衛星データによる都市デジタルツインの構築調査業務
| 実施事業者 | 株式会社スペースデータ |
|---|---|
| 実施協力 | 国連宇宙部 / 三菱電機株式会社 / University of Nottingham Malaysia / Monash University Malaysia |
| 実施場所 | マレーシアランゴール州セメニーUniversity of Nottingham Malaysia近辺 / 福岡県久留米市全域 |
| 実施期間 | 2025年4月〜2026年3月 |

衛星画像から都市デジタルツインをフォトリアルに再現。新興国等の海外都市における日本発のPLATEAUモデルの国際的な実用化と標準化を加速し、世界共通の課題である防災や都市開発を支えるグローバル・スタンダードの確立を目指す。
本プロジェクトの概要
新興国等においては、急速な都市化や気候変動による自然災害リスクの高まりに伴い、都市開発・防災分野における都市デジタルツインデータのニーズが顕在化している。
一方で、それらの実装技術は未成長であり、従来の地上測量や航空測量による3D都市モデル構築は、主にコストの観点から導入障壁が高く、特にリソースの限られた新興国等の都市では対応が困難なのが実情である。
本プロジェクトでは、3D都市モデルが未整備である海外地域において、衛星画像とオープンデータからAI等を活用して都市デジタルツインを構築する。また、構築したデジタルツイン上で水害(洪水)等のリスクを可視化することで、新興国が抱える課題の解消に寄与する都市計画や防災の意思決定支援を行う。

実現したい価値・目指す世界
新興国では、急速な人口流入および都市拡張が進行している地域において、インフラ整備がそのスピードに追いついていない事例が報告されている。これにより、都市洪水や土砂災害などの災害が発生するケースも見られる。こうした状況の中で、災害対策や都市計画を進めるために必要な地理空間情報の整備や地上測量には、多くのコストを要することが、さらに対応を難しくしている。その結果、被害想定や空間利用の可視化が十分でなく、都市計画や災害対策に関連するフィージビリティスタディが実施されないまま、建物やインフラの整備が進む例もある。
一方、日本においては、都市計画や防災の高度化に資する3D都市モデルの整備が、Project PLATEAUを通じて進められている。このような取り組みは、先進的な事例として注目されており、海外展開に向けた検討が行われている。
本プロジェクトでは、東南アジアなど海外における都市デジタルツインデータの活用ニーズを調査し、都市デジタルツインのデータ作成を行う地域を特定する。衛星画像とオープンデータを活用して建物輪郭や高さ、用途などの属性を推定するAIモデルを開発し、都市デジタルツインを構築する。さらに、水害リスクの可視化通じてユースケースの実証および有用性の検証を現地の研究機関等と連携して行うことで、ニーズ主体からのフィードバックを踏まえた本手法の有用性を示し、まちづくり分野への社会実装および他都市への展開を視野に入れたシステム構築を目指す。また技術実証の観点では、海外地域での都市デジタルツイン構築に用いられた上記AIモデルを活用した手法を用いて日本の都市の都市デジタルツインを作成して当該都市の3D都市モデルと比較し、作成コスト及び位置精度を検証する。また都市デジタルツインデータを国際標準形式であるCityGML形式で出力し、海外展開に活用する。加えて、国際連合等の国際機関との協働を通じて、これらの実証結果を国際的に対外発表することにより、他地域への展開可能性や展開に当たっての課題等を抽出し、今後の活用可能性を調査・検討する。本プロジェクトを通じて、世界レベルでの日本の都市デジタルツイン技術の社会実装を加速させ、各国が抱える都市計画・防災対策の課題の抽出と解決策へのアプローチを目指す。




検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材
3D都市モデルを利用して何を行うシステムなのか
本システムは、3D都市モデルが未整備な海外都市においても、現地測量を行うことなく衛星画像とオープンデータからフォトリアルな都市デジタルツインを構築し、構築したデジタルツイン上で水害(洪水)等のリスクを可視化することで、現地の防災・都市計画の検討に寄与するツールである。
システムの全体像と構成要素
