建設産業・不動産業

CM方式活用ガイドライン

- 日本型CM方式の導入に向けて -
 
平成14年2月6日
国土交通省
 

Ⅰ.はじめに

 CM(Construction Management)方式は、1960年代に米国で始まった建設生産・管理システムであるが、近年、我が国においてもCM方式への関心が高まっており、民間工事では既に外資系企業や大手デベロッパ-を中心にその活用が始まっている。
 しかしながら、建設産業全体を見れば、CM方式に対する取組は緒についたばかりであり、CM方式が今後、我が国の建設生産・管理システムの一つとして定着するためには、これまで建設工事に携わってきた施工者、設計者や発注者等がCM方式に対し共通の理解や問題意識を持ち、CM方式が効果的かつ適正に活用
 されることが当面重要であると考えられる。
 このため、CM方式の内容、課題等を整理し、CM方式に対する関係者の理解を深めるとともに、CM方式の今後の普及に向けて必要となる課題への効果的かつ着実な対応に資するため、CM方式の活用に当たっての基本的な指針となるものを目指して、本報告書をとりまとめた。
 とりまとめに当たっては、米国のCM方式を、制度、文化、慣習等の異なる我が国にそのまま導入することは困難であることから、米国のCM方式を参考にしつつ、日本型のCM方式について検討を行っている。
 

Ⅱ.CM方式の概要

1.CM方式(ピュアCM)とは

 
○CM(Construction Management)方式とは、米国で多く用いられている建設生産・管理システムの一つであり、コンストラクションマネージャー(CMR)(注1)が、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、設計の検討や工事発注方式の検討、工程管理、品質管理、コスト管理などの各種のマネジメント業務の全部または一部を行うものである。
 近年、我が国においても民間建設工事を中心にCM方式の活用が進められている。
(注1)CMRは工事規模、内容によって異なるが、通常は複数の専門家によるチームが組まれることが多い。このガイドラインでは、チームとして発注者の補助者・代行者の機能を果たすものを「CMR」と表記し、CMRのリーダーとしての個人を「CMr」と表記することとしている。
○CM方式では、従来の一括発注方式(一式請負方式)において設計者、発注者、施工者がそれぞれに担っていた設計、発注、施工に関連する各種のマネジメント業務を発注者側で実施することとしており、CMRは、発注者と「マネジメント業務契約」を締結し、発注者の補助者・代行者として発注者に対しマネジメント業務の全部または一部を行うサービス(CMサービス)を提供し、発注者からその対価(Compensation)(注2)を得る。
 この場合、施工については、発注者がCMRのアドバイスを踏まえ工事種別ごとに分離発注等(注3)を行い、発注者が施工者(注4)と別途「工事請負契約」を締結する。
(注2)CMRに支払われる対価(Compensation)は、CM報酬(「CMフィー」という。)と管理実費などの経費(CMRがマネジメント業務に要したコスト)で構成される。
(注3)発注者のニーズに応じて、①複数の工種を専門工事業者に分離発注するとともに分離発注しない工種をまとめて総合工事業者に一式発注するケース、②専門工事業者に分離発注するケース、に分けられる。なお、例外的に、CMRが分離発注が適さないと判断した場合に、総合工事業者に一式発注するケースも見られる。
(注4)建設工事における「施工者」は、複数の工種をまとめて一式で請け負う総合工事業者と特定の工種(例.とび・土工、鉄筋、左官、塗装、内装仕上、電気設備、空調など)の施工を請け負う専門工事業者に分けられる。一括発注方式の場合、総合工事業者は「元請」として総合管理機能を担い、専門工事業者は総合工事業者の「下請」として直接施工機能を担う。CM方式の場合、各工種に分離発注されるため、専門工事業者が「下請」ではなく、発注者から直接受注を受ける「元請」となることが多い。
○米国では、こうした純粋なCM方式を「ピュアCM」と呼び(「エージェンシー型CM」又は「for Fee型CM」と呼ぶ場合もある)、2で述べる「アットリスク CM」と区別している。
○我が国においても、設計者(注5)を中心に、「ピュアCM」について、これまで多くの検討が重ねられてきている。
(注5)このガイドラインにおいて「設計者」とは、建築分野の設計業務等を担う「建築設計者」と、土木分野の設計業務等を担う「建設コンサルタント」の両方を指す。
 

2.アットリスクCM

 
○CM方式(ピュアCM)では、施工に伴う最終的なリスク(施工を分離することなどに伴う全体工事の完成に関するリスク)について発注者が負うため、発注者が支出する工事費がその分増加する可能性がある。米国では、発注者が支出する工事費を低減するために、CMRにマネジメント業務に加えて施工に関するリスクを負わせる場合があり、このようなCM方式を「アットリスクCM」と呼ぶ。
○米国の「アットリスクCM」の場合、CMRは発注者の補助者であるマネージャーとしての性格を超える場合がある。特に、CMRが、設計の最終段階で工事費の最大保証金額(注1)を設定して施工に関するリスクを負い、リスクの軽減を図るためCMRが専門工事業者と直接に工事請負契約を締結する場合などは、マネジメント業務の担い手というCMRの本質的な性格を越えて、工事請負人的な性格を帯びるものと考えられる。この場合においては、CMRが負担するリスクに伴って増大する業務量等に応じてCMRに支払われる対価も大きくなる傾向がある。
 なお、「アットリスクCM」においても、マネジメント業務の内容そのものについては、基本的には「ピュアCM」と同じである(注2)。
(注1)米国では、発注者がCMRに対し、設計の最終段階で工事費総額を見積り、最大保証金額(GMP:Guaranteed Maximum Price)を提示するよう要求することがある。
 GMPについて、発注者とCMRとの間で業務範囲、責任範囲を明確にしたうえで、合意が成立すると、CMRは、その制約条件の下で「ピュアCM」の場合と同様の入札に関するマネジメントを行って、選定された施工者と多くの場合自ら工事請負契約を締結し、工期、コスト、品質等のマネジメントをCMRが行う。GMPが設定された場合には、CMRは工事費総額の上限を保証し、これを超えたときはCMRが超過額を負担する。なお、GMPについては、一旦合意した後でも事情変更があれば変動することが多く、工事の条件等により負担の上限設定がある。また、プロジェクトが予想を越えてうまくいった場合のCMRに対するインセンティブとしてのボーナスについても契約上定められることが一般的である。(こうした「アットリスクCM」を、「最高価格保証型CM」又は「アットリスクCM with GMP」という)。
(注2)米国の「アットリスクCM」は、プロジェクトの初期段階では、発注者は「ピュアCM」と同様に「マネジメント業務契約」を締結する。ただし当初契約の特約でCMRがリスクを負担する場合についても当初から定めておき(最大保証金額設定条項)、工事費総額が確定する程度に設計が完了した段階で、発注者はCMRに対しGMPの設定を要求し、発注者とCMRとの間で合意が成立した場合に、最大保証金額設定条項が発効する。
○我が国においては、一括発注方式における総合工事業者が元請として実質的には「アットリスクCM」のCMRの役割を果たしているという指摘がある。
 確かに、我が国の総合工事業者の施工管理能力は高く、その面だけをみるとCMRの役割を果たしているといえるかもしれない。しかし、「アットリスクCM」と一括発注方式は、透明性の確保の点で大きく異なっている。
 一括発注方式の場合、総合工事業者は下請となる専門工事業者との契約などに対して自由な裁量権を持っており、一般的にその内容を発注者に見せることはなく、またその指示を受けることもない。
 米国では「アットリスクCM」の場合、CMRが施工者、資材業者と交わす契約などについて、発注者の事前の同意を得ることが必要とされ、これによりこれら業者の選任についての発注者の裁量権が確保されるとともに、契約金額が自ずと明らかにされる。また、オープンブック方式(注3)がとられている場合などは、CMRの発注者への請求の中で、実際の業者への支払(予定)額、その他の経費の内訳が明らかになる。
(注3)オープンブック方式とは、工事費用を施工者に支払う過程において、支払金額とその対価の公正さを明らかにするため、施工者が発注者に全てのコストに関する情報を開示し、発注者又は第三者が監査を行う方式のことをいう。オープンブック方式では、①CMRと施工者との契約金額が明らかにされること、②施工者の領収書が添付され出来高払いによる実際の支払代金が毎月又は四半期ごとに明らかになること、③共通仮設費、現場管理費、一般管理費などについてもが実費精算がなされ、労務費、材料費、外注費などの全てのコストが発注者に明らかになること、④必要な場合は発注者が第三者にオープンブックの監査を依頼すること、などによってコスト構成の透明化が確保される。
 また、アットリスクCMのCMRは、オープンブック方式によって発注者にコストに関する情報開示を行うことにより、実際の工事費用とGMPとの差額を明らかにし、インセンティブとしてのボーナスを請求する根拠として活用している。
 なお、米国では、オープンブック方式は一括発注方式などにおいても用いられており、この場合、工事費内訳書や下請業者リストが発注者に開示される。
○逆の面からいえば、我が国の総合工事業者が発注者のマネージャーとしてCMフィーを得て、オープンブック方式で施工業者との契約金額を発注者に開示してていけば、高い施工管理能力に裏打ちされた「アットリスクCM」も可能になってくると思われる。この点についても「日本型CM方式」を考える上で十分に考慮する必要がある。
 なお、「アットリスクCM」の場合に、発注者とCMRとの契約は委任か又は請負か、CMRに建設業法の建設業許可が必要か、などの課題について整理が必要である(注4)。
(注4)アットリスクCMについては、我が国において具体的な導入事例がほとんど見られず、詳細については、さらに検討が必要である。但し、CMRが一連の建設工事の完成を請け負う営業を行うのであれば、建設業の許可を有していることが必要である(建設業法第3条)。また、公共性のある施設又は工作物を発注者から直接請け負うのであれば、経営事項審査を受けることが必要である(建設業法第27条の23)。
 

