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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


4.新たな総合行政の展開に向けて

4−1.水に関する総合的な体系の確立

(1)水に関する基本理念の確立・共有の必要性

     水は、蒸発し、降水となり、地表や地下を流れ、土砂を運び、海に至る。その形態や状態を変えつつ循環していく過程の中で、国土が形成され、あらゆる生命体が育まれ、文明が営まれてきた。水は動植物の生命を育み、そのエネルギーは発電に利用され、農業や飲み水に利用される等、人間社会の形成・発展にとって不可欠な価値を有している。また、川は美しい景観を形成するとともに、近隣の住民に対し貴重な自然体験や交流の場を提供してきた。特に、人口集積が進んだ現代社会の都市においては、数少ない自然系のオープンスペースとして貴重な存在となっている。加えて、水により山地部から運ばれた土砂は、扇状地を形成し、さらに下流で沖積平野を形成し、最終的に海に至り海岸地形を形成する。これらの土地の上に、我々の生活空間が形成されているのである。

     現在及び将来において、国民が健康で文化的な生活を享受し、経済が発展していくためには、水の持つこれらの多様な価値をできるだけ損なわないようにすることが必要である。しかしながら、近年の流域における経済社会活動の急激な発展は、降雨の流出及び水利用の形態の変化、水質の悪化等、水循環系に過大な影響をもたらし、生態系や人間社会そのものにまで影響を及ぼしている。

     このため、人間社会と水との健全な関わりを構築すべく、水に関する基本理念を国民一人一人が共有する必要がある。また、基本理念に基づき、総合的な施策の推進及びその体制を確立することが急務であり、これらの実効性を担保すべく、新たな法制度を確立することが必要である。

(2)「人間社会と水との健全な関わり」について

     人間社会と水との関わりが健全であるとは、人間社会が水循環系に与える作用が適切に行われることによって、安全・快適で心豊かな生活及び健全な産業活動が実現し、自然環境・生態系の保全に果たす水の機能ができるだけ損なわれず、人間社会の持続可能な発展が保たれる状態をいう。

(3)基本理念

  1. 人間社会と水循環系の調和
     人間社会と水との健全な関わりを構築するためには、水循環系を変化させる行為のうち、その変化による影響の回復が不可能又は回復に長期間を要するものは極力排除すること、影響を与えざるを得ない場合には、その回復のための措置や代償的な措置を講じることにより、人間の諸活動と水循環系の調和を図る必要がある。また、この際、生態系の保全と回復に努める必要がある。

  2. 流域単位の水体系の構築
     水に関わる各種の施策は、流域単位で考えることが必要であり、土地利用、住まい方、排水規制等の水に関わる全ての分野において連携を図りつつ進められる必要がある。また、その実施に当たっては、流域の自然的、社会的諸条件を踏まえながら、流域ごとの特徴を活かして行われる必要がある。なお、土砂についても、水を媒体として移動することから、流域の源頭部から海岸の漂砂域までを含む「流砂系」一貫した土砂管理が必要である。

  3. 公共の福祉優先
     水は流域において、人間の生活・産業活動等に不可欠な基盤であること、反復して利用される限られた貴重な資源であること、また、その利用は他の人間活動や水循環系及び生態系に影響を及ぼすものであること等公共の利害に関係する特性を有していることから、水については、公共の福祉を優先させるべきである。

  4. 知識・情報の共有
     人間社会と水との健全な関わりを構築するためには、自然や社会などの水に関する広範かつ正確な知識・情報を共有する必要がある。

  5. 国、地方公共団体、事業者、住民等の適切な役割分担と連携
     国及び地方公共団体は、共通の基本理念に則り、それぞれの政策目的に応じた施策の展開を行う。その際、連携を密にして、全体としてより総合的な施策効果を発揮する必要がある。また、事業者、住民等は、基本理念を共有するとともに、国及び地方公共団体との適切な役割分担と連携を図り、流域における効果的な取組みを行う必要がある。

(4)水に関する基本的な施策

     基本理念に基づき以下のような施策を推進する必要がある。

    I.流域における総合的かつ計画的な取組み

     水に関する総合的かつ計画的な取組みを、共通の基本理念の下、流域における水に関する全ての主体が行うための枠組みが必要である。また、モデル流域を設定し、試行的取組みを行うことが必要である。

    1. 水循環アセスメントの実施
       水循環系の現状の把握と負荷・リスク評価のため、水循環アセスメント技法の開発に努め、圏域毎にアセスメントを実施する。さらにアセスメントの成果を流域水マスタープランに反映させる。

    2. 水に関する総合的な計画の作成
       流域における地域固有の自然、歴史、生活文化、産業等の地域特性を踏まえた水に関する総合的な施策を位置づけた、「流域水マスタープラン」の作成を行う。また、まちづくりにおいて、河川の持つ特性を活かすため、まちづくりについての総合的な構想の中に、河川を積極的に位置づける。

