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河川審議会について


4.健全な水循環系を構築するための施策の推進

 健全な水循環系を構築するため、前記の三つの基本的考え方に沿って、以下の施策を総合的に推進するべきである。こうした施策により、水と人との距離を縮め、21世紀にふさわしい日本の水文化を再生していくことが求められる。

(1)水循環に関する組織の設置及び総合的な水循環マスタープランの策定

     水循環系に関わる計画としては、河川計画、都市計画、下水道計画、防災計画等個々の分野での計画があるが、水循環系の健全化を図る総合的な計画が策定されておらず、水量・水質の一体的な管理が行われているとは言い難い。

     従って、水循環系の変化で問題が顕在化している都市域を含む圏域では、関係自治体、各種水路管理者、河川管理者等の関係機関、学識経験者や水循環に関係するあるいは関心を持つ市民や事業者の代表から構成される組織(以下「水循環再生会議(仮称)」という)を設け、流域における地域固有の自然、歴史、生活文化、産業等の地域特性を踏まえ、水循環の健全化に関して総合的に検討すべきである。特に、過密都市を含む圏域では、阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、市街地の中に、身近な水面を回復するとともに、水と緑の自然軸を積極的に回復するための総合的な水循環マスタープランを緊急に策定すべきである。

     一方、農山村地域においても、問題が顕在化している地域においては、環境・防災面をより充実するために、同様に総合的に水循環の健全化を検討していくことが望まれる。

     そして、総合的な水循環健全化の検討や水循環マスタープランは、河川整備計画、都市計画における「整備、開発又は保全の方針」と「市町村マスタープラン」、緑の基本計画、下水道整備計画、防災業務計画、地域防災計画等それぞれの計画へ反映していくとともに、策定主体である関係行政機関が連携して、実現を図っていくべきと考える。

     総合的な水循環健全化の検討や水循環マスタープランにおける内容としては、以下のような点が考えられる。

     ○水循環の現状と課題
     ○計画の対象とする範囲
     ○健全な水循環系構築のための基本方針
     ○目標 ・防災目標
         ・河川・水路等に確保する水量・水質の目標
         ・流域における雨水の貯留・浸透機能、利用の目標
         ・地下水保全目標
         ・水と緑の軸整備目標(水辺面積・水辺への接近性等) 等
     ○施策 ・水量・水質の確保方策
         ・水と緑のネットワークの整備方策
         ・雨水の貯留・浸透機能の保全・回復及び利用のための方策
         ・水の有効利用・循環利用方策 等

     なお、水循環再生会議は、水循環施策の実施状況についてフォローアップし積極的に情報公開を行い、施策の立案や実施状況について住民・事業者の理解を深め、それらの協力を求めていくことが必要である。さらに、流域における大規模な開発行為等については、水循環のメカニズムを踏まえた上で健全な水循環の保全の視点からチェック機能を果たすことが期待される。

(2)具体的施策の実施

     健全な水循環系を構築するために、以下のような具体的施策を積極的に実施していくべきである。

    ア.
    「環境防災水路」の指定等による水路・水面の多機能化

     良好な緑に囲まれた河川、水路、池沼等は、豊かな生物の生息・生育環境として、また人々の憩いの場としても貴重な空間であり、また、特に密集市街地では火災時の延焼遮断帯や災害時の消火用水及び被災後の生活用水の供給源等として重要な機能を有している。
     このため、河川、水路、池沼等の既存の水面を環境防災水路として指定し、従来の単一機能に環境防災の多面的機能を付与するとともに、これらの連続性を確保するために必要な連携水路等を整備することが重要である。
     整備の手法としては、公的主体による整備が期待される他、住民・事業者が主体となった水面・水路の整備・管理が重要である。このためには、住民、事業者、行政がパートナーであるという認識のもと、ボランティア活動の支援等を講じていくことが必要である。
     また、環境面、防災面の機能をより効果的に発揮するよう、水辺へのアクセス性の改良、防災拠点の設置、水辺のネットワーク化等を強力に推進すべきである。