3.設計・発注・施工においてCMRが求められる役割

 
(1)一括発注方式のフロー
○我が国における建設生産・管理システムは、公共工事などで分離発注が行われる場合を除き、発注者が総合工事業者に施工を総価により請け負わせる一括発注方式が主として活用されている。
 
〔我が国の一括発注方式のフロー〕
①設計:設計者は、発注者のニーズ、要求事項を踏まえ設計図書を作成する。

②発注:発注者は、設計図書に基づき工事費の予定価格を算出し、入札等の結果選ばれた総合工事業者を元請として工事請負契約を締結する。

③施工:総合工事業者は、工事を完成し発注者に引き渡すため、設計図書に基づき工程計画や施工図を作成し、専門工事業者を下請として工事を施工し、併せて工程管理や品質管理を行う。
 (建築の場合は、建築基準法及び建築士法に基づく工事監理が行われる)。
 工事費の支払は、「総価請負方式」であり、コストの内訳に発注者が関与しない方式であるため、コスト管理は総合工事業者が行い、下請業者に対する支払についての発注者への報告は、一般的に行われない。
 
(2)CM方式のフロー
○一括発注方式の場合、発注者としては実際の設計や施工において、一貫してコスト・工期・品質の最適化が図られているか、そのためのマネジメント業務に関する費用やプロジェクトのリスクがどの程度、どのように負担されているか、などといった疑問や不安を感じる場合がある。
 CM方式は、発注者のこうした疑問や不満を解消するため、従来は設計者、発注者、施工者がそれぞれに担っていた設計・発注・施工に関する各種のマネジメント業務を発注者側で実施することとし、その全部又は一部を発注者の下でCMRに委ねるものである。
 CM方式の場合、CMRのマネジメント業務の範囲によって多様性があるが、一般的には以下のようなフローとなる。
〔CM方式を導入した場合のフロー〕
①設計:CMRが設計者に対して工期やコストの面から必要なアドバイスを行ったり、設計図書を見直してコスト縮減の提案を行う(発注者の依頼によりCMRが「設計VE」(注1)を行うこともある)。

②発注:CMRが発注区分や発注方式の提案を行い、施工者の募集・選定方法についてのアドバイスを行う(米国では専門工事業者へ分離発注される場合が多い)。
 また、工事費用の算定、契約書類の作成などを行う。

③施工:CMRが施工者間の調整や、工事の工程管理(工程計画の作成)、CMRの立場からの施工図のチェックなどを行う(注2)。
 発注者から施工者への工事費の支払については、CMRが施工者等からの請求書を整理して出来高に応じた部分払のチェックをしたり、共通仮設費等の実費精算をするなどのコスト管理を行う。 
(注1)「設計VE(バリューエンジニアリング Value Engineering)」とは、基本設計時あるいは実施設計時に、元の設計案を改善したり代替案を提案したりするものである。
(注2)CM方式にあっても、建築の場合は現行の建築基準法及び建築士法に基づく工事監理が行われる必要があることから、CMRに対しても同様の資格要件を求めるかについて検討したり、又は、別途工事監理者との業務分担に留意する必要がある。
○上記のように、通常、CM方式においてCMRのマネジメント業務は設計段階から本格化する。しかし、CMRは、建設プロジェクトにおける発注者のニーズ、要求事項をできるだけ実現することを目標としており、プロジェクトの川上である企画段階から事業に参画し、事業内容の決定に関して発注者にアドバイスを行ったり、プロジェクトの川下である竣工後のメンテナンス等へのアドバイスを行う場合がある。このため、CM業務をPM(プロジェクトマネジメント)業務に包含して「PM/CM方式」として呼ぶこともある。
(注)PM(プロジェクトマネジメント)とは、発注者のために、可能な限り効率的な方法によりプロジェクトの成果を実現させるプロセスと定義されている。
 具体的には、プロジェクトのすべてにわたり包括的なマネジメントを行うことをいい、この役割を担う主体をPMR(プロジェクトマネージャー)という。
 通常、プロジェクトを進めるうえで、発注者、受注者双方でプロジェクトをマネジメントしているが、このプロジェクトマネジメントを代行するサービスがPMサービスと呼ばれている。一般的にPMサービスは、CMサービスに比較して企画や構想段階などの川上からのサービスを含む。
○一般に、一括発注方式の場合、入札時以降でないと総合工事業者はVE提案を行いにくいとの指摘がある。しかしCM方式を活用すれば、CMRが設計段階から業務の一部として、施工面・コスト面から設計の検討支援を行うことが可能であり、設計段階からのより効率的な新工法の採用などにより、工期の短縮やコストの縮減が期待される。
 

4.CMRのマネジメント業務の内容

 
○具体的にCMRが担うマネジメント業務の主な内容は以下のとおりである。
 なお、実際のCMRの業務は以下の業務内容をすべて行うのものではなく、発注者のニーズによってこのうちのいくつかが取捨選択され(あるいはこれ以外の内容が付加され)、契約において具体的に定められる。
 ここでは、設計、発注、施工の各段階のマネジメント業務の内容を分かりやすくするため、便宜上、3段階で分類している。
 
〔CMRのマネジメント業務の主な内容〕
 (1)設計段階
   ①設計候補者の評価
   ②設計者選定に関する発注者へのアドバイス
   ③設計契約に関する発注者へのアドバイス
   ④設計の検討支援(施工面、コスト面、スケジュール面から)
   ⑤設計VEの提案
   ⑥施工スケジュールの提案
   ⑦工事予算の検討
   
 (2)発注段階
   ①発注区分(工事種別)の提案
   ②発注方式の提案
   ③施工者の募集、選定に関する発注者へのアドバイス
   ④施工者の評価、資格審査に関する発注者へのアドバイス
   ⑤工事価格算出の支援
   ⑥工事請負契約書類の作成
   ⑦契約に関する発注者へのアドバイス

 (3)施工段階
   ①施工者間の調整
   ②工程計画の作成
   ③工程管理
   ④施工者が作成する施工図のCMRの立場からのチェック
   ⑤施工者が行う品質管理のCMRの立場からのチェック
   ⑥労働力、資機材の発注のチェック
   ⑦施工者の評価
   ⑧請求書の整理・管理(支払管理)
   ⑨コスト管理
   ⑩発注者に対する工事経過報告(工程、工事費など)
   ⑪施工に関する文書管理
   ⑫施工者からのクレームに対する技術的対応支援
   ⑬情報の行き違いによるトラブル防止のための情報伝達システムの形成
   ⑭中間検査、完了検査への立会い
   ⑮引渡書類の確認
   ⑯業務報告書の作成
 
(参考)米国のCM契約の標準書式は、米国CM協会(CMAA)、米国建設業協会(AGC)及び米国建築家協会(AIA)が定めている。CMRのマネジメント業務の内容については、CMAAの場合は、設計前、設計、入札落札、工事、建設後の5段階に、AGCの場合は、工事前、工事の2段階に分けて記述されている。
 

5.CMRに要求される資質・能力

 
(1)発注者とCMRとの信頼関係
○CM方式において、CMRは、発注者の補助者・代行者であり、発注者の利益を守ることが最大の任務である。このため、発注者との信頼関係が大前提となり、CMRには高い倫理性が要求される。
○発注者にとってCM方式は、「万能薬」ではない。資質や能力のない者がCMRとなることで発注者のリスクやコストも増えるおそれがあることを、発注者は十分に認識する必要がある。
(2)設計者、施工者からの独立
○CMRは発注者の意図する品質、工期、コストを十分に理解し、発注者の立場に立って、設計者、施工者をコントロールする必要が生じる場合がある。その際には、CMRは、原則として、設計業者、施工業者から独立的な立場にあることが求められる。
(注) 我が国では、CM方式が普及していない現状において、設計者や施工者がCMRの資質・能力を身に付け、CMRとして役割を担う場合が考えられるこの場合、当該業者が、CMRとなるプロジェクトにおいて、当該プロジェクトに関する設計業務や施工業務も併せて担うことは原則として望ましくない。
 ただし、「アットリスクCM」において、CMRが発注者との契約に基づき、発注者の側に立ってマネジメント業務を担うというCMRの本質的な性格を越えて工事請負人としての業務を担い、建設業法上、CMRが工事請負業者と同一であると解される場合にはこの限りではない。
(3)CMRに要求される能力
○CMRには、下記のような、専門性や経験に裏打ちされた高い能力が要求される。なお、下記の能力は個人が全て備えておく必要はなく、CMRがチームとして具備することが求められているものである。
 ・設計・発注・施工についてマネジメントできる能力
 ・設計者の設計理念を理解する能力と設計図書の見直しができる能力
 ・工事種別に対する理解と望ましい発注区分を提案できる能力
 ・施工者からのクレームに対する対応能力
 ・発注者の要求する性能を満たす品質を確保しつつ工程・コストを調整する能力
 ・施工者の請求書の審査及び支払管理能力
 ・施工者が作成する施工図をチェックできる能力
 ・専門工事業の工事種別や業態、労務関係などに関する理解
 ・発注者へのレポーティングやドキュメンテーション能力
 ・建設産業に係る経営管理や工事に関する契約に関する実務能力
 ・災害、プロジェクトの変更、工期変化要因、コスト変化などのリスクをマネジメントする能力
 
