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河川局

審議会等の情報
河川審議会について


2.我が国の水利使用の変遷

(1) 現行水利秩序の形成と水利使用の増加

  1) 旧河川法の制定

     我が国の水利秩序は、長い時間をかけて江戸時代までに農業を中心に形成されてきた。しかし、明治時代以降の経済発展と都市化の進展による発電用水、都市用水需要の増大、人口増加等を背景とした食糧増産に対応するための農業用水需要の増大といった要請を受けて、多くの新規利水を行う必要が生じた。こうした新規利水を水争いを起こさずに円滑に水利秩序に組み込んでいくためには、旧来の農業水利権の保護と新規利水の円滑な権利設定の仕組みを設けておくことが必要と考えられ、明治29年に旧河川法により水利使用を許可制とする制度が創設された。

     水利使用許可制度の基本的な枠組みは、先行する水利使用を保護しつつ、これを侵さないように河川の自流又は水資源開発によって新規の利水を行うというもので、この枠組みは現在に至っている。先行する水利使用に優先権を認めるという考え方は、慣行水利秩序の形成の歴史と軌を一にする。これは、旧河川法による水利使用許可制度創設後も、ここ20〜30年の間に社会経済情勢が大きく変化するまでは、水需要は増加することはあっても減少することはほとんどなかったことから、ごく自然な考え方として受け入れられてきた。

  2) 利水関係事業法の制定

     その後、土地改良法(昭和24年)、電源開発促進法(昭和27年)、水道法(昭和32年)、工業用水道法(昭和33年)、電気事業法(昭和39年)などの利水事業関係法が制定された。これにより、戦後の目覚しい経済復興と人口増加、都市への人口・産業の集中に対応した水資源開発による都市用水、農業用水等の新規利水が大幅に増加していった。

     その中で、水利権の転用、譲渡に係る制度的な対応は、今後の課題の一つとして残されていた。

  3) 新河川法の制定

     新河川法(昭和39年)では、水利調整のさらなる円滑化を目指して、水利使用許可制度の大きな改正がなされた。

     具体的には、利水者間で調整が図れない場合にも河川審議会の意見を聴くことにより、公益性を判断し、新規利水を求める者と既存利水者の権利調整を行う規定が設けられた。

     さらに、渇水被害の深刻化を受けて渇水調整に関する規定が整備された。すなわち、渇水時には利水者間で互譲の精神に基づく渇水調整を行うこととし、利水者間で調整がつかない場合には、原則として利水者の要請を受けて河川管理者があっせん又は調停を行うこととされた。


(2) 水利使用をめぐる社会経済情勢の変化

 かつての右肩上がりの経済成長の下では、水利使用も大幅に増加してきたが、近時の状況は以下のように大きく変化してきている。

  1) 農業用水

     農業用水については、畑地かんがいの増加が見られるものの、耕地面積の大幅な減少や減反政策を踏まえて、慣行水利権を含めた既存の水利使用を見直すべきとの強い世論が出されている。

     一方、農業側からは、慣行水利を許可水利に切り替えた場合、期別の取水量等が明記されると、営農形態の変化に伴う取水の前倒し、後ろ倒しや、水路維持用水等の需要に対応することができないとの不満が出されている。

     慣行水利権者が許可水利への切り替えに難色を示したり、不満を持ったりするのには、こうした水利使用の自由度がなくなることへの不満もその一因と思われる。

     しかし、他方で耕作放棄地の発生等により耕地面積がかつてに比べて大幅に減少していることもまた事実である。

  2) 都市用水

     工業用水や水道用水といった都市用水の中には、経済発展や人口増加の鈍化により計画需要と実需要が乖離し、計画通りの需要が当面は発生しないところも出てきている。

     また、水道水源の水質の悪化により、水道水の異臭味や有害化学物質等の問題に加え、クリプトスポリジウム、環境ホルモン等の新たな問題が発生しており、量の確保から水質の安定に向けた要望が増大している。

