IV. |
環境の観点から指定される一級水系の河川管理における国の役割について |
河川環境の整備と保全を強力かつ的確に進めるためには、国、県、市町村、市民、 NPO等がそれぞれ適した役割分担と連携をして進める必要がある。
水系全般にわたる一連の水質、水量、自然環境等の河川環境の状況から、当該河川環境が国民共有の財産として、我が国を代表するに足りる傑出した価値を有しているため、これらを保全する必要性がある水系においては、特に、以下のような視点に立って国の役割を考えるべきである。
(1) |
我が国においては、相当自然豊かな地域でも、何らかの人間社会の関わりが存在している場合が多く、その中で自然環境を保全していくことがかなり大変な場合がある。対象とする環境が全国民的財産としての価値がある場合には、その保全に付随する様々な負担を当該地域のみに強いるのではなく、国が率先して河川環境保全等のための推進策の実施や適切な負担を検討すべきである。 |
(2) |
都市域等の河川空間などに見受けられるように、沿川地域の利用要望を抑制してでも広域的観点から豊かな河川環境の保全を図る河川管理を行う必要がある場合があり、その際の国の役割を検討すべきである。 |
(3) |
優れた河川環境の保全を強力に進めていくためには、調査研究やノウハウとデータの整備等が必要であり、国においても、木曽川の土木研究所自然共生研究センターでの調査研究、河川水辺の国勢調査等のデータの整備、多自然型川づくりの実践等を引き続き行うとともに、それらの蓄積を活かした先駆的河川環境保全を率先して行うのが効果的である。 |
1. |
貴重な自然、特徴ある文化又は優れた景観であり、国際的な価値や我が国としての代表性の視点から重要な河川環境を有する水系 |
国際的あるいは国家的観点から評価が高く保全が強く求められる自然豊かな水系は、国民共有の貴重な財産であり、その水系を適正に保全していくことは国家的課題である。また、個別水系にとどまらず、密接に関係する複数の流域群全体を一体のものとして保全していくことも必要である。
しかし我が国では、このような自然豊かな水系であっても、流域内の限られた平地部に人家が連坦するなど人の生活と密接に関係しており、ひとたび豪雨があれば大きな被害を発生してきている。このため、自然環境の保全と人命・財産を守るための治水対策をどのようにバランスさせていくかが重要な課題となっている。
そのような河川の整備においては、治水対策のため河積を拡大する場合でも、川本来の特性を残していくため、河川工学のみならず生物学、生態学、社会学、景観面の研究等とも連携した総合的な対応が必要とされる。さらに、日常的な管理に当たっても、流水管理だけでなく植生管理や動物の生息状況の監視、土砂流出のコントロールなど総合的な視点からの河川管理が求められる。
このような質の高い河川の整備・管理を全ての水系で直ちに実現するのは困難であるため、水系の特性等を考慮して特別に実施すべき水系を定め、次のような施策を国が率先して進めていく必要がある。
(1) |
既設護岸の全面的再自然化や瀬・淵等多様な河川形状の復元等の環境優先型整備の本格的実施 |
(2) |
瀬・淵や河原等本来の川らしい河川環境の維持及び復元のための水量のコントロールと土砂管理 |
(3) |
川の連続性の支障となっている既に不要の固定堰・落差工等横断工作物の撤去、改築 |
(4) |
ほとんど人の手が入っていない原生河川等傑出した自然を有する河川の積極的保全とそれを実現するための立ち入り規制等の強化 |
(5) |
ビオトープ型遊水地などによる流域の保水・遊水能力の拡大や被災家屋の移転など氾濫を前提とした治水対策を採用することによる自然環境の復元 |
2. |
広範な都市域における貴重な自然環境等として河川固有の状態が維持されおり、広域的な観点から重要な河川環境を有する水系 |
流域の都市化の著しい水系では、河川自体が沿川のみならず広域にわたる地域の住民の貴重な財産であり、その水系を適正に保全していくことは重要な課題である。都市内河川については、これまで、自然環境の観点よりも貴重なオープンスペースとしての期待が強く、従来、そのような要望に基づき高水敷を整備して利用を進めてきたが、河川は都市内において貴重な自然環境の残された重要な空間でもあり、治水対策を考慮しつつ、バランスよく整備・管理していく必要がある。
このようなバランスのよい河川管理をすべての水系で直ちに実現するのは困難であるため、水系の特性等を考慮して特別に実施すべき水系を定め、国が率先して次のような施策を進めていく必要がある。
(1) |
利用と保全の適切なゾーニングを行うことにより、過度に進んだ利用の制限及び排除 |
(2) |
利用が排除された高水敷における植生の復元やわんど・湿地の造成等の自然復元及び低水護岸の撤去、改築 |
(3) |
適正な利用を実現するため、もっぱら利用を目的とするゾーンの集約化のための高水敷整備 |
(4) |
貴重な動植物の生息・生育の場の積極的保全と必要な再自然化等の整備並びにその区域への立ち入り規制等の強化 |
以上のような施策をより効果的に進めていくためには、
(1) |
河川環境を総合的に保全していく制度やシステムの整備 |
(2) |
地域の河川利用への要望と自然環境の保全への要請をバランスさせて整備・管理して行いく制度やシステムの整備 |
(3) |
河川工学と生物学、生態学が連携して進めている河川生態学術研究や木曽川の土木研究所自然共生研究センターにおける実験的研究、社会学、景観面の研究等との連携等他分野と連携した調査研究の一層の推進 |
が急務であり、これらを整えつつ、必要な水系の指定を進めていく必要がある。
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