影を踏むな、街を走れ、災害を生き延びろ。沖縄高専生たちが駆け抜けたPLATEAUハッカソンの2日間
「3D都市モデル「PLATEAU」活用ハッカソン in 沖縄高専」レポート
2025年12月13日・14日の2日間、沖縄工業高等専門学校にて、「3D都市モデル『PLATEAU』活用ハッカソン in 沖縄高専」が開催された。本イベントは、同校メディア情報工学科の講師である仲間祐貴氏が発起人となり企画され、同校の情報系を中心とした学生12名が参加し、3D都市モデルを「どう活用するか」に向き合う2日間となった。
- 文:
- 松下 典子(Matsushita Noriko)
- 編集:
- ASCII STARTUP

会場となった沖縄工業高等専門学校のある沖縄県名護市ではPLATEAUのデータは未整備だが、発起人の仲間氏が教育的な観点からPLATEAUに着目。学生たちに3Dモデルやデータを社会の中で具体的にどう活用するかを考え、体験してもらう場にしたいとの考えから企画し、本ハッカソンの開催を主導した。高専教育では3Dモデリングを学ぶ機会は多い一方で、「できあがった3Dモデルを社会やサービスにどうつなげるか」を体系的に考える場は限られているという。開催にあたって仲間氏は、今回の開催趣旨について次のように語った。
「3Dモデルを作ること自体は授業で教えられる。でも、作ったその先、“どう使うか”まで考える機会は、あまり多くはない。今回、PLATEAUの3D都市モデルを使って、自分たちで活用方法から考えて開発する体験は、学生にはとても新鮮なはず。『作るフェーズ』から『活用するフェーズ』へと視点を移す場として、教育的にも意義のあるイベントにしたいと思っている」

もうひとつ、仲間氏が強調したのが「2日間で必ず動くものを作る」というルールだ。アイデアで終わらせず、実装まで到達することを必須条件とすることで、限られた時間の中で何を削り、何を作り切るのかという判断力も問われる。
今回のハッカソンでは、情報科学・情報工学・情報メディアなど情報系の学生がPLATEAUの3D都市モデルを共通の素材として扱い、分野を横断しながら新しい価値を考え、形にする「交流の場」となることも狙いとされた。
初日はレクチャーとアイデア創出、午後から開発へ
初日13日の午前中は、インプットにあたるレクチャーパートからスタートした。仲間氏によるPLATEAUの基本説明に続き、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課の宮崎優氏がオンラインでPLATEAUの活用事例を紹介。さらに、メンターとして参加した株式会社シーディングソフテックの石井勇一氏からは、「UnityでPLATEAUの3D都市モデルを取り込む」ための実践的な解説が行われた。

レクチャー後、参加者はまず各自でアイデア出しに取り組んだ。その後、全員のアイデアを持ち寄って議論し、3案に絞り込んだうえで3つのグループを編成。午後からはチームごとに本格的な開発フェーズへと入った。

成果発表は「デモ先行」。実装力が問われる審査構成
2日目14日の午後には成果発表と講評会が行われた。発表は「デモ → プレゼン」の順で実施され、各チームの持ち時間は15分。まず作品として動くものを披露し、その上でコンセプトや工夫点を説明する構成とすることで、アイデアだけでなく実装の完成度も評価の対象になる。
講評・審査には、沖縄工業高等専門学校 メディア情報工学科 准教授/ICT委員会顧問の金城篤史氏、学生の視点からの評価役として、同校ICT委員会 委員長の兼久紗嬉氏が参加。そして、国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 デジタル情報活用推進室 課長補佐 野田孝之氏、同課 都市サービス推進係長 宮崎氏が審査に加わった。

影を踏むとクマが追いかけてくる。危険な帰り道ゲーム
「Go-home ~強豪帰宅部をめざして~」
「Go-home ~強豪帰宅部をめざして~」
最初の発表作品「Go-home ~強豪帰宅部をめざして~」は、3D都市モデルの建物の影情報を活用し、暗がりなどの危険を避けながら自宅を目指すゲームだ。影が危険地帯として設定されており、踏み込むとクマが出現。影を避けて移動するか、追いかけてくるクマから逃げ切り、無事に帰宅できればクリアとなる。


開発の背景には、帰宅時に街灯の少ない暗い道を通る不安があったという。ゲームを通じて自分の住む地域の危険を疑似体験できれば、安全意識を高められると考えた。当初は、街中では不審者、山間部ではクマといった複数の危険要素を用意する構想もあったが、開発時間の制約から今回はクマに絞った。
発表チームはハッカソンを振り返り、「メンバー全員がUnity初挑戦で、作り方を調べながら少しずつ進めた。時間が足りず機能やビジュアルを作り込めなかったのが悔しい。次は役割分担を明確にして、もっと完成度を上げたい」と率直な感想を語った。

