会議記録

ショートスピーチ

【森地座長】
 本日の懇談会も前回と同様に、報道関係者に公開させていただく。
 それでは、お1人30分程度を目途にショートスピーチをいただいて、お2人のお話を伺った後、フリートーキングということでお願いしたい。

【下河辺氏】
 本日は、皆様方にお招きを受けて光栄である。私は、技術屋とは思っていないので、専門的な技術についてお話しすることは少し敬遠したかった。担当者の方々とお話して、専門家の技術屋よりも知らない人の話が良いと考えた。国土交通省や国土技術研究センターとは非常につき合いが大きいので、ここに出てきた次第である。
 森地座長、月尾委員はじめ皆様は、将来の国土技術に期待をする人達であり、その方々から話を聞く立場なのに、なぜ私がショートスピーチをするのか、相当 懐疑的に思っている。今日のテーマは、「国土技術のロボット化」である。
 現役で50年、国土技術を中心とした仕事に携った者として、国土技術は技術レベルが低いことを自慢していた。低いからこそ、失業者を使う能力がある。砂利をまくだけで良い技術は最も失業対策に向いており、技術なき国土技術で失業対策を行ってきた。失業対策が十分でないと、日本が高度成長を維持するために生産の合理化を猛烈に追い進めていく中で、大量の失業者が出る。我々の時代は、戦後ベビーブームの人が労働力化することで、労働力が猛烈に増加した。さらに、1,500万人の農民が500万人まで減り、農業から1,000万人の労働者が排出された。戦後ベビーブームと農業の変化があり、非常に困った。
 最も有効な失業対策は建設業であり、単純労働力に期待することが我々の政策であった。建設省で失業対策事業を担当した際には、技術ではなく管理者の仕事ばかりであった。北海道では、雪が降ると公共事業ができない。冬の間、出稼ぎに来た労働者は雪の中で公共事業を行う予算を、失業者達は年末の ボーナスを要求するため、雪の中で公共事業をどのように行うか考えた。
雪が降っている中、釧路市役所の屋上で労働者との団交をやらされた。「お前はここから帰さない、ボーナスを約束したら歓迎する」と言われた。あらかじめ用意した僅かなボーナスを払うと、大変喜び、雪の屋上でお酒を酌み交わした。そんな時代だった。
 東京で公共事業を増やしても、地方からの出稼ぎが来て労働者になることを政策的には相当重く見ていた。建設業は人海作戦であり、農村へ行くと農村は女性農業、男性は皆公共事業の出稼ぎに出るというような時代に、私は仕事をしていた。
 そのため、建設技術、国土技術は、技術レベルが低い方がむしろ良いという不思議な環境で育った。今思うと不思議な時代であった。
 ここへ来て、国土技術、建設技術が極めて高い技術水準に支えられなければ、政府が立ち行かなくなってきた。昔、失業対策で来てくれた建設労働者達は皆高齢化が進み、大きな公共事業でそのような人達を使い切れなくなっている。高齢化、少子化という出生率が下がった時代では、公共事業も様変わりしなければならない。
 政府の財政は厳しい状況にあり、公共事業は必要ないという意見まで出ているが、人間が地上に住む限り、公共事業が要らないということは全くあり得ない。その日暮らしだけではなく、未来のものまで公共事業は用意して行く必要がある。最も重要なのは、技術によるコストダウンが、経済大国において欠かせない仕事になっているということである。
 損害保険会社の仕事をする際に、公共事業に伴うリスクをどのように保険化するかというテーマは、財政により全て弁済することを超えてくるということを前提に、保険制度が公共事業とどう関連するかについて勉強している。特に、車社会として一体どのような対応策を必要としているのか、道路行政、道路建設技術と自動車事故が、どのように関わり合うのかというようなことまで、1つの議論になってきている。
 最近は、環境問題が非常にクローズアップされてきたので、エコノミーということから安全な技術を考えることを超え、生態系を保存することが同時に行われることがテーマになった。道路を建設する場合でも、生態系がどうか、自動車が走ることで生態系への影響がどうかというようなことで、全てが生態系との関係で議論されるようになってきた。
 今では、環境に対して真剣に対応することが、経済的なビジネスとして成立するという。自然を犠牲にして犠牲に報いるには、むしろボランタリーな仕事と言われていたが、今では、環境はビジネスの世界ということにまで進んできた。
 国土技術や建設技術は、戦後50年の歴史を経た上で、工事のロボット化という本格的なテーマになってきた。
 国土技術のロボット化とは一体何か。機械や土木技術の機械化、自動化は、既に進んでおり、単純な筋肉労働で人海作戦をやることなく、建設機械により合理性を保っていくというところまで来ている。今日、ここで改めて申し上げたいのは、自動的な国土技術の機械に頼ることを超え、工事の対象と対話ができる、フィードバックできる機械を必要としているということである。情報を交換しながら、人間が機械力に頼って建設技術を行うことが必要になってきた。
 日本のように、非常に複雑な地層、軟弱地盤、地下水位や自然条件の中で、トンネルを掘る仕事はどうしても必要である。一体どのように工事を進めるか。洗練された専門の技術屋が先頭に立って、掘削現場の危険を侵しながら状況判断をして掘っていくのである。これからはそのようなことでは済まされない。ロボットが自ら判断して掘削機械を操縦し、人間は、屋上からロボットの活躍を監視し、ロボットからの情報を聞いて判断をする。ロボットの遠隔操縦が国土技術のトンネル技術になるだろう。
 長崎で現実になったが、火山が大爆発をした際に噴火口から溶液が流れ出ることを防ぐ仕事で、ある会社がロボットによる対応策を実験したことを覚えている。人は安全なところからロボットを操縦し、状況判断はロボットが送ってきてくれるということも僅かに経験した。これからは、ロボットの使用が普通になるだろう。
 鳶職の人達が驚異的な働きをして、霞が関ビルという超高層ビルを完成させた。超高層ビルにとって大変な危険を伴う誤差の範囲は、人間の特殊な技術で補ったと自慢している。今、そのようなことでは、優秀な鳶職を期待するという気楽な話にはならない。鳶職代わりのロボットが働いてくれるというところまでいかなければ、これからの超高層ビル、特に軟弱地盤に建設される超高層ビルは、構造的な問題が出てくる。
 新幹線のトンネル壁面のセメントが落ちるというテーマも具体的に出てきた。トンネル内に張るコンクリートの壁をどう見ていくか。日常的に監視していくことをどのようにするのか。時々、線路工夫の人達が見て回り、かなづちで叩くのが一番良いということで良いのか。常時、ロボットが監視してくれていることを必要としないだろうか。そのような意味では、人海作戦の建設技術をロボット技術に切りかえていくという必要性を感ずるようになっている。これが、私の言いたいことの全てである。

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