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VI.河川伝統技術の保存・活用に当たっての具体的提言


 今日の河川行政から見た河川伝統技術の評価、保存・活用に当たっての基本的考え方を踏まえ、具体的な保存・活用方策についていくつか提言する。

 1.河川伝統技術の背景も含めた実態調査の充実

     河川伝統技術について、各地域に過去から伝わっている伝統的な知識や技術がどの程度残され、どの程度の人が伝承しているかといったことがよく分からなくなってきているという問題があり、実態調査を行うべきである。

     その際には、残された技術だけを見るのではなく、技術が生み出された背景や本質的な智恵を読みとることが重要であり、継続的かつ広範囲に調査することが必要である。また、将来における活用の可能性もあることを考慮し、できるだけ多くのものを残していくことが重要である。

     このため、具体的には、下記の調査対象の例を参考に、専門家のチームにより、地域の特性、河川の性格・多様性との関連を考慮に入れつつ、詳細な調査を実施することが必要である。

     (調査対象の例)

    • :水制・粗朶沈床8等の河川伝統技術の施工技能を有する職人、水防活動専門職(川とび等)、郷土歴史関係者、河川に関する学識経験者・研究者等

    • モノ:堤防、霞堤、二線堤、横堤9、水害防備林、水屋、輪中堤、水制、護岸、堰堤、水門、樋門、閘門、水路、水車、石橋、木橋、工具、石碑等

    • ソフト、文化:戦国武将の治水計画や明治の外国人技術者等による改修計画、渡し・舟運、水防技術、山林保全・遊水地等の治水のための土地利用規制、河川・治水・利水・気象に関係した民話・言い伝え、祭事・行事等

    • 河川伝統技術について記述のある文献:古文書、報告書、工事誌、市町村史等

 2.河川伝統技術の分析・評価・研究の推進

     河川伝統技術の現代における応用に当たっては、有効性、安全性について最新の知見や技術に基づき評価を行うことが必要である。

     具体的には、現代技術との比較、コンピュータシミュレーションによる氾濫解析、水理実験、現地での適用試験などが考えられる。

 3.河川伝統技術の保存

    (1) 河川伝統技術に関する文献・資料を集約した資料館の整備

     恒常的に河川伝統技術の活用を図っていく観点から、河川伝統技術に関する調査結果及び行政、研究機関等に保存されている文献・資料を集積する資料館を整備することが必要である。なお、整備に当たっては、全国的観点や地域の観点からの検討が必要である。

    (2) 河川伝統技術に関するデータベースの整備

     欧米諸国においては、色々な分野で知識や記録が蓄積、整理され、使いやすい形でデータベースが整備されている。河川伝統技術においても、その種類、内容、所在、伝承している人物、集積された文献・資料が分かりやすく分類、整理されたデータベースを整備することが必要である。その際、インターネット等により一般への情報提供も検討すべきである。

    (3) 河川伝統技術用語辞典の編纂

     河川伝統技術は、それぞれの時代においてまた地域毎に発展してきたものであり、同じ技術であっても多様な用語の使われ方が見られることから、理解を容易にするには、「河川伝統技術用語辞典」を整備しておくことが必要である。河川伝統技術の用語は、技術の背景等も表しているため、各地の用語について、その意味、由来、時代背景等を辞典という形で整備しておくことは、智恵の保存という意味からも重要である。

    (4) 「モノ」としての河川伝統技術の保存

     河川伝統技術を残すために「モノ」として残していこうとする場合、分析、評価を踏まえ、その「モノ」が本来持っていた機能として、有効に活用しながら保存を図ることが最も望ましい。

     また、そのまま保存することが難しい場合にあっても、地域の協力を得て他の活用方策を見出し現地において保存する他、資料館等において保存することも検討すべきである。

     特に、日常生活に根ざした災害への備え、災害に強いまちづくりの観点から、水屋等については、地域の協力を得ながら、その重要性について意識の啓発と高揚を図り、できるだけ保存されるよう努めるべきである。

    (5) 河川伝統技術を有する人材の確保・育成

     人を介して継承されている河川伝統技術については、人材を確保・育成し、継続して河川伝統技術が実施されるように努めることにより、技術の継承を図ることが適当である。

     このため、地域の条件、技術的評価等に鑑み可能な場合には、積極的に河川伝統技術を使用した河川改修等を実施し、実際のフィールドを継続的に確保するよう心がけるとともに、河川伝統技術に関する研修、実習等により後継者の育成に努めるべきである。

    (6) 地域における活動への支援

     河川伝統技術は地域とその川に根ざした技術であり、地域にはその保存、継承に熱心に取り組んでいるグループ等が存在している。このため、こうした地域において河川伝統技術を支えている人たちの様々な活動に対して支援していくことが重要である。

