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河川局

美しく、安全で、いきいきした海岸を目指して




1.海岸の変遷・現状と課題


(1)海岸の状況

 わが国は、四方を海で囲まれており、また入り組んだ複雑な地形を持つことから、非常に長い海岸線を有し、その総延長は約35,000kmに及ぶ。このうち、約13,000kmが砂浜・礫浜・泥浜、約10,000kmが岩礁・崖といった自然的な海岸であり、残りの約12,000kmが構造物のある人工的な海岸である。また、海岸部には、約51,000haの干潟と約200,000haの藻場、約87,000haのサンゴ礁が存在し、豊かな自然環境を形成している。

 現在、海岸法の海岸保全区域の指定がなされ管理が行われている区域は、海岸の総延長約35,000kmのうち、防災上の対策が特に必要な区域約14,000kmに限られており、その他の区域については、港湾・漁港施設、道路護岸等の施設用地等を除き、国有海浜地として財産管理が行われているにすぎない。

(2)海岸と人々のかかわり

 古来、海岸は漁業などの場として利用されるのみならず、宗教的信仰とも密接な係わりを持ってきた。また、海を通じた人・物・文化の交流・交易活動の発着点や交通の要衝としての役割を果たし、中世から近世にかけては、水田や塩田等の生産の場としての役割も果たしていた。

 近世以降は、人口、資産、社会資本等が沿岸部に集中し始めるとともに、国土の安全を確保する防災空間としての役割のほか、工業化による社会経済の発展とともに拡大する都市機能の受け皿として、埋立等によって新たな国土空間に生まれ変わり、生産や輸送のための空間として活用されてきた。

 近年は、従来の成長社会から成熟社会への転換のなかで、人々のニーズも社会のあらゆる分野で高度化・多様化しており、精神的なゆとりや自由時間の確保、その過ごし方に人々の関心が高まっている。海岸の利用も、それにつれてレジャーやスポーツの場、健康増進のためのタラソテラピー(海洋療法)や憩いの場として変化してきている。また、自然環境を保全しつつさまざまな動植物とふれあう場としての利用への変化も見られる。

(3)減少する自然海浜

 海岸には、山地等からの土砂の供給によって形成された広大な砂浜が全国に広がっていた。しかし、近代になり国土狭隘な我が国においては、戦後の工業化の過程における埋立て等の各種臨海開発によって干潟や砂浜の減少が生じた。また、陸域における治山・治水事業の進捗や水資源開発等のためのダム建設が進められたことや、崖海岸の侵食防止によって供給土砂が減少し、これに加えて、沿岸域における港湾・漁港等の各種構造物の設置により沿岸方向の土砂の流れが遮断されることや砂利採取等により、土砂の供給と流出のバランスが崩壊して砂浜の減少が生じてきた。

 これら干潟や砂浜の減少は、そこを生活の場とする動植物の生息・生育環境並びに水質浄化機能や生物生産力等さまざまな生態的機能の低下をもたらすとともに、レジャーや憩いの場としての利用空間の減少をきたし、白砂青松の喪失や海岸線の人工化など海岸の景観を大きく変化させてきた。

(4)海岸事業の変遷

 海岸の整備は、古くから新田開発や塩田の整備などに伴う堤防の設置や飛砂防止のための植林などが行われてきたが、防災のための工事としては、一部地域で地先に発達した干潟を対象に干拓が繰り返されたことを除けば、専ら被災した施設の復旧が中心であった。

 戦後、台風による高潮等の被害が相次いだ。このような災害を未然に防ぎ人の生命や財産を守るために計画的な海岸整備の必要性が認識され、昭和28(1953)年の台風13号による高潮被害等を契機として、昭和31(1956)年に海岸法が制定された。整備にあたっては、速やかに背後地の安全性を確保するため、海岸線に直立堤防・護岸や消波工・消波堤を設置するいわゆる「線的防護」と呼ばれる方式を中心に進められてきた。

 その後、全国的に顕在化してきた海岸侵食に対応するため沖合で波を低減させる離岸堤の設置や、親水性を高めるため堤防の緩傾斜化が昭和40年代後半頃から行われるようになってきた。また、昭和50年代には、人々の快適な海浜利用に配慮した養浜によるビーチ、遊歩道、トイレ等の利便施設が整備されるようになってきた。さらに、水質が悪化した海域で水質の向上のための浄化対策も行われるようになった。

 近年では、各地で海浜を活かした地域づくりや海洋性レクリエーションが盛んになっており、離岸堤に代わって、海面下に設置して波を低減する人工リーフや砂浜の広域的安定を目的としたヘッドランド(人工岬)を設置したり、堤防をより緩傾斜にすること等景観や利用の面での工夫も進められるようになってきた。さらに、養浜による砂浜の復元・創造もおこなわれている。このような工法を組み合わせる「面的防護方式」と呼ばれる整備手法により、侵食被害の防止や多面的な海岸利用の基礎となる砂浜を確保する事業が各地で行われている。

(5)海岸の現状と問題点

 1) 海岸の防災

     海岸保全施設の整備は、昭和45年からはじまった海岸事業五箇年計画により、計画にしたがって着実に進められてきているが、未着手の区間や、何らかの施設があっても整備水準が不十分なものがまだ多くみられ、平成7年度末現在の整備率は約41%であって、高潮、波浪等の被害は依然として多い。

     わが国は「地震大国」といわれ、まだ記憶に新しい平成5(1993)年の北海道南西沖地震、平成6(1994)年の三陸はるか沖地震、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災等大規模な地震がたびたび発生しており、海岸保全施設の被害も大きい。特に北海道南西沖地震津波は、海岸保全施設の計画で想定していた規模をはるかに越えて、大きな人的被害をもたらし、津波災害の脅威を再認識させた。

