フィリピン(Philippines)

表1国勢概要

国名 フィリピン共和国
People's Republic of the Philippines
国土面積 299,404km²(日本の約8割)
7,109の島々がある。
人口 約1億98万人(2015年:フィリピン国勢調査)
人口密度 337人/km²
都市人口比率 44.4%(2015年)
GDP
(単位:億米ドル)
1,685(2009年)、1,996(2010年)
2,241(2011年)、2,501(2012年)
2,720(2013年)、2,848(2014年)
2,920(2015年)
一人当たりGDP
(単位:米ドル)
1,851(2009年)、2,155(2010年)
2,364(2011年)、2,591(2012年)
2,770(2013年)、2,844(2014年)
2,858(2015年)
産業別
就業人口比率
第一次産業29%
第二次産業16%
第三次産業55%
(2015年推計)
経済成長率 1.1%(2009年)、7.6%(2010年)
3.6%(2011年)、6.8%(2012年)
7.2%(2013年)、6.1%(2014年)
5.8%(2015年)

(情報更新:2017年3月)

概況

フィリピンは南北1,851kmにわたって散在する7,000余りの島々からなる島嶼国である。フィリピンは南北1,851kmにわたって散在する7,000余りの島々からなる。うち約1,000島には居住者があり、このうち2.5km²以上の面積を有するのはこの半分以下の島である。アジア大陸から約800km、台湾とボルネオの間に位置する(「フィリピンの地理」2016)。ルソン、ミンダナオ、ミンドロ、サマール、レイテ、セブなどの11の大きな島が国土の面積の96%を占める。

1990年までに人口の約半数が都市に居住していたフィリピンは、アジア開発途上国の中でも都市化が最も進んだ国の1つである。

貧富の差が激しく、貧困撲滅が国家の直面する緊急課題の一つである。全貧困層の4分の3が農村部に居住する一方、わずか10%の富裕層が国の富の76%を保有している(De Vera 2014年)。国の大多数カトリック教徒が圧倒的に多いこの国(人口の93%が信者)にあって、フィリピン南部のムスリム・ミンダナオ自治区(ARMM)における発展の遅れは特に著しい(図1)。

図1フィリピンの17地方

フィリピンの17地方

地方行政制度

図2政治・行政システム

政治・行政システム

資料:「平成20年度国土政策セミナー報告書」、国土交通省国土計画局、2009年

フィリピンにおける地方行政の階層構造は①州及び高度都市化市、②市(「構成市」)及び町、③バランガイ(最小行政単位)の3層構造である(図2)。

フィリピンの地方行政はマルコス政権の独裁(中央集権的統治)に始まり、行政権限の移譲と地方自治体(LGU)の自治を求めた1986年のエドゥサ(EDSA)ピープルパワー革命へとつながった(フィリピン憲法 1987年)。政府は地方自治体に更なる権力、権限、責任および資金を与えることにより、「各地域により適したプログラム実施の自由」を地方自治体が享受し、「より自立した、発展に共同で取り組むパートナー」となることを求めている(Dorotan 日付不明.) 。このガバナンス戦略はフィリピン共和国法7160 号により制定され、「1991年地方自治法」の名でも知られている。

図3計画体系

計画体系

資料:「平成20年度国土政策セミナー報告書」、国土交通省国土計画局、2009年

計画制度

国から地方レベルまでを関連づける計画体系は、空間計画と社会経済計画で構成される。いずれの計画の枠組みにあっても、複数の州を束ねた広域地方レベルの計画が存在する。

自治体レベル(州、および特に市/町のレベル)の空間計画と社会経済計画の体系(図3)は総合土地利用計画(CLUP)および総合開発計画(CDP)に示されており、前者は国土の管理を、後者は住民の福祉向上をそれぞれ主眼としている(1991年フィリピン地方自治法)。

国土政策に関わる政府機関

国家経済開発庁(NEDA)が国および地方の計画策定を担当する主な政府機関である。しかし、「特別開発および行政地域」(IRR-MMDA 1996年)としてメトロマニラの最重要性が認識され、その構成単位である17の地方自治体(LGU)にも強い自治権が与えられている(1991年フィリピン地方自治法)。首都圏の開発はマニラ首都圏開発庁(MMDA)がとりまとめ、NEDAの国家政策を統合するだけでなくメトロマニラに在する各市および町が提唱する種々の地域毎の検討事項の調整を行うことになっている。

表2国土政策に関わる主要な政府機関

計画名又は行政分野 担当機関 ホームページ
中期フィリピン開発計画 国家経済開発庁 http://www.neda.gov.ph/
空間計画のための国家フレームワーク 国家経済開発庁 http://www.neda.gov.ph/
マニラ首都圏空間開発フレームワーク計画 マニラ首都圏開発庁 http://www.mmda.gov.ph/

