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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


1.はじめに


 我が国は、台風、梅雨等洪水が発生しやすいアジアモンスーン地域に位置し、山地が急峻であることに加えて火山噴火や地震が多い上、高潮や津波の来襲頻度も高い等、水災害・土砂災害が発生する可能性は常に内在しており、災害と共存せざるを得ない現状にある。

 このような厳しい国土条件であるにもかかわらず、我が国は、江戸時代の約4倍の人口を約37万km2の国土に収容し、世界有数の高い人口密度を有し、現代文明を営んでいる。これを可能ならしめたのは、明治以降、治水事業により平地を洪水氾濫から回避させることに努め、利水事業により、国民生活の向上、経済社会活動の発展を図ってきたからともいえる。

 振り返ってみれば、文明は、水循環の自然的変化あるいは人工的改変を通じて発展を遂げてきた。蒸発、降水、流下などの水の循環の過程において、あらゆる生命体が育まれ、文明が営まれてきた。水が生命の源といわれるゆえんである。

 しかしながら、近年の人間の諸活動、とりわけ国土に係る諸活動は水循環系、生態系に過度の影響を与え、新たに深刻な弊害を数多く露見させた。

 具体的には、急激な人口増加と都市化の波が押し寄せ、国土の約10%しかない洪水の氾濫原に、人口の約50%、資産の約75%が集中するに至り、水災害に対する脆弱さを益々増大させる結果となった。この事態に治水施設等の整備が追いつかず、現在でも依然として洪水や渇水の頻発に悩まされている。水質面でも新たな物質などによって人々の健康や安全に対する不安感が広まっている。都市内の中小河川は、排水機能が重視された整備の結果、本来身近な自然空間であるにも関わらず、川の持つ美しさ、安らぎ等の川の持つ価値を失った空間へと変貌している。いつしか、川や水との付き合いが希薄になり、自然の多様性を受け入れ、上手に共存してきた地域の知恵も忘れ去られ、川から受けていた様々な恩恵が失われてきた。さらには、人間社会や生態系の存続そのものまでもが影響を被る懸念が生じている。

 これらの課題を現行の水に関わる行政の枠組みで解決することは困難である。このため、人間社会において安全・快適で心豊かな生活が確保され、自然環境・生態系の保全に果たす水の機能ができるだけ損なわれず、人間社会の持続可能な発展が保たれるよう、より一層の円滑かつ効率的な水管理・国土管理を目指した総合的な施策を展開しなければならない。

 本委員会は、総合行政のあり方を検討するにあたり、新たな水循環・国土管理に向けた課題として、以下の5つの課題に着目し、それぞれについて詳細な検討を行うべく、水循環、総合土砂管理、「川に学ぶ」、都市内河川、危機管理の5つの小委員会を設立した。

  •  近年の都市化の進展等流域の急激な変化に伴う従来の水循環の大きな変化による普段の河川流量の減少、水質悪化、洪水流量の増大等の問題に対して、流域の健全な水循環系の構築に向けた課題。
  •  森林を含む山地部、山麓部、平野部、河口・海岸部等における堆積・侵食等の土砂に係わる環境面も含めた問題に対して、自然との調和を図った総合的な土砂管理の確立に向けた課題。
  •  河川環境は、人々の感受性や情緒等を育む場であり、環境教育実践の場でもあるため、こうした河川環境の価値を把握し、川に学ぶ社会をめざして具体的に提案・支援していくための課題。
  •  都市内における中小河川について、環境、生活、防災等のまちづくりの観点から河川の多様な機能を活かした都市の再構築に向けた課題。
  •  大洪水等による被害を最小限にくい止めるための災害発生後の対策も視野に入れた危機管理対策の確立に向けた課題。

 以上の課題に対し、各小委員会からは、それぞれ以下のような報告が行われた。

  •  水循環を考える上で、河川、地下水、下水道の水質、水量は重要であり、実態を十分把握するとともに、国土マネジメントに水循環の概念を入れ、流域全体での視野と社会全体での取り組みが必要である。
  •  流域の源頭部から海岸の漂砂域までの一貫した土砂の運動領域を「流砂系」という概念で捉え、一貫した土砂移動の実態把握とともに、適切な土砂流出の抑制及び下流への土砂供給などの取り組みを一体的に行うことが必要である。
  •  「川に学ぶ」社会を構築するため、人々の関心を高める魅力ある川、川にかかわる正しく広範な知識・情報の提供、川に学ぶ機会の提供が必要である。そのためには、住民・河川管理者等の主体的・継続的活動が必要である。
  •  今後の都市整備においては、河川の特性を十分に活かすとともに、流域・水循環の視点を重視することが必要である。また、都市内の河川が有する身近な自然を保全、回復するとともに、沿川地域と河川の調和を図ることが必要である。
  •  危機管理対策の確立にあたっては、住民・企業・マスメディア及び行政機関が、自らの責任・役割を明確に認識し、災害時にあらゆるレベルで連携を強化することが重要である。また、国をはじめとする行政機関は、地域の危険度を示す水災害・土砂災害に係る情報を、住民に積極的かつ徹底的に開示し、住民もこの情報に基づいて自己責任の下で災害と共存していかなくてはならない。さらに、災害時の的確な行動のためには学校教育、地域の社会活動の場を通して日頃からの防災意識の啓発と高揚を図る必要があり、日常に根ざした危機管理が重要である。

 さらに本委員会は、以上のような各小委員会の報告を踏まえ、人間社会と水との健全な関わりを再構築するため、人間社会と水循環系との調和の確立等、水に関する基本理念を国民一人一人が共有する必要があること、基本理念に基づく総合的な施策の推進及びその体制の確立を急ぎ、新たな法制度を確立する必要があること、さらには危機管理対応型社会を確立すべく、災害に強い土地利用への誘導等新たな施策を展開する必要があることを報告する。

 これから切り開いていく水との新しい関わり方は、世界の中でも特異な気象条件、国土条件を克服して達成されるハード、ソフトの新しいシステムである。 世界においては、深刻さを増している水問題について、その解決策を模索しているが、我が国の新しいシステムの構築を通して生み出される知恵が、その解決に寄与できることを期待したい。






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