    イ.
    既存の水源、施設の有効利用等による河川、水路等の水量の回復・確保

     都市内の河川・水路等における環境防災用水が不足している場合には、下水処理水を含む既存の水源及び施設の有効利用、水利使用の弾力的運用等により、その水量を回復・確保することが必要である。また、既存の水資源開発施設の統合管理や弾力的管理により平常時の河川流量を増やすとともに、可能な範囲で生態系の保全の観点から川が本来有する変動性を保全していくことも必要である。
     特に、木造家屋が密集している過密都市において、環境防災用水が不足している場合には、公共性を考慮し環境防災用水の水源を確保することが強く望まれる。
     ちなみに、兵庫県では、復興計画において、環境防災機能を強化するために、水と緑を街づくりの軸とするとともに、その水源として阪神疏水構想の実現を提唱している。

    ウ.
    閉鎖性水域、都市内河川等汚濁の著しい公共用水域の水質改善

     都市内の河川、湖沼等の閉鎖性水域など、依然として水質汚濁の著しい公共用水域については、川の持つ自然の浄化機能を活かしつつ、総合的な対策を強化することにより、積極的に水質改善を図るべきである。
     水質改善対策としては、従来の各種水質改善方策を、引き続き推進するとともに、対策の遅れている未規制事業場や面源からの汚濁負荷の削減を強化する必要がある。このため、水質汚濁が問題となっている流域においては、住民、事業者、行政等の役割分担を明確にした上で、関係者が一体となって流域からの汚濁負荷削減に取り組む体制を整備し、総合的に取り組んでいく必要がある。
     また、その際には、自然を生かした河川の整備や、植生を利用した水質浄化施設の導入など、川が本来持つ自然の浄化機能を最大限に活かした対策を講じていくことも重要である。

    エ.
    取排水体系の適正化等による良好で安全な水質の確保

     利水目的に応じた良好で安全な水質を確保することが重要であり、特に水道原水の安全性を確保するために、上流のダム貯水池から下流の取水口地点までを視野に入れて緊急かつ総合的な取り組みを優先して行うべきである。このような観点から、従来の各種水質改善方策を高度化・総合化するとともに、取排水体系の見直し等を積極的に進めることが必要である。
     また、最近水質事故が頻発している現状に鑑み、その早期発見と迅速な対策実施が可能となるような監視・対応システムの整備が必要である。
     さらに、環境ホルモン等の人の健康や生態系に対して有害な影響が指摘されている新たな水質問題については、関係行政機関と連携を図り、河川、海域等における汚染状況や生態系への影響等の実態を把握するとともに、汚染原因や人の健康への影響程度を解明する必要がある。これらの検討結果に基づき、問題となるような物質を極力使わない、河川等に流さないといった取り組みを関係機関や住民等と連携して積極的に進める必要がある。また、水道原水の安全確保等の観点から、リスクを最小化するような取排水体系の適正化、より高度な浄化対策等の施策を上水道、下水道部局等と協調しつつ、強力に推進する必要がある。

    オ.
    流域における雨水の浸透・貯留機能の保全・回復及び利用の促進

     洪水流出量の軽減、平常時の河川流量確保、湧水の復活、地下水の涵養、水の有効利用のためには、流域における雨水の浸透、貯留、利用が重要であるが、現状では住民意識が希薄であり、インセンティブが不足していることもあり、十分な対応がなされていない。このため、融資制度や優遇税制を拡充したり、各住宅や建築物において雨水浸透・貯留・利用施設の設置を促進する方策を講じる必要があるとともに、雨水の浸透・貯留・利用の一層の推進のため、目標等を都市計画に位置づける等の必要な措置について関係機関との調整を進めることが必要である。
     また、農地は本来保水・浸透機能を有しているものであるが、その機能の劣化が河川にも悪影響を与えていると推定される流域においては水田や畑地の経営や基盤整備等に本来の機能を損なわない工夫が期待される。

