歴史・風土に根ざした郷土の川懇談会 -日本文学に見る河川-
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歴史・風土に根ざした郷土の川懇談会 -日本文学に見る河川- 第三回議事録
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平 成13年7月6日(金)
14:00〜17:00 場所:中央合同庁舎三号館二階特別会議室 |
5.懇談(2) |
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○委員 | |
あなたは「きふね」と言っているけれども、「きぶね」とどっちですか。 この間、ちょっと地図を見たら「きぶね」と書いてあって、それから国史辞典を引いたら「きぶね」で出ていました。国史事典って山川から出た一冊になったもの。吉川弘文館の方は知らないけれども。 |
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○五味委員 | |
これはどんどん変わりますから。 |
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○委員 | |
まあそうか、「きぶね」の方が落ち着くような気がするね。 この貴船にも遊女はいたのですか。 |
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○五味委員 | |
ちょっと遊女がいたという記録自体はないのですけれどもね。 先ほど言いましたようにちょうど今宮とか若宮とか、そういうところと巫女の発達というのが似ているのですね。ですから、ちょうど今様、歌を神に捧げ、そうすると神からも戻ってくる。そのいわば媒介者の巫女がやる神楽が今様であったり、やがて白拍子が取り入れられたり。 ちょうど12世紀ぐらいになりますと、結局これは基本的には歌を中心としている。白拍子の方は舞が中心になるわけですね。女性の舞はある時期途絶えまして、それでいわば男舞が中心になって、そしてもう一つ童舞という童の素人舞ですね。そういうのが中心になった時期に今度は女性の舞を復活していく中でもって白拍子舞というものが成長してくるわけですね。そうすると、今度はその白拍子舞が成長すると、それに今様が食われていく。 |
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○委員 | |
川があればこうやって昔から交通が川の上に、川沿いに発達し、人が多くなれば必ず遊女の集落ができ、遊女がいれば必ずそこで歌や舞が発生し……。 |
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○五味委員 | |
いやいや、必ずというわけではないのです。やはり芸に秀でていないと、ということですよね。ですから、出張して、呼ばれて貴族の邸宅に行く。そうするとその貴族の邸宅に行くとそこにふさわしい歌を歌うわけです。 本来は中国の蓬莱思想から来ているものですから、ここではやりませんでしたけれども、今様には結構そういうふうな内容のものは多いのですね。 |
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○委員 | |
先ほどお話が出ました奈良の御祭の若宮さんが御旅所へ深夜着かれますね。その後、最初の夜はたしか巫女さんが踊りを奉納されて、そのときに楽士と、歌われる方と3人ぐらい伴奏がつくのですね。そのときに歌っておられるのが今様ですかね。 |
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○五味委員 | |
どうですかね。巫女さんもどんどん変えていきますからね、その時代、時代に。ですから、鎌倉末期になると今様というよりは白拍子とか何か、またくせ舞とか何かいろいろなものを取り入れていくので、果たして現在残っているものがそうかどうかというのは何ともいえませんけれども。若宮の御祭は一番古い形を保っているとこういうふうに言われておりますので。 |
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○委員 | |
「淀川」という名前は平安以降でしょう、川の名前に「淀川」というのは。「古事記」か「日本書紀」は「山城川」になっていますね。仁徳天皇の皇后の磐之姫が「山城川を宮上り」とか何か。 |
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○五味委員 | |
川の名前というのは、その川がどんどんどんどん使われていって地域に密着していけば、いろいろな名前がやはり出てくるのではないかと思うのですけれどもね。
今様がかなり貴族の邸宅の中に入り込んで広く歌われるのがちょうど院政期、ですから12世紀の初めぐらいですね。ですから、受領にかかわるような歌が多いのは大体そのぐらいまでなのです。それを過ぎますともう受領の地位は低下してしまいますので、その後にあらわれたのが後白河院で、これはもうある意味では今様が少し衰退し初めていたというふうな時期。自分の弟子がなかなかうまく生まれないからということもありまして、ですからそれを過ぎるころから、今度は白拍子舞みたいな、むしろ音芸よりも体の身体を使ったような芸能、それからもう一つは琵琶法師によるああいうふうなものも出てきまして、さまざまなものが出てきて……。 |
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○委員 | |
なるほどね。絶えず遊芸が広がり、変化しながら広がり、また上の方の文学、芸術に吸収され、それからまた下に及んできている。そして下のもともとの民衆の間の遊芸に影響を与える。 これは日本文化史の特徴だそうです。 フランスでもイギリスでもそういうものはちょっとない。上のものが下に行き、下からまた上に上がりという、絶えず交流があるというのはない。 日本文化は何か、下の庶民の文化と貴族の文化が絶えず行き来していて、それがまた都から地方への広がりとも関係し、ジャンルの多様化をも生み出しながら交流が続いていくという。 いやいや、どうもありがとうございました。 きょうは大学院の講義を2つ続けて聞いたような、はなはだ高級な研究会でありました。久しぶりのお勉強だったのではないでしょうかね。 |
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