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河川局

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河川審議会について


3.今後の水利行政のあり方(基本的考え方)

 低水管理とは、河川管理者の行う行為のうち、環境面や河川水の利用面の管理を中心としたものである。そして、その具体的な内容は、河川整備計画等の水系全体の計画や個別の施設の管理計画に基づき、河川の正常な機能の維持のために必要な流量の確保を目的として行う情報の収集、監視、施設の操作等の行為から、水利使用の許可のような処分行為、さらには、水質事故や渇水時の対応など幅広い内容を含むものである。

 近年の社会経済の構造変化や国民の意識の変革を基本的背景として踏まえつつ、昨年の河川法改正の趣旨に則り、「1.はじめに」で指摘した問題状況に対応するためには、限られた水資源について、水系全体の観点から、合理的な水利使用が実現するよう、低水管理のシステムを転換していく必要がある。

 こうした認識の下に、前述した水利使用の実態を踏まえ、今後の水利行政のあり方について、以下の視点に基づいて検討することが必要である。


(1) 検討の視点

  1) 低水管理の実行

     水利使用をめぐる社会経済情勢の変化で述べてきたように、利水者から寄せられている新規水需要に対する水利使用の実行、限られた水資源の維持保全と有効活用、河川の維持流量の確保等、低水管理に関するさまざまなニーズが存する。これらに的確に対応していくためには、河川の取水実態が明確になることが不可欠である。特に、河川水の利用が進み、水資源開発が限界に近づいているような水系では、これらの課題への対応は、現状の水利使用の実態をもとにした水系全体での取り組みの中で進められねばならない。

     まず、河川管理者は、利水者の協力を得ながら、取水実態の把握に努めるとともに、将来の水利調整が円滑に進むよう、関係者にこの利水情報に加え、流量等の河川情報を積極的に提供すべきである。この場合、河川情報は一般の人々にもわかりやすい工夫をして提供されるべきである。

     そして、河川の正常流量、基準渇水流量等の水利使用許可の基本となるルール等を利水者にわかりやすく提示し、さらに、水利使用等を通じ、河川の利用がより適正に行われるよう利水者と一体となって低水管理を実行していく必要がある。この低水管理に当たっては、高水管理との連携も念頭に置きつつ、河川管理者は、主体的責任を果たせるよう、積極的に取り組んでいくべきである。

  2) 地域の特性等の反映

     水利使用を安定的、継続的に行おうとする以上、既存の利水者にとっても、新規に水利秩序に参入しようとする者にとっても、利水者相互の利害を調整するためのルールが必要である。また、河川環境への配慮についても、利水者を含めた国民全体の利益のために一定のルールが必要である。

     新河川法の制定以来、河川管理者は、全国的な公平性・平等性の観点から、基準渇水流量の範囲内での取水を可能とする全国一律の許可基準を定めたり、全国共通の考え方に従って河川環境を保全するための維持流量等を示し、河川を管理するよう努めてきた。そして、多くの水資源開発が行われ、河川水の利用状況が変化しても、悲惨な水争い、無理な水使用による渇水、河川環境の大幅な悪化等を防ぐことができた。

     しかし、今や水需要が次第に安定化傾向に移りつつある中で、地域性に応じた多様な水利使用が求められたり、新規の水資源開発に加えて既存の水利使用の見直しが議論される時代に至っている。そこでは、水利使用のルールも、全国統一・共通のものから、各河川や地域の特性に応じたものへと発展させていくことが望まれている。例えば、雪解け水が豊富にある河川とない河川では、春先の流況が大きく異なるが、こうした河川ごとの特色を現在の基準渇水流量の考え方は反映していない。

     河川管理者と利水者や地域との接点をより密なものにしていくためには、まず河川管理者の水利使用許可の考え方を個々の河川の実態に合ったものとする必要がある。

  3) 水利使用許可手続の迅速化、透明化等

     河川管理者が利水者と一体となって、低水管理に取り組んでいくためには、河川管理者が行う水利使用許可手続についても、その透明化、迅速化等を図り、利水者にとっても申請がどのように取り扱われているのか理解できる状況にする必要がある。

     水利使用許可に関する審査については、行政手続法に基づき標準処理期間が定められている。これは、通常の水利使用を念頭に置いて定められたものであり、特に慎重かつ精緻な審査を要する案件については、その例外とされている。具体的には、河川流況への影響評価、関係河川使用者の同意、地域の意向等が、これまで審査に長期を要する案件を生む要因となってきている。