    カ.
    生物の生息・生育環境の保全・回復

     生物の持続的な生息・生育の場を保全・回復していくためには、河川水路等の連続性を確保するとともに、自然の復元力や浄化機能等川が本来持つ様々な機能や、川本来の変動や復元力を活かしていくことが重要である。
     このため、河川等の整備にあたっては、河川の上下流の連続性のみならず、各種水路とのつながりなど流域内の水辺も含めた連続性の確保に努めるとともに、多自然型川づくりや、水辺に沿った河畔林、樹林帯等の適切な整備を行っていくことが重要である。
     また、川の持つ自然の変動や復元力を極力損なわない形で河川等の整備を進めるとともに、必要に応じて貯水池からの放流により人為的な中小洪水を発生させる等の運用を行う等により、自然の変動や復元力の積極的な回復を図ることも重要である。
     さらに、氾濫原や地下水の涵養域等多様な機能を有する流域の湿地等についても、極力保全していくとともに、積極的な復元を図っていく必要がある。

    キ.
    地下水の保全・回復のための施策

     地下水の水位、水量、水質の実態を把握するため、関係機関と連携を図り、体系的な地下水位・流動・水質の観測システムを構築する必要がある。
     また、地盤沈下のおそれのある地域では、河川水への転換を積極的に支援するとともに、渇水時に行われる過剰な地下水の汲み上げに対して、規制策を講じるべきである。
     さらに、トリクロロエチレン等で汚染されている地下水質の改善のために、有害物質の除去技術等の開発を図る必要がある。

    ク.
    水循環型社会への転換を促す施策の推進

     水多消費型社会を水循環型社会へ転換するためには、水循環系が公共財産であるという認識のもと、従来の地域づくり、住まい方やライフスタイルに水の再利用、節水、循環利用等を促すシステムを取り入れるとともに、雨水、下水等についても条件が整えば水資源として有効に活用することも必要である。
     まず、河川・水路等の適正な管理にあたっては、コミュニティレベルの自主的なまちづくり活動が重要であり、財政的支援を含め、専門家を派遣したり、ボランティア活動を育成することが必要である。
     次に、環境・防災面の教育や啓発活動に加え、水循環の健全化に寄与する商品にエコラベルを付す等の運動を促進したり、土地や建物に過去の浸水実績といった治水上の安全度等の表示を行う等の取り組みを行い一般の経済活動を通して、水循環を健全化する方向へ誘導していく必要がある。
     また、水の再利用、節水、循環利用等についても、公的主体が実施する事業を拡充するだけでなく、一般の経済活動を通じて促進することが重要であり、事業者や住民等に対して、助成措置や融資制度を拡充する等のインセンティブ施策を講じる必要がある。
     さらに、水需要の抑制や水の高度処理等に関する技術開発を促進するため、公的研究機関においてこの分野の研究に重点的に取り組むとともに、民間の技術開発が促進されるよう、税制面等における誘導策が必要である。

    ケ.
    水センサスの実施

     水量、水質等の情報については、現在のところ、個々の施設の管理者が別々に取得・保有しているが、水循環系を構成する河川、水路、用排水システム等を通した流域全体において、互いの役割分担のもとの水量、水質等の基礎データを調査・整理し(水センサス)、共通のデータベースとして構築する必要がある。特に水循環の全体像を明らかにする上で、水利使用実態、地下水等の不足している情報については、計画的な実態調査を行い、早期のデータ整備に努める必要がある。
     これらのデータを活用して、水循環をより効果的に改善できるよう水循環のメカニズムを定量的に明らかにしていく必要がある。
     また、これらのデータベースについては、共通の情報基盤を有し、関係者が容易に活用できるように整備するとともに、インターネット等を通じて、広く一般に対して情報を公開すべきである。

    コ.
    水循環システムの経済的な評価

     水循環の健全化に向けて、住民・事業者等の積極的な協力を誘発するためには、河川、水路等の持つ多面的な価値を経済的に評価し、その情報を積極的に公開していくことが重要である。例えば、水循環の健全化がもたらす水質、生態、環境等への効果を経済的な手法を用いて、定量評価する技術の開発を進め、信頼性の向上を図る必要がある。
     加えて、住民、事業者等の協力を得るために水循環の現状や各種施策の実施状況と効果について、一般の人々が容易に把握できるよう、わかりやすい指標を用いて説明していくことも必要である。






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