 

Ⅲ.我が国におけるCM方式の市場ニーズと導入の現状

1.CM方式のニーズと活用状況

 
(1)CM方式の市場ニーズ
○(財)建設経済研究所が実施した「民間工事におけるCM方式の実態調査結果」(平成13年3月、有効回答数66社)では、年間発注額の大きい民間大手発注者の約9割がCM方式を認知しており、また、そのうちの約7割が何らかの取組みを始めている。
○(財)建設経済研究所が実施した「地方公共団体における公共工事発注業務における外部支援活用状況、CM方式の検討状況等に関する調査結果」(平成13年2月、有効回答数673団体)では、工事発注業務において、外部支援を受けることが必要だと考えている地方公共団体は、71.6%となっている。このうち、外部支援を受ける必要があると思われる最も大きな理由(複数回答可)としては、「専門的な知識や技能を必要としたため」57.2%、「業務の効率性を高めることが期待できるため」23.6%、「技術系職員が十分でないため」15.4%となっている。
 また、CMサービスのようなものがあれば利用したいかという設問については、21.5%の団体が利用したいと回答をしている。
 

2.我が国においてCM方式の活用が求められる背景

 
(1)発注者の意識変化
○我が国における建設生産・管理システムは、公共工事における分離・分割発注方式を除き、これまで主として一括発注方式が活用されてきた。一括発注方式では、総合工事業者が施工管理を行うとともに品質確保の責任も担うことで発注者の手間やリスクを軽くし、発注者にとっても大きなメリットがあった。
○しかし、発注者を取り巻く経済環境が激変し、コスト意識が高まる中で、専門工事業者の技術力の上昇もあり、発注者自身が建設生産・管理システムの選択肢の多様化を求めるようになり、①コスト構成の透明化、②下請業者の選定など発注プロセスの透明化、③適正価格の把握、④品質の確保、⑤発注部門の強化、などの観点から民間発注者を中心にCM方式に大きな関心が寄せられるようになった。
 特に我が国においては、コスト構成の透明化という点で、一括発注方式とは異なる選択肢としてCM方式に対する期待が大きいと考えられる。
○公共発注者においても、技術者が不足している地方公共団体を中心に、技術者に対する量的・質的補完や設計・発注・施工段階の発注者の機能強化の観点から、CM方式にも一定の期待があると考えられる。
 また、「公共工事入札・契約適正化法」の施行などに伴い、入札・契約に関する情報公開への対応など、公共発注者に対して求められる業務量の増大に対応するため、技術者が不足している地方公共団体において、必要な範囲でCM方式の導入等により発注体制を強化するニーズも考えられる。
 なお、この場合、公共発注者の技術者にはCMRの選定、契約内容の確定、監督、実績評価など、従来業務とは異なる新たな業務も発生する。
 
(2)設計者の意識の変化
○設計者は、例えば海外の政府開発援助事業において、企画段階から発注者の立場に立ち、エンジニアとしてマネジメントサービスを提供するなど、マネジメント業務について経験を有している者もいる。国内においても、発注者の意識変化に対応して、CM方式を新たなビジネスととらえている。一部の企業においては、民間建設工事でCMRとしての実績を積むとともに、CM業務を行う組織づくりを進めている。
 
(3)施工業者の意識の変化
○発注者の意識変化に対応する形で、施工者のCM方式に対する意識も変化してきている。
 総合工事業者は、一括発注方式で高いマネジメント能力を発揮してきたこともあり、これまではどちらかというとCM方式に対する関心は低かった。しかし、最近では透明性を求める発注者のニーズに対応する形で、フィービジネスとしてのCM方式に対する関心が生まれている。また、一部の総合工事業者では、CM業務が行える組織づくりを進める動きがある。
○専門工事業者についても、これまでは総合工事業者の下請として施工を行うスタイルが定着しているということもあり、CM方式に対する関心は、一部の設備工事業者を除きあまり見られなかった。
 しかし、専門工事業者の技術力の向上や、元請からの安値受注を回避する動きがあり、CM方式では、分離発注や専門工事業者の公募などを通じて、発注者と専門工事業者が直接工事契約を締結する機会が増えることから、専門工事業者の中にもCM方式に対する期待が高まっている。
 国土交通省が平成12年7月に策定した「専門工事業イノベーション戦略」においても、品質と技術に優れた専門工事業者にとって、CM方式は大きなビジネスチャンスであると指摘している。
 
(4)日本CM協会の活動
○「経済的・効率的に高品質な建物を建設したい」という国民のニーズに応え、消費者の顧客満足度(CS)を高めるため、①CM方式の消費者と技術者への普及、②CM方式の調査・研究、③CMrの育成、④内外機関との交流・調整を活動目的に、平成13年4月に「日本CM協会」(CMAJ)が設立されている。
同協会では現在、健全な建設生産システムの再構築と、倫理観をもったプロフェッショナルの育成に向けて、倫理規程の整備、CMrの資格要件の整備などの取り組みを進めている。
 

3.CM方式に期待するもの

 
○我が国においてCM方式を活用する目的やねらいとしては、以下のものが考えられる。
□多様な建設生産・管理システムの形成による発注者の選択肢の多様化
□コスト構成の透明化とそれによる適正価格の把握
 →コスト縮減については、コスト構成の透明化を通じてコスト縮減を実現したケースがある一方、一括発注方式の方が施工費用も含めたトータルコストが安くなるという見方もある。
□発注プロセスの透明性の確保とステークホルダー(株主、納税者等)への説明責任
□設計・発注・施工の各段階における民間のマネジメント技術の活用
 →CMRに設計VEや設計の検討支援を求めたり、工程調整を委ねたりすることにより、コスト縮減や工期短縮を図ることができるという見方がある。また、VEの実現のためには、施工者や専門工事業者のノウハウを引き出す能力に優れたCMRの活用も考えられる。
□品質管理の徹底
□発注体制の強化(発注者内技術者の量的・質的補完)
□品質・技術に優れた施工者の育成(特に専門工事業者)
○米国におけるCM方式は、工期の遵守や品質の確保を重視している。
また、米国の政府機関がCM方式を採用する理由としては、技術的なクレーム対応事務処理、職員の量的・質的補完(繁閑格差への対応を含む)や設計内容の充実があげられている。なお、工期の遅延防止によるコスト増の抑制、人件費の削減・抑制を通じたコスト縮減については目的としているが、一般的なコスト縮減には主眼が置かれていない。
 
 

Ⅳ.CM方式の活用に当たっての課題と留意事項

○我が国では、CM方式が十分普及していない現状において、以下の課題や留意事項を踏まえ、活用の可能性を検討していくことが必要である(なお、以下の課題のいくつかは、CM方式の先進国である米国でも共通する課題となっている)。
 

1.CMRに対する公的位置づけ

 
○現在、CMRに対しては、法令等による公的位置づけがなされていない。
○CMRに対する法令等による公的位置づけについては、①我が国ではCM方式の活用が緒についたところであり、公的規制は産業の健全な発展を時に損なうこともありうること、②米国においてもアイダホ州の公共工事を除きCMRに対して公的な免許等を要求していないこと、③公的資格の付与については必要最小限にすべきこと、などの理由により、現時点では法令等による公的位置づけは必要ないと考えられる。
(参考)アイダホ州では州法により公共工事でCM業務を行うにはCMRに免許の取得を求めている。免許要件としては、CM業務の実績や経験を有することと、州が実施する試験に合格すること、が求められている。
○しかし、CMRの倫理を確立し発注者からの信頼を高めていくため、不正行為を行う不良業者を排除する仕組みは必要であり、CMRの業界団体を中心にCMRの格付けや評価などの取組みを進めていくことが考えられる。
 

2.CMRの独立性

 
○CMRの業務は発注者の利益を確保することにあることから、CMRに対する信頼を確保するため、CMRには、倫理性と合わせて、当該プロジェクトにおけるCMRの設計者、施工者からの独立性を確保することが必要である。
○CMRの業界団体などでCMRと設計者・施工者との関係について、「倫理規程」を制定する際に、独立性についても検討することは必要であると思われる。
(参考)米国の公共事業では、CMRが関与する工事において、原則として当該CMRが設計者又は施工者となることを認められていない。アイダホ州ではこの点についてCM業者免許法において明文で禁止している。ただし、陸軍工兵隊のように、CMRと設計者が同一でもかまわないとしているケースや、カリフォルニア州のように小規模工事については例外としているケースもある。
 