 4.河川伝統技術の活用方策

    (1) 河川計画、工法や環境保全への河川伝統技術の実際の応用

     1)自然の流れを生かした河道計画の検討

       周辺の土地利用を十分踏まえる必要があるものの、直線的な河道だけではなく、場合によっては河道の特性や川の性質を十分理解した上で蛇行や瀬や淵等自然の流れに留意した河道計画についても検討すべきである。

       戦後、荒廃した国土の復興のため河川整備が急務とされ、治水上洪水を早く流下させるため、また沿川の土地を使い勝手の良いものとするため、蛇行した川を直線化するなど、一律の基準で全国の河川が整備され、治水安全度は短期間で大幅に向上したものの、その河川特性や地域特性が十分反映された河川整備がなされなかったことも否めない。河川伝統技術に見られる河道計画では、自然の流れを良く観察し、水の力の集中するところを重点的に守る等の工夫がなされている等、維持管理費用や環境面から見て今日において検討に値するところも多い。

     2)地域の素材の活用

       河川環境保全のために、多自然型川づくり等において、粗朶や間伐材等地域の素材の活用を図るべきである。

       生態系、環境面に配慮し、間伐材等の地域の素材を活用することは、山林の保護、地場産業の振興にもつながるものである。例えば、北陸地方では、粗朶山を管理し、粗朶沈床等に活用されている。

       但し、活用にあたっては、経済性、河川や地域の特性に留意する必要がある。

     3)河畔林(水害防備林)の活用

       平成9年の河川法改正において、河畔林を河川管理施設として位置づけることが可能となったが、洪水の減勢効果や環境保全空間としての効果を考えると、より積極的に河畔林(水害防備林)の保全、整備に取り組むべきである。また、河畔林は地域における水防資材の供給源ともなるものである。

       現代技術では堤防で洪水を防ぐという考え方から、堤防のすぐ横まで人家や田畑に開発されているが、伝統技術においては多少の浸水は許すという考えから、堤防脇に河畔林(水害防備林)をつくり、水の勢いをやわらげ、堤防を越水しても、流れの力で家屋が流されたり、人が流されたりするようなことを防いだり、いざというときの水防活動のための資材として活用したりしていた。

       また、河畔林(水害防備林)については、洪水のない時は、鳥たちが集まるとともに、河畔に日陰をつくり、魚の生息に適した環境をつくり出す効果もある。

     4)水制工等の活用

       河川の勾配等適用条件に十分配慮する必要はあるものの、水制工等(聖牛10、杭出し11等)を積極的に活用すべきである。

       現代技術においては、護岸をコンクリートブロックなどにより保護し、強固なものとしているが、これにより河岸の植生や自然環境が喪失してきているとの指摘もある。これに対して、聖牛、杭出し等の昔ながらの水制は川の流れを巧く制御することにより、自然環境の保全も図りながら、河岸の保護や澪筋の維持に役立っている。

    (2) 氾濫原管理・危機管理への河川伝統技術の智恵の活用

     1)二線堤等の活用

       危機管理の観点から、二線堤等を有効に活用していくべきである。

       現代技術では、堤防の中に川の流れを押し込み、堤内地における農耕地、宅地の開発面積を増やすことができたが、一度洪水になると経済活動に与える影響が大きくなるという状況を生みだした。

       利根川の中条堤12に見られるように、伝統技術においては堤防だけに頼らず、人家の少ない地帯で洪水を溢れさせ、その洪水が人家、集落に流下しないよう、小規模な堤防で防ぐといったように、万一の時は流域の一部は浸水しても大災害を防ぐ技術もある。

       人口増加、経済成長の時代には難しい面もあったが、人口減少傾向、経済も安定化の方向に入ることを考慮すると、堤防だけに頼ることなく、万一大きな洪水が発生しても、集落等の上流部に遊水機能を持つ二線堤を配置できる可能性も増えてくるものと考えられる。現在、宮城県鹿島台町では昭和61年洪水の教訓から二線堤の整備が進められている。

     2)水屋や輪中堤の智恵を活用した浸水対策

       氾濫原管理の観点から、水屋や輪中堤の智恵を生かした浸水対策を積極的に行って行くべきである。

       堤防が強化されてくることにより、利根川沿川等においても、水屋の数も激減し、氾濫原であってもなくても変わらない家屋の構造、住まい方となってきているが、情報提供や防災意識の高揚などにより、堤防に頼るだけではなく、水屋の智恵をとり入れ、土地をかさ上げした上に家屋を建てる等の工夫を促すことが重要である。