  3) 水利使用の多様化

     農業用水や都市用水のような水消費型、発電のような位置エネルギー利用型の水利使用に加え、新たなタイプが見られるようになっている。

     例えば、積雪地域では雪の処理に河川水を利用するケースが増えているが、流雪用水は水の運動エネルギーを利用しており、消雪用水や融雪用水は水の熱エネルギーを利用している。

     また、ヒートポンプを用いた河川水を熱源とする地域冷暖房も整備されつつある。

     これらは、より快適で便利な生活という国民のニーズの高度化に対応したものであり、今後ますます増大していくと考えられる。

  4) 河川環境

     我が国の河川は、ほとんど農業用水中心に利用されており、その中には、渇水時に河川水のほとんどが利用し尽くされているところもある。

     また、水力発電は、戦前・戦後の経済成長期に我が国のエネルギー政策上重要な位置を占め、電源開発が推進された。現在ではCO2等地球環境への配慮から、火力発電と比べて「クリーンエネルギー」であることが再認識されている。しかし、その一方では、河川の維持流量がほとんどなくなる減水区間が問題ともなっている。

     そこで、河川維持流量確保のためのガイドラインに基づき、既設の発電所からの放流も順次行われるようになってきている。

     近時、環境問題に対する地域の意識が高まる中で、水力発電等の先行する水利使用により取水地点下流の河川維持流量が確保されていない場合はもとより、河川管理者が水資源開発によりその確保に努めてきた場合についても、地域が増量等を要望し、水利使用許可の更新時期に河川管理者にその対応を求めるという状況も発生している。

     このように、先行する水利使用と河川環境との調和が重要視されるようになってきている。

  5) 地域の水環境

     環境に関するもうひとつの大きな変化は、地域の水環境に対する国民の意識の高まりである。

     具体的には、都市・農村地域における水環境改善のため、主として冬期間の水路網への導水要望が強まっている。その背景としては、かつて農業用水路網がその地域の中で担っていた多くの機能が、生活様式の変化等によって次第に失われ、かんがい単一の機能を担うものに変化してきていることや、河川管理者も水利使用許可に当ってその目的を特定してきたこと、都市の排水が流入し、水質が悪化したことなどが挙げられる。

     また、阪神・淡路大震災の際の経験から、災害時の河川表流水の存在と利用の重要性も再認識されている。


(3) 水資源開発の進展

 水需要の増加に対応して水資源開発が推進され、河川水の利用が進んだ水系では、新たな水資源開発が困難になっているところも見られる。その一方で、平成6年のような異常渇水への対応が困難であったり、地下水からの水源転換等による需要が発生するなど、依然として水需給が逼迫しているにもかかわらず、水資源開発が困難な水系がある。

 こうした水系では、ダムなどの個別の水資源開発施設毎に対応する発想を転換することが必要になっている。すなわち、従来の手法に加えて、広域導水や、ダム相互間の調整システムを設けることなど、新たな水資源開発手法を積極的に導入することにより、限りある水資源を維持保全しつつ、一層有効に活用していくとともに、未利用水利権の譲渡・転用等の合理化を円滑に進めることが求められてきている。



 以上見てきたように、河川法制定以降、現行の水利秩序が形成されてきた。その基本的枠組みは、新規の利水者が、必要に応じて水利調整を行い、基準渇水流量の範囲内での取水を可能にするという水利使用のルールの下に、水資源開発を行い、水利使用許可を得るというものである。それは、いわば個別対応の時代であった。

 しかしながら、現在では、社会経済情勢が変化するとともに、水資源開発も相当程度進行している。その結果、水系や河川によってはこれ以上の開発が困難な状況が生じている一方で、環境などの新たなニーズが生じており、これら複雑かつ多様な課題に対し、総合的で統一的な対応が求められている。

 したがって、今後は、限られた水資源について、水系全体の観点に立って、河川環境も含めた水利使用の調整を行う必要がある。同時に、既存の水利使用についても余剰があれば、新規の水利使用や河川維持流量等に充てるといった合理的な水利使用を、関係者の協力を得つつ、実現することが必要な時代へと変化してきている。





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