3.CMrに対する資格制度

 
○CMRのチームリーダーとなるCMr(個人)には、高い倫理性とともに、マネジメントの経験・知識など、CM業務に関する高度な能力が要求される。
○我が国は、欧米と異なり現状では、CMrに対する民間資格や教育プログラムを有しておらず、また、CMrの実績情報に関するデータベースが整備されていない。このため、発注者がCMRを選定する際に、CMrに対しては、当面、建築士や技術士、施工管理技士などの資格を求めていくことが考えられる。
 なお、CM方式が定着し、CMrの実績情報が蓄積されてくれば、CMrに対しては建築士等の資格よりも、実績に裏打ちされたマネジメント能力が重視されることになると考えられ、新たな民間資格の検討が必要になると考えられる。
○今後、発注者のCMR選定に資するためにも、CMRの業界団体などを中心に、CMRの教育プログラムや、民間資格化に関する検討が行われることが期待される。
(参考)CMAA(米国CM協会)では、CCM(CertifiedConstructionManager)というCM業務に携わる一定レベル以上のCMrの認定プログラムを有している。
 

4.責任関係と保証・保険制度

 
○CM方式では、一括発注方式において元請である総合工事業者が負っていた工事完成に関するリスク(注1)について、発注者と施工者に分散される。一般に、工事種別ごとに分離された施工に伴う責任を施工者が負い、それらを統括した工事全体の完成に関するリスクは発注者が負うといわれている。
 なお、「アットリスクCM」の場合には、発注者のリスクを、発注者とCMRにおいて分担することとなることから、契約条項においてCMR及び発注者がそれぞれ負う責任とリスクの範囲(例.最大保証金額(GMP)等)を明確にすることが必要である。 
(注1)一括発注方式おいて、総合工事業者が負っていた工事完成に関するリスクとは、①施工に関するリスク(工期の維持、品質の確保、工事費予算の遵守、労働安全等)、②法律上負担が義務づけられている責任(建設業法に基づく元請責任、労働安全衛生法に基づく統括安全衛生責任者の設置、廃棄物処理法に基づく排出事業者責任、民法、住宅品質確保促進法に基づく瑕疵担保責任等)などが考えられる。
○CMRは、基本的には元請責任を負わないものと考えられる。
 ただし、「アットリスクCM」でCMRが専門工事業者と直接工事請負契約を締結し、工事請負人のような性格を帯びる場合には、CMRに対する建設業法に基づく許可の必要性や、建設業法等に基づく元請責任の適用の可能性について検討する必要がある。
 ・建設業法に基づく元請責任
 ・労働安全衛生法に基づく統括安全衛生責任者の設置等
 ・廃棄物処理法に基づく排出事業者責任など
○CM方式では、工事完成に関するリスクは発注者が負うため、発注者のリスクを回避するための下記のような仕組み(ボンド、保険等)の整備について検討していくことが必要である。なお、ボンドや保険の前提として、CM方式を導入した場合の発注者、CMR、設計者、施工者などの役割と責任の範囲などを契約書等で明確にする必要がある。
 ・履行保証制度と支払保証制度
 ・CMRの専門家賠償責任保険制度
 ・施工業者の瑕疵保証保険制度
○また、CM方式を活用したプロジェクトで、CMRが設計者・施工者に不正な利益供与を求めたり、CMRの過失により発注者が損害を被ったり、大きな瑕疵や不具合が発生したものなどについては、その事実を公表し、市場がそうしたCMRを淘汰していくようなオープンなシステムについても検討していく必要がある。
 

5.コストに関する考え方

 
(1)コスト構成の透明化
○CM方式の大きな特徴の一つは、工事種別ごとに実際の施工を担っている施工者(専門工事業者等)への支払金額を、発注者が直接把握できるところにあると指摘されている。
 一括発注方式の場合、工事費が、①工事種別ごとの直接工事費、②共通仮設費、③現場管理費、④一般管理費、などで構成される場合が多いが、発注者と元請(総合工事業者)との関係は「総価請負」であるため、元請は下請となる専門工事業者との契約などに対して自由な裁量権を有しており、一般に発注者は元請から下請への支払金額について報告を受けるケースは少ない。○CM方式においては、CMRは工事価格算出の支援や専門工事業者の公募などを行い、発注者が適正価格を把握するための支援を行う。また、CMRは、施工者に対してCMRの立場から出来高査定を行ったり、実費精算などの支払管理を行うため、発注者は一括発注方式と比べるとコスト構成を把握することが容易になる。
 なお、CM方式においては、一括発注方式において総合工事業者が行ってきた施工に関するコスト管理を、発注者及びCMRが行うことになるため、発注者側の業務が増大するほか、工事費の増加などのリスクが発注者に伴うことについても留意すべきである。
 
【参考】「コスト+フィー方式」について
○米国では、工事費の支払方法として「コスト+フィー方式」(注)が定着している。
「コスト+フィー方式」を土台としてCM方式が採用されることにより、発注者はコストの内訳の把握がより容易になると指摘されている。
(注)「コスト+フィー方式」とは、工事においては施工業者のコスト(外注費、材料費、労務費等)とフィー(報酬)をガラス張りで開示する支払方法。
○「コスト+フィー方式」では、工事費がフィーとコストに大別され、コストは更に①工事種別ごとの施工業者への発注額、②ゼネラルコンディションコスト(共通仮設費など契約ベースで規定されるもの)、に分類される。
この場合、CMRは、①工事費の出来高払、②ゼネラルコンディションコストの実費精算、などにおいて施工業者の請求書の審査を行い、発注者にコストの内訳を報告する。
○「コスト+フィー方式」は、工事費の出来高払いやゼネラルコンディションコストの実費精算により、発注者が適正価格を把握できるため、発注者にとってコスト縮減がより期待しやすくなるといわれている。
○我が国では、民間建設工事においても「コスト+フィー方式」はあまり採用されていないが(注)、CM方式を活用する場合は、今後検討が必要であると考えられる。
(注)発注者、元請、下請の3者間で、下請の請負金額と元請の管理経費を決めたうえで契約を結ぶ「コストオン方式」は、一種の「コスト+フィー方式」であると考えられる。
(参考)米国の「アットリスクCM」の場合には、工事費総額が確定する程度に設計が進んだ段階で「コスト+フィー方式」により、最大保証金額(GMP)を設定(「コスト+フィーwithGMP」という。)する場合が多い。
(参考)工事費の支払だけではなく、CMRへの支払についても直接経費等と報酬を分ける「コスト+フィ-方式」が採用されることがある。
 
(2)CM業務への対価
○CM方式では、CM業務に対してCMRに対価(Compensation)が支払われるが、対価は、CM報酬(「CMフィー」という。)と管理実費などの経費(CMRがマネジメント業務に要したコスト)で構成されている。
米国のCM方式では、対価については、契約書において、CMフィーと経費(コスト)を分けて明示する場合と、「ランプサムフィー(LumpsumFee)」として総価で明示する場合がある。
 CMフィーの根拠は、主にCMRのマネジメント業務の範囲、プロジェクトの規模、業務量等によって定まる。
(参考)CMフィーの金額については、CMRのマネジメント業務の範囲などで差が見られる。米国では総事業費の2~5%程度が一般的であるといわれているが、米国とは設計図書の完成度や専門工事業の企業規模などの面で条件が異なっている我が国においては、フィーの算定について十分な検討が必要である。
 また、「アットリスクCM」の場合のCMフィーは、CMRが負担するリスクに伴って増大する業務量に応じて大きくなる傾向がある。
なお、米国CM協会(CMAA)ではCMフィーをCMRが受ける固定的報酬(利益)としているが、米国建設業協会(AGC)は、CMフィーを、CMRの本支社の従業員の給与、一般管理費、資本経費、及び利益の4項目の合計としている。
 対価を構成するもう一つの要素である管理実費などの経費(コスト)については、「アットリスクCM」の場合は下請工事の費用も含まれることになり、その分も増加することになる。
また、米国では、プロジェクトが予想を越えてうまくいった場合、CMRに対して業務のインセンティブとしてボーナスを支払うことを契約上定めていることが多い。
 CMフィーについては、我が国においては積算上の位置づけがなく、我が国の建設産業において馴染みが薄いものであるため、一括発注方式の場合の総価契約との積算上の違いを明確にしたうえで、十分な検討が必要だと考えられる。
 