本システムは大きく分けて、主に浸水域の特定や、避難ルート計画支援等に対する利用を目的とした位置情報の精度を重視したデータ生成機能と、被災状況の臨場感創出に対する利用を目的としたビジュアルの高品質化および水害リスクを可視化する機能の2つの側面から構成されている。
位置情報の精度を重視した機能群では、PythonおよびPostgreSQL(PostGIS)を活用し、地理空間データの取得から一元管理、CityGMLへの変換処理を行う。特筆すべき点として、Vision TransformerやK-Meansクラスタリングといった機械学習アルゴリズムを用いて、光学衛星画像から建物の屋根形状や色を自動推定し、属性情報として付与する機能を有しており、これにより現地調査なしでの都市情報の再現性を高めている。
ビジュアルを重視した機能群では、3DCGソフトである「Blender」とそのアドオンを活用して開発されている。ここでは、取得した地理データに対し、建物や自然環境(水、森)のマテリアルを自動的に高品質化する「見た目補正処理」や、屋上構造のディテールアップ機能が実装されている。さらに、災害被害状況等をもとにした水位変化や浸水範囲を3D空間に反映する「水害リスクを可視化する機能」を備えており、mp4形式の動画として出力することで、現地の行政職員等が直感的にリスクを把握できる仕様となっている。
なお、生成されたデータの確認や閲覧にはオープンソースGISソフト「QGIS」のプラグインを活用し、CityGMLファイルの取り込みや屋根形状の3D表示を可能にしている。ハードウェアとしては、これら機械学習処理やグラフィック処理を高速に行うため、高性能GPU(NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti等)を搭載したPC上で稼働する構成となっている。
各構成要素について、実装方法の説明
位置情報の精度を重視したデータ生成機能については、Pythonおよび「uv」を用いたライブラリ管理環境下で実装されており、地図情報(OpenStreetMap等)や光学衛星画像(GeoTIFF形式)等の地理空間データを取得・処理する。データの格納・管理には「PostgreSQL」および地理空間拡張である「PostGIS」を採用し、多様なデータを一元管理する構成とした。 本機能の核となる「屋根の形状・色の推定」においては、機械学習アルゴリズムを実装している。具体的には、屋根の形状分類には画像全体の特徴学習に長けた「Vision Transformer」を採用し、屋根色の推定には教師データ不足を補うため「K-Meansクラスタリング」による教師なし学習を採用した。これにより、衛星画像から建物の属性(屋根形状、色)を自動的に推定し、データベースに付加することを可能にしている。最終的に、整備された地理情報データは、PostGIS上のデータを基に変換処理を行い、標準フォーマットであるCityGML形式として出力される。
ビジュアルの高品質化および水害(洪水)リスクの可視化機能については、3DCGソフト「Blender」とそのアドオン機能を活用して実装されている。 まず、見た目補正処理および屋上構造ディテールアップにおいては、Blenderの「Geometry Nodes」や「Subdivision Surface」、「Particle System」といったモディファイア機能を組み合わせた独自のアルゴリズムを開発・適用した。これにより、低解像度なメッシュを滑らかにし、オープン地図データの色情報に基づいた建物の配色はもとより、水面や森林のマテリアルを自動的に高品質化・高密度化することで、フォトリアルな表現を実現している。 また、水害リスクを可視化する機能については、災害データに基づく水位変化や浸水範囲をBlender上の3D空間に反映させるアドオンとして実装されており、可視化結果を直感的に理解可能なmp4形式の動画ファイルとして出力する仕様となっている。
検証方法のサマリー
本実証における検証は、開発した都市デジタルツイン構築技術の信頼性、経済性、および実用性を評価するため、「位置精度の検証」、「構築コストの検証」、そして「公共政策面での有用性検証」を実施した。
