3.既成市街地再整備のための新たな制度の導入
(1)都市施設の立体的整備
既成市街地再整備のための都市計画制度としては、道路、公園、下水道等の都市施設に関する都市計画、市街地再開発事業、土地区画整理事業等の市街地開発事業に関する都市計画が重要である。特に、都市施設については、近年、公共施設の用地の確保の困難な大都市部等において、環状道路、駐車場等の都市施設を地下に整備し、その地上部を民間の建築物等の用に供したり、地上空間や地下を有効に活用して複数の都市施設を整備するといった複合的な土地利用のニーズが増加している。
しかし、現行都市計画制度上、都市施設に関する都市計画については、平面概念としての「区域」を定めることとなっており、当該施設がその区域内で、どの空間あるいは地下を占めるのかは明確になっていない。そのため、都市計画施設の区域内の建築許可(法第53条)についても、原則として天上天下すべてに及んでおり、施設の整備に必要のない空間あるいは地下における建築行為まで許可に係らしめている。このような状況に対応し、都市施設に関する都市計画において、当該施設を整備する立体的な範囲を定められることとし、その場合に法第53条の建築制限を緩和することにより、立体的複合的な施設整備を促進することが必要である。
なお、道路法等の公物管理法に基づき、都市施設の管理の観点から、別途、建築行為等に対する規制が存在する場合には、当該規制をも満たす必要があることに留意すべきである。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 道路等の都市施設について、適正かつ合理的な土地利用を図る上で必要がある場合には、当該都市施設の区域内で当該施設を整備する立体的な範囲(空間又は地下の範囲)を都市計画決定できることとする。
また、当該範囲を定める場合においては、
・当該範囲を地下に定める場合については、あわせて、建築物(地下室や基礎)と当該範囲との離隔距離の最小限度及び建築物の載荷重の最大限度を定められることとし、都市計画施設の区域内であっても当該制限に適合する建築物であれば、法第53条の建築許可を要しないこととすること、
・これ以外の場合についても、当該範囲内での都市施設の整備に支障がないと認められる建築物であれば、法第53条の建築許可を行わなければならないこととすること、
が必要である。
(2)複数建築物の容積率に係る特例の創設
既成市街地においては、当該地域の公共施設の整備状況等に応じて、土地の有効高度利用を進めていくことが重要である。このうち、都心部等の商業地域では、居住環境の確保の観点よりも、商業・業務施設の集積を図る観点から、基盤施設に対する負荷を勘案しつつ、高度利用が実現されるよう高い容積率が指定されており、建築基準法上の日影規制も適用されない。しかしながら、このような高度利用の条件が整っている既成市街地においても、個別の敷地単位でみれば、歴史的建造物や劇場など建築物の特殊性等により、指定された容積率の限度まで利用することが困難又は不適切なものがあり、地域全体として土地の有効高度利用が十分に図られていない場合がある。
既に、土地の有効高度利用に資する制度として、
・高度利用地区等を指定し、市街地再開発事業を実施する場合のほか、
・一定の公共施設の整備を前提に高い容積率を実現することができる再開発地区計画制度、
・街区単位で建築物の容積率等を定めてしまう特定街区制度、
・建築基準法上、隣接する複数敷地を一敷地とみなす連担建築物設計制度、
等があるが、道路、鉄道、下水道等の基盤施設が十分に整備されている区域においては、都市計画で詳細に容積率を定めず、建築行為の自由度を生かしつつ、未利用の容積を、物理的に離れた他の敷地で有効に活用し、地域全体として土地の高度利用を図ることを許容することが合理的な場合があると考えられる。
ただし、このような制度を導入する前提としては、都市計画で、共通の基盤施設に支えられており、容積率を一体としてとらえても支障がない等の要件を満たす区域を定めること、及び、当該区域内で、歴史的建築物の保全や空地の創出等の市街地環境の維持向上を図り得るよう、建築基準法上の措置を併せて講じることが必要である。
なお、この場合、容積率の有効活用をそもそも想定していない道路や公園などの施設については、そこに指定された容積率は未利用容積とは観念せず、本制度の対象とすべきではないと考えられる。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 大都市の都心部等の商業地域のうち、道路、鉄道、下水道等の基盤施設が十分に整備され、かつ、共通の基盤施設に支えられている区域について、当該区域全体の土地の高度利用を図るため、未利用の容積率の活用を促進する必要性が高い場合には、都市計画で、建築基準法の容積率特例を適用できる区域を定めることができることとする。
建築基準法においては、当該区域内で、特定行政庁が、土地所有者等の同意があった場合に、地域の実情にあった合理的かつ適切な土地利用を図るため必要と判断し、交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認定することにより、複数の敷地の建築物について敷地面積及び延べ面積をそれぞれ合算して容積率制限を適用できることとする。
この際、歴史的建築物の保全や空地の創出等市街地環境の維持向上を図ることができるよう、あらかじめ特定行政庁が判断・認定基準を定め、公表すべきである。また、認定に係る区域等を公告するとともに、一定の事項を表示した図書をその事務所に備えて一般の縦覧に供することにより、土地取引の安全性を確保することが必要である。
(3)地区計画制度の改善
権利関係の輻輳する既成市街地の再整備を進めるためには、地権者等の意見を反映しつつ地区レベルできめ細かなまちづくりを誘導する手法である地区計画制度について、一層汎用性の高いものとなるよう、また、一層地権者等の意見を広く反映することが可能となるよう、見直しを行うことが必要である。
具体的には、地区計画が策定できる区域について、市街化区域内では限定なしにどこでも定められることとする(現行制度は、一定の事業が行われた区域、不良な街区の環境が形成されるおそれがある区域及び既に良好な環境の街区が形成されている区域の3類型に限定しているが、地区計画はこのような典型地域以外でも必要性が高い。)とともに、非線引き都市計画区域で策定できる範囲を法令上明確化することが必要である。
また、現行制度上、地区計画等(地区計画、住宅地高度利用地区計画、再開発地区計画、防災街区整備地区計画、沿道地区計画、集落地区計画)の案の作成については、市町村が、条例で定めるところにより、地権者その他の利害関係者の意見を求めて行うこととされているが、さらに地権者等から市町村に対して積極的に地区計画等の案を申し出る際の要件や時期等をも、市町村ごとに条例で定め、早い段階からの地権者等の参画を可能とすることにより、地区計画等の策定の一層の促進を図るべきである。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 地区計画は、用途地域が定められている区域においては、必要に応じ、どのような区域でも策定できることとし、一方、用途地域が定められていない区域においては、土地利用の基本的方向性が定まっていないことから、地区計画の策定の必要が特に高い区域(現行の市街化調整区域の地区計画と同様、@事業が行われる区域、A不良な街区環境が形成されるおそれがある区域、B既に良好な街区環境が形成されている区域)において定められることとすることが適切である。
また、地区計画等の案の作成手続に係る、市町村の条例(法第16条第2項)に、地権者等の利害関係者から市町村に対する地区計画等の案の申し出の要件、時期等を定められることとすべきである。
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