(3)コンティンジェンシー
○従来の一括発注方式においては、元請となる総合工事業者が施工に関するリスクを負ってきたが、CM方式では、発注者も施工に関するリスクを負う。米国では、CM方式を採用したプロジェクトで、施工中に予想できない事態が発生した場合、設計変更や追加工事に伴うコストの増加に対応するため、発注者側の予算でコンティンジェンシー(Contingency:「予備費」と訳されることが多い。)を計上することが一般的である。
○コンティンジェンシーは、発注者が、類似のプロジェクトにおけるリスクを勘案して、施工者に支払う工事費とは別に予算計上する。CMRは、発注者からコンティンジェンシーの算定について依頼があれば、必要なアドバイスを行うことがあるが、通常は、発注者が独自に算出し、その額は公表されない。プロジェクトが当初予定していたとおりの工事費でおさまれば、コンティンジェンシーは節約される。他方で、工期が予定よりも大幅に伸びた場合などは、コンティンジェ
ンシーの支出により当初見積もっていた工事費を超過することがある。
 

6.CMRの選定

 
○CM方式を採用する場合、発注者はいかに能力のあるCMRを選定するかが、その成否を左右する。資質や能力のないCMRを選定すると発注者にとってはそれだけリスクやコストが大きくなるという危険がある。CMRの選定に当たっては、発注者は、CMフィーという価格面だけで左右されることなく、CMRの能力や経験を総合的に評価し選定することが求められるため、発注者にも相応の評価能力が要求される。
○CMRの選定方法としては、価格だけで選定する方法ではなく、CMRのマネジメント能力や当該プロジェクトについての技術提案などを評価し、選定する方式が望ましいと考えられる。我が国の公共工事おいては、プロポーザル方式(注1)などがCMRの選定方法として参考になると考えられる。(注2)
(注1)WTO政府調達協定の対象となる公共事業に係る一定規模以上CM業務の調達については、「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」(平成6年1月策定)に基づいた公募型プロポーザル方式等が求められると考えられる。
(注2)公共工事におけるCMRの選定方法としては「QBS方式(Quality Based Selection)」(資質評価方式)が相応しいとする意見がある。QBS方式は、国際建築家連合(UIA)で推奨されており、「価格」よりも「人」の評価を重視した選定方式である。しかし、我が国においては、ほとんど普及しておらず、会計法や地方自治法上の課題を有している。
○CMRを選定するに当たっては、CMRの業務範囲(役割・責任)を踏まえた選定基準としてどのようなものが考えられるか、資格審査や実績評価をどのように行うのか、について十分な検討が必要である。
○我が国においては、CM方式の活用が緒についたところであり、CMRの育成は今後の大きな課題である。我が国において、当面、CMRとしてマネジメント業務を担う有力な主体のとしては、CMRの専業の事業者の他に、海外の建設工事などでCMRとしての経験を有する設計事務所等(土木、建築の両方を含む)、総合工事業者などが考えられるが、今後、CM方式が定着してくれば、CMRの実績評価や能力などによる選定が進むと考えられる。
 

7.CMRとの契約

 
○発注者とCMRとの「マネジメント業務契約」については、米国の契約内容をみると我が国の「業務委託契約(準委任契約)」(注1)に極めて近いと考えられる。
(注1)準委任とは、法律行為以外の事務の委託をいい、民法の委任の規定が準用される。
(参考)発注者とCMRとの「マネジメント業務契約」の法的性格については、「請負」ではないかという指摘があるが、CMAA、AGCそれぞれの標準約款の規定をみると我が国の準委任契約に極めて近いと考えられる。
○我が国においても、今後、CM方式の活用の円滑化を図っていくためには、マネジメント業務の範囲や、権限と責任などについて定めた標準的なマネジメント業務契約書(CM契約書)の整備が必要である。また、CMRの参画を前提とした場合の、設計契約、工事監理契約、工事請負契約のあり方について検討する必要がある。
 

8.情報技術(IT)の活用とCM方式

 
○現在、様々な産業分野において生産者と消費者(発注者)がインターネット上で直接電子商取引を行うBtoC(Business to Consummer)市場の整備が進められており、建設産業においても多くの発注者において電子入札や電子納品、ネット上の図面協議や見積協議などの取組みが進められている。(注1)こうしたIT化の流れは、これまで発注者(特に建設取引の少ない発注者)にとって把握することが困難だった建設資機材等の価格情報や施工者情報をよりオープンなものとし、一括発注方式とのコスト面、リスク面の比較においてCM方式を発注者に選択させるひとつの契機になると指摘されている。
(注1)国土交通省においても、電子入札、電子納品などを内容とする「国土交通省CALS/EC」(公共事業支援統合情報システム)を積極的に推進している。
○また、CM方式では、CMRに対し、発注者と施工者等との間を円滑に仲介・調整する機能が求められるが、BtoC市場がうまく発達していけば、CMRにとってITがコーディネート機能を円滑に果たすのための有力な手段になることも考えられる。
 民間建設市場においては、既にBtoCの電子マーケット上にCMRや専門工事事業者等を登録し、発注者が、ネット上からCMRの選定や、そのサポートによる施工者の電子入札などを行うといった、ITの活用によるCM方式がシステム開発され、リフォーム工事などにおいて実用化されている。
○CM方式の導入に当たってITを効果的に活用していくためには、①専門工事業者等の施工力・経営力を適正に評価したデーターベースの構築、②発注者保護などを考慮した電子マーケット上へのCMRの登録要件などについて今後検討が必要であると考えられる。
 

9.建設産業の構造改革

 
○建設生産・管理システムの歴史的背景や文化が異なるため、欧米のCM方式をそのままの形でわが国で取り入れることは困難であると考えられる。
「日本型CM方式」といった場合、設計者、総合工事業者、専門工事業者などが、これまで我が国の建設生産・管理システムにおいて果たしてきた役割を踏まえつつ、わが国においてCM方式を導入した場合にそれぞれに期待される役割を十分に検討していくことが必要であると思われる。
 
(1)設計者とCM方式
○我が国においては、これまで設計界などを中心に、「日本型CM方式」として、設計者が発注者のマネージャーとなり、プロジェクトの性格に応じて、総合工事業者に一括発注したり、専門工事業者に分離発注する「ピュアCM」について、多くの検討が重ねられてきた。
○我が国においては、設計者は、プロジェクトの企画段階から発注者の相談相手になることが多く、CMRとしての役割を果たす可能性があると考えられる。また、我が国の「ピュアCM」の先進事例においても、設計者がCMRの役割を果たしているものがみられる。
 ただし、CMRは、設計者から独立性を確保することが求められるため、設計者がCMRとなるプロジェクトにおいて、設計業務も併せて担うことは、原則として望ましくない。
○設計事務所等がCMRとなった場合、一括発注方式の総合工事業者との対比から、施工管理能力が低下するのではないかという指摘がある。しかし、海外マネジメント業務への参画等により、十分な施工管理能力を持つ設計者も存在する。
 また、既に設計事務所等がCMRとなったプロジェクトなどでは、工事のマネジメント経験がある技術者を積極的に雇用して施工管理能力の向上を図っているものが見受けられる。
○また、我が国では、発注段階における設計図書の完成度が低く、施工図においてその補完がなされているという指摘がある。我が国でCM方式を活用する場合には、発注段階において設計図書の完成度をいかに高めていくかが課題である。
このため、設計段階においてCMRは、施工面からの設計図書のチェックを行うなどの設計マネジメントを行い、必要な場合は設計の見直しや設計VEを行うことも考えられる。また、設計者もCMRが設計段階において果たす役割を十分に留意する必要がある。
○建築工事において工種区分ごとの境界を明確にしていくことが重要であり、CMRは、発注区分(体制、方法、時期)について、必要に応じ設計者と協力して検討することが考えられる。
○さらに、建築工事の場合、工事監理業務とCMRのマネジメント業務が一部輻輳する場面も考えられるため、両者の業務範囲について検討する必要がある。
(参考)米国では、設計段階から設計図書の完成度が求められ、一方、建築基準法や建築士法に規定されている「工事監理業務」に当たる業務はない。
 
(2)発注者とCM方式
○一部の発注者においてCM方式は、コスト構成の透明化、発注プロセスの透明化によりコスト縮減を実現する「万能薬」のようにとらえられているむきがあるが、決してそうではない。むしろ、従来の一括発注方式に比べて、CM方式では発注者が工事完成のリスクを負うこともあるなど、CM方式に対する正しい理解に立って、発注者はプロジェクトの性格に応じた建設生産・管理システムを選択していくことが必要である。
○また、従来の一括発注方式においては、発注者は元請となる総合工事業者に対して大きく依存していたが、CM方式を活用する際は、こうした依存的な意識から脱却する意識改革が必要である。また、発注者には、CMRのアドバイスやサポートを受けながら、設計者や施工者と明確な契約関係に基づく責任の分担を図りながら、良好なパートナーシップを築いていくことが求められる。
○民間建設工事においては、大手の発注者(ディベロッパー等)を中心に、従来の一括発注方式とCM方式を対比し、発注者としてのメリット・デメリットを十分に検討したうえで、CM方式を活用したり、発注者内にCMRとしてのマネジメント業務を担える部門を設置するなどの動きが見られる。
 