講評では、宮崎氏が「影を踏むとHPが減るのではなく、クマが出て逃げるという発想がユニーク」と評価したうえで、「今後作り込むとしたら、防犯を目的にするのか、それともゲームとしての面白さに振り切るのか、その方針を明確にするといい」とアドバイスした。野田氏はPLATEAUの日照シミュレーションの使い方に着目し、「ゲーム上ではどの時間帯の影を想定したのか」と質問。発表者は「帰宅時の夕方の太陽位置を設定した」と答えた。金城氏は「今後はどこを工夫したいか」と質問。発表チームは「グラフィック面でより恐怖感を演出したい」という改善点を示した。また、学生審査員の兼久氏は、「通学時に暗い道をあまり意識してこなかったので、気づきになった」とコメントし、日常に潜む危険を可視化した点を評価した。
建物IDで遊ぶ。PLATEAU属性情報をビンゴにした街歩きゲーム
「たてものBINGO」
「たてものBINGO」
2番目に発表された「たてものBINGO」は、PLATEAUの3D都市モデルが持つ「建物ID」という属性情報を、ゲームのルールに落とし込んだビンゴゲーム。プレイヤーは那覇市内を舞台に、制限時間内でビンゴ達成を目指して街を駆け回る。建物に触れると、その建物IDの下2桁と一致するビンゴカードの数字に穴を開けられる仕組みだが、どの建物が何番に対応しているかは表示されない。カードにない建物に触れるとペナルティとして残り時間が減るため、闇雲に動くことはできない。


唯一の手がかりは、10秒に1回、カードに含まれる番号の建物が青や赤に着色表示されるヒント。短時間で消えるこの視覚的なサインを頼りに、プレイヤーは街中を探索していく。開発のきっかけは「建物そのものを使ったゲームができないか」と考えたこと。建物IDという一見使い道がわかりにくい情報に着目し、数字の一部をビンゴに使うアイデアに行き着いたという。通常は多人数で遊ぶビンゴを、制限時間制にすることで一人でも成立するゲームへと再設計した。
実装面では、ビンゴカード画像やキャラクター素材をUnityに取り込み、建物IDはゲーム開始時に一括で読み込むことで処理負荷を軽減。ステージ範囲外の奈落に落ちないための透明な壁の設置や、タイトルロゴのデザイン、当たり判定時のカメラ揺れ演出など、細部にもこだわりが見られた。

講評では、宮崎優氏が「属性情報をうまくゲーム化している。街を走り回るゲームは多いが、ビンゴは新鮮。例えば建物IDの代わりに建物の用途情報などを使えば、遊びながらその街の知識が得られる可能性もある」と評価。野田氏も「建物IDの活用法は国土交通省でも模索していた。繰り返し遊ぶと番号を覚えて有利になる設計もよく考えられている」と述べた。
兼久氏は「ゲームでは建物IDのヒント表示が一瞬で消えるのが緊張感を生んでいる」とコメント。金城氏は位置情報ゲームとの違いを質問。発表チームは、「ジャンプや移動量が多く、広範囲の街並みを一気に楽しめる点が強み」と回答した。属性データの“使いどころ”を提示する、PLATEAUらしい作品となった。
都市災害を生き抜く。PLATEAUで体験するサバイバルゲーム
「PLATEAU DISASTER」
「PLATEAU DISASTER」
3番目の発表作品「PLATEAU DISASTER」は、PLATEAUの地形・建築物データを使って、さまざまな災害から生き延びる体験型サバイバルゲームだ。舞台は東京都中央区。プレイヤーはランダムに配置された地点からスタートし、制限時間まで生存することを目指す。災害の種類によって安全な場所は変わるため、周囲の建物配置や地形といった都市構造を読み取りながら、避難経路や立ち位置を判断する必要がある。単なるアクションではなく、都市と災害の関係性を体感的に理解できる点が特徴だ。


今回実装された災害は、竜巻、隕石落下、津波の3種類。竜巻はランダムに発生し、建物に触れると破損させながら移動し、時間の経過とともに速度が増すため、素早い判断と回避が求められる。エフェクトにはEz Tornadoを使用した。隕石はランダムな地点に落下し、着弾時には破片が飛び散って被害が拡大するが、落下エリアを円で可視化することで避けやすく工夫した。津波は湾岸部から発生し、拡大・縮小を繰り返しながら、ラウンドを重ねるごとに規模が大きくなる設計となっている。
今後の課題としては、災害による建造物被害の当たり判定や崩壊表現、ゲームオーバー表示、効果音など演出面の強化、より現実的な災害パターンの追加、中央区以外のステージ展開などが挙げられた。