    3. 流域水委員会の設立
       地方公共団体、河川管理者等の関係機関、学識経験者、住民や事業者の代表等により構成する「流域水委員会」を流域毎に設置する。水循環アセスメントの実施、流域水マスタープランの検討等に当たっては、この組織を活用する。

    II.水環境の保全のための取組み

     流域における水環境の保全のため、土砂の移動も含めた水環境のモニタリングを新たに実施するとともに、これに基づき生物の多様な生息・生育環境の確保などを行う。

    III.経済原理を取り入れた誘導策

     人間社会と水との健全な関わりの構築に向けた住民や事業者の自発的な取組みを促進するため、行為制限等従来の手法だけでなく経済原理を取り入れた誘導策の導入についても検討する必要がある。海外における事例としては、環境水域に直接排水する者から汚染単位に対して課徴金を徴収する水課徴金制度(ドイツ)、渇水時に遊休水利権を買い取り、危機的水不足が発生している利水者に売る水銀行制度(アメリカ・カリフォルニア州)等が挙げられる。なお、海外の事例を参考とするに当たっては、我が国の自然、歴史、社会的な水事情を十分踏まえておく必要がある。

4−2.危機管理対応型社会の確立

(1)危機管理の必要性

     我が国の治水の整備水準はいまだに低く、また整備済の箇所であっても計画想定を上回る規模の豪雨等により、大規模な水災害・土砂災害が発生する可能性は常に内在しており、災害と共存せざるを得ない現状にある。このため、水災害・土砂災害に対する備えとして人命・財産の保全のために治水施設等の整備を重点的に実施する必要があるとともに、洪水、土石流等が発生しても、これに対処する最大限の努力を行い、被害を最小限にくい止める危機管理施策が必要である。

(2)危機管理の本質

     水災害や土砂災害の発生時に被害を最小限にくい止めるために、「責任・役割の明確化」、「あらゆるレベルでの連携の強化」、「情報の開示と共有」、「日常に根ざした危機管理」の4つの基本的視点に基づき具体的施策を展開する必要がある。しかし、これらの施策は、治水施設整備の進捗にも対応させつつ講じていくとともに、それぞれの地域の災害形態の特性並びに異なった形態の災害が複合して発生する場合を考慮し、実施していく必要がある。 また、水災害・土砂災害は、土地の利用形態の変化、地下空間の利用等の社会的変化とともに、新たな形態の被害をもたらすものでもある。危機管理施策もこのような時々刻々と変化する社会情勢への対応が必要であり適時に適切な見直しも重要である。

(3)危機管理対応型社会の確立に向けた課題と展開

     危機管理対応型社会の確立を進めていくためには、以下の課題について今後引き続き検討しつつ、施策を展開していく必要がある。

    1. 災害に強い土地利用への誘導
       大河川の氾濫や、大規模な津波・高潮、広域的な土砂災害等の大災害においても被害を最小限に止める土地利用のあり方について、建築物の移転を含めた土地利用形態の抜本的な再編の可能性などを含め新たな施策の展開を検討する必要がある。
       まちづくりにあたり、地震・火災に加え、浸水被害や土砂災害も視野に入れた、マスタープランを策定することが必要であり、洪水や土砂災害に対する危険地域を考慮し、土地利用や公共施設の配置計画等に反映させることが望ましい。
       このように、災害に強いまちづくりを進めるにあたっては、河川だけではなく、都市、道路、住宅等の幅広い関係部局が連携して検討を進めることが重要である。

    2. 広域防災機構の創設
       危機管理体制の一層の充実を図るため、米国の連邦危機管理庁(FEMA)のような常設の広域的な防災機構の設置が望まれるが、その求められる機能、組織、人員の配置・人事システム等について詳細に検討する必要がある。また、広域防災機構の果たすべき役割、関係省庁間の連携の進め方、国と地方の役割分担と連携のあり方、広域防災機構の財政負担のあり方等の項目について議論を深める必要がある。

    3. 地下鉄・地下街や自動車等の新たな危険への対応
       社会形態の変化に伴って発生する、地下鉄・地下街等の地下空間における水災害や、災害時における自動車の災害への対応などの新しいタイプの災害への対応について検討する必要がある。
       このような新たなタイプの災害に対応するにあたっては、河川のみならず建設省以外の省庁が所管する分野に関係する施策が多く含まれている。
       このため、発災時における関係機関の役割分担及び円滑な連携の下での対応、施設利用者等への迅速な情報伝達、さらには氾濫シミュレーションの精度向上・公表等を通じ地下鉄・地下街における水害・土砂災害の危険性の啓発について検討していくことが必要である。






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