(3)総合工事業者とCM方式
○我が国の総合工事業者は、元請としての高い施工能力と施工管理能力を有しており、こうした力を発揮して「アットリスクCM」のCMRとしての役割を果たしていくことが期待される。
 この場合において、発注者とCMRとの契約は委任か又は請負か、CMRに建設業法上の建設業許可が必要か(5ページの注4参照)、などの課題について整理が必要である。
○また、「アットリスクCM」においては、CMRが工事の推進を図るために、設計と施工を一部同時進行させる方式が効果的であると考えられるが(注1)、こうした場合においては、CMRには総合工事業者が有するマネジメント能力や経験が要求されるとの指摘がある。
(注1)設計と施工を同時進行させる方式としては、「アットリスクCM」以外に、米国では「デザインビルト(DB)方式」(事業者が発注者から設計と施工の両方を一括して請け負う方式)などがある。また、米国では、建築物の早期完成を目的に、地下部分の設計が完了すれば、地上部分の設計完了前であっても、地下部分の着工を行うファースト・トラック(FastTrack)を行うために、「アットリスクCM」が考え出されたという指摘もある。
○「ピュアCM」においても、CMRが発注者の利益になると判断した場合、複数の工種をまとめて総合工事業者に発注したり、複数工区のプロジェクトにおいて一工区を一式で総合工事業者に発注し、不具合の発生などのトラブル防止やマネジメントの効率化を図る場合が考えられる。
○現在のところ、一部の総合工事業者にはフィービジネスとしてCM方式に対応した組織を社内に設置する動きがあるものの、多くの総合工事業者はCM方式に対して消極的である。
 CM方式を、総合工事業が有するマネジメント能力が発揮できるビジネスチャンスであるととらえ、業界において検討を進めていくことが期待される。
 
(4)専門工事業者とCM方式
○CM方式の導入が進めば、分離発注や専門工事業者の公募などを通じて、専門工事業者が発注者と直接工事請負契約を締結する機会が増え、専門工事業者の技術提案能力がより生かされることになる。特に、品質や技術に優れた専門工事業者にとっては、大きなビジネスチャンスにつながると考えられる。
 また、ITを活用した電子商取引や専門工事業のデータベース化などが進めば、こうした動きを加速していくことも考えられる。
○一括発注方式における元請と下請の取引実態は、国土交通省が平成12年11月に実施した「専門工事業下請取引実態調査」によると、元請が根拠のない大幅な値引きを求めるいわゆる「指し値」発注や、建設廃棄物処理費の一方的な下請負担、などが大きな課題となっている。CM方式では、書面による契約や見積協議の徹底がより求められるため、口約束による契約前着工などの従来のウエットな取引関係を是正して、明示的な契約関係へと改善していく効果も期待される。
○他方、CM方式の導入にあたっては、瑕疵の隙間をなくし、紛争を防止するためにも、発注区分をあまり細分化し過ぎることは望ましくないため、専門工事業の業種間の垂直的連携により幾つかの工事種別を束ねて施工できる専門工事業者の育成や、総合工事業者に代わって複数の工種を統合できる専門工事業者の育成が今後必要になると考えられる。
また、CM方式に対しては、分離発注された専門工事業者の工種間の現場における調整機能が、一括発注方式に比べて低下するのではないかといった指摘もあり、CMRには、専門工事業との円滑な連携の下に、現場における責任施工体制を構築していくことが求められる。
○さらに、CM方式では専門工事業が施工に関する責任とリスクを負うことになるため、専門工事業団体などで施工標準や瑕疵保証制度の構築を図る必要がある。
 
 

Ⅴ.公共建設工事におけるCM方式の課題と活用方策

1.国におけるCM方式の検討状況

 
○公共発注に限らず、工事発注におけるCM方式の導入については、90年代初期よりその検討の必要性が指摘されてきた。
こうした背景には、公共発注者において、
 ①多様な建設生産・管理システムの形成による発注者の選択肢の増加
 ②CMRという設計・発注・施工のマネジメントを行う者の参加による発注者への支援
 ③コスト構成の透明化
などの面からの期待があったと考えられる。
○国土交通省においては、日本型CM方式の導入に当たっての課題を整理するとともに、特に、地方公共団体においてCM方式などによる外部支援を求めるニーズがあると考え、平成12年12月に学識経験者、民間事業者、地方公共団体等で構成される「CM方式研究会」(座長:碓井光明東京大学大学院教授、事務局:(財)建設経済研究所)を設置した。
○また、国土交通省では、平成13年1月から中部地方整備局の清洲JCT北下部工事において、民間のマネジメント技術を活用した新たな入札・契約方式の一方式の試行工事に着手し、この工事の評価・フォローとあわせて、これ以外のマネジメント技術を活用した多様な入札・契約方式の枠組みを検討しつつ、さらなる試行プロジェクトの実施を通じてその評価を行うため、平成13年3月に「マネジメント技術活用方式試行評価検討会」を設置した。
 

2.地方公共団体におけるCM方式活用のニーズ

 
○公共建設工事においてCM方式を活用することを考えた場合、地方公共団体、特に、技術者が不足している地方公共団体ほどCM方式に対するニーズが高く、その活用の中心になることが予想される。
 また、技術者の不足を感じていない地方公共団体においても、高度な工事、一時的で大規模な工事などにおいてもCM方式を活用するニーズがあると考えられる。
○先進的にCM方式の導入に取り組んでいる地方公共団体に対するヒアリングや「地方公共団体に対する外部支援活用状況等調査」などから、地方公共団体のCM方式に対するニーズの主なものをまとめると、以下のとおりである。
 
(a)設計・発注に関するニーズ
○設計図書に対して施工面からのチェックを強化したい。
○設計変更などに伴う工事費用の増加を抑えたい。
○設計VE、設計見直しによりコストダウンを図りたい。
○高度な工事、経験の少ない工事について設計・発注面でアドバイスを受けたい。
○発注区分、発注方式について専門家からアドバイスを受けたい。
○発注プロセスを透明にしたい。
⇒設計・発注段階において発注者にアドバイスやサポートを行うCM方式の導入が求められている。
 
(b)コスト管理、支払に関するニーズ 
○コスト構成を透明にし、納税者に対する説明責任(アカウンタビリティ)を果たしたい。
○元請から下請との契約金額やその内訳について報告を受けたい。
○請求書(出来高払、完成払)の技術的審査を徹底したい。
⇒コスト構成の透明化やコスト管理のためのCM方式が求められている。
 
(c)監督・検査に関するニーズ
○監督、検査業務についてサポートを受けたい(技術者が不足している現状では十分な対応が困難である)。
○工期や品質の確保について専門家からアドバイスを受けたい。
○マネジメント技術の導入により施工の効率化を図りたい。
⇒施工段階のマネジメントを行うCM方式が求められている。
 

3.CM方式を活用する目的、期待されるメリット

 
(1)CM方式を活用する目的・メリット
○公共建設工事において地方公共団体がCM方式を活用する目的、期待されるメリットの主なものは以下のとおりと考えられる。
 ・発注者業務の量的・質的補完(技術者不足に対する支援)
 ・コスト構成の透明化
 ・適正価格の把握(設計VE、コスト構成の透明化、各種マネジメントなどの結果によるもの)
 ・品質管理の徹底
 ・設計・発注段階における発注者の機能強化
 ・発注プロセスの透明化
 ・不正行為の防止と納税者に対するアカウンタビリティ
 ・監督・検査業務の充実
 ・発注者内技術者の教育・訓練(マネジメント能力の向上)
※CM方式の導入により、発注者内技術者には、CMRの選定、契約内容の確定、監督、実績評価などの高度な業務が要求される。
なお、発注者がどの目的に重点を置くかによってCM方式の形態は異なる。
 
(2)発注者業務の量的・質的補完
○技術者が不足している地方公共団体においては、以下の(ア)~(エ)のような場合において、CM方式による発注者業務の補完が有効であると思われる。
(ア)発注者内技術者を地方公共団体が置いていない場合、又は、工事量から見て恒常的に発注者内技術者が不足している場合。
(イ)特殊な技術を必要とする工事において、発注者内技術者がその技術に精通していない場合や発注者側に高度な施工マネジメント能力が必要とされる場合。
(ウ)工事発注の集中など一時的に発注者内技術者が不足する場合、又は、一つの事業において複数の契約当事者(設計者又は施工者)が存在し、その契約当事者間の調整等作業が一時的に増大することにより内部技術者が不足する場合。
(エ)事業期間が長期にわたるため、発注者内技術者の異動が想定される場合。
 

4.公共発注者が期待するCMRの活用パターン

 
(ケースa)設計・発注アドバイス型CMR
設計図書のチェック、設計VE、発注区分・発注方式の提案など、設計・発注段階においてCMRが発注者をアドバイスするもの。
 
(ケースb)コストマネジメント型CMR
概略設計段階での工事費の算出、工事費の分析、請求書の技術的審査、コストの実費精算など、コストマネジメントの全部又は一部をCMRが行うもの。
 
(ケースc)施工マネジメント型CMR
施工図の審査、施工者間の調整、品質管理・工程管理などの監督業務の一部
をCMRが行うもの。
 
(ケースd)総合マネジメント型CMR
設計・発注・施工の各段階において発注者の補助者としてマネジメント業務
の一部又は全部をCMRが行うもの((ケースa)~(ケースc)のマネジメ
ント業務の一部又は全部を一貫してCMRが行うもの)。
 