講評では、宮崎氏が「ゲームとしてはまだ粗削りだが、災害の映像表現だけでも非常にインパクトがある。危険を体験してもらうにはゲーム性も重要なので、行動ルールや当たり判定を含めて作り込みを続けてほしい」とコメント。野田氏は「津波のような身近な災害に寄せるか、竜巻や隕石のようにゲーム性を高めるかで目指す方向が変わる」と指摘し、選定理由を質問した。発表者は「Unity初心者が多く、ゲーム性の強い隕石を選んだ。台風も検討したが、強風の可視化が難しく竜巻にした」と回答。兼久氏は「津波や竜巻の演出がうまく、見ていて面白かった」と評価した。
グランプリは「Go-home」。PLATEAUならではの発想を評価
審査の結果、グランプリには「Go-home ~強豪帰宅部をめざして~」が選ばれた。授賞理由について宮崎氏は、「PLATEAUのデータ特性をしっかり理解し、活用していた点を高く評価した」と述べ、「『Go-home』は、単に日影を避けるのではなく、影に入るとイベントが発生するという仕掛けが秀逸だった。日影という要素は、建物の立体情報が整備されているPLATEAUだからこそ成立する発想で、今後の拡張性も感じられる作品だった」と講評した。

あわせて、各作品についてもコメントを寄せた。
「『たてものBINGO』は切り口が非常に面白く、街を駆け巡らせるためにビンゴを使うという発想が斬新だった。建物IDに加えて、PLATEAUの3D都市モデルらしい属性情報の活用を広げていけば、さらに魅力が増すだろう。ユーザー体験をより具体的に想像し、どう使われるかを掘り下げていってほしい。『PLATEAU DISASTER』は、3作品の中で最もインパクトがあった。実装力も高く、今回は2日間という制約があったが、さらに作り込めば完成度の高いゲームになるはず」と宮崎氏は評価し、今後に向けてエールを送った。
続いて、メンター・審査員からの総評を紹介する。
オンラインでメンターを務めた石井氏は、「質問が多く、その一つひとつに対する調査力の高さに感心した。生成AIもツールとしてうまく活用しており、PLATEAUの使い方も発想が柔軟だと感じた」と振り返った。「『たてものBINGO』の建物IDの使い方も面白い。IDは単なる数字だが、もうひとひねり抽象化できれば、プロダクトとしてすぐに採用できるレベルのアイデアだった」と講評した。
学生審査員の兼久氏は、「『Go-home』は、影を通ってはいけないという、これまであまり見たことのないゲーム性が印象的だった。Unity初心者が多い中で、学びながらチームで作り上げた点もすごい」と評価。「全体を通して、個人で黙々と作るのではなく、チームで相談し、教え合いながら開発していた姿が印象に残った」と述べた。

金城氏は、「『PLATEAUのデータ活用』というテーマがある中での開発は本当に大変だったと思う。2日間、データをどう使えるか考え続けたことで、データの見方自体が変わったのではないか」とコメント。沖縄県内でもオープンデータ活用の取り組みが進んでいることに触れ、「ぜひ使う側だけでなく、将来は提供する側にもなってほしい」と期待を寄せた。

野田氏は、「どのチームも『もう少し作り込みたかった』という雰囲気はあったが、2日間でここまで形にし、デモとプレゼン資料まで用意した技術力に驚いた」と総括。3D都市モデルの活用という観点では、「『たてものBINGO』は用途や建築年など他の属性を組み合わせると、よりデータ活用の意義が出てくるだろう」、「『PLATEAU DISASTER』は、地域によって起こり得る災害の違いが見えると、よりPLATEAUらしい使い方になるだろう」と具体的な助言を送った。また、「日影は暑熱対策として注目していたが、薄暗くて危険という視点は、我々にとっても新たな気づきだった」と語った。

「動くものを作り切る力」を育てる場としてのハッカソン
この2日間をファシリテーターとして見守ってきた仲間氏も総評を述べた。
「PLATEAUのデータ、Unity、オープンデータを使って、何ができるのかわからない状態から2日間にわたって開発に取り組む経験は、なかなかできるものではない。また、ハッカソンでは、良いアイデアがあっても、動くものを作れずに終わることも多い。そうした中で皆さんは、アイデアを考えながら、限られた時間で“動くもの”を作り上げた。これは、日ごろの授業で自然に身につけてきた力だと思う」と、各チームの努力と成果をたたえた。
さらに、「本当はもっとやりたかったこともあったと思うが、期限がある中で『ここまでなら間に合う』、『ここから先は難しい』と見極め、最低限必要な機能に絞り込む判断もできていた。そのバランス感覚は、社会に出てからも必ず役立つ重要なスキル。この経験を、ぜひ今後の挑戦につなげてほしい」と学生たちにエールを送った。






