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既設カメラ画像のAI解析による人流・交通流モニタリング

実施事業者ニューラルポケット株式会社
実施場所愛知県安城市 都市機能誘導区域(マチナカ拠点区域)のうち、三河安城駅周辺及び新安城駅周辺
実施期間データ計測:2019年11月 / 解析:2020年12月~2021年2月
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既設カメラの画像をAI解析することで、まちの交通量を可視化。都市における人や車の動きを3D都市モデルを用いて俯瞰的に把握し、まちの課題解決を目指す。

実証実験の概要

⼈流解析技術を社会実装するためには、防犯等の目的で設置されている街中の既設カメラを活⽤することがコストの観点から有効とされているが、既設カメラでは、画角などの問題で必ずしも⼈流解析に適したセンシング環境を確保できるわけではない。

今回の実証実験では、他の用途のために設置された街中の既設カメラであっても、AIによる映像解析技術を活用することで、エリア全体の⼈流を測定することができないか、そのための技術検証を⾏う。

実現したい価値・目指す世界

安城市では、第三次安城市都市計画マスタープランにおいて、市民とともにつくり・つかう協創のまちづくりを掲げている。具体的には、新幹線停車駅である三河安城駅周辺を中心に、データの活用に関心がある民間企業や大学などと連携しながら、まち活動に関するデータ収集・分析などの実証実験を行う「まちをつかう」取組みと、それらの成果を踏まえて、まちの課題の抽出や目指すべきまちのデザインの検討を行うなど「まちをつくる」取組みを行うことで、市民や関係者が協創するエリアマネジメントの実現を目指している。

そのような取組みに3D都市モデルを活用し、様々なデータを3D都市モデルに重畳することで、まちの課題の共有や合意形成、必要な都市機能のアップデート、まち全体のデザイン検討など、「まちをつかってつくる」取組みの実現に寄与することが期待される。

今回の実証実験では、既設カメラ映像をAIにより解析することで、データ収集のコストを抑えながら、人流・交通流データを取得・3D都市モデル上に可視化し、交通上の支障等の課題抽出を行う。この一連の「まちをつかってつくる」新しい取組みを低コストで実現することができる。これらの結果を踏まえ、今後、新規センサー・カメラの設置を行うとともに、更なるデータ収集・分析を行うことで、まち全体のデザインやまちの機能のアップデートの検討に活用する。

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対象エリアの地図(3D)
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対象エリアの鳥観図

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

愛知県安城市では、2019年11月に、三河安城駅周辺及び新安城駅において、大規模な自動車・歩行者交通量調査を実施している。今回の実証実験では、その調査で取得されたカメラ映像のうち19か所のデータを活用し、人流解析(自動車流解析含む)を実施した。

人流解析には、AIによる映像解析技術を使用した。映像内の物体の形状及び位置関係をAIが解析し、人か車両かを自動で識別・特定し、対象の軌跡を記録・追跡できる。対象の軌跡は、カメラの映像を画像(フレーム)としてコマ割りし、フレームごとに検出された物体の画像内での位置関係から、同じ物体を想定されるものに同一のIDを付与し、画像内の位置情報の推移を記録することで取得される。例えば、道路上を走行している車と歩道を歩いている人は、それぞれ前後のフレーム間では画像内のほぼ同じ位置に存在しているため、それぞれ同一人物・車両であると推定され、動線分析が可能となる。

さらに、カメラ映像はその性質上、顔など個人を特定できる情報を含むため取扱いに注意が必要となるが、AI解析をカメラ端末内で実行する 「エッジ処理技術」を用いることで、カメラ画像·動画を外部のネットワークにアップロードすることなく、個人情報に配慮した処理を行うことができる。

本実証実験にて活用されたカメラ
カメラ設置の様子

検証で得られたデータ・結果・課題

今回の実証実験では、1つのカメラ映像から2種類のデータを抽出した。ひとつは、特定の地点を通過した人及び車両の向きと量のデータである。各カメラの画角内に通行量カウント用の仮想の線(ライン)をコンピュータに認識させ、人や車両がどちら向きにそのラインを超えたかを測定した。もうひとつは、人・車両の軌跡を推定したデータである。このデータは、画面内での人・車両の出現位置から3D都市モデル上の座標を計算・推定することで得られた。

今回、これらの2種類のデータをPLATEAU VIEW上で3D都市モデル上に重畳した。これにより、まちの交通量を把握し、その特徴を踏まえた「まちをつくる」取り組みの検討を行った。例えば、三河安城駅周辺は、昼間の交通量が少ないため、時間を限定して交通規制を行い、駅前広場と道路空間を活用したイベント等を開催するなど、都市アセットの柔軟な利活用を図ることが考えられる。また、三河安城駅から三河安城ツインパークにかけての4車線道路は比較的交通量が少ないため、車線を減線し、利活用するスペースを創出するなどウォーカブルな歩行者空間を創出することも考えられる。

一方、技術的な課題として、既設のカメラを用いた解析ではカメラ画角内のエリアの分析に限定されるため、まち全体を俯瞰するためには、今後新規センサー・カメラを設置し、データを組み合わせることが必要となる。

三河安城駅周辺の人及び車両の交通量を示すアロー
三河安城駅周辺の人及び車両の交通量を示すアロー
4車線道路におけるアロー
三河安城駅交差点における軌跡の表現

今後の展望

本技術の特徴は、特定のカメラによらず一般的なカメラを用いて映像を解析できる点である。本技術を街中の既設カメラ映像に活用することで、新たな投資を行わずにまち全体の活動をモニタリングし、データの収集・分析ができる。

特に、3D都市モデル上でまちの活動を可視化することにより、2Dのモデルと比較してその活動がイメージしやすくなるため、多様な主体間におけるまちの課題の共有や合意形成に寄与することが期待される。

今後、自動車流に速度情報を持たせる、信号情報と紐づける等といった精緻なデータ収集・分析を行うことが考えられる。また、カメラの新設や他のセンシングデータとの組み合わせにより、まち全体を俯瞰した都市スケールの人流解析を行うことも可能となる。これらの技術を活用することにより、「まちをつかう」取組みから、まち全体のデザインやまちの機能のアップデートへの活用などの「まちをつくる」取組みへ展開していくことが期待される。