全国的に見て山地・山麓部は、かつて木竹の伐採や山火事の影響等で禿げ山が広く分布していたが、現在ではその多くが樹木で被覆されている。森林は根系の及ばない地層深部までの崩壊防止機能を有するものではないが、降雨時に表面流の発生を抑制し、表面侵食を防止する機能を有している。この点において、森林は過去と比べ良好な状態になってきており、表面侵食防止の効果が向上していると言えるが、今後は放置林の増加による土砂流出への影響を把握していく必要がある。
中山間地域では、今もなお地すべりや土石流等が多発し、多量の土砂流出と堆積が人命や生活基盤に直接的な影響を及ぼしている。また、扇状地、谷底平野の渓流、河道においても、上流からの流出土砂の堆積、渓岸侵食、乱流等は周辺集落へ影響を及ぼし、さらに下流河道への土砂流出は、河床の上昇をもたらして水位を上昇させて洪水、氾濫等の災害を発生させている。
(2)ダム堆砂と下流河川への影響
平成8年1月現在における全国のダムの堆砂量は総貯水容量に対する率で6.9%,ダムの貯水池容量計画上確保している計画堆砂量に対しては48.3%である。ダムへの土砂流入量は地形・地質・気象条件によって異なるが、特に中部地方のダムで堆砂率が高くなっている。中でも天竜川水系美和ダムなどで堆砂が進んでいる。
通常、ダムにおいては、治水容量、利水容量に支障が生じないよう貯水池計画上、計画堆砂量が設定されているところであるが、計画以上のスピードで堆砂が著しく進行している場合には、洪水調節容量の減少によるダムの洪水調節機能への影響、貯水池上流の河床の上昇による洪水危険性の増大、利水容量の減少による必要水量確保への影響、取水施設の機能低下といった様々な障害が生じてくる。
また、ダム建設によって土砂の移動が遮断され、ダム貯水池内への異常堆砂、ダム下流への土砂供給量の減少が生じると、ダム貯水池末端における堆砂の進行による景観の悪化、土砂流入による濁水の長期化及び濁水の放流による下流の生物への影響、下流河川高水敷への冠水頻度の減少及びそれに伴う高水敷の樹林化や大粒径河床材料によるアーマーコート化等といった河川環境への障害をもたらしている。
(3)河道における土砂の堆積及び河床低下・局所洗掘による被害
土砂流出の著しい扇状地河川では、河床は堆積傾向にある。また、大規模な土砂流出や支川からの土砂流入により、河床の上昇・河道埋塞が起こると洪水の危険性が高くなる。
一方、砂利採取等により河床が著しく低下すると、河川の構造物が相対的に浮き上がる状態になり、構造物の安全性が低下し、補強・改築を検討する必要が生じてくる。また、その影響は本支川合流点の支川側の安全性にも影響を及ぼすことがある。
そして、これらの河床の変動に対し、特に古い河川管理施設等の構造物が、大きな影響を受けており、安全性確保のために対策を講じる必要が生じている。また河道においては、土砂供給の減少等により澪筋の固定化、樹林化及び大粒径河床材料からなるアーマーコート化等が発生している。
(4)海岸侵食による被害
海岸侵食は全国的に顕在化してきており、最近の15年間では年平均160haの侵食量がある。それ以前の70年間では年平均72haの侵食があったことと比較すると侵食の速度が以前より急速に増してきている。
河川の上流でのダム等の構造物の設置や河道における砂利採取等により、河川から海岸への土砂供給が減少している。また、海岸構造物の設置による沿岸方向の漂砂の遮断及び海岸崖などからの土砂供給の減少等種々の要因が組み合わさって海岸侵食を助長させることとなっている。
海岸侵食の進行は、貴重な国土そのものの減少を招き、公共施設や家屋が移転を余儀なくされるなどの被害も出ている。さらに、海岸侵食は、高潮、波浪等の自然災害に対して砂浜が持つ防災効果を直接低下させるだけでなく、海岸保全施設の防災効果も大きく低下してきている。
一方、海岸侵食に伴い沿岸域に棲む海洋生物の採餌となる稚仔魚の繁殖やウミガメの産卵のために必要な砂浜、海岸植生が減少し、自然環境や海岸景観への影響がでている。