インドは、世界的に重要な主要国のひとつである。国土面積は約328.7万km²で世界第7位、人口は中国に次ぐ世界第2位の国である。現在の人口は12億人(2011年国勢調査)である。
インドの起源は、紀元前2世紀のインダス文明に代表される先史時代に始まる。この地域には、マガダ国(マウリヤ朝、グプタ朝)やムガル帝国等、数多くの帝国やサルタン国が存在した。200年近くにわたるイギリスの植民地支配を受けた後の1947年、インドと東西パキスタンに分かれ、独立した。
独立直後、インドは社会経済の成長のため、社会主義的な手法を選択した。それは、概して、主要な産業や経済ネットワーク形成を国が統制する農業経済体制であった。貧しい経済を発達したものに転換したいという切望は、実現困難なものであった。経済状況は悪化し始め、1980年代、90年代には状況が深刻化した。90年代初頭、インドは国際収支の一大危機を経験した。経済収支の状況は極めて悲惨なものであり、わずか数週間分の輸入ができるのみであった。この経済危機で目覚めたインドは、自由経済体制に転換し、経済改革政策を推し進めた。自由化の主な柱は、産業ライセンス規制緩和、外資積極活用、貿易制度改革、為替切り下げと変動相場制移行であった。その結果、94~96年度には3年連続で7%を越える経済成長を達成し、その後の急速な経済成長の基礎が築かれた。
経済自由化以降の20年間は、インドに対する多くの認識を生み出した。その間に達成したものは中国に比べれば極めて限定的であったものの、インドも自らのニッチ開発市場を創出した。民主主義、成長、公平はインドの発展のまさに中核である。インドは、各々が経済的及び政治的な自由を享受する、複数の州と連邦直轄領の結合体である。2014年06月2日、インドで29番目の州となるテランガナ州が誕生した。新州の創設は、アンドラ・プラデシュ州から分離するかたちで行われた(下図のインドの州レベルの行政区画は、テランガナ州分離前のものである)。
表1国勢概要
国名 | インド |
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国土面積 | 328万7,469km² (インド政府資料:パキスタン、中国との係争地を含む 2011年国勢調査) |
人口 | 12億1,057万人 (2011年国勢調査) |
人口密度 | 370人/km² |
都市人口比率 | 32.7% (2015年) |
名目GDP | 2兆074億ドル(2015年:世銀資料) |
一人当たりGDP | 1,581ドル(2015年:世銀資料) |
産業別 就業人口比率 |
第一次産業16.5% 第二次産業29.8% 第三次産業45.4% (2016年推計) |
GDP成長率 | 7.6% (2015年度:インド政府資料) |
(情報更新:2017年3月)
図2インド憲法が定める行政階層
資料:インドの地方自治, 一般財団法人自治体国際化協会, 2007
インド憲法は、中央政府、州政府、地方自治体(都市および農村)の3層の行政階層を定めている。また、都市部と農村部にはそれぞれ異なる制度が導入されており、農村部自治体はさらにその内部において3層構造をとっている。第73次、74次憲法改正法により、都市部、農村部における第3層の地方自治が創出された。
現在、29の州と7つの連邦直轄領がある。州は、地区(District)、さらに、ブロックに分けた組織・機構を有する。異なる政府レベルごとの業務の詳細は憲法で定められている。憲法第7表(第246条)には(1)中央政府所管業務リスト、(2)州政府所管業務リスト、(3)共同所管業務リスト(中央政府・地方政府がともに管轄)の三つが示されている。
国防、国際関係・外交、通信、経済・財政・税務と基幹的な社会資本(鉄道、国道、空港、電力、主要港湾等)等の国家全体に関することは中央政府の管轄である。
州政府は、直接選挙で選ばれた機関が自前の行政権限を有するとの憲法規定に基づく、合憲機関である。州政府の責務には、法秩序の維持(治安、警察)、公衆衛生(上下水道)、保健、農林漁業に関する法制化の権限、交通基盤整備(州高速道路、主要港湾以外の港湾)、農林漁業基盤整備(灌漑、漁港)等がある。
経済・社会計画、社会保障、教育、貿易、産業、電気事業等の立法権は中央政府と州政府の共管事項とされている。
憲法第11表、第12表(第243条G、243条W)は、農村政府(Panchayatsと呼ばれる)および都市政府の管轄業務の説明となっている。農業(農業拡大を含む)、農村の住宅、貧困救済プログラムについては農村政府が管轄し、都市計画(まちづくり計画、土地利用規制、建造物の建設を含む)、上水道、公衆衛生とごみ処理、スラム改善・改良、都市貧困救済、その他については都市政府が管轄する。
政策分野 | 担当機関 | ホームページ |
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社会経済計画 | 国立インド変革委員会(NITI) National Institution for Transforming India (NITI) Commission |
planningcommission.nic.in/ |
首都圏計画 | 首都圏計画委員会 National Capital Region Planning Board |
ncrpb.nic.in/ |
デリーマスタープラン | デリー開発庁 Delhi Development Authority (DDA) |
dda.org.in/ddanew/index.aspx |
ムンバイマスタープラン | ムンバイ大都市圏開発庁 Mumbai Metropolitan Region Development Authority (MMRDA) |
mmrda.maharashtra.gov.in/home/ |
チェンナイ・マスタープラン 及びチェンナイ地域計画 |
チェンナイ大都市圏開発庁 Chennai Metropolitan Development Authority (CMDA) |
www.cmdachennai.gov.in |
都市開発計画 | カルナータカ大都市圏開発庁 Karnataka Metropolitan Development Authority (CMDA) |
www.kmdaonline.org/ |
バンガロール・ ストラクチャープラン |
