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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


1.土砂管理の現状と課題


1.1 土砂移動による災害と環境への影響

 大洪水や中小洪水に伴う侵食や堆積あるいは波浪、漂砂による土砂移動によって災害が発生する。また、生態系、景観等の河川・海岸環境は、瀬・淵等の微地形や構成材料にも大きく依存している。河川の微地形や河床材料は、大洪水に伴う大規模な土砂移動による影響を受けるだけでなく、中小洪水に伴う土砂移動によっても変化する。すなわち河川環境は、平常時の土砂移動によっても影響を受けている。同様に海岸においても平常時の土砂移動によって海岸地形及び環境も影響を受けている。

 個々の領域で土砂移動によって生じている災害及び環境に与えている影響の現状を上流から下流方向に順次まとめると以下のようである。

(1)
山地・山麓部、扇状地における土砂災害

 全国的に見て山地・山麓部は、かつて木竹の伐採や山火事の影響等で禿げ山が広く分布していたが、現在ではその多くが樹木で被覆されている。森林は根系の及ばない地層深部までの崩壊防止機能を有するものではないが、降雨時に表面流の発生を抑制し、表面侵食を防止する機能を有している。この点において、森林は過去と比べ良好な状態になってきており、表面侵食防止の効果が向上していると言えるが、今後は放置林の増加による土砂流出への影響を把握していく必要がある。

 中山間地域では、今もなお地すべりや土石流等が多発し、多量の土砂流出と堆積が人命や生活基盤に直接的な影響を及ぼしている。また、扇状地、谷底平野の渓流、河道においても、上流からの流出土砂の堆積、渓岸侵食、乱流等は周辺集落へ影響を及ぼし、さらに下流河道への土砂流出は、河床の上昇をもたらして水位を上昇させて洪水、氾濫等の災害を発生させている。

(2)
ダム堆砂と下流河川への影響

 平成8年1月現在における全国のダムの堆砂量は総貯水容量に対する率で6.9%,ダムの貯水池容量計画上確保している計画堆砂量に対しては48.3%である。ダムへの土砂流入量は地形・地質・気象条件によって異なるが、特に中部地方のダムで堆砂率が高くなっている。中でも天竜川水系美和ダムなどで堆砂が進んでいる。

 通常、ダムにおいては、治水容量、利水容量に支障が生じないよう貯水池計画上、計画堆砂量が設定されているところであるが、計画以上のスピードで堆砂が著しく進行している場合には、洪水調節容量の減少によるダムの洪水調節機能への影響、貯水池上流の河床の上昇による洪水危険性の増大、利水容量の減少による必要水量確保への影響、取水施設の機能低下といった様々な障害が生じてくる。

 また、ダム建設によって土砂の移動が遮断され、ダム貯水池内への異常堆砂、ダム下流への土砂供給量の減少が生じると、ダム貯水池末端における堆砂の進行による景観の悪化、土砂流入による濁水の長期化及び濁水の放流による下流の生物への影響、下流河川高水敷への冠水頻度の減少及びそれに伴う高水敷の樹林化や大粒径河床材料によるアーマーコート化等といった河川環境への障害をもたらしている。

(3)
河道における土砂の堆積及び河床低下・局所洗掘による被害

 土砂流出の著しい扇状地河川では、河床は堆積傾向にある。また、大規模な土砂流出や支川からの土砂流入により、河床の上昇・河道埋塞が起こると洪水の危険性が高くなる。

 一方、砂利採取等により河床が著しく低下すると、河川の構造物が相対的に浮き上がる状態になり、構造物の安全性が低下し、補強・改築を検討する必要が生じてくる。また、その影響は本支川合流点の支川側の安全性にも影響を及ぼすことがある。

 そして、これらの河床の変動に対し、特に古い河川管理施設等の構造物が、大きな影響を受けており、安全性確保のために対策を講じる必要が生じている。また河道においては、土砂供給の減少等により澪筋の固定化、樹林化及び大粒径河床材料からなるアーマーコート化等が発生している。

(4)
海岸侵食による被害

 海岸侵食は全国的に顕在化してきており、最近の15年間では年平均160haの侵食量がある。それ以前の70年間では年平均72haの侵食があったことと比較すると侵食の速度が以前より急速に増してきている。

 河川の上流でのダム等の構造物の設置や河道における砂利採取等により、河川から海岸への土砂供給が減少している。また、海岸構造物の設置による沿岸方向の漂砂の遮断及び海岸崖などからの土砂供給の減少等種々の要因が組み合わさって海岸侵食を助長させることとなっている。

 海岸侵食の進行は、貴重な国土そのものの減少を招き、公共施設や家屋が移転を余儀なくされるなどの被害も出ている。さらに、海岸侵食は、高潮、波浪等の自然災害に対して砂浜が持つ防災効果を直接低下させるだけでなく、海岸保全施設の防災効果も大きく低下してきている。

 一方、海岸侵食に伴い沿岸域に棲む海洋生物の採餌となる稚仔魚の繁殖やウミガメの産卵のために必要な砂浜、海岸植生が減少し、自然環境や海岸景観への影響がでている。


1.2 土砂移動による災害・環境変化に対する取り組みの現状

(1)
山地・山麓部、扇状地

 山地部での災害に対する取り組みは山腹斜面、渓流、扇状地に分けられる。山腹斜面については崩壊地からの土砂流出を防止・軽減するため、山腹工を施工している。また、渓流・扇状地では、下流に害を及ぼす土砂の捕捉を目的とした砂防ダム、遊砂地等を施工している。そして近年、中小洪水時には土砂を下流へ流し、大洪水時には有害な土砂を調節するスーパー暗渠砂防ダム等のオープンタイプ砂防ダムの整備を促進しており、これらは平常時の自然の状態での土砂流出を促している。