       また、一連の堤防により小規模な集落を守るというよりも個々の家屋のかさ上げや輪中堤を整備することなどにより効果的な治水対策等となる地域もある。例えば、京都府の由良川沿川では、家屋の少ない地区では、堤防にかえてかさ上げをする計画としているほか、雄物川では道路整備と一体となって輪中堤の整備が進められている。

     3)河川伝統技術等の記録による地域の危険度診断等への活用

       河川伝統技術の調査、記録を分析し、氾濫等の災害の記録、災害体験を地域の財産として引き継ぎ、地域の危険度診断や防災体制の充実に活用すべきである。

       伝承、民話、智恵からは、現状では必ずしもよくわからない過去の災害の状況、先人の川との戦いの様子を知ることができる。これは単に技術の記録にとどまらず、地域の災害に対する潜在的危険度情報ともなり、住民自らの危機管理に対する取り組み、適正な土地利用を促すことにも役立つと考えられる。

    (3) 河川の維持管理への河川伝統技術の活用

     1)地域とのパートナーシップによるきめの細かな河川管理

       近年、河川の持つ自然環境や親水空間としての機能が見直されつつあり、河川に関心のある地域・住民等の主体的な参加を支援し、地域とのパートナーシップによるきめ細かな河川管理を行って行くべきである。

       戦後、農業から商工業中心の産業構造に変化したことや治水事業の進展により、河川に対する地域の関心が薄れてきたことから、河川へのゴミの不法投棄や災害時の対応に住民が不慣れになったというような問題が生じてきている。

       河川伝統技術では、地域住民が河畔林(水害防備林)の維持管理を行ったり、堤防の上に神社を作り、お参りする人々により、自然に堤防が締め固められるといったように、住民自らが日常から川を見守り、川を大切にし、その脅威から身を守るという工夫がなされている等、地域・住民の川への関心と日常的な河川管理への自主的な参加により、行政だけでは十分行き届かないきめ細かな河川管理を可能としていた。

    (4) 個性ある地域づくりへの河川伝統技術の活用

     1)調査、記録、復元等を通じた地域活性化への活用

       河川伝統技術の調査、記録さらにその復元等を通じ、地域の活性化へ活用していくべきである。

       河川伝統技術の調査、記録により、その地域の川との係わり、そして現在、習慣化していることや身近なお祭り等の由来等、多くの新しい発見が期待できる。

       福岡県柳川市や滋賀県の近江八幡市のように住民が中心となり水辺の歴史を生かした町づくりが進められている地域では、そうした調査活動そのものが地域活性化活動となり、住民たちの連帯感、充実感を高めている。さらに、祭事を含め河川伝統技術の復活、復元を町づくりに反映させることが出来れば、観光資源ともなり、地域の振興に寄与することが期待できる。

     2)地域のシンボル・アイデンティティーとしての活用

       その地域ならではの河川伝統技術の特長を川づくりに生かすことにより、川を地域のシンボル、アイデンティティーとして活用すべきである。

       川もコンクリート張りであれば単に水を流す機能しか有せず、川沿いの風景もどこでも見受けられるようなものとなる。

       河川伝統技術を復活させることにより、例えば、倉敷や津和野において水路を利用した町並みが形成されているように、川沿いの風景をみれば、故郷へ帰ってきたという気持ちになる。そうした川づくりも河川伝統技術を活用することにより可能になると考えられる。

    (5) その他

     1)国際協力への活用

       我が国のもつ多種多様な河川伝統技術を発展途上国へ技術移転し、国際協力の観点からの活用を推進すべきである。

       河川伝統技術は大きな機材を使わず、地域にある資材を活用し、現地でメンテナンスができるといった特性があり、例えば、我が国の粗朶沈床の技術をメコン川において技術移転するという活動も行われているところである。

       なお、技術移転の際には、我が国でその技術が生み出された背景等を十分理解した上で、技術移転先の地域特性・河川特性を十分把握し、単なる「モノ」としてだけではなく、維持管理の方法を含めた、システムとしての移転に留意する必要がある。

     2)他の分野との伝統技術に関する情報交換、相互学習の推進

       他の分野との伝統技術に関する情報交換、相互学習を積極的に進めることも重要である。

       伝統技術から学ぶことは、その「モノ」ばかりではなく、そこに込められた先人の智恵であることから、河川伝統技術からだけでなく他の多くの分野から、河川に適用できる智恵を学ぶこともありうる。このため、河川伝統技術に限らず、広く他分野の伝統技術に対しても関心を持って学ぶ事が重要である。また、逆に河川伝統技術の智恵も河川分野だけではなく、他の分野の人にも役立つことも考えられる。





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