○公共発注者の中には、CM方式は手続きが複雑で制度的な制約があるなどの理由から導入の難しさを感じている傾向が見られるが、CM方式は、公共発注者にとって必ずしもハードルが高いものではない。
(ケースa)のように設計や発注について公共発注者をアドバイスしたり、場合によってはカウンセリングするものもCM方式と考えられ、技術者が不足している公共発注者に強いニーズがあると考えられる。
○(ケースa)~(ケースc)は公共発注者のニーズに応じてCMRのマネジメント業務の内容を便宜的に整理したものであり、当然、これらのマネジメント業務の一部又は全部を行ったり、複合的に行ったりする場合がある。
 特に、一つのプロジェクトにおいて多数の契約当事者(設計者又は施工者)が存在し、その契約当事者間との調整等作業が煩雑で、公共発注者が設計者や施工者との交渉窓口の一元化を求める場合などは、(ケースd)のように、CMRが発注者の補助者としてマネジメント業務をトータルで担う方が相応しいと考える。○わが国においては、従来(ケースa)のような公共発注者へのアドバイスや外部支援はCM方式に該当しないといった意見もあった。
 しかし、CM方式は「CMRが、技術的な中立性を保ちつつ発注者の側に立って、設計・発注・施工の各段階において、各種のマネジメント業務の全部又は一部を行うもの」であり、(ケースa)のような場合も当然CM方式に含まれるものであると考えられる。
○(ケースc)及び(ケースd)のCM方式は監督職員の監督業務についてCMRが支援するものである。なお、建築の場合は現行の建築基準法及び建築士法に基づく工事監理が行われる必要があることから、CMRに対して同様の資格要件を求めるか、又は別途工事監理者との業務分担に留意する必要がある。
 
【参考】公共建設工事における監督職員
○公共建設工事においては、法令に基づき、土木工事、建築工事のどちらにおいても公共発注者の技術者を「監督職員」として設置している。
「監督職員」は工事請負契約に基づき、次の権限を有している。
・契約の履行についての請負業者に対する指示、承諾又は協議。
・設計図書に基づく工事の施工のための詳細図等の作成、交付又は請負業者が作成した詳細図等の承諾。
・設計図書に基づく工程の管理、立会い、工事の施工状況の検査など。
○技術者が少ない公共発注者においては、「監督職員」が多数の工事を担当し、業務が輻輳するため、「監督職員」が発注者業務の量的・質的補完のために外部の専門家の支援を求めるニーズがある。
○建築工事については公共建設工事であっても、建築基準法や建築士法に基づき、監督職員とは別に「工事監理者」の設置が求められている。
土木工事では、監督職員が監理業務を担当し、建設コンサルタント等が監督職員の補助を行う場合もある。
○(ケースc)及び(ケースd)のCMRのマネジメント業務は、あくまでも発注者の補助者として発注者側から「監督職員」の支援を行うものであり、建築工事の場合の「工事監理者」とは性格が異なるが、現実のCMRの業務内容が工事監理業務の内容に類似する場合も考えられるため、工事監理者との業務分担に十分に留意する必要がある。
○なお、公共建設工事の建築工事は、建築士法に定める工事監理業務を外部委託することが多いが、品質管理にかかる部分については設計者との第3者性を確保する観点から、直轄工事では原則として当該工事の設計者とは別の者に対してその業務を委託している(地方公共団体の建築工事では、民間工事と同様に当該工事の設計者が監理業務を受任するケースも見られる)。
 

5.CM方式活用の基本的な考え方

 
(1)基本的事項
○公共発注者がCMRを活用して外部支援を受けたいと考えるマネジメント業務の内容や期間は、発注者の体制やプロジェクトの内容ごとで異なる。
このため、CMRの業務範囲や施工者との責任関係など基本的事項を定めた「実施要領」をプロジェクトごとに定めておくことが望ましい。
※CMRとマネジメント業務契約を年間契約する場合であっても、当面はプロジェクトごとに定めておくことが望ましい。
 なお、CM方式が定着し、年間で業務範囲を想定できるようになれば、通年で利用できる実施要領に改めていくことも考えられる。
○実施要領には、CM方式の対象工事、CMRの対象業務、CMRの選定体制、CMRの募集方法や選定方法、などを示しておくことが望ましい。
 
(2)CMRの業務範囲(例示)
①「設計・発注アドバイス型CMR」(ケースa)の場合
 ・設計、発注段階における専門技術に関するアドバイス
 ・設計者の評価、選定に関するアドバイス
 ・設計図書の検討に関するアドバイス
 ・設計VEの提案・発注区分のアドバイス
 ・発注方式のアドバイス
 ・施工者の評価、資格審査に関するアドバイス
 ・施工者の入札、選定に関するアドバイス
 ・工事請負契約に関するアドバイスなど
②「コストマネジメント型CMR」(ケースb)の場合
 ・工事費概算の算出に関するアドバイス
 ・工事費に関する分析(工事種別ごとの)
 ・請求書(出来高払、完成払)の技術的審査
 ・設計変更に伴うコストの調整に関するアドバイス
 ・支払管理など
③「施工マネジメント型CMR」(ケースc)の場合
 ・施工者間の調整
 ・工程計画の作成
 ・工程管理
 ・施工者が作成する施工図に対する審査
 ・施工者が行う品質管理の審査
 ・発注者に対する工事経過報告
 ・施工に関する文書管理など
④「設計・発注・施工マネジメント型CMR」(ケースd)の場合
上記①~③の中から抽出。
※上記のものは例示であり、公共発注者のニーズによってCMRの業務範囲は例示の一部に限定されたり、例示以外の業務が付加されたりする。
 
(3)CMRの主体、資格
○CMRの役割を担うものとしては、CMRの専業の事業者の他に、当面、公共工事のマネジメント業務に知識、経験を有する設計事務所等や総合工事業者、建設技術センターなどの活用が考えられる。
 なお、こうした場合、CMRは発注者の意図する品質、工期、コストを十分に理解し、発注者の立場に立って、設計者、施工者をコントロールする必要が生じる場合がある。その際に、CMRは該当する工事の設計者、施工者から独立的な立場にあることが求められる。
※将来的には、CMRの要件や資格についての検討が必要である。また、CMR選定の基礎となる情報を蓄積するため、CMRの役割を担うことが可能な企業について登録等を行う仕組みについても検討する必要がある。
 
(4)CMRの選定
○公共建設工事におけるCMRの選定方法としては、CMRのマネジメント能力や当該プロジェクトについての技術提案などを評価し、選定する方式が望ましい。
このため、プロポーザル方式が適当であると考えられる。(なお、18ページの注1参照)
○CMRの募集については、公正性、透明性を確保するため、例えば「CM業務提案書」の提出を求めるような公募方式をとることも考えられる。
○CMRの選定については、恣意的な選定を排除するため、「CMR選定基準」を設け、透明性を確保し、あらかじめ設定した基準に基づいて選定することが基本的に必要である。
また、これまでの公共事業においてはCM業務発注実績が極めて少ないことを考慮し、暫定的な選定基準についても検討する必要がある。
○CMRの選定基準の例としては、①企業の技術力と経験(委託予定業務と同種又は類似の業務の実績、保有する技術職員の状況、等)、②CMRの能力・経験(委託予定業務と同種又は類似の業務の実績、CMRチームのリーダーであるCMr等各構成員の資格・経験、等)、③CM業務提案書(委託予定業務、当該プロジェクトの理解度、実施方針、実施工程、実施手法等の妥当性、等)、④発注者の支援体制(発注者の支援体制、CMRチームの指揮命令系統や実施体制、発注者の職員のマネジメント能力の向上の効果、等)などが考えられる。
特に、①の技術力評価については、重視すべきであると考えられる。
○CMRの選定体制としては、選定委員会の設置が考えられるが、選定委員会の構成や選定方法、選定理由の開示の有無などをあらかじめ選定基準などで定めておく必要がある。選定の透明性を確保するため、選定委員会に外部の専門家を入れ、選定基準に則したポイント評価を行うことも考えられる。
 
(5)CMRとの契約
○(ケースa)~(ケースd)における発注者とCMRとのマネジメント業務契約の性格については、基本的には「準委任」であると考えられる。
なお、検討が必要ではあるが、(ケースa)の場合などは、CMRが個人の場合、顧問弁護士などに準じた非常勤特別職としての委嘱についても考えられる。
○発注者とCMRとのマネジメント業務契約には、業務の内容・範囲、履行期間、CMRの位置づけ(発注者、設計業者、施工業者等との関係)、委託料と支払方法、権利義務の譲渡、秘密の保持、再委託等の禁止、業務の履行報告、損害の負担、契約の解除、などについて定めておくことが考えられる。
○今後、公共工事についても、マネジメント業務の範囲や、権限と責任などについて定めた標準的なマネジメント業務契約書(CM契約書)の整備が必要である。
また、CMRの参画を前提とした場合の、設計契約、工事監理契約(建築工事の場合)、工事請負契約のあり方について検討する必要がある。
○なお、発注者とCMRとのマネジメント業務契約については、プロジェクトごとに契約を行ったり、プロジェクトを特定せずに期間を定めて契約を行う場合が考えられる。
 

