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ウォーカブルな拠点整備を目指した都市開発に伴う 歩行者量変化の可視化

実施事業者パナソニック株式会社
実施場所大阪府大阪市 新大阪駅周辺
実施期間-
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新大阪駅をバーチャル空間に再現し、歩行者の移動データを重ね合わせることで回遊性や同線上の課題を可視化。リニア中央新幹線の乗り入れも見据え、ウォーカブルな空間設計を目指す。

実証実験の概要

将来リニア中央新幹線の乗り入れや周辺地域の再開発が検討されている新大阪駅周辺地区において、歩行者の動きや整備方針を可視化し、周辺を含む駅施設のあるべき姿を議論するためのツールとして3D都市モデルを活用する。

実現したい価値・目指す世界

将来リニア中央新幹線の乗り入れや周辺地域の再開発が検討されている新大阪駅周辺地区において、駅を中心とした人の導線や空間の質を把握することは重要である。

今回の実証実験では、現在の新大阪駅を3D都市モデルによって再現し、ここに歩行者の移動データを重ね合わせることで、現状の空間設計の課題を洗い出す。これにより得られた知見を活用し、新大阪駅やその周辺を含むエリア一体をウォーカブルな拠点として整備していくための基礎資料やエリアマネジメント活動等の検討材料とすることを目指す。

ロケーションおよびVR遷移機能ボタン
実証エリア箇所を示す図

検証や実証に用いた方法・データ・技術・機材

今回の実証実験では、都市空間のVR化にあたって、すべてを新規測量に頼るのではなく、精度の異なる複数のデータを目的に応じて組み合わせたハイブリッドなVRの作成を試みた。具体的には、3D都市モデルの建物モデル(LOD2のCityGMLデータ)を活用することで地区/街区スケールでの都市を再現した上で、駅などの屋内施設の内部空間のVR化に際しては、既存の3D CADデータを活用したモデリングにより新規測量を行わずに一般利用者の可視化に耐えうるクオリティを担保したVR空間を作成した。内部空間にマッピングするテクスチャは現地にて撮影を行ったうえで店舗看板の写り込みの消去等の公開にあたって必要な処理を施した。また、単なる形状再現だけではなく、実際の都市空間の人の動きを再現するために、歩行者量のOD調査結果を活用して交通シミュレーションモデルを作成した。

検証で得られたデータ・結果・課題

VRをまちづくりの検討などで用いるためには、屋内空間だけでなく、ある程度広域のスケールで、アイレベルからの視点でも違和感のない精度のビジュアライズを行う必要がある。そのためのデータ取得、写真撮影・測量、CGの作りこみ等にはコストを要することが一般的だが、3D都市モデル(LOD2)や既存のCADデータを活用することでVRを効率的に作成できることが明らかとなった。

また、VR空間上でOD調査の結果を用いて歩行者量を可視化することで、歩行者が滞留しやすい箇所を明確に把握可能になるため、駅周辺の再整備計画の検討といったまちづくりへの活用に加えて、効果の高い広告計画やサイン計画など、駅空間の管理・運用にも活用できることが明らかになった。

一方で、今回のVR作成にあたって、駅施設の内観を再現するテクスチャ画像は現地で撮影を行っており、今後、ローコストで効率的なテクスチャの収集方法について検討を進める必要がある。

現況の新大阪駅
人の動きをマーカーで再現
俯瞰で人の動きを可視化
再開発イメージ

今後の展望

多くの地方公共団体では、大規模な開発計画を立案する度にVRや景観画像などを作成しており、一定のコストとなっている。今後、地方公共団体が都市空間の基盤データとして3D都市モデルの整備・更新を進めていくことで、これを活用した効率的な都市空間VRの作成が可能となる。さらに、3D都市モデルは空間設計や合意形成など多様な分野で活用可能であり、まさに地方公共団体のまちづくりにおける基盤となることが期待される。

また、3D都市モデルを用いて屋内空間内に歩行者の流動を表示する手法は、施設周辺の歩行量を把握する上で有用であることが明らかになった。今回の実証実験では、歩行者が障害物やほかの歩行者を避けながら目的地への経路を探索するアルゴリズムを設定して歩行者を模式的に表示した。今後、例えば壁や柱の障害物と歩行者との衝突距離を個別に設定するなど、アルゴリズムをさらに精緻化することで、ソーシャルディスタンスを考慮した人の移動を再現し、アフターコロナに対応した歩行者シミュレーションを実施することが期待できる。