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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


2.「川に学ぶ」社会とは

(1)川と人とのかかわり

 河川と人間とのかかわりは非常に古く深いものであり、河川は文明発生の拠点であったことが知られている。それは当然人間の物質的基盤を支えるものであったが、人間の心性にかかわる文化をはぐくみ育てたものであることも忘れられてはならない。河川は農耕地を潤すものとして必要不可欠なものであり、そのため様々な灌漑の方法が世界各地で発達した。また、水流による移動・運搬などの手段としても重要であった。このように河川は人間にとってなくてはならない恩恵をもたらす一方、時に大規模な氾濫を生じ、人間の生存を脅かす存在でもあった。このため治水は河川と人間とのかかわりのもう一つの大きなテーマであり、利水と治水という点で、人類はつねに大きな努力を払い、真剣に川とつきあってきた。

 しかし、河川が人類にもたらす恩恵は利水のみでないことが、治水・利水のみを意識して進められてきた事業が、近年急速に大規模化してくることによって、明確化されてきた。つまり、古来河川が人間にもたらしてきたきわめて多面的な価値が、治水・利水事業の徹底化によって浮き彫りにされたのである。そして、このままの状況で推移するならば、それら河川による恩恵が全く失われるとの危惧の念が抱かれることとなった。その恩恵を整理すると、大きくは二つのものがある。

 一つには、川は自然環境の最も豊かな一部であり、そこに川の特殊性を反映する多様で特殊な生態系が見られたことである。それらは川の美しい景観を形成するとともに、新鮮な食物を供給するものであった。

 二つには、川が近隣の地域住民にとって貴重な自然体験、交流の場であったという点である。そのような歴史が地域の文化を育んできたのである。また逆にそのような地域文化によって、河川の景観が形成されてきたことも忘れてはならない。

 また子供たちにとって、川遊びをした小川などは、楽しい思い出の場であるとともに、多くのことを学ぶことのできる場でもあった。人格の基礎を培う原体験の場であったのである。

 決して意のままにならない川の自然や生物と向き合うことで、子供たちの感性が磨かれ、創造力が養われた。自然と真剣に向き合うことで、生命の尊さ、自然の法則や仕組みを理解することができたのである。

 また、様々な年代の人々がひとつ川に遊び、これを利用する状況の中で、他者への思いやりが芽生え、人と人とのつきあい方を学び、地域社会の形成、連帯を促す。また一人自然と向き合うとき、川やそれを取り巻く自然には、その生命感、躍動感、神秘性によって、人の心を癒す力がある。このような川での経験は人々の心の原風景をなし、大きな心理的財産となっているはずである。このことはどの世代においても共通するものであるが、特に子供時代における経験は、かけがえのない価値をもつものである。さらにこれらの経験は、これからの地球全体の大きなテーマである「自然とどのように共生していくか」という、大きな課題に対する答えを出していかなければならない際の、非常に重要な基礎となりうるものである。

 このように河川は、人間と自然とのかかわりのすべてを多様にかつ端的、かつ具体的に示す場であることによって、環境教育の場として最も優れたものであると言ってよい。

 このような川と人との関係を21世紀に向けて復活し、次世代へ引き継いでゆくことが我々の世代に課された責務である。

(2)「川に学ぶ」社会とは

 環境教育の目的は、「人と環境とのかかわりについて理解を深め、責任ある行動をとれるようにする」ことである。また、環境教育は急速に変化している世界に対して、その変化に敏感なものでなければならず、広範な学際的知識を基盤とした全面的な取り組みによって、自然と人間活動との深い相互関係についての認識を深めるものである。また、それぞれの立場に応じて責任ある行動を求めるものであるため、個人の生涯を通じて必要な技能や行動を身につける必要があり、子供だけでなくあらゆる世代が取り組む必要がある。

 川は利水をはじめとした生活の基盤であり、また独特の自然環境を有し、生命の息づく場所である。現代社会の中で疲れた心を癒し、生きる活力を取り戻す場でもある。そして人々の交流の場であり、様々な体験を通じた学びの場でもある。川は本質的に人間が環境を理解し、また人間から自然と共生する感性や知恵、工夫を引き出す機能を有している。

 また、環境問題解決のための理念である“Think Globally, Act Locally(地球規模で考え、足もとから行動を)”に照らせば、我々のすぐ身近に存在している川は、我々一人一人が学び、行動する場として非常に優れた条件を有している。そして、このような価値が十分発揮されている姿が、望ましい川の姿である。

 しかし、現在このような川の価値は残念ながら、十分活かされているとは言えない。我々はこの身近で大切な財産をもっと活用すべきであると考える。

 以前、川はもっと我々の生活に身近なものであった。密接にかかわらなければ、生活できなかったからである。しかし、人々が生活の利便性や効率の良さを強く追求したことから、現在川は様々な問題を内包するようになってしまった。川の水質の悪化や、川へ近寄りにくく生態系を貧弱なものとする護岸構造は人を川から物理的、心理的に遠ざけてしまった。また洪水体験の減少や、川を意識せずに水をいくらでも使えるような生活様式が普及したため、川に対する畏れや敬いの心が希薄化したことも、人々が川から遠ざかった要因である。望ましい川の姿を次世代に取り戻すため、また環境との共生という大きな課題に対処するために、いま行動を始めなければならない。川本来の価値とは人との深いかかわりの中でこそ発揮されるものである。

 川の望ましい姿を考える際の基本的な視点は、川は上流から下流まで一つの系をなしており、水循環の中で重要な役割を果たしている、ということである。川は、その流域からの影響を強く受けるが、最近では、とりわけ人間活動からの影響が顕著である。流域で行われる様々な人間活動が健全でなければ、川の自然環境も健全でなくなる。一方、川の各流域で成立する人間社会は、流域の特性を強く反映するものである。このような川と人間とのかかわりをよく認識して、それぞれの流域に特徴ある川と人間社会を実現していくことが重要である。そのことこそが、「川に学ぶ」社会を築いていくことであり、ひいては地球環境の保全につながっていくものである。






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