国土政策に関わる主要な施策

国・広域地方レベルの社会経済計画

「中期フィリピン開発計画」(MTPDP)は大統領の任期に対応した六ヵ年計画である(ただし、現行計画は、現大統領就任翌年からの五ヵ年計画「フィリピン開発計画2011-2016」)。MTPDPは、各大統領が任期中に実現をめざす施策を記した国家計画である。1986年から大統領の任期に対応させたMTPDPが策定されるようになった。それ以前は、1970年代以降、四ヵ年計画や五ヵ年開発が策定されていた。次期MTPDPは2016年5月に予定されている大統領選挙後になる見通しである。

MTPDPには、主要な政策方針、社会経済戦略、国家に関する主要なプログラムが含まれる。一方で地方開発計画には、国家計画を支援する戦略、プログラム、プロジェクトが含まれる。

MTPDPの作成を担当する国家経済開発庁(NEDA)は、関係機関との調整をはかりつつ立案を進める。最終案は大統領が議長を務め閣僚により構成されるNEDA委員会により承認される。

地方開発計画の計画策定、審査、協議の基礎となるのは、NEDAが作成する国家計画案と指針である。NEDAのカウンターパートとして各地方で組織される地方開発評議会(RDC)(NCR、ARMM、コルディリェラ行政地域(CAR)は別組織)が、地方、自治体レベルの計画の色合いを定める。各RDCは、地方自治体の代表、国の地方部局、民間セクターで構成される。

国・広域地方レベルの空間計画

空間計画は長期的視点から考えるべきとの判断のもと、30年計画の「国家空間フレームワーク計画1993-2022」(NPFP)が策定された。現行の計画は名称が変わり、「空間計画のための国家フレームワーク2001-2030」(NFPP)と呼ばれる。ビラレによる「空間計画のフレームワーク」と題された記事を以下に引用する。

NPFPは、国家の物的資源の分配、活用、開発、ならびに運用の指針を示す総合的な国土利用の政策アジェンダとして策定された。1992年に承認され、1993年から2022年をその計画期間としている。しかし、これは1997年に社会的平等の下の持続的開発と成長を主軸とした国家の発展を描いた「空間計画のための国家フレームワーク2001-2030」に置き換えられた。これらの政策のキーワードは「経済」ではなく「空間」であり、空間計画の計画期間は経済計画が通常5年で設定されているのに対してより長期(30年から50年)になっている。

もう一つのキーワードは「フレームワーク」である。これはこの計画が開発にむけた詳細な青写真ではなく、一般化概念を示したものであることを示唆している。より短期的(かつ詳細)な「中期」社会経済計画はこの空間計画をベースにしている。また、ここでいう「空間のフレームワーク」とは、接続性をも示しており、そのため都市移住および交通ネットワークの制度については大抵、経済計画ではなくここで取り上げられる。交通ネットワークおよびその他のインフラの整備にはより長期間を要するため、中期計画では対応できない点からもこれが正しいといえる(Villarete 2014)。

NFPPは、土地及び物質資源の配分、活用、管理、開発に係る政策や方針を定める。土地の生産能力を高め、資源の持続性を保護・確保し、秩序ある居住地開発を促し、開発の支援又は進展に資するインフラを配置することを目的としている。NFPF同様、NFPPは、関係各省庁から構成されNEDAと密接な関係にある国家土地利用委員会(National Land Use Committee: NLUC)がNEDAを事務局として策定した。今日、NLUCはNEDA委員会の下部委員会のひとつに位置づけられている(2008年の大統領令770号による位置づけ変更)。

名称がNPFPからNFPPに変わったことの背景には、計画の性格が大きく変わったことがある。従前計画が自治体の行動を縛るような内容であったのに対し、新計画ではそれを改め、自治体に対する施策の選択肢を用意する内容になっている(憲法の定める地方自治の原則との一貫性による)。

地方レベルでは、NFPPを受け、「地方空間フレームワークプラン」(RPFP)が策定される。NFPP同様、RPFPも自治体に選択肢ないしは指針を示すものとなった。RFPPの策定の指揮はNEDAの国及び地方事務局が取る一方(NCRとARMMは別)、各RFPPは地方開発評議会が承認する(NCR、ARMM、CARは別)。現行RPFPの計画目標年は、2地方以外全て2030年である(ARMMを含む。例外2地方はNCRとCAR)。現行のNFPPは施行から15年後に計画の見直しが行われる予定との報告もあるが、2016年現在、現行のNFPP 2001-2030はフィリピン政府により支持された既存の国家空間計画のままである。

図4マニラ首都圏の政策区域図

マニラ首都圏の政策区域図

資料:A Physical Development Framework Plan for Metropolitan Manila, 1996-2016, MMDA, 1999