 さらに、森林の土砂崩壊・流出防備等の機能を重視する観点から、治山事業と砂防事業の連携を強化する施策を推進している。

(2)
ダム

 ダム貯水池への土砂の流入による様々な障害を抑制、除去するため、ダム貯水池の上流における砂防ダムの建設等の砂防事業、治山事業、貯水池周辺の植栽等のグリーンベルト事業、樹林帯の整備、貯砂ダムの設置、排砂バイパストンネルの設置等により貯水池へ流入する土砂量を軽減する対策、貯水池内や貯砂ダムからの堆積土砂の掘削、浚渫による人為的除去による対策、排砂管、排砂門によって行われるダム貯水池からの積極的排砂の対策がとられている。濁水の長期化に対しても、選択取水による濁水排出の防除や排砂バイパスの設置などの努力がなされている。しかしながら、排砂門、排砂バイパス等による積極的な排砂や土砂供給の試みは、最近ようやく緒についたばかりであり、また、地形・地質・河川流況・ダム貯水池容量等の条件によってもその方法がとれない場合もあり、ダム貯水池の土砂を下流に流す抜本的施策が確立しているものではない。

(3)
河道

 河床低下の進行した河川では、堤防の保護あるいは護岸の安定性を確保するために河川環境に配慮しつつ根固工を実施している。また、河床低下の著しい河川においては、これを防止するために床固工を設置している。そして、砂利採取法に基づいて砂利採取を規制することで災害を防止するよう努めている。

 一方、堆積傾向にある河川では、河床の浚渫等により洪水の疎通能力の確保に努めている。

 また、土砂で埋没した淵を、水制工で河川の流れる方向を変化させることにより再生したり、土砂堆積により滞留し悪化した河川の水質を、堆積土砂の掘削を行うことにより改善を図るなどの取り組みを行い、良好な河川環境の保全に努めている。さらに、上流の堆積土砂を下流の河道内に投入することにより、河川環境を回復させる試みを試験的に行っている。

(4)
海岸

 頻発する高潮や津波による災害から国土を守るため、従来は高潮対策としての直立堤と消波工による線的防護方式により対処してきた。昭和30年代に入り、全国的に現れてきた海岸侵食に対して、汀線維持等のための消波堤・突堤等とにより対策を実施してきたが、海岸侵食はとどまらず、これに対処するため昭和40年代に入り、浅海域で消波させ砂浜を保全・創出する離岸堤工法が採用され、さらに海面下で消波させる人工リーフ、養浜、緩傾斜護岸等を組み合わせた面的防護方式で対処してきている状況にある。さらに、近年では長大な砂浜海岸において行われているヘッドランドによる砂浜の安定化や養浜による砂浜の創出などが行われてきている。また侵食・堆積のバランスのとれていない沿岸部では、砂を人工的に移動させる施策なども実施されている。

 このように、個別的に海岸侵食対策を実施してきてはいるが、特に海岸部へ供給される土砂量が減少してきている流砂系では根本的な対策とはなっていない。


1.3 土砂管理上の課題

(1)
上・下流一体となった取り組み

 現在、土砂移動現象に付随して生じる障害を排除するための対策は、砂防、ダム、河川、海岸の各領域で個別に対応しそれぞれに効果を発揮している。しかし土砂移動現象が、不連続的・長期的で、その影響が即座に広い範囲にわたって現れないという特性を持っている上に、領域の関係者間の意志疎通が必ずしも十分図られていないため、現在の領域ごとの対応では限界があり、土砂が移動する場全体(流砂系)を考えた対策が必要な場合が存在する。そのため、今後は上下流一体となった取り組みが必要である。

(2)
土砂移動に関するデータ及び予知・予測等

 一般的にいって、土砂は山腹斜面から渓流に入り、河道を移動して海に入る。しかし、豪雨時に山地流域で崩壊によって渓流に流入した土砂は、一度に海まで移動しないものもあり、その後の降雨による出水によって粒径や勾配に応じて堆積、再移動を繰り返すというように不連続的に移動する。このような流域全体の土砂移動を把握するためには、平常時及び大規模な出水時に上流区域を含めた流域全体を調査する必要がある。流域内のある区域においてデータは観測されているが、流域全体にわたる一貫したデータは極めて少ない。また、それらは時間的、空間的にも連続していないものとなっている。

 土砂の生産・流出は、降雨量と比例関係ではなく、降雨が流水となって川を流れる現象(連続的)とは異なり、不連続的な移動をする。土砂移動の結果である河床変動は、シミュレーション計算によってある程度再現できるレベルであるが、シミュレーション計算による予測結果は、土砂生産量の把握が十分でない上に土砂の不連続的な移動のために侵食や堆積といった傾向を示すに留まるため、現状では流域全体の量的及び質(粒径)的な予知・予測を完全に行うことは困難である。

(3)
土砂移動と環境との関連の把握

 大洪水時における大量の土砂流出、大規模地すべり、中小洪水による堆積や流下あるいは平常時の細砂の移動と河川・海岸環境との関連について十分把握されていない。また、ダム等の人工構造物の設置に伴う土砂移動の変化が、河川・海岸環境へ与える影響も同様に十分把握されていない。

(4)
資源としての有効利用

 水や土砂は存在そのものが自然の資源であるとともに国土や地域の風土を形成する重要な要素である。したがって、国土マネジメントの一環として有効利用を図る観点から土砂管理のあり方を検討すべきである。





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