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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


3.「川に学ぶ」社会の実現のために

 「川に学ぶ」社会の実現のためには、次の4つの基本方針が重要であると考える。

  1. 川と人とのかかわりとそれが抱える問題について、人々が関心をもつためには、川をもっと魅力のあるものにする必要がある。
  2. 環境とそれにかかわる問題、および人間の環境に対する厳しい責任や使命について理解するため、川に関する正しく、広範な知識と情報の提供を行う必要がある。
  3. 人間と自然との共生のための行動への意欲を育み、環境問題を解決するための技能・評価能力を育てるため、川での実践を伴った「川に学ぶ」機会を提供する必要がある。
  4. 以上のような諸活動を主体的、継続的に行うためには、利用者、住民・コミュニティ、河川管理者、地方公共団体等がそれぞれの役割を果たすと同時に、地域住民を構成メンバーとするNGO組織の成立が欠かせない。行政はそのための多面的な支援を行う必要がある。

(1)人々の関心を高める魅力ある川

 川と人とのかかわりとそれが抱える問題について、人々が関心をもつために、川には、人々の興味を引き出し関心を高め感動を与える魅力がなければならない。

 川に入ることを躊躇させるような水質や、人が水際に近寄れず生態系を貧弱なものとする護岸構造などは、川の魅力を著しく低下させた大きな要因である。魅力ある川にするためには、それぞれの地域の特性を活かした、自然環境の復元、多様な生態系の復活、川の水を汚さない流域の一人一人の行動、歴史・文化に根ざした美しい景観の形成など独自の魅力を有する川を整備・保全していくことが重要である。また、これを長く将来に伝えていくためにも、子供が川に親しみ楽しむことが重要である。

 一方、学校や地域社会では川は危険な場所という認識が強く、子供たちを川に近寄らせないように指導している場合が多い。これは川と人とのかかわりが薄れ、川を知らなくなったことにより、川の危険性が強調されたことも一因であろう。しかし、そのために川から受ける恩恵を自ら捨て去ってしまうこと、子供たちから、自分の力で危険から身を守ることを学ぶ機会を奪ってしまうことは非常に不幸なことである。どこでも一律に「川は危険」なのではない。年齢や個人の体力・技能によって危険の範囲は変わるものであることを理解して、川とのかかわりをもつことが重要である。もちろん、人々が川を安全に利用できることは大切なことであり、危険回避のための最小限の安全対策を施すことも避けられない。しかし、そのことで川の持つ魅力を減ずることのないようにすることが必要である。

(2)正しく広範な知識・情報の提供

 人と環境との深い相互関係に対する正しい認識と、環境保全に対する人類の重大な立場と役割を理解するため、川に関連したあらゆる分野の正しく、広範な知識と情報が提供され、広く伝えられることが不可欠である。

 必要とされる知識は、例えば川を中心とした生物学的・生態学的知識、川の構造などの工学的知識、川を媒介とした地域社会の成り立ちなどの社会学的知識などであり、これらは、それぞれの立場や年齢、経験に応じた形で、体験を通して伝えられる必要がある。また、それらとともに川やそれを取り巻く自然の受容力に配慮するマナーや利用上のルールを適切に提供し、周知する必要がある。なお、地域の特性に根ざした昔ながらの知恵や情報といった分野も、伝えられるべきであり、それらの知恵や情報を持った人々の協力が欠かせない。

 一方、川を自分の能力や判断によって安全に利用するためには、増水時・洪水時の川の危険性を理解することや、年齢や個人の体力・技能に応じた川の危険性およびその対処方法などのきめ細かな情報を広く伝えることが重要である。また、不幸にして事故が起こった場合に備えての対処方法、保障のための情報なども広く提供し、周知する必要がある。

(3)川に学ぶ機会の提供

 人間と自然との共生のための行動への意欲を育み、また自ら危険を回避し切り抜ける態度を養うことが、とりわけ子供たちにとって重要なことと考えられる。また、川を取り巻く環境をどのように改善していくのかというビジョンを構築する力を持つことも重要である。こうした技能、評価能力を身につけるためには、正しく広範な知識と情報、行動への参加の機会が提供されることが必要である。具体的には、日本の川を題材とした、様々な視点からの総合的な活動プログラムを提供し、それらを用いたワークショップを開催することなどが考えられる。また、すでに環境学習などの活動を行っているNGOや様々な団体の活動情報を、インターネットやニュースレターなどで広く知らせることなどが考えられる。

(4)主体的、継続的な活動のために<

 利用者は、川が100%安全なものではないことを認識し、自らの行動に対し責任を持つとともに、自らの川への働きかけが結果として他の人々に迷惑をかけたり河川環境の悪化をもたらすことなどのないように、モラルや当事者意識を持つことが必要である。

 住民・コミュニティは、川での活動に積極的に参加していくことが望まれる。とくに、川に関する様々な知識や技能を持つ人々や地域の古老などは、指導者として、人々の川への関心を引き出す役割が求められる。また、地域住民で構成される自治組織としてのコミュニティには、日常的な河川管理や洪水時の危機管理、地域社会としての教育活動など住民個人では困難な活動において、力を発揮することが期待される。

 河川管理者は、川と人との健全なかかわりを回復するために、川を管理する立場から、人々が川を敬遠する原因となっている水質の悪化や護岸の構造などの改善に努めるなど、人々が再び川に戻ってくる環境を創り出す努力が必要である。また、人々が昔のようには川を知らないことを考慮し、川にかかわる人々(住民・コミュニティ、利用者、NGO等)からの意見を聞きつつ、利用者や住民に川に関する知識と情報をきちんと伝えていくことも必要である。

 地方公共団体は、川と人とのかかわりは地域と人とのかかわりでもあるという観点から、自ら活動するとともに、様々な活動を支援していくことが必要である。また、川での活動による事故等に対応するため、賠償責任保険などの導入も望まれる。さらに、学校教育において児童・生徒が川を通じて様々なことを学ぼうとする場合には、河川管理者と連携して、それを積極的に支援していくことが必要である。

 これらの主体的活動を支えるためには、各主体の連携・交流を促進する必要があり、このためにはNGOを主体とした「流域センター」のような組織の設立が有効である。ここでは、インタープリターやコーディネーターといった人材の育成、さらに現在必要な知識・意欲等をもつ人材の活躍する場、能力向上を図る場としての役割も期待される。さらに、流域や地域内の連携のみならず、先進事例等他の流域や地域での活動、川以外のフィールドで行われている環境教育にかかわる活動との連携・交流も期待される。

 また、川での活動中に不幸にも事故が起こった場合、現在の制度では引率者の負担が大きい。引率者の負担を軽減し、自発的、積極的な川の利用を援助するような、保険等の制度を整備することも重要である。

 このような制度のもとに、個人の責任の範囲内において、自由に川を利用することが保証されるべきである。


 これらの基本方針に基づき、文部省、環境庁など環境教育にかかわる関係省庁と共通の理念をもって密接に連携を図るとともに、地域社会、NGOなどの参加と協力を得る必要がある。

 「川に学ぶ」社会を実現するため、いまこそ行動を始めるときである。






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