6.CM方式の活用に当たっての留意事項

 
(1)入札・契約
○(ケースa)~(ケースd)においては、CMRは業務受託者であり、現行の入札・契約制度から大きな制約条件が発生することは考えられない。
ただし、CMRに委託するマネジメント業務の内容によっては、個別に各公共発注者において現行の制度との整合性を検討する必要が生じる場合もあると考えられる。特に、CMRへの委託業務と発注者の監督・検査業務との関係については、会計法、地方自治法の観点から十分に整理しておく必要がある。
○また、CMRの選定に際しては、発注者は価格面だけに左右されることなく、CMRの能力や経験を総合的に評価し選定することが求められる。このため、プロポーザル方式を採用する場合は、合理的な選定基準、選定体制を整備しておく必要がある。また、プロポーザル方式以外の選定方法を検討する場合には、会計法、地方自治法のいわゆる「自動的落札方式」(予定価格の制限の範囲内で最低の価格で申込をした者を原則として落札者とする制度)との関係について整理しておく必要がある。
 
(2)マネジメント業務等の積算方法
○CMRのマネジメント業務の対価の積算については、当面は、直接費(直接人件費、直接経費)は積み上げで算出し、一般管理費などの諸経費等は直接人件費に一定率を乗じて算出することが考えられる(将来的には、一般管理費の具体的算定方法など、マネジメント業務の対価の積算方法の枠組みを整理する必要があると考えられる)。
○CMRが行うマネジメント業務への対価については、CMフィー(CM報酬)や管理実費などの経費についての算定方法等をまとめた「CMR報酬等算定基準」を定めておくことが必要である。
○(ケースa)~(ケースd)において分離発注を行う場合、発注区分をあまり細分化しすぎると、現行の積算においては共通仮設費、現場管理費、一般管理費が各工種で必要となり、一括発注方式などと比べた場合、コストが増加することも考えられるため、発注区分の設定においては十分に留意する必要がある。
 
(3)マネジメント業務の実績評価
○CM方式を導入した場合は、CM方式が公共建設工事で普及していない現状にかんがみ、発注者において、CMRのマネジメント業務の実績評価及びCM方式の導入効果の評価を行い、十分に検証しておく必要がある。また、評価結果については、次回以降のCMRの選定の際に役立てていくことが望ましい。
 
(4)CMRの責任関係
○CMRのマネジメント業務内容が主に発注者へのアドバイスである場合には、業務を執行する上での対外的責任は発注者に帰属する。
ただし、CMRの責めに帰すべき過失が認められるときはCMRに負担を求めることを契約で定めておくことが必要である。
○CMRのマネジメント業務を準委任契約により業務委託する場合、CMRは善管注意義務は負うものの、請負の瑕疵担保責任のような無過失責任までは負わないものと考えられる。
 しかし、CMRの過失責任については、契約解除や損害賠償請求が可能であると考えられるため、発注者はCMRとのマネジメント業務契約書を作成する際に、この点について留意する必要がある。特に、施工図の審査、工程管理、品質管理の審査などのマネジメント業務の実施に伴い発注者に損害を与えた場合の責任関係や損害賠償保険などについて契約に定める必要があると考えられる。
○CM方式を導入した場合、分離発注により発注区分が細分化されることが予想されるが、工種間の瑕疵の隙間をなくし、トラブルを防止するためにも、施工者間の責任施工体制の構築について、十分に留意する必要がある。
 
(5)その他の留意事項
○その他、下記の点についても留意しておく必要がある。
 ・発注者が行う直接工事に関わらない範囲での近隣調整などとCMRとの関係。
 ・国庫補助事業におけるマネジメント業務の費用の措置。
 ・建築工事の場合の工事監理業務とCMRとの関係。
 ・分離発注の場合の労働安全衛生法の統括安全衛生責任者の設置。7.CMRがリスクを負担する場合の課題
○CM方式を活用した場合、発注者が全体工事の完成に伴うリスクを負担するため、発注者からはCMRにはマネジメント業務だけではなく施工に伴うリスクも負って欲しいというニーズが出てくることが予想される。こうした、発注者のニーズに対応するため、(ケースe)として「アットリスク型CMR」が考えらられる。
CMRがこうした発注者のニーズを満たす場合、リスクの内容によってはCMRが工事請負人のような性格を帯びることになることも予想される。
 
(ケースe)アットリスク型CMR
(ケースa)~(ケースd)のマネジメント業務に加え、発注者のニーズにより施工に関するリスクを負担するもの(ただし、建設業法上の位置づけなどについて検討が必要)。
 
○(ケースe)はⅡ.2(3ページ参照)で述べた米国の「アットリスクCM」に準じて検討する必要がある。
 通常、CMRは、当該プロジェクトの施工業務を併せて担うことは原則として望ましくないが、(ケースe)の場合、米国の「アットリスクCM」のように例外的に、CMRが発注者のニーズに応じて施工に関するリスクを最大限保証しており、これを担保するために形式上CMRが専門工事業者等と直接、工事請負契約を交わすことが考えられる(注1)。
(注1)アットリスクCMについては、我が国において具体的な導入事例がほとんど見られず、詳細については、さらに検討が必要である。但し、CMRが一連の建設工事の完成を請け負う営業を行うのであれば、建設業の許可を有していることが必要である(建設業法第3条)。また、公共性のある施設又は工作物を発注者から直接請け負うのであれば、経営事項審査を受けることが必要である(建設業法第27条の23)。
○公共建設工事において「アットリスクCM」のようなリスクをCMRに負担させるCM方式を導入する場合、建設業法、入札契約制度などにおいて検討が必要となる課題があると考えられるが、その主なものは以下のとおりである。
①建設業法等の課題
 ・CMRの業務が工事請負に該当するか。
 ・CMRに建設業許可が必要か。
 ・CMRは経営事項審査の対象となるか、またなるとした場合の審査基準はどのようなものか。
 ・CMRに建設業法の下請保護規定が適用されるか。
 ・CMRには監理技術者、主任技術者の配置が必要か。
 ・CMRは公共工事入札・契約適正化法(入契法)の適用を受けるか(丸投げの禁止、施工体制台帳の発注者への提出義務など)。
 
②入札契約制度上の課題
 ・CMRに対して入札参加資格審査が必要となるか。
 ・CMRの格付けはどうなるか。
 ・CMRの技術評価はどのように行うか。
 ・WTO政府調達協定との関係をどのように考えるか(設計・コンサルティングサービスに該当するに加え、建設サービスにも併せて該当するのではないか)。
 ・「アットリスクCM」のような場合、発注者とCMRとの契約の性格は委任か又は請負か。
 ・マネジメント業務契約からリスクを負担する契約(工事請負契約を含む場合がある)へのコンバートはどのように行うか(当初契約の特約として扱うか、全別個の契約として扱うか。また、別の契約なら随意契約理由を満たすか)。
 
③積算上の課題
 ・工事請負人の性格を帯びるCMRへの対価の算定方法。(米国では「アットリスクCM」の場合、対価がフィーとコストで構成されるため、下請工事の費用もコストに含めた積算の検討が必要。)
 ・予定価格の積算において、工事種別ごとの発注額、ゼネラルコンディションコスト(共通仮設費など)、コンティンジェンシーなどの設定が可能か。
 ・最大保証価格(GMP)の設定が可能か。
 
④責任関係
 ・現行の履行保証制度との関係(契約保証金など)をどう考えるか。
 ・リスクや工事完成に関する責任はどの範囲までCMRが負うのか。
 
⑤その他
 ・コンティンジェンシー(予備費)の設定が可能か。
 ・発注者内技術者の監督業務・検査業務とCMRとの関係をどう考えるか。
 ・建築工事の場合の工事監理業務とCMRとの関係をどう考えるか。
 ・労働安全衛生法の統括安全衛生責任者とCMRとの関係をどう考えるか。
 ・廃棄物処理法上の元請責任はCMRが負うのか。
 
 

Ⅵ.おわりに

 CM方式の今後の普及のためには、既述のとおり、様々な課題が残されている。
 CMRの倫理の確保、CMrの育成、標準契約書の作成、設計図書の完成度の向上など各界の取組が求められる課題がある一方、工事監理者との業務区分、建設業法との関係など既存制度との関係の整理等が求められる課題もある。市町村等の公共工事にCM方式が活用されるためには、発注者に参考となるよう、標準的なCM方式実施要領、CMR選定基準等の検討が求められる。
 これらの課題の中には、その対応が我が国の建設生産・管理システムに大きく影響を及ぼすものも少なくなく、中長期的な検討が必要なものもあり、また、今後のCM方式活用の実例の積重ねが待たれるが、このような中で、課題を効果的に検討するためには、実例に則した実証的な検討が有効であると考えられる。
 また、課題の多くはこれまで建設工事に携わってきた施工者、設計者や発注者それぞれに係わるものであり、今後は、関係者が連携して検討を進めていくことが必要である。
 
 

ページの先頭に戻る