     このような例外が認められているにしても、可能な限り例外を減らし、処分を迅速に行える環境を創り出していくことが必要である。


(2) 当面実施すべき施策

  1)  河川や流域の特性を反映させた水利使用ルールへの転換と河川関係者間の問題意識の共有化

     水利使用許可の運用基準を、これまでの全国一律のものから、河川や流域の特性を考慮した水系ごとのものに転換していく必要がある。とりわけ、河川利用のあり方を示し、水利使用許可の基本となる河川の維持流量、正常流量、基準渇水流量等の「水利使用のルール」について、河川管理者は、河川や流域の特性を踏まえつつ、わかりやすい形で示すとともに、関連する情報も公開し、関係者の理解を得ながら運用していくべきである。そして、この水利使用のルールは、利水者等の意向も踏まえて、適宜見直されることが望ましい。

     そのためには、河川管理者、利水者、地方公共団体等が水系単位で水利調整等に関する情報交換や当該水系固有の課題についての意見交換を行い、「地域のためには、どのような水利用をすべきか」ということに関する共通の問題意識を形成する場(以下「流域水利用協議会」という。)が必要になる。

     この流域水利用協議会は、情報交換や意見交換を重ねることにより、新たな水需要への対応方針、水利使用の合理化のための水利権の譲渡・転用のあり方など水利用に関する地域の合意形成の場にまで順次発展していくことが期待される。

     また、この協議会には、直接利水に関わっていない人々へも分かりやすい形で情報を提供し、より幅広い意見の集約につなげていく機能も期待される。

     このようにして利水者等の意向も踏まえた水利使用のルールは、水利使用許可の基準となるばかりでなく、より幅広く、地域の水循環系への配慮とその改善のための計画の策定等に反映されていくことが期待される。その結果、農村地域の環境改善のための用水の確保や、阪神・淡路大震災の経験を踏まえた都市防災や都市の環境改善のための用水の確保などに資することが期待される。

     さらに、河川の水質に関しては、その汚濁防止の観点から、必要な河川ごとに、河川管理者と市町村等関係行政機関より構成される水質汚濁防止連絡協議会が設置され、その対策の実施、水質に関する情報の交換、緊急事態発生時における措置等について連絡調整が行われている。水利使用の観点からも、流域水利用協議会において積極的な取り組みが行われることを通じて、必要な河川においては、水量だけでなく、水質も視野に入れ、取排水系統の再構築を含む水利使用許可を行うことが期待される。

  2)  真に水利調整・渇水調整を行うべき地域での適切な取水実態の把握と調整

     取水実態が不明確な水利権に対しては、河川管理者はこれまで一律に許可水利権並の明確化を図ろうとしてきた。しかしながら、水利調整・渇水調整の必要性から見れば、下流部で大口のものや、域外分水を行うもののように是非とも明確化すべきものもあれば、山間部の渓流取水のように取水量や還流性から見てそれほど厳密な把握を必要としないものもある。また、河川によっても水需給が極めて逼迫しているものもあれば、それほどではないものもある。

     したがって、このような状況であることに加えて、全ての水利権の取水実態について、直ちに明確化することが困難である状況も踏まえ、今後河川管理者は、関係者の理解を得つつ、円滑な水利調整や渇水調整のために取水実態の把握や調整のルール化が特に必要な地域から優先的に、その明確化等に努めるべきである。

     取水実態を把握した後に問題となるのが、慣行水利権について、利水者が主張する権利量と現時点での取水量の間に乖離があった場合の取り扱いである。取水実態がないと考えられる部分について、単純に権利として認めることは困難であるが、慣行水利権の性質を踏まえた対応も含めて、水利調整・渇水調整に関する議論に参加しやすい環境をまず整えていくことが必要と考えられる。

     ただし、慣行水利権については、慣行上の権利と認められる実態があるものが慣行水利権として位置づけられるのであり、実態のない将来の需要増や需要の変化までは慣行水利権として位置づけることは困難である。つまり、旧河川法が制定されて水利使用許可制度がスタートした段階で、慣行水利権は取水の時期や取水量の上限が固定され、その範囲内で慣行上の取水実態が存続する限り権利として保護されることとなっている。現在の状況は、慣行水利権の取水量等を定期的に把握する方法がないため、仮にこれらが変化しても河川管理者として監督することが困難であるにすぎないのであり、このことには十分留意する必要がある。