バンガロール大都市圏開発庁 Bangalore Metropolitan Region Development Authority (BMRDA) |
www.bmrda.kar.nic.in/ |
ハイデラバード都市計画 | ハイデラバード大都市圏開発庁 Hyderabad Metropolitan Development Authority (HMDA) |
www.hmda.gov.in |
2015年1月1日、政府は計画委員会を廃止し、代わりにインド政策委員会(National Institution for Transforming India Commission:NITI委員会)を設立した。変革に向けた熱烈なる信念により「州連合(States of the Union)」が強調されることとなり、これは、州が単なる中央政府の付属物に止まることを望まず、成長と発展の仕組みの決定に確固たる発言力を求めようとするものである。この強い願望は、中央政府による計画策定の役割の縮小が必要なことを意味する。
表2NITI委員会の組織
議長 | 首相 |
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運営評議会 | 州首相、連邦直轄領の副総督 |
リージョン評議会 | 必要に応じて設立され、メンバーには上記を含む |
非常勤メンバー | 最大2名、関連機関の持ち回り |
職権上のメンバー | 閣僚会議より最大4名、首相が任命・特別招待者 |
NITI委員会の役割 |
|
資料:2015年1月インド政府閣議決定
この機関は誕生したばかりであり、最終的な計画立案の枠組みや役割については今後更に確立していく予定である。
表3国土・地域整備に関わる現行の主な計画等
計画 | 策定主体 |
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各州の五ヵ年計画 | 各州の計画局 |
リージョンプラン2021 | 首都圏計画委員会 |
デリーマスタープラン2021 | デリー開発庁(DDA) |
都市計画及び開発行政は州の立法を背景に行われる。地方政府あるいは都市地方団体(urban local body: ULB)は都市開発戦略を実行する。ULBは第3層の統治機構であり、直接選挙で選ばれる。主要都市と都市地域の計画及び開発は都市/都市圏/地域開発当局により行われる。これらの当局は州政府傘下の公共機関である。
中央政府レベルでは、計画委員会と都市開発省が都市計画・開発及び技術指導等に責任を負う。
州政府レベルでは、各州の州都市計画法や関連する法的枠組みによって都市計画及び開発行政が実施されている。今日、全ての州が都市計画、都市開発、住宅供給、管理を担当する省庁を設置している。
地方レベルでは、大都市の場合、計画開発局が各種計画策定を担う機関であり、開発許可の発行や開発の実施等も行う。同局は州都市計画法または個別の計画・開発局法により設立されている。
1985年制定の首都圏計画委員会法の下、ハリヤーナー州、ラージャスターン州、デリー準州、ウッタル・プラデーシュ州の同意・参加により、首都圏計画委員会が設立された(都市開発省傘下の国の組織)。
2005年に、首都圏計画委員会では、地域計画2021を策定するとともに、2010年に、地域計画2021を補完するものとして、交通計画2032を策定した。
地域計画2021の目的・目標は、デリーの経済開発の影響を、5つの都市センター、1つの地区センターに、効率的なネットワークの形成(インフラ整備、合理的な土地利用パターン、環境改善、クオリティオブライフの実現)を通じて、地域全体としての成長と地域内の均整ある発展を促すものである。
デリー首都直轄地域については、デリー開発庁(DDA)がデリー・マスタープラン2021を策定している。この開発計画は地域計画2021のビジョンと連動している。このマスタープランは、デリー開発法(1957年)に基づき、中央政府の代理としてDDAが作るものである。
デリー・マスタープラン2021の目標は、①デリーを世界レベルの都市に、②環境・歴史的遺産の保全、③地域(広域)的な観点からの計画・開発、④持続可能かつハイレベルな生活水準、生活の質、⑤貧困層の立場に立ったインクルーシブなアプローチ、⑥人間的な都市、である。
インド進出企業にとって最大の壁とされる工場用地の取得問題。多発する土地紛争には鉄鋼世界最大手の欧アルセロール・ミタルなど大手企業が手を焼いた。インド政府は、2014年1月に、120年前の大英帝国の統治時代に制定された土地収用法を改正した。
新法(土地収用と生活再建および再定住に関する法律)では政府が土地を収用する際、住民や地権者などの保護を徹底した。収用時に地権者などに支払う対価について、従来は「土地の市場価格と同額」としてきた。これを都市部で2倍、紛争が多発する農村部では4倍にした。住民の代替居住地の確保も義務付けた。また、土地収用の際、周辺地域の影響調査を義務化した。
旧法下では、収用後に土地代が値上がりしたとき、企業に追加請求する事態が起きたこともある(現地自動車最大手マルチ・スズキの北部ハリヤーナー州マネサール工場の例など)。政府が承認する土地価格は、インド国内の市場価格に比べ非常に低いものである。そのような価格設定の理由には、税その他の根拠があるかもしれない。州政府が支払う収用価格と実勢価格が大きく乖離していることが紛争の主な要因の一つである。
この新法により、企業にとって土地取得コストが増加し、収用交渉が長期化することも考えられるが、逆に、土地紛争のリスクを低下させる可能性も高まると期待されている。(日本経済新聞2014年2月14日)
2014年12月、インド政府は土地収用法の一部条項を改正する政令を出した。国家安全保障と防衛、農村のインフラおよび電化、手頃な住宅や貧困層向け住宅、産業コリドーおよびインフラ、社会インフラといった分野のプロジェクトで(官民連携(PPP)プロジェクトを含む)土地の所有権が継続して政府に与えられる場所については、土地所有者の80%の合意という要件を免除される。関係大臣によれば、土地取得に関する政令は産業開発を後押しするためのものである。この改正は、高額補償金の継続によりバランスを取ることを試みた。同時に、手続きの厳密さが緩和または軽減される。(2014年12月30日、ウォールストリートジャーナル、India Realtime)