全国多自然川づくり会議は、多自然川づくりに対する知見の蓄積や意識の向上を目的とし、平成15年頃から国・都道府県・政令市の河川担当者を対象として毎年開催しています。
12月16日、17日の二日間に渡って、さいたま新都心合同庁舎2号館5階会議室において、 「令和元年度全国多自然川づくり会議」を開催しました。
国⼟交通省 ⽔管理・国⼟保全局 河川環境課 係長 柴田 栄作
これまでの河川環境施策の変遷や施策内容から、多自然川づくりに関する基本的な考え方について講演しました。
川づくりを検討する中で、「いま」だけでなく「遠い未来」も頭に入れて川づくりを考えること、何をする際にも環境上どのような配慮ができるかを考えることが重要であることを説明しました。また、今後はUAV、環境DNA分析、CIM、ICT施工などの最新技術を河川管理の中にどのように活用していくのかを常に考えていく必要性があると説明しました。
国⽴研究開発法⼈ ⼟木研究所自然共生研究センター 専門研究員 大槻順朗
現在の中小河川における多自然川づくりの課題と、その影響についてご講演をいただきました。
中小河川が抱える多自然川づくりの課題として、「治水中心の改修により単調な環境の川になっている」、「災害復旧時に環境配慮の工夫が出来ていない」ことをご提示していただき、その影響を定量的に解説していただきました。
また、災害復旧等において、きめ細かな計画を迅速に行えるようにするために、「多自然川づくり支援ツール」の開発が進んでおり、中小河川における河川環境改善のチャンスを積極的に生かしていくことが重要であるとご説明いただきました。
国立研究開発法人 土木研究所 ⽔環境研究グループ 河川生態チーム 上席研究員 中村 圭吾
平成31年度3月に発行された「実践的な河川環境の評価・改善の手引き(案)」のご紹介と、その活用方法についてご講演をいただきました。
本書を用いた具体的な河川環境の評価方法や、活用例として、河川環境評価区間の明確化、⾃然再生候補地の絞り込み、事業効果の検証などについて、実際に活用した河川の状況を交えてご説明いただきました。
また、今後は新技術(UAV、グリーンレーザ、衛星)を活用した評価の効率化、中⼩河川・流域への展開が必要であることや、環境DNA分析によるの定量的な把握が進むことにより河川環境の管理の高度化が進むことをご説明いただきました。
岐⾩大学流域圏科学研究センター 准教授 原⽥守啓
平成31年度3月に発行された「大河川における多自然川づくり~Q&A方式で理解を深める~」の内容から、原田先生が関わられたセグメントごとの土砂動態、高水敷掘削の留意点、樹木再繁茂抑制について、新しい研究成果を交えてご講演をいただきました。
セグメント、掘削箇所ごとに、再堆積する土砂粒径の予測や、掘削高さの違いによる土砂再堆積傾向の違いについてご説明いただきました。また、再繁茂抑制として、高水敷掘削後に草地環境に誘導する方法についてご説明いただきました。
滋賀県⽴大学環境科学部環境政策・計画学科 准教授 瀧健太郎
多自然川づくりによる地域づくり、まちづくりの波及効果について、事例を交えてご講演をいただきました。
ご講演では、滋賀県内の事例として、ビワマスの遡上を目的とした「ビワマスプロジェクト」が、市民共同によるビワマスを活かしたまちづくりにまで発展したことや、京都府内の事例として行政と民間企業共同の川の自然再生講座の取組みが、地域住民間のコミュニケーションまで波及した事例をご紹介していただきました。また、先生ご自身が実践されている滋賀県内の小学校における地域の河川を題材とした環境・防災学習についてご紹介していただきました。
選出理由
本事例は、岩盤河川という特殊な環境で、岩盤を水制状に残すなど、多自然川づくりの工夫が凝らされており、他地域における多自然川づくりの参考となる取り組みである点を評価した。
また、限られた事業期間の中で、関係者間で「岩盤河川の景観を保全する」という目標を共有し、協力して工事が進められている点においても良い事例である。
全体発表においてコメンテータより
・河道掘削を低水路掘削とした考え方、岩盤を水制工として残す工夫がうまく計画されている。
・近年の災害復旧の現場でも岩掘削を伴うことが多い。本事例は岩盤掘削の一つの解決策として素晴らしい事例である。また、船形に掘削することで既設護岸根入れを保護していることも評価できる。
・直轄区間でも岩盤掘削をせざるを得ない区間も出てきているため、非常に参考になる事例である。
選出理由
本事例は、「水辺の小わざ」(山口県出版)を用いて、限られた事業期間で多自然川づくりを実践していることや、通常の河川改修にも展開できる内容点を評価した。また、「水辺の小わざ」の内容充実を図るため、新しいアイデアに取組んでいる姿勢や、発表者の「水辺の小わざ」を発信していこうという熱意が素晴らしい。
全体発表においてコメンテータより
・限られた事業期間の中、至るところで「水辺の小わざ」を用いて工夫されている素晴らしい事例だと思う。
・可能な限りの工夫を考えていく「水辺のこわざイズム」に感銘を受けた。
選出理由
本事例は、仮締切堤で締切られた区間で偶発的に発生した湿地に対して、物理的、生物的な特徴について詳しく考察されている点を評価した。様々な生物保全の可能性がある良い事例である。
全体発表においてコメンテータより
・河道内の湿地環境を、河川管理に取り入れる事を検討しており、生態系保全を考えていく上で良い事例である。今後は、湿地環境の創出にも取り組んでほしい。
・埋土種子は、発芽させて次の世代に繋いでいくことが大事である。今回の湿地発生は、埋土種子が要因であると推察されているので、今後は湿地の土を採取し、発芽を確認すると良い。
・河道内のどこかに湿地環境があることが大事である。今回の湿地環境は仮締切堤撤去で消滅するが、別区間で湿地環境を創出するなどして、湿地環境を維持できると良い。将来的には、河道内の湿地環境の総量を管理できるようになると良いと思う。
選出理由
本事例は、多自然川づくり普及のための教材として河川環境を定量的に評価した「いい川づくりチェックシート」を作成したことや、評価結果をインターネット上で公開ししている積極的な普及啓発に取組みを評価した。また、人材育成を目的として教材を利用した研修を実施している素晴らしい事例である。
全体発表においてコメンテータより
・「いい川づくりチェックシート」の評価を、インターネット上で全て公開していることは、他河川との比較もできることから非常に良いと思う。
・県職員と施工業者が、継続的に技術力の向上を進めたことで、機動性の高い協力体制が出来ており、素晴らしい事例だと思う。
・河川環境の定量的な評価に取組みは、他県の方も宮崎県の取組みを参考に取組まれると良いと思う。また、今後は宮崎県内で河川環境の良い事例をレファレンスとしてピックアップしていくと良いと思う。