  3) 水利使用許可手続の迅速化等

     これまで、水利使用許可の審査段階では、水利使用に係る計画の適正性を詳細に確認しようとするあまり、申請者の計画内容を前提として判断すれば足りる部分にまで踏み込んでしまっている事例が見受けられた。その一方で、実際に水利使用を行う段階においては、その適正性の確保が十分になされていない事例も見受けられた。

     しかしながら、低水管理を的確に実行していくためには、許可審査の段階において、計画レベルの問題について過度に綿密な検討を行うことよりは、実際の水利使用の段階において、適正な水利使用を確保するよう取り組むことの方が基本となるべきである。

     したがって、今後は、各種の事業調整が絡んで実質的な調整期間が長期化することのないように、水利使用許可審査の前提となる維持流量、正常流量、基準渇水流量等の水利使用のルールの明確化、水利使用許可の審査と各種事業調整との分離、さらには許可に当たっての暫定的・弾力的な対応などによって、水利使用許可制度の趣旨に沿った迅速な処分に努める必要がある。それと同時に、実際の水利使用の段階における適正性の確保をこれまで以上に重視していく必要がある。

     なお、流域水利用協議会の活用等によって、河川管理者と利水者が水利使用のあり方について共通の問題意識を持ち、情報を共有化することは、手続の迅速化等にも資するものと考えられる。

  4) 水資源の有効活用

     水資源の利用が相当進展した水系では、開発可能性が限界に近づいて、開発単価の上昇と開発効率の低下が進行し、新規の水資源開発には多大な費用が必要な状況となっている。このため、潜在的には、既存の水利権の譲渡・転用への期待が大きいと考えられる。

     また、許可水利権に係る利水施設の中には、利用度の低いものも見受けられる。これらの施設はそもそも公費負担を伴う事業により建設されていることを踏まえると、そのような状況が続くこと自体望ましい状況であるとは言えない。

     したがって、水資源の有効活用の観点から、既存の水利使用の調整が円滑に行える環境を整備していくことが必要である。

     a)  需要に対応するための既存の水利使用に関する情報交換・検討

       既存の水利使用を需要に対応したものにしていくためには、水利権の転用・譲渡が円滑に行われることが必要である。このためには、まず、河川情報や利水情報の公開や共有化が前提となる。

       さらに、現在行われている利水者間の個別的な調整に代わるシステムが必要である。例えば、水系内の関係者ができる限り参加し、情報交換・検討を行う場を設定する等高い透明性を備えたシステムが考えられる。

     b) ダムの統合運用、ダム群連携等の推進

       異常渇水時の影響を考慮すると、現況の施設を前提とした水利調整だけでは対応が充分とはいえない水系においては、既存施設の有効活用も含めた多様な水資源開発を積極的に実施していく必要がある。

       このうち既存施設の有効活用についてみると、現在、複数のダムをプール運用して利用効率を上げる「ダムの統合運用」が平常時から行われているのは、利根川水系の11のダム(建設大臣管理の7ダムと水資源開発公団管理の4ダム)及び淀川水系の6つのダムと1つの堰(建設大臣管理の1ダム及び1堰、水資源開発公団管理の5ダム)のみであり、他は渇水時にごく一部の水系で緊急対策として行われる程度である。

       一方、複数のダムを水路でつなぐ「ダム群連携事業」は、利根川水系鬼怒川の五十里ダムと川治ダム、綾川水系の田万ダムと長柄ダムで行われている。なお、渇水が頻繁に起きている沖縄のように、既に福地ダムほか4ダムを調整水路で連結し、これらのダムを統合運用することにより、利水安全度の向上を図っている例もある。

       今後は、他の水系でもダムの統合運用やダム群連携等による水資源のより有効な活用を進めて行くべきである。そのためには、利水者のダムと河川管理者が管理するダムとの統合運用など、管理者が異なるダム同士の統合運用、ダム群連携等が円滑に行われるための合意形成の場が必要となると考えられる。

       また、昨年からは、ダムの洪水調節容量等を弾力的に運用し、いわゆる不特定補給量を確保する「ダムの弾力的運用」が全国7ヶ所で試行されており、一定の成果を上げている。この試行の結果を踏まえて、今後さらに弾力的運用が拡大されていくことが期待される。





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