初めに、位置精度の検証においては、主に既存の空間統計データが不足している地域での利用を目的とし、マレーシア現地での実測データを用いた検証と、日本国内の既存3D都市モデルを用いた検証の2つの手法を段階的に行った。まず、ドローン実測データを用いた検証では、衛星データのみに依存した生成モデルの精度を物理的な実測値と照合するため、局所的な詳細検証を実施した。現地にてドローンによる空撮および三次元計測を行い、取得した点群データを「正解値(Ground Truth)」と位置づけて比較・分析した結果、3D都市モデルが未整備の地域においても高度な品質評価が可能であることを確認した。次に、アルゴリズム自体の幾何学的な正確性を定量的に評価するため、位置精度が担保されている日本国内(久留米市)の3D都市モデルを対象に検証した。衛星画像等から生成したモデルと3D都市モデルとの重複率(IoU)を測定した結果、データの取得年度の違い等によりKPIには達しなかったものの、入力データの建物欠損の影響を排除した形状一致度も併せて評価することで建物の位置としては概ね一致していることを確認し、広域展開における技術的妥当性のポテンシャルと今後の課題を明らかにした。
次に、構築コストの検証では、本手法が新興国等の都市における低コストなデジタルツイン展開への利用を目的としているため、従来の航空測量等に基づく手法との比較を行った。具体的には、国交通省が公開する試算ツールを用いて従来手法でのモデル形成に係る整備コストを算出し、本手法のモデル構築コストと比較することで削減率を導き出した。その結果、従来コストの90%以上の削減を達成し、本手法が経済的側面から見て広域展開可能なソリューションであることを立証した。
そして、公共政策面での有用性検証においては、ビジュアルの高品質化および水害リスクを可視化する機能について、主に行政機関における防災計画の策定や都市計画策定の意思決定支援への利用を目的とした。具体的には、マレーシアやネパールなど7ヵ国の政府・研究機関の実務担当者を対象に、洪水等の災害リスクを可視化した動画を用いたヒアリング調査を国際会議等で実施した。その結果、本システムが単なる可視化ツールに留まらず、具体的な都市計画や災害対策の意思決定を支援する実効性の高いツールとして機能することを最終的に確認した。




検証で得られたデータ・結果・課題
本実証では、技術的妥当性を測る「位置精度検証」、経済性を測る「構築コスト検証」、および社会実装の可能性を測る「公共政策面での有用性検証」の3つの観点から評価を実施した。
検証(1)の方法と結果/得られた示唆
本検証では、生成モデルの平面的な位置精度を評価するため、異なる基準データを用いた2つのアプローチを実施した。まず、マレーシアの実証エリアにて、現地取得したドローン実測データ(DEM・DSM)を正解値とし、生成モデルとの整合性を検証した。その結果、建物位置の重複率(IoU)は目標値0.5を大幅に上回る0.74を達成した。これより、衛星データ由来のモデルが高い位置精度を持つことが証明され、測量インフラ未整備地域においても、防災対策等に十分活用できる実務レベルの品質を確保可能なことが確認された。
次に、日本国内(福岡県久留米市)の既存3D都市モデル(PLATEAU)と比較し、広域的な正確性を検証した。結果、IoUは0.55となり目標値0.6にわずかに届かなかった。主な要因はデータの取得年度や仕様の差異であった。一方で、より厳密な評価を行うためには、比較データの特性(ノイズや更新時期)を考慮した評価手法の確立が課題として挙げられた。
検証(2)の方法と結果/得られた示唆
整備費試算ツールによる従来手法(LOD1)と本手法のコストを比較し、現地測量工程の削減による優位性を検証した。結果、従来コストに対し約94%の削減(KPI 90%)を達成した。 この結果は、予算制約の厳しい新興国においても、広域に都市デジタルツインを整備・更新できる高い経済的合理性とスケーラビリティを有していることを実証するものである。
検証(3)の方法と結果/得られた示唆
海外8カ国の政府・研究機関を対象に、災害を可視化した動画等を提示しヒアリングを実施した。その結果、有用性および導入意欲において最高評価(5段階中5)が最多となり、パイロットプロジェクトへの参加意欲も極めて高い数値を示した。 災害対策等の需要は高い一方、データ統合や専門人材不足が障壁となることが判明したため、今後は技術提供に加え、運用体制の構築支援や人材育成を含む包括的なサービス提供が必要であることが示唆された。
参加ユーザーからのコメント
下記の海外機関の自治体職員や研究者を対象にヒアリングを行った。
| 国名 | 回答機関名 |
|---|---|