大都市圏その他の地域計画

首都圏であるマニラ大都市圏(NCRまたはメトロマニラ)はフィリピンで唯一、地理的な範囲と行政権限が法律(1995年マニラ首都圏庁(MMDA)設置法)(共和国法7924号 1995年)で明確に認められた都市圏である。NCR以外にも、大都市とその周辺自治体が、自ら大都市圏と名乗っている例はある(例えば、メトロセブ、メトロダバオ等)*。しかし、これらの大都市地域の行政は、関係自治体間の自主協定に基づいて行われているものであり、1986年憲法や1991年地方自治法に法的根拠を有している。

国家機関としてマニラ首都圏開発庁(MMDA)が1995年に設立され、初の空間計画「マニラ首都圏空間開発フレームワーク1996-2016」(PDFPFMM)を策定した。この計画は、1999年に改訂された(名称、計画期間は1996年計画のまま)。

約20年を経て、MMDAは「都市の経済的、社会的、ならびに環境の劇的な変化を踏まえて計画を見直す必要がある」(Llorito, Hermoso, Al-arief 2012年)と認識した。これにより、「メトロマニラ・グリーンプリント2030」という名称の計画が2012年3月に策定された。これは首都圏を「東南アジアにおける競争力を有する都市に変革し、メトロ・マニアの複雑な諸問題に総合的に対処する枠組みを設け、また首都圏の17の地方自治体の調整をはかることで住民の生活水準を向上させる」(Lapena 2012年)ことを目指している。現在、この地域で求められている空間開発の要素(空間計画コンセプトの成果のみならず、開発機会、課題など)は特定され、「メトロマニラ・グリーンプリント2030:ビジョンの構築」と題した報告書(Zhang他、2014年)としてまとめられている。より詳細な拘束力のある地域開発地図は2016年発行予定で現在準備中である。

メトロマニラ・グリーンプリント2030策定にあたっては、他地方の開発計画同様にMMDAがNEDA地方事務所の役割を果たし、各計画は他地方の地方開発評議会(RDC)に相当するメトロマニラ評議会(MMC)の承認を受けて制定される。MMCは、NCR内の全ての市と町の首長で構成されるMMDAの政策決定機関であり、2002年の大統領令により、RDCとしての役割が与えられた。

  • *ムスリム・ミンダナオ自治地域 (ARMM) – メトロマニラ同様に 地理的な範囲と行政権限が法律により定められている(共和国法9054法)しかし、ARMMは主にバシラン、南ラナオ、マギンダナオ、スールー、タウィタウィなど農村地域から成り、都市の性質を持つのはマラウィとラミタンのみである。(ARMM History , 日付不明)

その他空間開発上、影響が大きい施策の例

「フィリピン開発計画2011-2016」(PDP)では、国内各地域の産業活動やその基盤の特性を反映した産業クラスター(特定産業の地理的な集積)形成を促進し、輸出を通じた地域の富の創出に貢献させようという、「産業クラスター戦略」を打ち出している(図5)。

産業クラスターの開発というこの戦略において、政府は、中小零細企業同士の企業間連携を育て、協働のためのネットワークを強化することを推し進めることとしている。この考え方は、これまでの開発政策が、「トリクルダウン理論に基づく雇用をもたらさない成長の道に陥っていた」(PDP前文)との認識に立脚している(トリクルダウンは、大企業や富裕層の経済活動を活性化させることで、富が低所得層に向かって流れ落ち、国民全体の利益になるとする経済思想)との認識に立脚している。

産業のクラスター化を超え、新たに発生した国家および地域開発への課題や脅威(メトロマニラおよびその周辺の州における運送管理の問題や、東ビサヤに大打撃を与えた「スーパー台風」ヨランダ/ハイエンなどに見られる気候変動の影響など)に呼応し、こうした計画実行上の懸念事項を是正すべく、フィリピン政府は補完的な政策の作成および計画運営に乗りだした。

その一例が国家経済開発庁(NEDA)が(JICAの支援を受けて)公表した「メトロマニラおよびその周辺地域の輸送インフラの構築」と題したロードマップである。この計画は首都圏およびその周辺地域における都市の移動性の向上に関する政策の方向性を含んでいる。更に、マニラ首都圏開発庁(MMDA)の支持のもと作成される前述の「メトロマニラ・グリーンプリント2030」との調和も図ったものとなる。もう一つの例は2013年11月に台風ヨランダ/ハイエンが東ビサヤを直撃したことを受けた「東ビサヤ地域開発計画2014-2016」および「ヨランダ復興計画」の作成である。

図5産業クラスターの分布

産業クラスターの分布

資料:Philippine Development Plan 2011-2016, NEDA, 2011

Mark Anthony Mateo Morales
  • 情報更新日:
    2016年3月11日
  • 寄稿者:
    Mark Anthony Mateo Morales
    工博(フィリピン大学都市・地域計画学部助教授、研修・拡張サービス部長)