場での電子掲示板等を利用した周辺住民や河川利用者への提供により、日常的に河川環境についての情報に触れることのできる機会を設けることも積極的に検討すべきである。

 河川や流域の歴史や文化に関する情報は、歴史に関する専門家や地域の学校等の教育機関により、地域の視点に立った歴史や文化の中で研究されている場合もあるため、こうした研究者や機関と共同して、情報を流域毎に整理することが重要である。特に、氾濫等の災害の記録や教訓が豊富に含まれており、災害体験やその教訓が地域の財産として受け継がれるように、情報を収集・整理し、資料を作成・蓄積していくことが重要である。

 これらの成果は、書籍やVTR等の形で取りまとめるほか、内容や所在等の情報をインターネット等での紹介や、地域の図書館等を利用した提供をを含め、幅広く利用できる環境を整備していくべきである。

2) 画像情報や体験型の情報提供による河川に対する住民の関心の喚起

 河川に対する住民の関心を喚起するには、これまでのパンフレットやポスターの配布、講演会の開催、関係書籍の発行等に加え、新しいメディアを活用し、日常生活の中で河川についての情報を目にする機会を増やすことが必要である。具体的には、CATV等地域に密着したメディアでの情報提供や、水文・水質データベースのインターネット上での公開等が効果的と考えられる。

 特に、近隣の河川の画像情報を提供することは、河川の状況がより直接的に伝わるだけでなく、受け手の感性に訴えかけ、関心を喚起するために効果的と考えられる。また、河川の映像は、自然環境についての情報のニーズや、河川の持つヒーリング(精神的な癒やし)への関心にも応える情報であることから、河川管理用のCCTV及び光ファイバを活用し、CATVやインターネットと接続して視覚情報を継続的に提供することも積極的に検討すべきである。

 また、メディアを介した情報の提供以外に、自然学習等を通じて実際に河川を体験したり、自然とふれあうことによって直接的に河川情報を入手することは、河川に対する理解を深めるために効果的である。そこで、子供をはじめとした幅広い地域住民が川遊びや自然観察等を行う施設を整備したり、様々な展示や映像などを通して擬似的な体験等もできる河川博物館等の施設を整備するとともに、こうした施設の所在等の利用に関する情報や、河川の危険箇所等の適正な利用に必要な情報が容易に入手できる環境を整えることも重要である。

 また、住民に対して、河川を利活用するためのルールや危険個所等に関する基本的な知識の習得を支援するとともに、現場(オンサイト)にも警報施設や河川航行標識、情報板等を設置して安全に利用するための情報の提供を行うことも必要と考えられる。

3)地域の住民が主体的に河川に関わるための支援

 住民の主体的な河川への関わりを支援するためには、河川に対する理解を深めるとともに、主体的に河川に関わるようになった住民や団体が、より積極的に活動を展開できるような環境を整備する必要がある。

 具体的には、一部の河川で既に行われているように、河川に強い関心を持つ住民や民間団体と協力して清掃や自然環境に関する情報収集等の活動を行ったり、このような活動の情報を積極的に紹介することにより、河川管理者とのパートナーシップによる住民等の参加を展開することを検討すべきである。特に、ゴミ収集や草木の剪定等の河川管理のきめ細やかなノウハウを住民に提供し、また、住民の情報提供や参加を得ていくことは、例えば、市民が自主的に河川の維持管理に参加していくような仕組み(アドプトシステム)の第一歩になると考えられる。

 また、住民や専門家、民間団体等河川に関係する人々や機関が協力して情報を収集・加工し、情報を共有化することができる情報ネットワークの拠点作りついても支援方策についても検討すべきである。このような情報ネットワークの形成は、人々や地域間の交流を促進し、河川を軸としたコミュニティの形成と流域の中での相互連携につながるものと期待される。また、こうした拠点で情報が蓄積されていくことにより、かつての世代を超えた文化の伝承のように地域と河川の関係が受け継がれて行くものと考えられる。

 

おわりに

 今回の提言は、その実現性を考慮して、現在の防災体制、責任分担及び法体系を前提とした検討のとりまとめを行ったものである。しかし、技術の進歩や情報基盤の整備、マスメディアの普及、国民のニーズ等、河川情報を取り巻くこうした状況が大きく変化することも想定される。このような変化に適切に対応しながら、「災害被害の最小化」及び「地域と河川の関係の再構築」を図っていくためには、法制度等も含む幅広い観点から河川に関する情報化施策の展開を検討していくことが必要である。




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