     また、海岸部全体にわたる海岸侵食の進行により、高潮・津波や波浪に対する施設の機能が低下するとともに施設の老朽化も進んでいる。

     一方、国土の外縁は海岸線である。なかでも、岬や離島は、領海及び排他的経済水域の基線を形成することから、侵食や波食、あるいは海面水位の上昇などにより、後退・消滅する場合には貴重な国土、領海および排他的経済水域が縮小することになる。

 2) 砂浜の保全

     全国に約19,000haある砂浜は、波浪を減衰させ、陸域への波の進入を防ぐという防災上の役割を持っている。また、砂浜は、各種の動植物の生息・生育や人々の利用の場としても重要な役割をはたしている。

     しかし、最近15年間で砂浜の約13%に当たる約2,400haが堆積と侵食の過程の中で正味で失われるなど、侵食被害は深刻なものになっている。また、従来、比較的安定していて防災対策の必要がなかった海岸においても、徐々に侵食が進行している事例がみられる。侵食が進むと長い年月の間に培われた松林等の生育環境を奪うとともに、陸地への塩分飛来、越波量・浸水被害の増加等さまざまな影響が広がるほか、堤防等の海岸保全施設の基礎を洗掘してしまうため災害時に被災の危険性が高まるなど、施設の機能低下の要因ともなっている。

     一般的に海浜の形状は、その構成材料である砂礫の特性と、波の強さや方向などの外力の特性によるバランスの上に成り立っている。

     こうしたことから、砂浜の侵食は、異常な海象による場合に加えて、土砂供給の減少、土砂移動の変化等さまざまな要因で漂砂(海岸あるいは海底の砂が、波や流れの作用によって移動すること)のバランスが崩れることによって発生する。中には、沿岸に設置された構造物によって漂砂の沿岸方向のバランスが失われ、土砂の極端な堆積と侵食が生ずることもある。

     海岸の侵食が生じている場合、一般に陸上部のみならず海域部においても相当量の土砂損失が生じており、一度、広域的な海岸侵食が発生するとその回復はきわめて難しい。

 3) 海岸の利用

     海岸は、さまざまなマリンスポーツやレクリエーション等に利用されており、海水浴場の利用客数は、年間約6,000万人、箇所数は840箇所を数える。また、平成10年度のトライアスロンの大会は100をこえる。こうした海浜利用の拡大にともなって、サーフィンやジェットスキー等と海水浴客の事故等利用者同士の摩擦、漁業者・沿岸住民とレジャー利用者とのトラブルや事故が至るところでおきている。利用者が増加することにより、利用のための利便施設の不足が生じ、既存のものについても質の向上が求められている。

     一方、海岸は祭りや行事の場として地域社会や文化を形成する場所でもある。しかし、高い堤防や波返し、消波ブロック等によって、人々が容易に水際線に近づくことを妨げ、自由な利用の障害になっている例もみられる。

     また、海岸の利用者の増加によって発生するゴミや、海岸における放置船等、さらには洪水時の流域からのゴミや流木、海外から漂流してくるゴミなどにより快適な海岸の利用等に悪影響が生じていることが、問題になっている。

     海岸に漂着あるいは河川から流入する油その他の汚染物質が快適な海岸利用等に影響している場合もある。

 4) 海岸の自然環境

     海は生命の源であり、生物の生体元素が海水と同様の成分で構成されていることから明らかなように、生命は40億年前、海の中で生まれ進化を続けてやがて陸に進出した。その海と陸との間にあって物理的にも生息環境の面からも遷移帯(両者の特徴が移り変わっていく空間)である海岸は、地球上に占める面積は小さいが、海洋生物種の多数が生息しているため、地球における生命活動にとって非常に重要な空間である。また、海岸の地形、気象条件は多様であり、そのため海岸は、魚介類をはじめとして、微生物、底生生物、プランクトン、鳥、海藻、海浜植物、海岸林等多様な動植物の宝庫である。アカウミガメは日本の太平洋側で広く生息・産卵が確認されているが、北太平洋を回遊するアカウミガメのほとんどが日本で生まれたものであるというデータもある。また、シチメンソウ、マングローブ等、海岸には塩生湿地に生える固有で多彩な海浜植物が多数生育している。

     しかし、海浜の侵食の進行によってウミガメの産卵に適した砂浜や海浜植物等の生育環境が失われており、その保全が求められている。

     生物の重要な生息域である藻場、砕波帯、干潟、塩性湿地は、水質の汚濁や人為的行為による影響を最も敏感に受けやすい地域である。最近、車両やバイクの海浜への乗り入れによって、孵ったばかりのウミガメが轍により海にたどり着けなくなったり、海浜植物の自生地が踏み荒され生育環境が失われる等自然環境への影響も重大な問題になってきている。

     鳴き砂は、昔から日本の各地の砂浜でみられる自然現象として親しまれており、きれいな砂がそのまま保たれていることが条件であるが、汚染によって鳴らなくなったものもあり、多くの人を寂しがらせている。

     また、松林等は景観形成とともに防風・飛砂抑制・魚付・津波時の災害軽減等の機能を有しているので、海岸侵食や松食い虫の被害からこれを保全することも求められている。

     海岸は、日常の生活空間とは性質を異にした空間であり、特に白砂青松の砂浜や様々な形の岩礁を有する景観は、古来より風景画や詩歌の主題に用いられたり、景勝の地として多くの観光客にも親しまれてきた。しかし、このような美しい海岸風景は急速に失われつつある。




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