| Malaysia | Department of Irrigation and Drainage |
| Nepal | Survey Department, Government of Nepal |
| Thailand | PARAGUAYAN SPACE AGENCY |
| Egypt | Egyptian Space Agency |
| Morocco | University Center for Research in Space Technologies, EMI |
| Malaysia | Maldives Space Research Organization |
| Vietnam | Vegastar Technology Group consists of five companies and an Academy |
| Austria | LeoTrek AI GmbH |
導入する場合のユースケースの分野と対象について
・質の良い空間データを持つ国内二地域を対象に、防災、都市開発をベースとしたユースケースが考えられる。
・洪水の浸水予測と影響範囲を可視化することによる対象世帯への通知の最適化や、医療施設の現実的な立地選定への活用を期待している。
・活用分野としては、都市計画、環境のモニタリングや、地すべり・洪水・地震・火災などのリスク評価、農地の監視や災害への適応のための計画支援などが挙げられる。
都市デジタルツイン新規導入に当たり予想される課題や障壁
・デジタルツインを扱うエキスパートの不足、データ取得やインフラ整備にかかるコスト、既存システムとの統合の難しさ、データ共有ポリシーの厳しさなどが課題である。
・最大の障壁は制度・ガイドラインの欠如である。また、デジタルツイン導入には国内外のデータ統合が必要だが、多くの既存システムは同期ができない現状である。
・既存システムとのデータ統合、データ管理、データ精度の確保、が主要な技術課題であり、新規システム導入における政策上の制約、導入・維持コスト、人材確保と研修も大きな課題である。
・高解像度データの不足、関連機関間の連携不足、データ取得のコスト、人材育成が課題である。
・データが複数の機関から収集されるために一貫性がない、予算確保が困難であることが課題である。


今後の展望
マレーシア・セメニ地区における実証実験では、衛星画像とオープンデータを活用して生成した都市デジタルツインが、ドローン実測データに対してIoU 0.74という高い位置精度を達成した。これは目標値であるKPI 0.5を大幅に上回る数値であり、現地測量を介さずとも、まちづくりや防災対策に活用可能な実務レベルのデータを生成できることを実証した。本システムの公共政策面における有用性についても、極めて高い評価を得た。海外政府機関など7機関へのヒアリングにおいて、全機関がシステムの有用性および導入意欲について5段階評価で最高値の「5」と回答した。さらに、パイロットプロジェクトへの参加意欲についても過半数が10段階評価で「10」を選択するなど、国際的な実需と受容性の高さが浮き彫りとなった。また、世界最大規模の宇宙国際学会「IAC」での展示や、国連宇宙部主催の「STSC 2026」サイドイベントを通じ、Project PLATEAUおよび本事業の成果を広く世界へ発信し、日本発の技術への注目を集めることに成功した。
一方で、実用化に向けた技術的・運用面での課題も明確化した。技術面では、衛星画像と教師データの取得時期の乖離や観測手法の差異に起因する建物位置の微細なズレが確認されており、位置精度のKPIにはわずかに到達しなかった。今後、アルゴリズムのさらなる高度化と、データのノイズを考慮した厳密な検証手法の確立が不可欠である。運用面においては、現地機関のデータセキュリティ制約や既存システムとの連携難度、さらにデジタルツインを扱う専門人材の不足が、海外展開における主要な障壁として顕在化した。
今後は、これらの課題を踏まえ、都市デジタルツイン構築手法のさらなる高度化を図る。防災、都市開発、インフラ、モビリティといった多岐にわたる領域で可視化ユースケースを拡充するとともに、衛星画像解析などの外部技術を重畳させることで、データの高付加価値化と新たな需要喚起を推進する。
海外政府機関等へのヒアリングで得られたニーズを反映させ、日本発のPLATEAUモデルの国際的な実用化と標準化を加速し、世界共通の課題である防災や都市開発を支えるグローバル・スタンダードの確立を目指す。






